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閉じ込めたい 3
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翌朝、黒コンタクトでマスクを耳と顎に引っ掛け、シンプルな無地のパーカーにテーパードタイプのスウェットパンツ姿でバックパックを担いだシウが助手席のドアを開ける。
本人的には芸能人オーラを最小限に抑えたつもりらしいが、ただのイケメンとしては十分注目を集めてしまいそうな雰囲気。
「へへー、いつも後ろばっかだから、万里の隣乗ってみたかったんだよな」
バックパックを後部座席に放り投げ助手席に座ったシウは、運転席に座る俺に寄りかかってスマホで自撮りしている。
「万里と一緒のセルカ、またまたゲット~!」
胸元でぎゅっとスマホを握り嬉しそうに笑う。
こんなにあからさまな好意を向けられた事なんか、シウ以外に未経験の俺は時々どうしていいかわからなくなる。
簡単に触れていいのかすらも わからないくらい、心が乱されて・・・それでもやっぱり触れたくてシウの頬に手を伸ばす。
「よし!万里、しゅっぱーつ!」
伸ばした手に気付かないシウは、パッと俺から離れてシートベルトを締めた。
触れられなかった手が虚しく取り残されて、シウに気付かれる前に スッと引っ込める俺。
昨日から続くこの肩透かし感・・・。モヤモヤする。
体だけの関係だった過去の男達に向けられたものとは違う、純粋で未熟で穢れていないシウからの好意を、時々 酷く汚してしまいたくなる。
遊園地に向かわず、このままこの狭い空間に閉じ込めて体を無理矢理ひらかせたなら、どれほどの落胆を見せるんだろう。
抵抗しながらも快楽に堕ちて行くシウの顔を想像するだけで興奮・・・
「万里? 何してんの車出して」
「悪い、ボーッとしてたわ」
「もお!早く行かなきゃ、全部回れないだろ!」
膨れっ面は一瞬で、すぐに表情筋を弛ませる無邪気なシウ。
邪な自分は、なんて汚いんだ。すぐに性欲に直結してしまう思考を恥じなければ・・・!
パークに入って真っ先に一番大きなジェットコースター目掛けてシウは走り出す。
「あっ!勝手に行くなってコラ!」
慌ててシウの後を追って何とか追いつく。
「小学生かおまえは!迷子になるだろ!」
シウの頭を軽く叩くが、気にもしていない様子で列に並んでニコニコしている。
マジで子供かよ。
「シ・・・」
「待って万里。名前呼ばないで。バレちゃうかもしれないし」
シウが俺の口を手で塞いで耳打ちをする。
「俺の名前、漢字で書くと『時』と『雨』なんだ。日本語であるでしょ? 今日はそれで呼んで」
時と雨。時雨。『しぐれ』か・・・。秋から冬にかけて降ったり止んだりする気まぐれな通り雨の事だ。
その名前が、シウにピッタリ過ぎてなんだか笑えた。
「わかった。時雨、な」
いつもと違う名前を呼ぶのが、やけに恥ずかしく感じる。
「うん。・・・へへ、なんか変な感じだね」
シウも照れくさそうに下を向く。マスクで顔が半分隠れていてよかったと思った。
今、シウの表情が全て見えていたならきっと俺は、人目も気にせず抱きしめてしまっていたに違いないから。
「わぁーい!」
「・・・・・・っうわ、おいっ、バーから手離すなって、危なおわー!!」
急降下するコースター。両手を上げて思いっきり笑顔のシウと、恐怖で顔を上げることすらできない俺・・・。ああ~、情けねぇ~・・・。
コースターが止まる直前、走行中外してポケットに入れていたマスクを素早く装着し直し、シウは軽い足取りで次のアトラクションへ向かおうとする。
一方俺は膝が笑っていて歩くのだけで精一杯。情けねぇ・・・。
「万里、おじいちゃんみたい。まだいっこ目だよ? 大丈夫?」
「大丈夫だ・・・。とにかく、ライド系は先に消化しよう。後に残しておくと、俺の精神が崩壊する危険がある」
勢いだけで乗るしかねぇ!
絶叫系アトラクションの優先券を購入して、待ち時間ほぼ無しで恐怖に立ち向かい続ける・・・。
「めっちゃ楽しい~!仕事でヒョンたちと遊園地行ったことはあるけど、デートで来れるなんて思ってなかったからなぁ」
「・・・そうか。そりゃ良かった・・・」
飯も食わずにぶっ続けで絶叫系アトラクションを制覇して、大変ご機嫌な様子のシウ。
「えーと後は・・・お化け屋敷だけだね。でもコレ、コースがすごく長いみたい・・・」
スマホを手にしたシウの表情に翳りが見える。
・・・は! もしかしてこいつ、ホラー系が苦手?
これまで情けない姿を晒して来た俺に、汚名返上のチャンスが・・・!
「さっきからチラホラ視線も感じるし、時雨の正体に気付いてるヤツらがいるみたいだ。お化け屋敷なら隠れるのに丁度いい、行くぞ!」
「なんだよ急に元気になって。・・・はあ、しょうがない、せっかく来たんだもんな」
渋々、といった様子でシウは俺の後についてくる。
さっきまでのテンションはどうしたシウ。ふっ、なんなら俺にしがみついて泣いたっていいんだぞ。
「ぎゃ!!ちょ、怖い怖い怖い怖い!!・・・・・・ぎゃあ!!」
「あーもう。怖がり過ぎだって・・・・・・わ、びっくりした~」
腕にしがみついて悲鳴を上げるのは・・・俺の方。シウはというと、突然現れるオバケ役に驚く程度で、躊躇いもせずに薄暗いコースをどんどん進んで行く。
ヤバイ、こんなに本格的にビビらされるなんて聞いてねぇよ~(泣)これじゃ汚名返上どころじゃねーし!
つーか、こいつなんで平気なんだよ!入る前は嫌そうにしてなかったっけ!?
「し、時雨・・・、おまえ怖くねーの?」
「あー、うん。全然。だってオバケ偽物じゃん。ドキドキしないし。だからお化け屋敷ってあんまり好きじゃないんだよね」
しら~っとしたシウの顔。俺は、シウの腕にしがみついているのがこの上なく恥ずかしくなって、パッと手を離す。
が、
「ひえっ!無理無理無理!あー無理!!」
後方から猛スピードで近付いて来るオバケの恐怖に耐えきれず、再びシウの背中にしがみつく。
「もー、うるさい!オバケより万里の悲鳴に驚いちゃうだろ!手繋いでてやるから落ち着いて」
そう言って、さり気なく恋人繋ぎをするシウ。・・・ヤバイ、男前過ぎる。惚れ直しちゃうだろぉぉぉ!
うう、くそ・・・。いいとこ見せようと思ったのに、まったくの逆効果だった。
ふざけんな、二度と来ねーぞ遊園地。
本人的には芸能人オーラを最小限に抑えたつもりらしいが、ただのイケメンとしては十分注目を集めてしまいそうな雰囲気。
「へへー、いつも後ろばっかだから、万里の隣乗ってみたかったんだよな」
バックパックを後部座席に放り投げ助手席に座ったシウは、運転席に座る俺に寄りかかってスマホで自撮りしている。
「万里と一緒のセルカ、またまたゲット~!」
胸元でぎゅっとスマホを握り嬉しそうに笑う。
こんなにあからさまな好意を向けられた事なんか、シウ以外に未経験の俺は時々どうしていいかわからなくなる。
簡単に触れていいのかすらも わからないくらい、心が乱されて・・・それでもやっぱり触れたくてシウの頬に手を伸ばす。
「よし!万里、しゅっぱーつ!」
伸ばした手に気付かないシウは、パッと俺から離れてシートベルトを締めた。
触れられなかった手が虚しく取り残されて、シウに気付かれる前に スッと引っ込める俺。
昨日から続くこの肩透かし感・・・。モヤモヤする。
体だけの関係だった過去の男達に向けられたものとは違う、純粋で未熟で穢れていないシウからの好意を、時々 酷く汚してしまいたくなる。
遊園地に向かわず、このままこの狭い空間に閉じ込めて体を無理矢理ひらかせたなら、どれほどの落胆を見せるんだろう。
抵抗しながらも快楽に堕ちて行くシウの顔を想像するだけで興奮・・・
「万里? 何してんの車出して」
「悪い、ボーッとしてたわ」
「もお!早く行かなきゃ、全部回れないだろ!」
膨れっ面は一瞬で、すぐに表情筋を弛ませる無邪気なシウ。
邪な自分は、なんて汚いんだ。すぐに性欲に直結してしまう思考を恥じなければ・・・!
パークに入って真っ先に一番大きなジェットコースター目掛けてシウは走り出す。
「あっ!勝手に行くなってコラ!」
慌ててシウの後を追って何とか追いつく。
「小学生かおまえは!迷子になるだろ!」
シウの頭を軽く叩くが、気にもしていない様子で列に並んでニコニコしている。
マジで子供かよ。
「シ・・・」
「待って万里。名前呼ばないで。バレちゃうかもしれないし」
シウが俺の口を手で塞いで耳打ちをする。
「俺の名前、漢字で書くと『時』と『雨』なんだ。日本語であるでしょ? 今日はそれで呼んで」
時と雨。時雨。『しぐれ』か・・・。秋から冬にかけて降ったり止んだりする気まぐれな通り雨の事だ。
その名前が、シウにピッタリ過ぎてなんだか笑えた。
「わかった。時雨、な」
いつもと違う名前を呼ぶのが、やけに恥ずかしく感じる。
「うん。・・・へへ、なんか変な感じだね」
シウも照れくさそうに下を向く。マスクで顔が半分隠れていてよかったと思った。
今、シウの表情が全て見えていたならきっと俺は、人目も気にせず抱きしめてしまっていたに違いないから。
「わぁーい!」
「・・・・・・っうわ、おいっ、バーから手離すなって、危なおわー!!」
急降下するコースター。両手を上げて思いっきり笑顔のシウと、恐怖で顔を上げることすらできない俺・・・。ああ~、情けねぇ~・・・。
コースターが止まる直前、走行中外してポケットに入れていたマスクを素早く装着し直し、シウは軽い足取りで次のアトラクションへ向かおうとする。
一方俺は膝が笑っていて歩くのだけで精一杯。情けねぇ・・・。
「万里、おじいちゃんみたい。まだいっこ目だよ? 大丈夫?」
「大丈夫だ・・・。とにかく、ライド系は先に消化しよう。後に残しておくと、俺の精神が崩壊する危険がある」
勢いだけで乗るしかねぇ!
絶叫系アトラクションの優先券を購入して、待ち時間ほぼ無しで恐怖に立ち向かい続ける・・・。
「めっちゃ楽しい~!仕事でヒョンたちと遊園地行ったことはあるけど、デートで来れるなんて思ってなかったからなぁ」
「・・・そうか。そりゃ良かった・・・」
飯も食わずにぶっ続けで絶叫系アトラクションを制覇して、大変ご機嫌な様子のシウ。
「えーと後は・・・お化け屋敷だけだね。でもコレ、コースがすごく長いみたい・・・」
スマホを手にしたシウの表情に翳りが見える。
・・・は! もしかしてこいつ、ホラー系が苦手?
これまで情けない姿を晒して来た俺に、汚名返上のチャンスが・・・!
「さっきからチラホラ視線も感じるし、時雨の正体に気付いてるヤツらがいるみたいだ。お化け屋敷なら隠れるのに丁度いい、行くぞ!」
「なんだよ急に元気になって。・・・はあ、しょうがない、せっかく来たんだもんな」
渋々、といった様子でシウは俺の後についてくる。
さっきまでのテンションはどうしたシウ。ふっ、なんなら俺にしがみついて泣いたっていいんだぞ。
「ぎゃ!!ちょ、怖い怖い怖い怖い!!・・・・・・ぎゃあ!!」
「あーもう。怖がり過ぎだって・・・・・・わ、びっくりした~」
腕にしがみついて悲鳴を上げるのは・・・俺の方。シウはというと、突然現れるオバケ役に驚く程度で、躊躇いもせずに薄暗いコースをどんどん進んで行く。
ヤバイ、こんなに本格的にビビらされるなんて聞いてねぇよ~(泣)これじゃ汚名返上どころじゃねーし!
つーか、こいつなんで平気なんだよ!入る前は嫌そうにしてなかったっけ!?
「し、時雨・・・、おまえ怖くねーの?」
「あー、うん。全然。だってオバケ偽物じゃん。ドキドキしないし。だからお化け屋敷ってあんまり好きじゃないんだよね」
しら~っとしたシウの顔。俺は、シウの腕にしがみついているのがこの上なく恥ずかしくなって、パッと手を離す。
が、
「ひえっ!無理無理無理!あー無理!!」
後方から猛スピードで近付いて来るオバケの恐怖に耐えきれず、再びシウの背中にしがみつく。
「もー、うるさい!オバケより万里の悲鳴に驚いちゃうだろ!手繋いでてやるから落ち着いて」
そう言って、さり気なく恋人繋ぎをするシウ。・・・ヤバイ、男前過ぎる。惚れ直しちゃうだろぉぉぉ!
うう、くそ・・・。いいとこ見せようと思ったのに、まったくの逆効果だった。
ふざけんな、二度と来ねーぞ遊園地。
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