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彼の隣 1
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「シウさん お疲れ様です!俺、倉持って言います。河森さんから聞いてると思うんすけど・・・」
ダンスリハーサルが終わった俺は、シャワーを浴びて、受け取ったシルバーグレーのスーツに着替え、スタジオを出て倉持さんが運転席に座る車へ乗り込む。
「あ、ホテルの前に事務所寄って行きますね。金子さんも一緒に行く事になってるんで」
「かねこさん?」
「はい。社長も河森さんも酷いっすよね。いくら歳が近いからって、新人の俺に大物二人連れてこいなんて。事故ったらブッ殺されちゃいますよマジ」
かねこさん、大物なんだ。どうしよう、知らないんだけど・・・。とりあえず、事務所の先輩なんだろうし、失礼の無いようにしなきゃ。
「かねこさんて、俺知らないんだけど・・・」
「マジっすか!?そんなわけないんで安心してください!絶対見た事ありますって!すっげぇ有名人なんで」
「・・・そうなのかな」
俺、日本の芸能人あんまり知らないんだけど・・・。こんな時、万里だったら事前に情報くれたんだろうけど。倉持さんじゃこれ以上聞いても無駄そう。
まあ『すっげぇ有名人』なら顔見たらわかるかもしれないし、会う前から緊張しててもしょうがない。
・・・と思っているうちに、事務所の前の車道脇にハザードランプを点灯し停車させた倉持さんは、運転席を降り駆け足で事務所へと入って行く。
3分ほどして戻って来た倉持さんが後部座席のスライドドアを開けて、乗り込んで来た男性が俺の顔を見て「わお」と一言。
この人がかねこさん?
万人受けしそうな甘いマスクに高身長。ふわっと横に流した黒髪で、光沢のある黒の細身のスーツ。
いかにも芸能人、って感じ。
・・・でも知らない。有名なのは日本でだけなのかな?
うーん、困った。今度万里にタレント名鑑買って来てもらおう。日本の芸能人も覚えなきゃだな。
「あの、初めまして、かねこさん。シウと申します」
俺は、隣に座ったかねこさんに、胸に片手を添えて頭を下げる。
「知ってるよ~、クアイル。まさかクアイルのシウが事務所の後輩になるなんてって思ってたんだ。歌ってる時はカッコイイのに、実物はこんなに美人だったんだな」
シートから腰を浮かせたかねこさんが、俺の体の側面にぴったりと自分の体を合わせて座り直す。
・・・え、なにこの距離感。初対面なのに、パーソナルスペース完全に無視?
「えと・・・シートベルト・・・した方が」
「ああ、するする」
と言ってシートの隙間から引っ張り出したベルトで自分のウエスト部分を固定するかねこさん。
なんで三人掛けのベンチシートに二人しか乗ってないのに真ん中の席に座るんだよ!ホテルまでこの距離でいるつもりなの?この人・・・。
「どお?日本には慣れた?シウ日本語上手だよね」
「あ、ハイ。父が日本人なので、日常会話くらいは元々話せてたので。スラングや言い回しなんかはこっちで覚えました」
「へえ~。つーかさ、カワイイね」
「えっ?」
なに?いきなり。・・・とりあえずお礼言っとく?
「ありがとうございます」
笑顔を向けると、グッとと肩を抱き寄せられて、かねこさんの顔が俺の首に近付いて、すん、と鼻で息を吸う音が聞こえた。
「すーげぇいい匂い」
俺は咄嗟に自分の首を手で覆う。
「さっきまで踊ってたので汗だくで、シャワーして来たから・・・」
「ふーん。でもそれだけじゃないみたい。なんかさぁ、フェロモン、的な?」
首を覆う手の甲に、かねこさんの息がかかる。
振り払いたいけど、先輩にそんな事できないよな。ここは我慢しないと・・・
「シウ、男に抱かれてる匂いしてるよ?」
・・・っ!!
かねこさんの言葉に、思わず身を引いて距離を取ろうしたけど、肩を強く捕まえられていた為に離れる事ができない。
「はは、冗談だったのに。そんな反応したら図星なんだって疑われちゃうよ?」
「・・・違います。かねこさんの息がかかって擽ったかっただけです」
何ひっかかってんの俺。この人の異常な距離感で変に緊張し過ぎてる。冷静になんなきゃ。
カメラマンの佐伯さんに万里との関係がバレても無事だったのは、ただ運が良かっただけ。これ以上誰かに知られるわけにはいかない。
「すみません。俺、人とくっついたりするの苦手で・・・」
「あー、緊張してんの?ますますカワイイじゃん。俺が克服してやるから。ほら、手貸して」
首元の手をかねこさんに下ろされて、太腿の上に置かれて 彼の手が重なる。
万里の掌とは違う温度。違和感。
「指長いんだね。カワイイ顔の割に結構男らしい手してんだ」
手の甲に青く浮き出た血管を辿ってかねこさんの指が動く。
一体 何の時間なの?コレ。拷問?嫌がらせ?それとも・・・
「今日はさ、俺に全部任せといてよ。きっとシウの為になるからさぁ。あー、マジで見蕩れちゃうな。ほんとキレイだわ、肌も造りも」
『カワイイ』『キレイ』と言われても嬉しくない。
かねこさんに気に入られたのだけは、間違いなさそうだ。それがどういう意味かは何となく判る。
いくら俺でも、そこまで鈍くない。
「シウさん お疲れ様です!俺、倉持って言います。河森さんから聞いてると思うんすけど・・・」
ダンスリハーサルが終わった俺は、シャワーを浴びて、受け取ったシルバーグレーのスーツに着替え、スタジオを出て倉持さんが運転席に座る車へ乗り込む。
「あ、ホテルの前に事務所寄って行きますね。金子さんも一緒に行く事になってるんで」
「かねこさん?」
「はい。社長も河森さんも酷いっすよね。いくら歳が近いからって、新人の俺に大物二人連れてこいなんて。事故ったらブッ殺されちゃいますよマジ」
かねこさん、大物なんだ。どうしよう、知らないんだけど・・・。とりあえず、事務所の先輩なんだろうし、失礼の無いようにしなきゃ。
「かねこさんて、俺知らないんだけど・・・」
「マジっすか!?そんなわけないんで安心してください!絶対見た事ありますって!すっげぇ有名人なんで」
「・・・そうなのかな」
俺、日本の芸能人あんまり知らないんだけど・・・。こんな時、万里だったら事前に情報くれたんだろうけど。倉持さんじゃこれ以上聞いても無駄そう。
まあ『すっげぇ有名人』なら顔見たらわかるかもしれないし、会う前から緊張しててもしょうがない。
・・・と思っているうちに、事務所の前の車道脇にハザードランプを点灯し停車させた倉持さんは、運転席を降り駆け足で事務所へと入って行く。
3分ほどして戻って来た倉持さんが後部座席のスライドドアを開けて、乗り込んで来た男性が俺の顔を見て「わお」と一言。
この人がかねこさん?
万人受けしそうな甘いマスクに高身長。ふわっと横に流した黒髪で、光沢のある黒の細身のスーツ。
いかにも芸能人、って感じ。
・・・でも知らない。有名なのは日本でだけなのかな?
うーん、困った。今度万里にタレント名鑑買って来てもらおう。日本の芸能人も覚えなきゃだな。
「あの、初めまして、かねこさん。シウと申します」
俺は、隣に座ったかねこさんに、胸に片手を添えて頭を下げる。
「知ってるよ~、クアイル。まさかクアイルのシウが事務所の後輩になるなんてって思ってたんだ。歌ってる時はカッコイイのに、実物はこんなに美人だったんだな」
シートから腰を浮かせたかねこさんが、俺の体の側面にぴったりと自分の体を合わせて座り直す。
・・・え、なにこの距離感。初対面なのに、パーソナルスペース完全に無視?
「えと・・・シートベルト・・・した方が」
「ああ、するする」
と言ってシートの隙間から引っ張り出したベルトで自分のウエスト部分を固定するかねこさん。
なんで三人掛けのベンチシートに二人しか乗ってないのに真ん中の席に座るんだよ!ホテルまでこの距離でいるつもりなの?この人・・・。
「どお?日本には慣れた?シウ日本語上手だよね」
「あ、ハイ。父が日本人なので、日常会話くらいは元々話せてたので。スラングや言い回しなんかはこっちで覚えました」
「へえ~。つーかさ、カワイイね」
「えっ?」
なに?いきなり。・・・とりあえずお礼言っとく?
「ありがとうございます」
笑顔を向けると、グッとと肩を抱き寄せられて、かねこさんの顔が俺の首に近付いて、すん、と鼻で息を吸う音が聞こえた。
「すーげぇいい匂い」
俺は咄嗟に自分の首を手で覆う。
「さっきまで踊ってたので汗だくで、シャワーして来たから・・・」
「ふーん。でもそれだけじゃないみたい。なんかさぁ、フェロモン、的な?」
首を覆う手の甲に、かねこさんの息がかかる。
振り払いたいけど、先輩にそんな事できないよな。ここは我慢しないと・・・
「シウ、男に抱かれてる匂いしてるよ?」
・・・っ!!
かねこさんの言葉に、思わず身を引いて距離を取ろうしたけど、肩を強く捕まえられていた為に離れる事ができない。
「はは、冗談だったのに。そんな反応したら図星なんだって疑われちゃうよ?」
「・・・違います。かねこさんの息がかかって擽ったかっただけです」
何ひっかかってんの俺。この人の異常な距離感で変に緊張し過ぎてる。冷静になんなきゃ。
カメラマンの佐伯さんに万里との関係がバレても無事だったのは、ただ運が良かっただけ。これ以上誰かに知られるわけにはいかない。
「すみません。俺、人とくっついたりするの苦手で・・・」
「あー、緊張してんの?ますますカワイイじゃん。俺が克服してやるから。ほら、手貸して」
首元の手をかねこさんに下ろされて、太腿の上に置かれて 彼の手が重なる。
万里の掌とは違う温度。違和感。
「指長いんだね。カワイイ顔の割に結構男らしい手してんだ」
手の甲に青く浮き出た血管を辿ってかねこさんの指が動く。
一体 何の時間なの?コレ。拷問?嫌がらせ?それとも・・・
「今日はさ、俺に全部任せといてよ。きっとシウの為になるからさぁ。あー、マジで見蕩れちゃうな。ほんとキレイだわ、肌も造りも」
『カワイイ』『キレイ』と言われても嬉しくない。
かねこさんに気に入られたのだけは、間違いなさそうだ。それがどういう意味かは何となく判る。
いくら俺でも、そこまで鈍くない。
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