化け物バックパッカー

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化け物運び屋、団子を運ぶ。【後編】

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 高速道路の料金所に、ケイトのバイクが入った。

 設置されている決算端末にスマホを押し当て、料金所を抜けていく。

 次に料金所に入ったのは、水色の車だった。






 陸橋の上をケイトのバイクが走ってから数分後、

 ケイトは陸橋の下の近くにある駐車場に駐車した。
「おっし、後は待ち合わせ場所に行くだけだな!」
 フルフェイスのヘルメットを脱ぎ、リアバッグから新聞紙に包まれた本を取り出すと、駐車場から立ち去った。

 その駐車場に止められていた水色の車の扉が開いたことに、ケイトは気づかなかった。





 陸橋の下は、十字の形になるような短いトンネルとなっていた。

 その壁際に、ポツンと置かれた段ボール箱。

 段ボール箱が一瞬だけ上がり、その隙間からふたつの目玉がのぞいていた。
 体は黒くナメクジのよう。その体は段ボール箱の内側に吸盤のように付着していた。いわば、段ボール箱の殻を背負ったカタツムリといったところか。

 その段ボール箱のカタツムリの元に、ゴーグルを装着したケイトがやって来た。
「よっ、待たせたな」
 ケイトはやや声を抑えているものの、トンネルに響かせるには十分な声の大きさだった。
 段ボール箱のカタツムリはケイトの顔を見て、なっとくしたように目玉でお辞儀をした。
「アナタガ“化ケ物運ビ屋”サン?」
「ああ、注文した団子100本、用意したぜ!」
 手に持つ新聞紙に包まれた本を指さすケイトに、段ボール箱のカタツムリは首をかしげるように目玉をかしげた。
「……本ニシカ見エナイケド」
「あ、いけねえ、説明しないとな。こいつは本の見た目をした“変異体”で、ページをめくると……」

 ケイトは説明を止め、不思議そうなまなざしを向けるカタツムリに気がついた。

 そのまなざしはケイトではなく、その後ろに向けられていた。

「アノ……後ロニイルノハ、仲間?」

 カタツムリの言葉に、ケイトは「へ?」と後ろを振り向いた。



 後ろに、団子屋の店主の女性が立っていた。

 背筋を振るわせながら。

「あ……こりゃ……たまげた」

 なにがたまげたのかはわからないが、女性は白目を向いてその場に倒れてしまった。
「……団子屋のおばちゃん、どうしてこんなところに?」
 ケイトが目を丸くしていると、ポケットからテルテルボウズのキツネが顔を出した。
「気絶シテイルミタイネ……」
「ああ、裸眼で変異体を見たんだからなあ……俺はゴーグルを付けているから平気だけど、付けていなかったらむっちゃ怖く見えるんだよなあ」
「アノ……結局、仲間ジャナイノカ?」
 忘れられたカタツムリの声にケイトは「あ、まあ、そういうこと」と振り向く。

「こうなってしまったし、場所を変えねえとな。とりあえず、こいつをじっと見つめてくれ」

 カタツムリの前に、新聞紙に包まれた本が置かれた。











「……ナルホド、ココガ本ノ中、トイウコトカ」

 段ボール箱のカタツムリは広がる図書館を見てつぶやいた。屋根の高さが15mほどあるのは、巨大な鬼のためであろう。
「それじゃあ、俺は本の場所を移動させてくるからな」
 ケイトが出口代わりの本を手に取りページをめくると、ケイトの姿だけ消えた。

 図書館に残されたのは巨大な鬼に鏡の中の男の子、そして段ボール箱のカタツムリだけだった。

 巨大な鬼は聞きたそうな目で段ボール箱のカタツムリを見つめた。
「チョットヨロシイデスカ? 依頼ノ内容ニハ団子ヲ飾ルツモリダト説明シテオリマシタガ……具体的ニハドコニ飾ルノデスカ?」
 その巨体の声にカタツムリは若干殻に引っ込みかける。
「……アア、ソレニツイテハ後デ考エルツモリダッタガ……チョウドイイ場所ヲ見ツケタ」
「ちょうどいい場所?」
 首をかしげる鏡の中の男の子を見て、カタツムリはウインクをした。





 しばらくして、ケイトの姿が再び現れた。
「よいしょっと。公園の公衆便所の個室の中に移動したからもうだいじょう……」



 ケイトの周りは、本棚で囲まれていた。

 その本棚には、団子が花のように飾られている。

 唯一、空いている隙間からは、窓の中で団子を眺める男の子の姿があった。



「……マサカ本当ニ団子ヲ見ル花見ヲスルナンテ……」
 ケイトのポケットから顔を出したキツネの小動物も、この光景にぼうぜんとしていた。
「準備スル方ハ楽シカッタデスヨ。人形ノ飾リ付ケミタイデ」
 本棚の外に座っている巨大な鬼はケイトたちをのぞいて頬をゆるめている。

 机の上では、空になった団子の箱のそばで段ボール箱のカタツムリが景色を楽しんでいた。



「ヤッパリイイモノダ。花見……イヤ、団子見トイウモノハ」

「……あのよお、依頼を見た時から気になっていたけどよお……どうして団子を飾ろうと思ったんだ?」

「ソレハ決マッテイル、団子ハ美シイカラダ。僕ハ桜ノドコガ奇麗ナノカワカラナイ。ダカラ、団子ハ食ベズニ見ルモノナノダ」



 誇らしげに語るカタツムリに対して、ケイトとキツネの小動物は首をかしげた。











 翌日、市街地の道路の上を、ケイトのバイクが走る。



 あの段ボール箱のカタツムリとはもう別れたのだろうか。



 彼の目には、次の目的地へ向かっていた。



 ……信号待ちの時、ケイトは不安そうにミラーに目を向ける。



 そのミラーには、緑色の車が映っていた。






「別にいいじゃないか。今日はあまり客が来ないんだろう?」

 水色の車の運転席で、団子屋の店主の女性はスマホで電話していた。
 スマホのスピーカーから、焦っている様子の声が流れる。店員の青年からだろう。
「だいじょうぶだって。うちが行動派なのは、あんただってわかっているんだから……あ、青になったから切るからね」
 一方的に通話を切った女性は、急いで離れようとするケイトのバイクをにらんだ。

「変異体に合った謎の少年……気になるわあ……よく花より団子って聞くけど、うちの場合は花に近いのかね」
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