化け物バックパッカー

オロボ46

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化け物ぬいぐるみ店の店主、自販機の取り出し口から落ちる。【前編】

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 黄色い葉が舞い落ちるアスファルト。

 そこから上を見上げることで見えるのは、ガラスケースに飾られたぬいぐるみたち。

 猫とウサギが混じったような生物、豆腐のような体にクモのような足が生えた生物、布でできたデスマスク、十個の口を持つ丸い体の生物……

 奇妙なぬいぐるみたちは、みなこのぬいぐるみ店の扉が開くことをのぞんでいる。




 やがて、その扉を開かれる。

 店の外から中へ……ではなく、店の中からふたりの男女が現われた。
 “CLAUSE”と書かれた札は、手を付けられないまま、ふたりは歩道にそって歩き始める。



 早朝の冷風に吹かれ、足元の黄色い葉がふたりの足元を駆けていった。



真理まり、今日は午後から予約してくれたお客さんが来るからね。ちゃんと店番頼むよ?」
「お兄ちゃんだって、依頼されたぬいぐるみ、まだ出来てないでしょ? 間に合う?」
「構想は昨日で練り終えたから問題ないさ。今日1番に缶コーヒー飲んだら、すぐに取りかかる」
「ふふっ、そのために一緒に自販機に向かっているものね。まあお兄ちゃんなら、数十分もあればできあがるよね」



 この兄弟と思わしき男女は、ふたりとも20代に見えることから年は近そうだ。

 真理と呼ばれた妹は、黄色のブラウスにチノパンという服装に赤いマフラー、三つ編が1本だけというおさげのヘアスタイル。悪く言えば地味だが、どこか家庭的な雰囲気がある。
 一方、真理の兄は、ジーズンに茶色いコート、ポニーテールのヘアスタイル。そして背中には、近場に向かうにしては少々不自然な大きなバックパック。色は青色だ。



 兄弟仲はよさそうで、ふたりとも冗談を言い合いながら、黄色い葉を通り抜けて行った。







 やがて、ふたりは人通りの少ない路地を曲る。

 その曲がり角に存在する自動販売機の前に、立った。

「……あまり僕は店の外にはでないけど、こんなところに自販機ってあったっけ?」
「たしか、最近出てきたのよね……使っている人はみたことないけど……」

 真理は顔を曇らせながらも自動販売機に近づき、コインを投入する。
 そして、目的の缶コーヒーをしっかり指さしたのち、その下にあるボタンを突き押した。



 音は、期待通りになった。



 しかしその1回の音は、取り出し口の底ではなく後ろの壁に当たった音で、



 それ以降は、聞こえてこなかった。



 取り出し口には、いつまで立っても缶は現われなかった。



「クソがッ!! 道理でここを使う人がいないんだわ!!」
「真理、口が悪いよ」

 目つきが鋭くなり、自動販売機の機体に蹴りを入れそうになる真理だったが、兄が制止すると「ごめんなさいお兄ちゃん」と先ほどの光景がなかったかのように眉をひそめた。

「……たしかに音は聞こえていたよね?」
「そうよね……中で詰まったのかしら?」

 取り出し口をのぞく兄に対して、真理はスマホを取り出す。

「面倒くさいけど、一応メールで知らせておくわね。今日のところは、別の自販機を使うしか……」
「いや待って! 真理!!」

 その兄が、取り出し口の底を見て叫ぶ。



「この自販機……底がない!!」



 兄の言葉に真理は首をかしげ、自動販売機の取り出し口を開ける。

「……本当だわ」



 その言葉通り、自動販売機の取り出し口には底がない。

 真理が試しにスマホのライトを照らしてみても、その中にはただ暗闇が続くだけ――



「あっ!!」



 その時、真理は手を滑らせてスマホを暗闇の中に落としてしまった!

 そのまま、反射的に手を伸ばして……!!



「……ッッ!! 真理!!!」



 取り出し口の中へと、吸い込まれてしまった!!



 真理の兄も、追いかけるように足を手に伸ばし――



 暗闇の奥へと、落ちていった。











 やがて、底に明かりが見えてくる。



 その光の正体は……



 泡を出す、炎のように赤い液体……




「……ッッッ!!!」「……マグマァ!!?」








 ふたりは、真っ赤なマグマの中に落ちていく……



「!!? 待って!!? あれは……船!!?」


 兄の言葉通り、その落下場所に現われたのは、船。

 その船は豪華客船のような外見の大きな船であり……



 その甲板にあったのは、プール。



 そこへ、ふたりの体は沈んだ。









「……ッバァ!! ハア……ハア……お兄ちゃん!!? だいじょうぶ!!?」

 プールの水面から真理が先に顔を出して周りを見渡すと、その隣ですぐに兄が顔を出し、「なんとか……」とプールサイドに腕を出す。

「それにしても、マグマの近くだというのに……ちっとも熱くないね」
「たしかにおかしいわ。それに普通、マグマの近くにいるだけでも人間は耐えられないでしょう?」

 真理もプールサイドに腕を出して、兄と顔を合わせる。
 顔に付着している水滴は、蒸発することなく残っている。

「そう言われると……全然熱くない。水に浸かっているだけでこんなに涼しくなるのかな?」
「そもそも、この船がマグマに耐えられているのもおかしいわよ……」
「ソコノ人間、話ハプールカラ出テスルモノデハナイカ?」



 突然乱入してきた声に、ふたりはプールの側にたつ人影を見上げた。



 その人影は……黒いタキシードを着て、サングラスをかけた大男……

 しかし、全身が黒色で、その姿が見えない。



 ただわかることは……

 その大男の体から、ツタのようなものが生えていることだけだった。



「イズレニセヨ……ココヲ知ラサレタ人間ハ、帰スツモリハナイ」




 その瞬間、ツタはふたりに目掛けて伸び……!!



「……!!」「なっ……!!」



 ふたりの手を、拘束した!!
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