158 / 162
化け物ぬいぐるみ店の店主、自販機の取り出し口から落ちる。【前編】
しおりを挟む
黄色い葉が舞い落ちるアスファルト。
そこから上を見上げることで見えるのは、ガラスケースに飾られたぬいぐるみたち。
猫とウサギが混じったような生物、豆腐のような体にクモのような足が生えた生物、布でできたデスマスク、十個の口を持つ丸い体の生物……
奇妙なぬいぐるみたちは、みなこのぬいぐるみ店の扉が開くことをのぞんでいる。
やがて、その扉を開かれる。
店の外から中へ……ではなく、店の中からふたりの男女が現われた。
“CLAUSE”と書かれた札は、手を付けられないまま、ふたりは歩道にそって歩き始める。
早朝の冷風に吹かれ、足元の黄色い葉がふたりの足元を駆けていった。
「真理、今日は午後から予約してくれたお客さんが来るからね。ちゃんと店番頼むよ?」
「お兄ちゃんだって、依頼されたぬいぐるみ、まだ出来てないでしょ? 間に合う?」
「構想は昨日で練り終えたから問題ないさ。今日1番に缶コーヒー飲んだら、すぐに取りかかる」
「ふふっ、そのために一緒に自販機に向かっているものね。まあお兄ちゃんなら、数十分もあればできあがるよね」
この兄弟と思わしき男女は、ふたりとも20代に見えることから年は近そうだ。
真理と呼ばれた妹は、黄色のブラウスにチノパンという服装に赤いマフラー、三つ編が1本だけというおさげのヘアスタイル。悪く言えば地味だが、どこか家庭的な雰囲気がある。
一方、真理の兄は、ジーズンに茶色いコート、ポニーテールのヘアスタイル。そして背中には、近場に向かうにしては少々不自然な大きなバックパック。色は青色だ。
兄弟仲はよさそうで、ふたりとも冗談を言い合いながら、黄色い葉を通り抜けて行った。
やがて、ふたりは人通りの少ない路地を曲る。
その曲がり角に存在する自動販売機の前に、立った。
「……あまり僕は店の外にはでないけど、こんなところに自販機ってあったっけ?」
「たしか、最近出てきたのよね……使っている人はみたことないけど……」
真理は顔を曇らせながらも自動販売機に近づき、コインを投入する。
そして、目的の缶コーヒーをしっかり指さしたのち、その下にあるボタンを突き押した。
音は、期待通りになった。
しかしその1回の音は、取り出し口の底ではなく後ろの壁に当たった音で、
それ以降は、聞こえてこなかった。
取り出し口には、いつまで立っても缶は現われなかった。
「クソがッ!! 道理でここを使う人がいないんだわ!!」
「真理、口が悪いよ」
目つきが鋭くなり、自動販売機の機体に蹴りを入れそうになる真理だったが、兄が制止すると「ごめんなさいお兄ちゃん」と先ほどの光景がなかったかのように眉をひそめた。
「……たしかに音は聞こえていたよね?」
「そうよね……中で詰まったのかしら?」
取り出し口をのぞく兄に対して、真理はスマホを取り出す。
「面倒くさいけど、一応メールで知らせておくわね。今日のところは、別の自販機を使うしか……」
「いや待って! 真理!!」
その兄が、取り出し口の底を見て叫ぶ。
「この自販機……底がない!!」
兄の言葉に真理は首をかしげ、自動販売機の取り出し口を開ける。
「……本当だわ」
その言葉通り、自動販売機の取り出し口には底がない。
真理が試しにスマホのライトを照らしてみても、その中にはただ暗闇が続くだけ――
「あっ!!」
その時、真理は手を滑らせてスマホを暗闇の中に落としてしまった!
そのまま、反射的に手を伸ばして……!!
「……ッッ!! 真理!!!」
取り出し口の中へと、吸い込まれてしまった!!
真理の兄も、追いかけるように足を手に伸ばし――
暗闇の奥へと、落ちていった。
やがて、底に明かりが見えてくる。
その光の正体は……
泡を出す、炎のように赤い液体……
「……ッッッ!!!」「……マグマァ!!?」
ふたりは、真っ赤なマグマの中に落ちていく……
「!!? 待って!!? あれは……船!!?」
兄の言葉通り、その落下場所に現われたのは、船。
その船は豪華客船のような外見の大きな船であり……
その甲板にあったのは、プール。
そこへ、ふたりの体は沈んだ。
「……ッバァ!! ハア……ハア……お兄ちゃん!!? だいじょうぶ!!?」
プールの水面から真理が先に顔を出して周りを見渡すと、その隣ですぐに兄が顔を出し、「なんとか……」とプールサイドに腕を出す。
「それにしても、マグマの近くだというのに……ちっとも熱くないね」
「たしかにおかしいわ。それに普通、マグマの近くにいるだけでも人間は耐えられないでしょう?」
真理もプールサイドに腕を出して、兄と顔を合わせる。
顔に付着している水滴は、蒸発することなく残っている。
「そう言われると……全然熱くない。水に浸かっているだけでこんなに涼しくなるのかな?」
「そもそも、この船がマグマに耐えられているのもおかしいわよ……」
「ソコノ人間、話ハプールカラ出テスルモノデハナイカ?」
突然乱入してきた声に、ふたりはプールの側にたつ人影を見上げた。
その人影は……黒いタキシードを着て、サングラスをかけた大男……
しかし、全身が黒色で、その姿が見えない。
ただわかることは……
その大男の体から、ツタのようなものが生えていることだけだった。
「イズレニセヨ……ココヲ知ラサレタ人間ハ、帰スツモリハナイ」
その瞬間、ツタはふたりに目掛けて伸び……!!
「……!!」「なっ……!!」
ふたりの手を、拘束した!!
そこから上を見上げることで見えるのは、ガラスケースに飾られたぬいぐるみたち。
猫とウサギが混じったような生物、豆腐のような体にクモのような足が生えた生物、布でできたデスマスク、十個の口を持つ丸い体の生物……
奇妙なぬいぐるみたちは、みなこのぬいぐるみ店の扉が開くことをのぞんでいる。
やがて、その扉を開かれる。
店の外から中へ……ではなく、店の中からふたりの男女が現われた。
“CLAUSE”と書かれた札は、手を付けられないまま、ふたりは歩道にそって歩き始める。
早朝の冷風に吹かれ、足元の黄色い葉がふたりの足元を駆けていった。
「真理、今日は午後から予約してくれたお客さんが来るからね。ちゃんと店番頼むよ?」
「お兄ちゃんだって、依頼されたぬいぐるみ、まだ出来てないでしょ? 間に合う?」
「構想は昨日で練り終えたから問題ないさ。今日1番に缶コーヒー飲んだら、すぐに取りかかる」
「ふふっ、そのために一緒に自販機に向かっているものね。まあお兄ちゃんなら、数十分もあればできあがるよね」
この兄弟と思わしき男女は、ふたりとも20代に見えることから年は近そうだ。
真理と呼ばれた妹は、黄色のブラウスにチノパンという服装に赤いマフラー、三つ編が1本だけというおさげのヘアスタイル。悪く言えば地味だが、どこか家庭的な雰囲気がある。
一方、真理の兄は、ジーズンに茶色いコート、ポニーテールのヘアスタイル。そして背中には、近場に向かうにしては少々不自然な大きなバックパック。色は青色だ。
兄弟仲はよさそうで、ふたりとも冗談を言い合いながら、黄色い葉を通り抜けて行った。
やがて、ふたりは人通りの少ない路地を曲る。
その曲がり角に存在する自動販売機の前に、立った。
「……あまり僕は店の外にはでないけど、こんなところに自販機ってあったっけ?」
「たしか、最近出てきたのよね……使っている人はみたことないけど……」
真理は顔を曇らせながらも自動販売機に近づき、コインを投入する。
そして、目的の缶コーヒーをしっかり指さしたのち、その下にあるボタンを突き押した。
音は、期待通りになった。
しかしその1回の音は、取り出し口の底ではなく後ろの壁に当たった音で、
それ以降は、聞こえてこなかった。
取り出し口には、いつまで立っても缶は現われなかった。
「クソがッ!! 道理でここを使う人がいないんだわ!!」
「真理、口が悪いよ」
目つきが鋭くなり、自動販売機の機体に蹴りを入れそうになる真理だったが、兄が制止すると「ごめんなさいお兄ちゃん」と先ほどの光景がなかったかのように眉をひそめた。
「……たしかに音は聞こえていたよね?」
「そうよね……中で詰まったのかしら?」
取り出し口をのぞく兄に対して、真理はスマホを取り出す。
「面倒くさいけど、一応メールで知らせておくわね。今日のところは、別の自販機を使うしか……」
「いや待って! 真理!!」
その兄が、取り出し口の底を見て叫ぶ。
「この自販機……底がない!!」
兄の言葉に真理は首をかしげ、自動販売機の取り出し口を開ける。
「……本当だわ」
その言葉通り、自動販売機の取り出し口には底がない。
真理が試しにスマホのライトを照らしてみても、その中にはただ暗闇が続くだけ――
「あっ!!」
その時、真理は手を滑らせてスマホを暗闇の中に落としてしまった!
そのまま、反射的に手を伸ばして……!!
「……ッッ!! 真理!!!」
取り出し口の中へと、吸い込まれてしまった!!
真理の兄も、追いかけるように足を手に伸ばし――
暗闇の奥へと、落ちていった。
やがて、底に明かりが見えてくる。
その光の正体は……
泡を出す、炎のように赤い液体……
「……ッッッ!!!」「……マグマァ!!?」
ふたりは、真っ赤なマグマの中に落ちていく……
「!!? 待って!!? あれは……船!!?」
兄の言葉通り、その落下場所に現われたのは、船。
その船は豪華客船のような外見の大きな船であり……
その甲板にあったのは、プール。
そこへ、ふたりの体は沈んだ。
「……ッバァ!! ハア……ハア……お兄ちゃん!!? だいじょうぶ!!?」
プールの水面から真理が先に顔を出して周りを見渡すと、その隣ですぐに兄が顔を出し、「なんとか……」とプールサイドに腕を出す。
「それにしても、マグマの近くだというのに……ちっとも熱くないね」
「たしかにおかしいわ。それに普通、マグマの近くにいるだけでも人間は耐えられないでしょう?」
真理もプールサイドに腕を出して、兄と顔を合わせる。
顔に付着している水滴は、蒸発することなく残っている。
「そう言われると……全然熱くない。水に浸かっているだけでこんなに涼しくなるのかな?」
「そもそも、この船がマグマに耐えられているのもおかしいわよ……」
「ソコノ人間、話ハプールカラ出テスルモノデハナイカ?」
突然乱入してきた声に、ふたりはプールの側にたつ人影を見上げた。
その人影は……黒いタキシードを着て、サングラスをかけた大男……
しかし、全身が黒色で、その姿が見えない。
ただわかることは……
その大男の体から、ツタのようなものが生えていることだけだった。
「イズレニセヨ……ココヲ知ラサレタ人間ハ、帰スツモリハナイ」
その瞬間、ツタはふたりに目掛けて伸び……!!
「……!!」「なっ……!!」
ふたりの手を、拘束した!!
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説


(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
ヒナの国造り
市川 雄一郎
SF
不遇な生い立ちを持つ少女・ヒナこと猫屋敷日奈凛(ねこやしき・ひなりん)はある日突然、異世界へと飛ばされたのである。
飛ばされた先にはたくさんの国がある大陸だったが、ある人物から国を造れるチャンスがあると教えられ自分の国を作ろうとヒナは決意した。
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

嫌われた妖精の愛し子は、妖精の国で幸せに暮らす
柴ちゃん
ファンタジー
生活が変わるとは、いつも突然のことである…
早くに実の母親を亡くした双子の姉妹は、父親と継母と共に暮らしていた。
だが双子の姉のリリーフィアは継母に嫌われており、仲の良かったシャルロッテもいつしかリリーフィアのことを嫌いになっていた。
リリーフィアもシャルロッテと同じく可愛らしい容姿をしていたが、継母に時折見せる瞳の色が気色悪いと言われてからは窮屈で理不尽な暮らしを強いられていた。
しかしリリーフィアにはある秘密があった。
妖精に好かれ、愛される存在である妖精の愛し子だということだった。
救いの手を差し伸べてくれた妖精達に誘われいざ妖精の国に踏み込むと、そこは誰もが優しい世界。
これは、そこでリリーフィアが幸せに暮らしていく物語。
お気に入りやコメント、エールをしてもらえると作者がとても喜び、更新が増えることがあります。
番外編なども随時書いていきます。
こんな話を読みたいなどのリクエストも募集します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる