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久しぶりに残業をしている佐々木。オフィスにはカタカタとパソコンを打つ音だけが響いている。
「やっと終わった……」
うーんと大きく伸び、今日も残業をしている望月をチラッとみた。
(望月さんももう終わるのかな?)
真顔でパソコンに向き合っているところを見ると、まだまだ終わらなそうな雰囲気だ。
(最近ずっと残ってるな……)
こころなしか少しやつれたような気がすると心配になるが、自分に出来ることは何もないと、帰る支度を整える。
「お疲れ様です。お先に失礼します。」
「あ!ちょっ、佐々木!」
ササッと帰ろうとするが、呼び止められ立ち止まる。ゆっくり望月の方へ向き合うが、なかなか顔を見ることが出来ない。
「今日……飲みに行かないか?明日も仕事だけど……どうしても話したいことがあるんだ。」
固まる佐々木に望月は近づき、手を握った。佐々木は手を握られチラッと顔をみると、何時になく真剣な顔に思わずドキッとしてしまった。もうこの人にときめいたりしてはいけないのにと、胸が痛くなる。
(話したいこととは?なら、ここで言えばいい。言えないってことは森山さんとのこと?聞きたくない……)
「…………すみません、予定があるので。」
聞いたら終わってしまうと、急に怖くなり誘いを断る佐々木。
「あ……だよな!急に悪かった。」
パッと手を離し、いつもの雰囲気に戻る望月。
◇◇◇◇◇
「急ですが、お世話になりました。まぁまだ少しありますが、引き継ぎであまり顔を出せないかもしれないので……」
朝礼で挨拶をしたのは望月だった。他の課へ異動することになったらしい。加藤がいなくなり、そのまま繰り上がりで課長になると思っていた一同はザワつく。
しかし、佐々木には心当たりがあった。
(社長の息子だもんな……色んなところ経験するんだろうな……)
改めて遠い人物だと感じた。そもそもこの課にきたのも、会社のパワハラ問題をどうにかするために社長に言われて来ただけで、佐々木の為でもなんでもないのだろう。
(……異動したらもう、会うことはないんだろうな。)
今までの望月との思い出が蘇る。
『大丈夫か?』
優しく声をかけられて……
『お前といると落ち着くわ。』
隣で微笑んでくれて……
『佐々木のこと信じてるよ。』
頭を撫でてくれて……
(ダメだダメだ、思い出すな……)
泣きそうになるのをぐっとこらえる佐々木。
「佐々木、がんばれよ。お前ならできる。」
現実の望月から声をかけられ、はっと顔をあげると、悲しそうな笑顔がそこにはあった。
「あのっ、俺っ……」
望月は、言葉が詰まる佐々木の頭を撫でると、ニコッと笑って、挨拶のため他の人のもとへ行ってしまった。
(……こんな気持ちになるなら、言ってしまおう。)
気持ちを伝えようと決心する佐々木。
(フられたっていい。自分の気持ちを知って欲しい。それと……ちゃんとありがとうって言わなきゃダメだよな。ちゃんとありがとうって言って、さよならしよう。)
「やっと終わった……」
うーんと大きく伸び、今日も残業をしている望月をチラッとみた。
(望月さんももう終わるのかな?)
真顔でパソコンに向き合っているところを見ると、まだまだ終わらなそうな雰囲気だ。
(最近ずっと残ってるな……)
こころなしか少しやつれたような気がすると心配になるが、自分に出来ることは何もないと、帰る支度を整える。
「お疲れ様です。お先に失礼します。」
「あ!ちょっ、佐々木!」
ササッと帰ろうとするが、呼び止められ立ち止まる。ゆっくり望月の方へ向き合うが、なかなか顔を見ることが出来ない。
「今日……飲みに行かないか?明日も仕事だけど……どうしても話したいことがあるんだ。」
固まる佐々木に望月は近づき、手を握った。佐々木は手を握られチラッと顔をみると、何時になく真剣な顔に思わずドキッとしてしまった。もうこの人にときめいたりしてはいけないのにと、胸が痛くなる。
(話したいこととは?なら、ここで言えばいい。言えないってことは森山さんとのこと?聞きたくない……)
「…………すみません、予定があるので。」
聞いたら終わってしまうと、急に怖くなり誘いを断る佐々木。
「あ……だよな!急に悪かった。」
パッと手を離し、いつもの雰囲気に戻る望月。
◇◇◇◇◇
「急ですが、お世話になりました。まぁまだ少しありますが、引き継ぎであまり顔を出せないかもしれないので……」
朝礼で挨拶をしたのは望月だった。他の課へ異動することになったらしい。加藤がいなくなり、そのまま繰り上がりで課長になると思っていた一同はザワつく。
しかし、佐々木には心当たりがあった。
(社長の息子だもんな……色んなところ経験するんだろうな……)
改めて遠い人物だと感じた。そもそもこの課にきたのも、会社のパワハラ問題をどうにかするために社長に言われて来ただけで、佐々木の為でもなんでもないのだろう。
(……異動したらもう、会うことはないんだろうな。)
今までの望月との思い出が蘇る。
『大丈夫か?』
優しく声をかけられて……
『お前といると落ち着くわ。』
隣で微笑んでくれて……
『佐々木のこと信じてるよ。』
頭を撫でてくれて……
(ダメだダメだ、思い出すな……)
泣きそうになるのをぐっとこらえる佐々木。
「佐々木、がんばれよ。お前ならできる。」
現実の望月から声をかけられ、はっと顔をあげると、悲しそうな笑顔がそこにはあった。
「あのっ、俺っ……」
望月は、言葉が詰まる佐々木の頭を撫でると、ニコッと笑って、挨拶のため他の人のもとへ行ってしまった。
(……こんな気持ちになるなら、言ってしまおう。)
気持ちを伝えようと決心する佐々木。
(フられたっていい。自分の気持ちを知って欲しい。それと……ちゃんとありがとうって言わなきゃダメだよな。ちゃんとありがとうって言って、さよならしよう。)
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