化け物バックパッカー

オロボ46

文字の大きさ
上 下
160 / 162

変異体ハンター、正月後のコンビニに立ち寄る。

しおりを挟む



 森に包まれた山道の道中にある駐車場へ、ココアカラーの自動車は右折した。

 駐車場にたむろしていたすずめは、バックしていた自動車に驚き、羽ばたき始める。



 すずめたちが非難したのは、建物の上。

 朝日に照らされる看板の下で、すずめたちは車から降りるふたりの人影を恨めしそうに睨む。



 すずめが乗っていた建物は、コンビニ。

 人が来そうにない山奥に立つそのコンビニの自動ドアに、男女は向かって行く。



 男性が大きなあくびをしながら自動ドアの前に立つまで、店内からは視線が飛んでいた。









 店内にいたのは、5人の人影。



 手を動かしながらじっとレジを見つめる店員。

 パン売り場の側で、ふたつのコッペパンを手に取る女性客。

 よほど気になるものを見つけたのか、アイスケースの中に顔を入れている男性客。

 そして、トイレ前でモップをこする清掃員。



 そこへ、入店のチャイムとともにふたりの男女が入ってきた。



「やっぱり雰囲気あるっすよね~、正月早々のコンビニ」

 店内に入りながらつぶやくこの男性。
 ショートヘアーにキャップ、横に広がった体形に合うポロシャツ、ジーパンにスニーカー。その背中には大きなリュックサックが背負われている。
 その体格はある意味素晴らしく、横に大きかった。

「特に変わらないと思うけどなあ。年末とか年始めとか、あたしたちが仕事をすることには代わりないんだからあ」

 その後ろから、けだるそうに女性が辺りを見渡す。
 ロングヘアーに、薄着のヘソ出しルック、ショートパンツにレースアップ・シューズ。その横には大きなハンドバッグが置かれている。
 男性とは違い、スタイルははっきり言って素晴らしい。理想的な長身モデル体型だった。

「侮らないでくださいよ、“晴海”先輩! こういうのって、店とかでキャンペーンとかやっているんっすよ。ほら……」

 男性はレジの上に飾られているチラシを指さした……が、

「……あれ?」

 そのチラシには、肉まんのメニューしか載っていない。
 他の店内のチラシを見ても、どれも平日と変わっていないようだ。

「“大森”さん、正月はもうとっくに終わって、今日は6日だよお? 遊んでないで、さっさと朝食えらぶよう」

 “晴海”と呼ばれた女性は呆れるように手を振りながらも、籠を手にとって商品の見定めを始めた。

「……いや、普通は正月終わってもしばらくはやってるもんだけどな……ん?」

 首をかしげる大森と呼ばれた男性だったが、ふと、近くにあったパン売り場に目を向ける。



「おおっ……!? これは……!!」



 大森は、近くのパン売り場に目を向け、しゃがみ込んだ。



 その隣でパンをふたつ持っていた女性客が、迷惑そうに大森を見つめる。

 とある商品を手に取り、体を震わせたまま動こうとしない大森に、

 女性客は緊張するように顔をこわばらせ、やがてうっとおしいと言わんばかりに目つきが鋭くなる。



 すると、女性は持っていたいちごジャムとこしあんのパンを床に置いた。

 いや、パッケージの袋を、脱ぎ捨てた。



 その女性客の手は、鎌だった。



 パンの表紙で隠していたその手は、カマキリを思わせる鎌状の形をしており、

 先端はするどく、銀色に光っていた。



 その鎌を、大森の首筋に、



 首を絞めるように、近づけた。



「これはああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



 その瞬間、大森は立ち上がり、手にした商品を掲げた。



 パッケージの袋には、“ラーメンパン(みそ味)”と書かれていた。



「去年の冬に話題になった新作だああああああ!!!!!」
「大森さん」



 アイスケースの前で睨む晴海の声に、大森は我に返った。



 レジ前の店員が、迷惑そうに大森を睨んでいる。

「あ……すみません、つい……」



 大森はぺこぺこと謝った後、近くにいた女性客を見た。

 先ほどの大声にびっくりしたのか、女性客は床に倒れている。
 そのカマキリのような鎌を、商品棚の下に突っ込んで隠している。

「あ! 本当にすみません! ケガとかなかったっすか!?」

 まったく手に気づかない大森が近づいてきて、女性客は冷や汗をかきながら頭を動かして答えていた。



「まったく……新年早々、なにやってんだが……」

 晴海は白い目で大森を見つめた後、アイスケースの前から奥にある飲料売り場へと顔を向けた。



 ちょうど、近くにいた男性客に背を向ける形になった。

 背中を天井に向け、アイスケースに顔を突っ込んでいた男性客は、ゆっくりと、顔を上げる。



 その顔は、四角い氷で出来ていた。



 アゴを開くと、鋭い歯が見える。



 晴海よりも背の高いその男性客は、晴海の頭にかぶりつこうと、大きな口を振り下ろした。



「ッッッ!!!」



 突然、晴海は後ろを振り向くことなく、飲料売り場に駆けだした。

 その勢いで晴海の足が男性客に命中し、バランスを崩した男性客は……



 先ほどとは反対向きに、腹を天井に向けて、

 アイスケースの中へと、体を突っ込んだ。



 晴海は飲料売り場の冷凍コーナーで、立ち止まり……

「……これは確保しておかなければっ!」

 ほうれんそうとベーコンのサラダを、籠の中に8つほど、入れた。



「晴海先輩もなにやっているんです?」

 その騒ぎを聞きつけた大森が、ラーメンパン片手にやってくる。

「……」

 晴海は、なにも言わずに黙っていた。

「先輩がベジタリアン、とりわけほうれん草に目がないのはわかりますけど、迷惑かけちゃまずいっすよ」
「……大森さんには言われたくないよお」

 立ち上がった晴海はごまかすように「あとは飲み物選んで帰るよお」と歩き始める。
 その様子を見ていた大森は吹きかけた口を手で押さえ、後に続いた。



 ふたりがいた場所から、巨大な魚が顔を出した。



 のんびりと、飲料ケースから野菜ジュースと缶コーヒーを選び、取り出す。



 その後ろを、黒いウロコを持つ魚は追いかけ続ける。



 一歩ずつ、ゆっくりと……



 それに気がつかないまま、晴海と大森はカウンターの前に立った。



「これお願いしますよう」「これ、お願いします!」



「……」



 まだ学生ぐらいの年齢と思われる男性店員は、怯えた表情でふたりの後ろを見つめていた。

「……」
「どうしたんですかあ?」「あ、さっきは本当に申し訳ないっす!」

「……」
「早く会計、してくださいよお」「ただつい、興奮しただけなんで! 俺と先輩!」

「……あ」
「なにか言いたいんです?」「……やっぱり、まずかったです?」



「……う、うしろ……」



 店員が指を刺したとともに、後ろの魚はふたりの胸に向かって、ふたつに裂けた鋭い下を発射した。



「「ああ」」










「知ってますよお」「知ってるっすよ」











 その直後、晴海と大森はカウンターの奥へ移動する!

「ひいっ!!?」

 やってきたふたりに店員は頭を抑えられ、三人はカウンターの下にしゃがみ込む。

 魚が放った舌は、電子レンジに突き刺さった。
 その様子を見た晴海は、ニヤリと笑みを浮かべた。

「大森さん」「了解っす!」

 大森は立ち上がり、人差し指をかかげた。



「あたため、いただきましたーーーーッッッッ!!!」



 スイッチが押されるとともに、電子レンジから煙が溢れ出る。



「ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッ!!!!」



 それとともに、トイレの前で立っていた清掃員の女性が突然、苦しみだした。

 白髪でしわを持つ、老婆と思われるその清掃員に、足はない。

 魚と同じように黒く染まっており、痛みに体を動かすと、

 電子レンジに突っ込んだ魚も、連動するようにうごめいている。



 それとともに、カウンターの中へと飛び上がるふたつの人影。

 カマキリの腕を持つ女性客と、氷の頭を持つ男性客だ。



「人のこと言えないけど、お店に迷惑かけちゃダメだよお?」



 晴海は足を振り上げ、体を1回転したサマーソルト

 女性客の右耳に晴海の足をぶつけられ、男性客の顔も巻き込み、

 床へと、落ちる。



 その側で、晴海は着地した。



「ふたりとも、早く帰るよお」
「了解っす!」「え!? あ、はい!!」



 晴海と大森、そして店員の3人は、コンビニの自動ドアまで走って行った。









「……ふと見かけないコンビニを見たから、立ち寄ってみたら“変異体”に拘束されて……他の人間をおびき寄せるために店員のふりをしろと、脅されたんだな?」

 森の中を走らせる車の中、助手席に座る大森は後部座席に座る青年にたずねる。

「はい……本当に助かりました……えっと……“変異体ハンター”さん……」

 運転席でハンドルを握る晴海は、バックミラーに映る青年に一瞬だけ目を向けるだけで答えた。

「……あの、あいつら……コンビニにいた変異体は、どうなるんですか? 突然変異した人間である変異体……人を襲う可能性のある変異体を駆除するのが、変異体ハンターですよね……?」

 大森は少し困ったように「と言われてもなあ」と頭をかいた。

「晴海先輩、ぜんぜんやる気ださないんだよ。特に人を襲わないとわかった変異体に対しては」
「……え!? でも、僕は殺されそうになったんですよ!? それに先ほど、ふたりも殺されかけていたのに……」

 青年の戸惑いによる叫びに、晴海はため息をつく。

「今日は正月休みだよお。それに……」



 再び晴海はバックミラーに目を向ける。



「あの人たち、ヤケになってたけどお……ホントに人を殺す度胸はないんだからあ」










 朝日に照らされた、コンビニの前。

 そこに、カマキリの腕を持った女性と氷の頭を持つ男性が立っていた。

「……イッチャッタ……」
「うん……あたしたちが捕らえた人間も……」

 その後ろから、黒い魚が清掃員の体を引きずりながらやってくる。
 そのスピードは、自動車並。先ほどのふたりにも、このスピードで襲えば勝ち目があっただろう。

「……結局、ばかばかしいねえ。駆除された仲間の仇討ちなんて」
「やっぱり、やめません? もうこりごりですよ」
「……デモココマデ費ヤシタ時間、モッタイナイ」

 黒い魚の側で空を向いている清掃員は、ふうと一息ついた。



「そういうもんさ、正月休みの終盤に思う後悔……だけど、やったという思い出ぐらいは残ったんじゃないかい?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アルビオン王国宙軍士官物語(クリフエッジシリーズ合本版)

愛山雄町
SF
 ハヤカワ文庫さんのSF好きにお勧め! ■■■  人類が宇宙に進出して約五千年後、地球より数千光年離れた銀河系ペルセウス腕を舞台に、後に“クリフエッジ(崖っぷち)”と呼ばれることになるアルビオン王国軍士官クリフォード・カスバート・コリングウッドの物語。 ■■■  宇宙暦4500年代、銀河系ペルセウス腕には四つの政治勢力、「アルビオン王国」、「ゾンファ共和国」、「スヴァローグ帝国」、「自由星系国家連合」が割拠していた。  アルビオン王国は領土的野心の強いゾンファ共和国とスヴァローグ帝国と戦い続けている。  4512年、アルビオン王国に一人の英雄が登場した。  その名はクリフォード・カスバート・コリングウッド。  彼は柔軟な思考と確固たる信念の持ち主で、敵国の野望を打ち砕いていく。 ■■■  小説家になろうで「クリフエッジシリーズ」として投稿している作品を合本版として、こちらでも投稿することにしました。 ■■■ 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しております。

アルファポリス収益報告書 初心者の1ヶ月の収入 お小遣い稼ぎ(投稿インセンティブ)スコアの換金&アクセス数を増やす方法 表紙作成について

黒川蓮
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスさんで素人が投稿を始めて約2ヶ月。書いたらいくら稼げたか?24hポイントと獲得したスコアの換金方法について。アルファポリスを利用しようか迷っている方の参考になればと思い書いてみました。その後1ヶ月経過、実践してみてアクセスが増えたこと、やると増えそうなことの予想も書いています。ついでに、小説家になるためという話や表紙作成方法も書いてみましたm(__)m

セイジ第二部~異世界召喚されたおじさんが役立たずと蔑まれている少年の秘められた力を解放する為の旅をする~

月城 亜希人
ファンタジー
異世界ファンタジー。 セイジ第二部。『命知らず』のセイジがエルバレン商会に別れを告げ、惑星ジルオラに降り立ってからの物語。 最後のスキルを獲得し、新たな力を得たセイジが今度は『死にぞこない』に。 ※この作品は1ページ1500字~2000字程度に切ってあります。切りようがない場合は長くても2500字程度でまとめます。 【プロローグ冒頭紹介】  リュウエンは小さな角灯を手に駆けていた。  息を荒くし、何度も後ろを気にしながらダンジョンの奥へと進んでいく。  逃げないと。逃げないと殺される。 「ガキが手間かけさせやがってよお!」 「役立たずくーん、魔物に食べられちゃうよー」 「逃げても無駄ですよー。グズが面倒かけないでくださーい」  果たしてリュウエンの運命は──。 ──────── 【シリーズ作品説明】 『セイジ第一部〜異世界召喚されたおじさんがサイコパスヒーロー化。宇宙を漂っているところを回収保護してくれた商会に恩返しする〜』は別作品となっております。 第一部は序盤の説明が多く展開が遅いですが、中盤から徐々に生きてきます。 そちらもお読みいただけると嬉しいです。 ──────── 【本作品あらすじの一部】 宿場町の酒場で働く十二歳の少年リュウエンは『役立たず』と蔑まれていた。ある日、優しくしてくれた流れの冒険者シュウにパーティーの荷物持ちを頼まれダンジョンに向かうことになる。だが、そこで事件が起こりダンジョンに一人取り残されてしまう。  *** 異世界召喚された俺こと正木誠司(42)はメカニックのメリッサ(25)と相棒の小型四脚偵察機改ポチ、そして神に与えられたウェアラブルデバイス(神器)に宿るサポートAI(神の御使い)のエレスと共に新たな旅路に出た。 目的は召喚された五千人の中にいるかもしれない両親の捜索だったのだが、初めて立ち寄った宿場町でオットーという冒険者から『ダンジョンで仲間とはぐれた』という話を聞かされる。 更には荷物持ちに雇った子供も一緒に行方がわからなくなったという。 詳しく話を訊いたところその子供の名前はリュウエンといい奴隷のように扱われていることがわかった。 子供を見殺しにするのは寝覚めが悪かったので、それだけでも捜索しようと思っていたが、なんと行方不明になったシュウという男が日本人だということまで判明してしまう。 『同胞の捜索に手を貸していただけませんか?』 オットーに頼まれるまでもなく、俺は二人の捜索を引き受け、シュウのパーティーメンバーであるオットー、リンシャオ、エイゲンらと共にダンジョンに突入するのだが──。 ──── 応援、お気に入り登録していただけると励みになります。 2024/9/15 執筆開始 2024/9/20 投稿開始

CombatWorldOnline~落ちこぼれ空手青年のアオハルがここに~

ゆる弥
SF
ある空手少年は周りに期待されながらもなかなか試合に勝てない日々が続いていた。 そんな時に親友から進められフルダイブ型のVRMMOゲームに誘われる。 そのゲームを通して知り合ったお爺さんから指導を受けるようになり、現実での成績も向上していく成り上がりストーリー! これはある空手少年の成長していく青春の一ページ。

青色のマグカップ

紅夢
児童書・童話
毎月の第一日曜日に開かれる蚤の市――“カーブーツセール”を練り歩くのが趣味の『私』は毎月必ずマグカップだけを見て歩く老人と知り合う。 彼はある思い出のマグカップを探していると話すが…… 薄れていく“思い出”という宝物のお話。

ニートじゃなくてただの無職がVRMMOで釣りをするお話はどうですか?

華翔誠
SF
大学卒業し会社へ就職。 20年間身を粉にして働いた会社があっさり倒産。 ニートではなく41歳無職のおっさんの転落(?)人生を綴ります。 求人35歳の壁にぶち当たり、途方に暮れていた時野正は、 後輩に奨められVRMMORPGを始める。 RPGが好きでは無い時野が選んだのは、釣り。 冒険もレベル上げもせず、ひたすら釣りの日々を過ごす。 おりしも、世界は新たなマップが3ヶ月前に実装はされたものの、 未だ、「閉ざされた門」が開かず閉塞感に包まれていた。 【注】本作品は、他サイトでも投稿されている重複投稿作品です。

意味がわかると怖い話

井見虎和
ホラー
意味がわかると怖い話 答えは下の方にあります。 あくまで私が考えた答えで、別の考え方があれば感想でどうぞ。

グラッジブレイカー! ~ポンコツアンドロイド、時々かたゆでたまご~

尾野 灯
SF
人類がアインシュタインをペテンにかける方法を知ってから数世紀、地球から一番近い恒星への進出により、新しい時代が幕を開ける……はずだった。 だが、無謀な計画が生み出したのは、数千万の棄民と植民星系の独立戦争だった。 ケンタウリ星系の独立戦争が敗北に終ってから十三年、荒廃したコロニーケンタウルスⅢを根城に、それでもしぶとく生き残った人間たち。 そんな彼らの一人、かつてのエースパイロットケント・マツオカは、ひょんなことから手に入れた、高性能だがポンコツな相棒AIノエルと共に、今日も借金返済のためにコツコツと働いていた。 そんな彼らのもとに、かつての上官から旧ケンタウリ星系軍の秘密兵器の奪還を依頼される。高額な報酬に釣られ、仕事を受けたケントだったが……。 懐かしくて一周回って新しいかもしれない、スペースオペラ第一弾!

処理中です...