化け物バックパッカー

オロボ46

文字の大きさ
上 下
78 / 162

化け物バックパッカーと変異体ハンター、それと化け物ぬいぐるみ店の店主に化け物運び屋、あと商人、それぞれ初詣に行く。【1】

しおりを挟む


 熱狂が静まり帰ったあとのような夜空の下、

 山の中のアスファルトの上を、人影が走り抜けていく。

 それに遅れて、懐中電灯の光とともに誰かが息を切らす音が聞こえる。



 アスファルトのカーブの先は、小さな展望台があった。

 崖を木製の柵で囲み、屋根とベンチ、街灯、看板があるだけの小さな展望台。近くの駐車場には車が止まっており、柵の前には人の姿がぽつぽつと見える。

 そこに、黒いローブの人影が走ってくる。

 黒いローブの人影は人が集まっていない柵の前に来ると、息を整えることもなく柵に手を置き、山奥に顔を向ける。
 街灯によって姿は映し出されているが、そのローブの人物はフードを被っているため、よく見えない。
 背中には、黒いバックパックが背負われている。


 山の隙間から光が表れたころ、黒いローブの人影に老人が近づいた。

「ぜえ……ぜえ……“タビアゲハ”、もう少し待ってくれんか」

 膝に手をつき、息を切らすこの老人、顔が怖い。
 黄色いダウンジャケットを身にまとい、頭にはショッキングピンクのヘアバンドを巻いている。そして、背中にはローブの人影が背負っているバックパックと似たものが背負われている。俗に言うバックパッカーだ。

 “タビアゲハ”と呼ばれたローブの人影は老人の声を聞くと、振り返って周りの人間には聞こえない小声で話しかけた。

「“坂春サカハル”サン、ダイジョウブ?」
「ああ、おまえが思いっきり走るせいで、老体に無理をさせたおかげで……だいじょうぶではない」
 “坂春”と呼ばれた老人のことばに、タビアゲハは申し訳なさと恥ずかしさで地面をうつむいた。
「ダッテ……年ノ最初ノ太陽……初日ノ出ヲ見逃シチャアイケナイッテ思ウト、急ガナキャッテ思ッテ……」
「だからって、俺を置いていくことはないだろう……」



 その時、周りの人々が一斉に声を上げた。

 タビアゲハは振り返り、坂春は柵に近づいて、向こうの山を見る。



 太陽が山の隙間から表れた。



 今年初めての、太陽だ。



「ワア……奇麗……」

「確かに奇麗だが、別に正月に限定しなくてもいいんだがな……」

「デモ、ナンダカ1年ノ始マリッテ感ジガスルヨネ」

「まあな……もっとも、1年の始まりは別に太陽に限らなくていいものだ」



 坂春は太陽をじっと見つめて、やがて大きなあくびをした。



「いや、せっかく初日の出を見ようと決めたんだ。この景色を味わうか」








 太陽は山から抜け出し、全体の姿を見せる。

 しかし、人々はその形を見ることはできない。まぶしいからだ。

 新年初めての太陽にくぎ付けになった人々も、

 昼になってしまえば、誰も見向きもしない。




 だけど、正月はまだ終わらない。

 今年最初の願い事をしに、人々は歩み始める。





★作者より
今回はお正月特別編として、スケジュールにそって順序公開していきます。

第2話 1月1日 12:32
第3話 1月2日 10:32
第4話 1月2日 16:32
第5話 1月3日 10:32
第6話 1月3日 16:32

ぜひ最後まで見てくださいね!
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

処理中です...