化け物バックパッカー

オロボ46

文字の大きさ
上 下
158 / 162

化け物ぬいぐるみ店の店主、自販機の取り出し口から落ちる。【前編】

しおりを挟む
 黄色い葉が舞い落ちるアスファルト。

 そこから上を見上げることで見えるのは、ガラスケースに飾られたぬいぐるみたち。

 猫とウサギが混じったような生物、豆腐のような体にクモのような足が生えた生物、布でできたデスマスク、十個の口を持つ丸い体の生物……

 奇妙なぬいぐるみたちは、みなこのぬいぐるみ店の扉が開くことをのぞんでいる。




 やがて、その扉を開かれる。

 店の外から中へ……ではなく、店の中からふたりの男女が現われた。
 “CLAUSE”と書かれた札は、手を付けられないまま、ふたりは歩道にそって歩き始める。



 早朝の冷風に吹かれ、足元の黄色い葉がふたりの足元を駆けていった。



真理まり、今日は午後から予約してくれたお客さんが来るからね。ちゃんと店番頼むよ?」
「お兄ちゃんだって、依頼されたぬいぐるみ、まだ出来てないでしょ? 間に合う?」
「構想は昨日で練り終えたから問題ないさ。今日1番に缶コーヒー飲んだら、すぐに取りかかる」
「ふふっ、そのために一緒に自販機に向かっているものね。まあお兄ちゃんなら、数十分もあればできあがるよね」



 この兄弟と思わしき男女は、ふたりとも20代に見えることから年は近そうだ。

 真理と呼ばれた妹は、黄色のブラウスにチノパンという服装に赤いマフラー、三つ編が1本だけというおさげのヘアスタイル。悪く言えば地味だが、どこか家庭的な雰囲気がある。
 一方、真理の兄は、ジーズンに茶色いコート、ポニーテールのヘアスタイル。そして背中には、近場に向かうにしては少々不自然な大きなバックパック。色は青色だ。



 兄弟仲はよさそうで、ふたりとも冗談を言い合いながら、黄色い葉を通り抜けて行った。







 やがて、ふたりは人通りの少ない路地を曲る。

 その曲がり角に存在する自動販売機の前に、立った。

「……あまり僕は店の外にはでないけど、こんなところに自販機ってあったっけ?」
「たしか、最近出てきたのよね……使っている人はみたことないけど……」

 真理は顔を曇らせながらも自動販売機に近づき、コインを投入する。
 そして、目的の缶コーヒーをしっかり指さしたのち、その下にあるボタンを突き押した。



 音は、期待通りになった。



 しかしその1回の音は、取り出し口の底ではなく後ろの壁に当たった音で、



 それ以降は、聞こえてこなかった。



 取り出し口には、いつまで立っても缶は現われなかった。



「クソがッ!! 道理でここを使う人がいないんだわ!!」
「真理、口が悪いよ」

 目つきが鋭くなり、自動販売機の機体に蹴りを入れそうになる真理だったが、兄が制止すると「ごめんなさいお兄ちゃん」と先ほどの光景がなかったかのように眉をひそめた。

「……たしかに音は聞こえていたよね?」
「そうよね……中で詰まったのかしら?」

 取り出し口をのぞく兄に対して、真理はスマホを取り出す。

「面倒くさいけど、一応メールで知らせておくわね。今日のところは、別の自販機を使うしか……」
「いや待って! 真理!!」

 その兄が、取り出し口の底を見て叫ぶ。



「この自販機……底がない!!」



 兄の言葉に真理は首をかしげ、自動販売機の取り出し口を開ける。

「……本当だわ」



 その言葉通り、自動販売機の取り出し口には底がない。

 真理が試しにスマホのライトを照らしてみても、その中にはただ暗闇が続くだけ――



「あっ!!」



 その時、真理は手を滑らせてスマホを暗闇の中に落としてしまった!

 そのまま、反射的に手を伸ばして……!!



「……ッッ!! 真理!!!」



 取り出し口の中へと、吸い込まれてしまった!!



 真理の兄も、追いかけるように足を手に伸ばし――



 暗闇の奥へと、落ちていった。











 やがて、底に明かりが見えてくる。



 その光の正体は……



 泡を出す、炎のように赤い液体……




「……ッッッ!!!」「……マグマァ!!?」








 ふたりは、真っ赤なマグマの中に落ちていく……



「!!? 待って!!? あれは……船!!?」


 兄の言葉通り、その落下場所に現われたのは、船。

 その船は豪華客船のような外見の大きな船であり……



 その甲板にあったのは、プール。



 そこへ、ふたりの体は沈んだ。









「……ッバァ!! ハア……ハア……お兄ちゃん!!? だいじょうぶ!!?」

 プールの水面から真理が先に顔を出して周りを見渡すと、その隣ですぐに兄が顔を出し、「なんとか……」とプールサイドに腕を出す。

「それにしても、マグマの近くだというのに……ちっとも熱くないね」
「たしかにおかしいわ。それに普通、マグマの近くにいるだけでも人間は耐えられないでしょう?」

 真理もプールサイドに腕を出して、兄と顔を合わせる。
 顔に付着している水滴は、蒸発することなく残っている。

「そう言われると……全然熱くない。水に浸かっているだけでこんなに涼しくなるのかな?」
「そもそも、この船がマグマに耐えられているのもおかしいわよ……」
「ソコノ人間、話ハプールカラ出テスルモノデハナイカ?」



 突然乱入してきた声に、ふたりはプールの側にたつ人影を見上げた。



 その人影は……黒いタキシードを着て、サングラスをかけた大男……

 しかし、全身が黒色で、その姿が見えない。



 ただわかることは……

 その大男の体から、ツタのようなものが生えていることだけだった。



「イズレニセヨ……ココヲ知ラサレタ人間ハ、帰スツモリハナイ」




 その瞬間、ツタはふたりに目掛けて伸び……!!



「……!!」「なっ……!!」



 ふたりの手を、拘束した!!
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

ゲームで第二の人生を!~最強?チート?ユニークスキル無双で【最強の相棒】と一緒にのんびりまったりハチャメチャライフ!?~

俊郎
SF
『カスタムパートナーオンライン』。それは、唯一無二の相棒を自分好みにカスタマイズしていく、発表時点で大いに期待が寄せられた最新VRMMOだった。 が、リリース直前に運営会社は倒産。ゲームは秘密裏に、とある研究機関へ譲渡された。 現実世界に嫌気がさした松永雅夫はこのゲームを利用した実験へ誘われ、第二の人生を歩むべく参加を決めた。 しかし、雅夫の相棒は予期しないものになった。 相棒になった謎の物体にタマと名付け、第二の人生を開始した雅夫を待っていたのは、怒涛のようなユニークスキル無双。 チートとしか言えないような相乗効果を生み出すユニークスキルのお陰でステータスは異常な数値を突破して、スキルの倍率もおかしなことに。 強くなれば将来は安泰だと、困惑しながらも楽しくまったり暮らしていくお話。 この作品は小説家になろう様、ツギクル様、ノベルアップ様でも公開しています。 大体1話2000~3000字くらいでぼちぼち更新していきます。 初めてのVRMMOものなので応援よろしくお願いします。 基本コメディです。 あまり難しく考えずお読みください。 Twitterです。 更新情報等呟くと思います。良ければフォロー等宜しくお願いします。 https://twitter.com/shiroutotoshiro?s=09

【過去作品総集】読切短編小説集

Grisly
ファンタジー
❤️⭐️お願いします 過去製作した各話読切短編小説集です。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

ヒナの国造り

市川 雄一郎
SF
不遇な生い立ちを持つ少女・ヒナこと猫屋敷日奈凛(ねこやしき・ひなりん)はある日突然、異世界へと飛ばされたのである。 飛ばされた先にはたくさんの国がある大陸だったが、ある人物から国を造れるチャンスがあると教えられ自分の国を作ろうとヒナは決意した。

散々利用されてから勇者パーティーを追い出された…が、元勇者パーティーは僕の本当の能力を知らない。

アノマロカリス
ファンタジー
僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。 それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。 するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。 それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき… 遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。 ……とまぁ、ここまでは良くある話。 僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき… 遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。 「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」 それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。 なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…? 2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。 皆様お陰です、有り難う御座います。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

あなたのサイコパス度が分かる話(短編まとめ)

ミィタソ
ホラー
簡単にサイコパス診断をしてみましょう

処理中です...