上 下
18 / 32

17

しおりを挟む
「あっ!」
「森山さん大丈夫?」
転びそうな森山の手を握り支える望月。無理やり連れてこられた佐々木は、それを見ないようにずんずん先へと進む。
「おーい、佐々木。おじさんをもっと労わってくれ。」
どこかムスッとした佐々木を追いかけ手を掴もうとするも、スカッと掴めず、望月は苦笑い。
「知りません。望月さんが来たいって言ったんじゃないですか。」
「なんで怒ってんの?」
(……確かになんで怒ってんだ?)
別に望月が告白されようと、森山と付き合おうと関係ない。むしろ喜ばしいことではないか。好きならば望月が選ぶ道を心から祝福してあげなければならないはずなのに。
(俺にはそんな寛大な心はないのか……)

山を登ると、ひらけた場所にでた。
「ここじゃない?」
「うわぁ!上見て上!星すごっ!」
「わぁ!こんなにハッキリ見えるんだ!」
先に到着した佐々木以外のメンバーは星空を見上げ、その美しさに興奮している。
「はぁ、はぁっ……」
1人息を切らしながらやっと到着する佐々木。若者の体力はもちろんだが、望月の体力にも驚いた。
「やっとついた……」
死にそうな顔をしている佐々木に、瀬戸が上を見てくださいと声をかける。そう言われ見上げる星空のすごさに、佐々木の目も星空のようにキラキラと輝いているように見えた。
「きれい……」
思わず呟く佐々木をみて、無理やりにでも連れてきて良かったと思う望月。
「な!来て良かっただろ?佐々木と見れて嬉しいよ。」
「はい……」

設置してあったベンチに腰掛け、みんなで星空を見上げる。あの星は何座だろうとか、流れ星はどこだとか、みんな楽しそうだ。
「都会じゃこんなの見れないよな~」
「あ!流れ星!」
しばらく眺めていると、不意に星が流れた。何を願えばとアワアワしている佐々木の横で、美山が念仏のように彼女と繰り返し言っており、思わず笑ってしまう。
「何言ってんの美山。佐々木さん笑わすとかすごいな。」
「彼女欲しいって願ったんだよ。」
ワイワイとしている中、いつの間にか望月がいなくなっていることに気づいた佐々木。
(森山さんもいない……まさか……)
ドキドキと心臓の音が早くなる。いても立っても居られなくなり、佐々木もふらっとその場から消えた。それをチラッと横目で追う瀬戸。
(いや、望月さんが告白されたって自分には関係無いことだ……関係……)
佐々木の頭には、今まで優しく接してくれた望月がうかぶ。本当は望月が誰かのものになるなんてイヤだと、涙が溢れそうになる。自然と縁結びスポットと言われる方へ足が向かう。案の定、望月と森山の姿が見えた。
「っっ」
心臓がギュッと痛くなる。こんな所に2人ということは、考えるまでもなく告白しているのだろう。

そこには笑顔の望月が……。

その顔を見て、佐々木は察した。
(バカだなぁ、俺なんかが好きになったところで何も出来ないのに。)
恋人になるなんて叶うはずもない。優しくされて、もしかして望月も自分を好いてくれているのかもしれない、可能性があるのではと、少しでも思った自分が恥ずかしい。
(望月さんはいい人だから全てを受け止めてくれたけど、それは上司としてだったんだ。誰にでも優しいし、俺はその他大勢の1人にすぎない。)
そう思うと、涙が溢れてしまった。分かりきっていたことなのに、いざその場面に直面すると、想像以上に辛く苦しい。
(これじゃぁみんなのとこ戻れないよな……)
ふらふらその場から離れる佐々木は、どうしようかと考えている間に人気がないところに来てしまっていた。
「佐々木さん。」
「わぁっ!」
誰もいないはずなのに急に肩を叩かれ、驚く佐々木。叩いた本人も佐々木の驚き具合に驚いたようだった。
「なんだ、瀬戸か!」
「すみません、1人じゃこんな所危ないと思って……」
そう言われれば黙ってきてしまったと反省する。ごめんと苦笑いする佐々木をジッとみつめ、動かなくなった瀬戸。どうしたのかと思っていると、瀬戸は佐々木の顔を両手で包み、涙のあとを親指で拭った。
「せ、瀬戸?どうしたの?」
いつもと様子の違う瀬戸に、戸惑う佐々木。
「あの、佐々木さん。1人で抱え込まないでください。辛い時は俺がそばに居ますから。」
「え?」
瀬戸は急に何を言っているのかと、頭が追いつかない。
「今、すごく辛そうです。笑ってても、俺にはわかります。無理に笑わないでください。俺は……まだまだ実力不足な所もいっぱいあります。けど、佐々木さんを守りたいです。幸せにしたい。本当の笑顔でいて欲しいんです。」
必死な様子の瀬戸に、今言っていることは本心なのだと感じ、幸せにしたいと言われ、ドキドキしてしまっている。瀬戸は佐々木の両手をそっと握り、胸元まであげる。

「あなたが好きです。」

瀬戸はニコッと笑うと、佐々木の手の甲にキスをした。ストレートに好きと言われ、まさか瀬戸が自分に好意を持っていてくれたとはと驚く佐々木。
「俺、好きって、抱きしめたりキスしたりしたいっていう好きですから。」
もちろんそれ以上もね、とイタズラっぽく耳元で囁く瀬戸に、ずるいと思う。こんな時ばっかり男の顔になって。抱きしめてくる瀬戸を抵抗せず受け入れる佐々木。

告白された後みんなの所へ集合したのだが、佐々木と瀬戸がおらず美山に聞くと、先に帰ったとのことだった。そうかと、望月も美山に帰る旨伝えた。
(なんだ……佐々木帰っちゃったのか……)
出来れば2人で……と考えてた望月はため息をつき歩き始めた。帰る途中、ふと人がいるのが見えた。
(あれ……佐々木と瀬戸だよな……)
佐々木が抱きしめられている様子を見てしまった望月。
(なんだよ……アイツらってああ言う関係だったのか?)
こんな気持ちになるなんて、と、望月は自分の気持ちに気づいたようだが、何も言えずその場を立ち去った。

「瀬戸、ありがとう。嬉しいよ……でも……」
(でも俺は……瀬戸がこんなに想ってくれていても、望月さんを諦められないなんて……)
黙ってしまう佐々木に、瀬戸は笑顔でわかってますと一言。
「みんな心配してるかも。帰りましょう。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

オレたちってなんだろうね。

アキノナツ
BL
この微妙なセックスはなんなのでしょう。 恋人同士だと思ってたオレだけど、気づいてしまった。 この人、他にイイ人が出来たんだ。 近日中に別れ話があると思ったのに、無い! 週一回、義務のようにセックス。 何なのですか、コレ? プライド高いから「別れよう」の一言が言えないのか?  振られるのも嫌なんだろうな。 ーーー分かったよ! 言わせてやるよ! 振られてやろうと頑張る話。 R18です。冒頭から致しております。 なんでもありの人向けでお願いします。 「春の短編祭2022:嘘と告白」に参加した作品です。

映画館で後輩に痴漢された話

狩野
BL
リーマン同士。イケメン隠れS後輩斉藤くん×流されMの地味先輩。 3話以降がほぼ全部R-18です。

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

βの僕、激強αのせいでΩにされた話

ずー子
BL
オメガバース。BL。主人公君はβ→Ω。 αに言い寄られるがβなので相手にせず、Ωの優等生に片想いをしている。それがαにバレて色々あってΩになっちゃう話です。 β(Ω)視点→α視点。アレな感じですが、ちゃんとラブラブエッチです。 他の小説サイトにも登録してます。

月と太陽は交わらない

アキナヌカ
BL
僕、古島葉月αはいつも好きになったΩを、年下の幼馴染である似鳥陽司にとられていた。そうして、僕が生徒会を辞めることになって、その準備をしていたら生徒会室で僕は似鳥陽司に無理やり犯された。 小説家になろう、pixiv、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、fujossyにも掲載しています。

幼馴染は俺がくっついてるから誰とも付き合えないらしい

中屋沙鳥
BL
井之原朱鷺は幼馴染の北村航平のことを好きだという伊東汐里から「いつも井之原がくっついてたら北村だって誰とも付き合えないじゃん。親友なら考えてあげなよ」と言われて考え込んでしまう。俺は航平の邪魔をしているのか?実は片思いをしているけど航平のためを考えた方が良いのかもしれない。それをきっかけに2人の関係が変化していく…/高校生が順調(?)に愛を深めます

落ちこぼれβの恋の諦め方

めろめろす
BL
 αやΩへの劣等感により、幼少時からひたすら努力してきたβの男、山口尚幸。  努力の甲斐あって、一流商社に就職し、営業成績トップを走り続けていた。しかし、新入社員であり極上のαである瀬尾時宗に一目惚れしてしまう。  世話役に立候補し、彼をサポートしていたが、徐々に体調の悪さを感じる山口。成績も落ち、瀬尾からは「もうあの人から何も学ぶことはない」と言われる始末。  失恋から仕事も辞めてしまおうとするが引き止められたい結果、新設のデータベース部に異動することに。そこには美しいΩ三目海里がいた。彼は山口を嫌っているようで中々上手くいかなかったが、ある事件をきっかけに随分と懐いてきて…。  しかも、瀬尾も黙っていなくなった山口を探しているようで。見つけられた山口は瀬尾に捕まってしまい。  あれ?俺、βなはずなにのどうしてフェロモン感じるんだ…?  コンプレックスの固まりの男が、αとΩにデロデロに甘やかされて幸せになるお話です。  小説家になろうにも掲載。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

処理中です...