拗らせΩは恋を知らない

Hiiho

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‪α‬、β、Ω の僕 2

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綾木に背負われたままマンションのエレベーター内、無言の彼の背中が熱い。
自分じゃ分からないけど、きっとこの狭い空間の中に充満してるのは、俺が発している‪α‬を誘惑するΩの匂い。

きっともう綾木は気付いてる。俺が‪α‬ではなかったことに。


「あや・・・き、俺」

「うるさい。黙って大人しくしてろ」

軽口ではない綾木の低い声。

綾木、怒ってる?
当然か。俺は・・・お前を、皆を騙してたんだ。βにも劣るΩだった俺に負け続けていた綾木の気持ちを考えると、罪悪感で胸がチクチクと痛む。


玄関へ入るとすぐに荷物を床に落とし、俺を担いだままバスルームへと入る綾木。
俺はバスタブの縁に腰掛けるように下ろされる。

綾木が背を向けたままでバスルームを出ようとして、思わず俺は彼の手を掴んで引き留めてしまう。

「あや・・・」

「茜、今 自分がどんな風になってんのかわかってる?・・・俺と一緒にいない方がいい」

俺の手をそっと解き、バスルームを出てドアを閉める綾木。


どんな風に・・・?


熱に浮かされたように震えながら熱くなる体。俯くと、性器がボトムスの前を張らせているのが見える。尻の辺りがヒヤッとして、‪α‬を迎えたがっている後ろがヒクつき下着を濡らしているのが分かる。

こんな状態で、‪α‬のアイツに背負われていたのか・・・


情けない。

と思うのに、さっきまで触れていた綾木の背中の熱さを思い出すと、この体に触れて欲しくて、ただ同級生だったというだけの彼にどうしようもなく抱かれたいと願ってしまう。

「綾木・・・、お願い。触って、俺にっ」

バスルームのドアに寄りかかった彼の影に縋りつく。


嫌だ。違う。こんなことしたくない。

はずなのに

「ねえ  あやき、欲しい・・・。頼むから、抱いて・・・」

喉の奥から出るのは、浅ましいほどに‪α‬である彼を求める言葉だけ。

「駄目だ。自分でどうにかしろ」

「やだぁっ、綾木がいい、挿れて。綾木ので埋めてよぉ」

拒絶され半泣きになりながらドアを開けようとするが、それを咎めるように後ろ手で外側から引いている綾木の手が霞んで透けて見えるのが憎らしいとさえ思える。

自分のより幾分か逞しいその腕で押さえつけて欲しいのに、その長い指で中を掻き回して欲しいのに・・・




止めようもなく溢れてくる体液が下着を通り越してボトムスの外側にまで染みている。

耐え切れなくなって、ドアに寄りかかったまま下半身を膝まで晒して屹立した性器を握る。濡れそぼった後ろに中指の先を入れると、熱くうねった内壁が自分の指を きゅうっ と締め付けた。

「ぁ・・・、あぅ・・・綾木ぃ」

自分の指じゃなくて、‪α‬の熱で埋めて欲しいのに。
・・・どうしたら。どうしたら俺を犯してくれる・・・?

「あやきの・・・せーし、ほしー・・・。孕んでもいい・・・からぁ」


途端、ドアが開き、険しい顔の綾木と目が合う。
息を荒らげ目を充血させ俺の匂いで興奮している彼を見て、体をゾクゾクと悦びが駆け巡る。

「あやきぃ」

自分でも気持ち悪いと思うほどの甘えた声で彼を呼ぶ。

「・・・茜。さっき、何にも無かったってのは嘘。ごめんな」

そう言って綾木が強く抱き締めてくる。
背負われていた時にはしなかった雄臭い‪α‬の匂いに包まれた瞬間、細糸一本ほど残っていた理性がプツリと切れた。

「今すぐ犯してっ、奥まで・・・っ」


綾木を抱き締め返したと同時に、腿の外側に鈍い痛みと重い衝撃が走った。

「っ・・・ぁ、・・・」

ぐらりと視界が歪んで、体の力が抜ける。

「部屋にあった特効薬。やっぱお前のだよな」

Ωの発情ヒートを強制的に鎮静化させる注射器型の特効薬。やはり見つけられてしまっていたのか・・・。

不可抗力で崩れ落ちる体を綾木がしっかりと支えてくれている、と性欲から解放されてゆく頭の中でぼんやり思いながら俺は目を閉じた。

「俺、もういっこ茜に謝んねぇと。・・・高校んとき、俺はお前に・・・・・・」


薄れてゆく意識の端で綾木の声がフェードアウトして行く。
彼の言葉を最後まで聞くことが出来ず、まもなく俺は暗闇に落ちた。















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