マネジメント!

Hiiho

文字の大きさ
上 下
89 / 131

アイドルらしく 2

しおりを挟む
  プレスリリースイベント後の囲み取材で、予想通り金子さんとの事について質問の嵐。5分間の短い時間内に、事務所のシナリオ通りに質問され、俺は決められていた回答をする。



「金子ヒロムさんはシウさんとの熱愛を否定されましたが、それについてはどうお考えですか」

「僕も金子さんと同じです」

「金子ヒロムさんとはどういったご関係ですか?」

「金子さんは事務所の先輩で、共演をきっかけにとてもかわいがってもらってます」

「韓国ではタレント同士のスキンシップは珍しくはないと思いますが、今回の動画は金子ヒロムさんからのハグでしたよね。飲食店の個室で二人きり、ファンサービスという訳ではなさそうでしたが」

「すぐにお互いのマネージャーも合流したので二人きりではなかったです。金子さんは普段からとても距離が近いというか・・・フランクな方なので、僕に限らず・・・」

「音声はありませんでしたが、スキンシップというより、金子さんがシウさんに縋っているようにも見えましたが」

「・・・金子さん、かなり酔っていたので」

「酔っていてシウさんに縋ったと?」

「・・・はい」

  粗を探すかのような質問が続く。

「マネージャーさんも合流したという事ですが、酔っていらした金子さんはマネージャーにもシウさんと同じように抱きついたんでしょうか」

「それは・・・、」

  なかった。

「すみません。覚えていません」

  そう言うしかない。


  一瞬口篭った俺を察して、袖で見守ってくれていた万里が、もう掃けろ、と誘導してくれる。

  が、執拗な記者たち達からは、納得がいかない、と次から次へと飛んでくる質問。

  俺は答えずに頭を下げ、万里に この場から下がるように促され歩き出す。


「率直に、シウさんの恋愛対象は男性か女性かお聞かせください!」

  その質問に、思わず足を止めてしまう。

  この質問は原稿の中にあった。「女性です」そう答えればいい。

  だけど、咄嗟に口から出てこなくて万里を見る。

  俺の好きな人はここにいるのに。男でも女でもなく、ましてや金子さんでもなく「万里です」と答えたいのに。



  横に並んだ万里の手に背中を押され「早く下がれ」と小声で急き立てられる。


  でも、俺は・・・



  このまま、自分の気持ち ひと欠片すら言えないのは嫌だ。

  俺は背中を押す万里の手を抜けて、報道陣へと向き合う。

「俺はアイドルとして韓国でデビューして・・・、本当の自分がどうであれ、ファンの方達が創り上げてくれた『シウ』であろうと思ってきました」

  上手く言葉にできない。だけど真実が言えなくても、万里の事を好きな自分に嘘をつきたくない。

  欲張りかもしれないけど、応援してくれるファン達、韓国で今回の報道を観ているかもしれない両親、同じ日本で心配してくれているだろう祖父母・・・。誰ひとり失望させたくないっていう思いもある。

  俺の言葉を息を飲んで待ち構える報道陣に向かい、話を続ける。

「金子さんとは本当に後ろめたい事は微塵もありません。彼のことは尊敬していますし、人間として大好きです。今回の件で誤解を招いてしまい、たくさんの方々にご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありませんでした。

  先ほどの質問なんですが、もし俺の恋愛対象が女性だと言ったとして、そうじゃなく男性だと言ったとしても・・・どちらも皆さんが望んでいる『シウ』じゃない、と思うんです。それに、そんなにジェンダーに拘る事が重要ですか?例えどちらを好きになることがあっても、俺は俺です。

  俺が何を言おうと、どう受け取るかは皆さん次第だし、俺はそれを否定するつもりも肯定するつもりありません。

  ただ、これだけは約束します。もう二度と失望させるような事はしないって。芸能界にいる限り、色んな報道や理不尽なトラブルで傷付けてしまうかもしれないけど・・・あなたが好きでいてくれる自分でいたいし、俺が愛するのは あなただけだから」

  上手く言えないけど、俺はもう、万里も、自分を好きでいてくれる万里以外の全ての人達も傷付けたくない。

「シウさん!それはファンの方々に向けてですか?それとも・・・」

「俺を支えてくれる全ての人達に、です」


  嘘じゃない。だけど真実は言えない。

  今はもうアイドルじゃない俺だけど、芸能人である限り偶像視されていることには変わりない。


  俺は深く一礼して、再び背中に添えられた大きな手の存在を感じながら、万里と一緒に歩き出す。





  会場を出て事務所へ向かう車中で、万里が「ふっ」と急に何かを思い出した様に笑い出す。

「・・・なに急に。不気味なんだけど」

  思い出し笑いとかキモイ。

「悪い。イヤ、最後におまえが台本にない事言い出すからヒヤヒヤしたなー、と思って」

「何それ。俺は元トップアイドルだよ?あの場で金子さんとの事を否定して、マネージャーと付き合ってます、なんて言うわけないでしょ」

  本当は言いたかったけど。できなかった。

  まだ俺は未熟で、自分の力で立ってすらいない。いつだって誰かが支えてくれてる。

  ファンのみんな、家族、事務所のスタッフたち、仕事をくれるたくさんの人達・・・俺の我儘でこれ以上振り回したくない。


「万里、俺はプロになる。だから、一番近くでずっとずっと支えてくれる?」

  この恋が永遠に秘密でも、万里が傍にいてくれるならそれでいい。

「プロになるにはまだまだ語彙力が必要だな。インタビューの返しは、簡潔にわかり易く、だ。最後のは長すぎるし、何が言いたいんだ?ってのが正直な感想だ」

「わかってるよ!自分でも下手くそだったなって思ってるし」

  なんだよ。「頑張ったな」の一言くらいくれてもいいのに・・・

「でもまあ、シウのイメージ云々より、少なくともおまえが誠実だって事はファンには伝わってんだろ、きっと。よくやったよ、偉かったな」

  万里は満足そうに笑ってくれる。

  マネージャーとして、万里が俺の事を褒めてくれるのが嬉しい。

  恋人である俺とタレントの俺、どっちの俺も万里に誇らしく思っていて欲しい。



『あなたが好きでいてくれる自分でいたいし、俺が愛するのは あなただけだから』

  ってのは、万里に向けた言葉でもあったの、気付いてくれてるのかなぁ。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...