化け物バックパッカー

オロボ46

文字の大きさ
上 下
75 / 162

★化け物バックパッカー、かまくらに食べられる。【後編】

しおりを挟む
「……ナニガ起キタノ?」

 暗闇の中で、タビアゲハは体を動かしてみた。

「……コレッテ、雪ノ壁?」

 タビアゲハの周りには、雪の塊が包んでいた。、体が動けるほどの空間はカフセルホテルを思わせる。

「ン? チョットマテ、ウチガ食ベタノ、モシカシテ変異体!?」
「ワウッ……」
 突然、雪を響かせて聞こえてきた声に、タビアゲハは思わず耳をふさいだ。
「ネエ、ソノ声ハ変異体?」
「ソ、ソウダケド……」
 おそるおそる耳から手を離して、
「ソウカ! 変異体カ! ハハハハ!!」
「――ッ!!」
 またすぐに耳をふさぐ。
「チョ……チョットダケ静カニシテ……」
「オ、ゴメンゴメン。サッキカラ人間2人ガ雪ダルマヲ作ッテイタカラ、憎タラシクナッテ食ベチャッタンダケドナ……マサカ変異体ガ変異体ヲ食ベルトハナ」
 その声はタビアゲハと同じく、奇妙な声。
「食ベルッテ……マサカ、アノカマクラガ……」
「アア、ウチダヨ。コンナ体ニナッタカラ、ミンナニハ嫌ワレルカラ……体ヲ雪デ隠シテ、カマクラノフリヲシテ食ッテイルノサ」
「……溶ケタリ、シナイヨネ?」
「ソレハ大丈夫、栄養ニスル気ハナイヨ。人間ハミナ凍死スルケド、ソノ声ニナルマデ変異シテイタラソノ心配ハナイネ」

 タビアゲハは安心したように一息つく。

 それからしばらくした後に、心配するような声を出した。

「コレッテ、ドウヤッテデルノ?」
「デレナイサ。出シ方ダッテワカンナインダカラ」

 諦めていながら、責任を取らないような話し方をする雪を、タビアゲハはそっと手で触れる。

「今日ハココニ泊マッテモイイ?」
 先ほどとは違って、心配する声ではなかった。
「泊マルモナニモ、アンタハモウココカラ出レナイケド」
「大丈夫。朝ニナッタラ出テイクカラ」
「……話ヲ聞イテタ? アンタハ出ラレナインダッテ。ソレニ、ヨク死体ガ埋マッテイル場所デ寝ラレルナ」
「ウン……ナンダカ、慣レチャッテ……」

 タビアゲハはそれ以上、なにも答えなかった。

 ただ触覚を仕舞い、小さな寝息を立てるだけだった。

「寝ルノ、早ッ……」





 それから、9,10時間たったころだろうか。



「ン……」
 タビアゲハのまぶたが開き、触覚が表れた。
「アア……」
 余裕がある空間とはいえ、あくびとともに行う背伸びはどこかきつそうだ。

「ン? モウ起キタノ」
 雪が確かめるように声をかける。
「エット……モウ朝?」
「マダ朝日ガ出タバッカリダ」
「カナリヒンヤリシテテ気持チヨカッタカラ、ツイ長ク寝チャッタ……ソロソロ行カナイト」

 周りの雪から、生暖かい風が流れた。ため息なのだろうか。

「昨日カラ出テイクッテ言ッテルケドサア、ドウヤッテ出ルツモリ? 逆ニ気ニナルンダケド」
「大丈夫。チョット痛イカモシレナイケド、スグニ終ワルカラ」

 タビアゲハはゆっくりと両手を、目の前の雪の壁に向けると、



 その長いツメを、突き立てた。



「イタィアッ!!?」
「本当ニスグ終ワルカラ、ナルベクジットシテテネ」

 ツメの間から流れ落ちた黒い液体が、タビアゲハのフードに付着する。
 
 その液体はまるで、墨汁のよう。

 両手を外側に力を入れると、より多くの黒い液体が流れ落ちていく。



「アトモウチョットダカラ……ヨシ」



 タビアゲハは指先に一気に力を入れると、



 変異体の雪のような肉を、引き裂いだ。



「ギャガ!!?」





 液体は噴水を上げるように地上に飛び出し、白い雪を黒く染める。



 その引き裂いた穴から、よじ登るタビアゲハの姿が見えた。



「モウダイジョウブ。変異体ナラ、シバラクスレバ治ルカラ。コノ液体、見ツカラナイヨウニ雪デ隠シテオクネ」
 タビアゲハは息を切らすように口をうごかすかまくらに伝えると、黒く染まった雪の上に白い雪をかぶせ始める。
「ゼエゼエ……アンタ、大人シソウナ顔ヲシテ、ウチノ腹ヲ引キ裂グナンテ……見タ目ダケジャナクテ、行動モ化ケ物ナノネ……」
 嫌みを言うかまくらの声を聞いて、タビアゲハはいつのまにかフードが下りていたことに気づき、それを被り直す。

「ウン。私ハ変異体ダカラ。旅スルコトヲ夢ミテキタ、変異体ダカラ」




 雪をかぶせ終えると、タビアゲハは街に向かって歩き始めた。

「……邪魔ヲスルナラ、手段ハ選バナイ……ッテコト?」

 その後ろ姿を見ていたかまくらは、また嫌みを口にする。



 そして、嫉妬とうらやましさ、そして安心したような、


 白いため息を吐いた。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

絶世のディプロマット

一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。 レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。 レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。 ※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】炎の戦史 ~氷の少女と失われた記憶~

朱村びすりん
ファンタジー
 ~あらすじ~  炎の力を使える青年、リ・リュウキは記憶を失っていた。  見知らぬ山を歩いていると、人ひとり分ほどの大きな氷を発見する。その中には──なんと少女が悲しそうな顔をして凍りついていたのだ。  美しい少女に、リュウキは心を奪われそうになる。  炎の力をリュウキが放出し、氷の封印が解かれると、驚くことに彼女はまだ生きていた。  謎の少女は、どういうわけか、ハクという化け物の白虎と共生していた。  なぜ氷になっていたのかリュウキが問うと、彼女も記憶がなく分からないのだという。しかし名は覚えていて、彼女はソン・ヤエと名乗った。そして唯一、闇の記憶だけは残っており、彼女は好きでもない男に毎夜乱暴されたことによって負った心の傷が刻まれているのだという。  記憶の一部が失われている共通点があるとして、リュウキはヤエたちと共に過去を取り戻すため行動を共にしようと申し出る。  最初は戸惑っていたようだが、ヤエは渋々承諾。それから一行は山を下るために歩き始めた。  だがこの時である。突然、ハクの姿がなくなってしまったのだ。大切な友の姿が見当たらず、ヤエが取り乱していると──二人の前に謎の男が現れた。  男はどういうわけか何かの事情を知っているようで、二人にこう言い残す。 「ハクに会いたいのならば、満月の夜までに西国最西端にある『シュキ城』へ向かえ」 「記憶を取り戻すためには、意識の奥底に現れる『幻想世界』で真実を見つけ出せ」  男の言葉に半信半疑だったリュウキとヤエだが、二人にはなんの手がかりもない。  言われたとおり、シュキ城を目指すことにした。  しかし西の最西端は、化け物を生み出すとされる『幻草』が大量に栽培される土地でもあった……。  化け物や山賊が各地を荒らし、北・東・西の三ヶ国が争っている乱世の時代。  この世に平和は訪れるのだろうか。  二人は過去の記憶を取り戻すことができるのだろうか。  特異能力を持つ彼らの戦いと愛情の物語を描いた、古代中国風ファンタジー。 ★2023年1月5日エブリスタ様の「東洋風ファンタジー」特集に掲載されました。ありがとうございます(人´∀`)♪ ☆special thanks☆ 表紙イラスト・ベアしゅう様 77話挿絵・テン様

色々なSF作品 短編集

原口源太郎
SF
宇宙での出来事、未来世界での出来事、ロボットたちの出来事、宇宙戦争などさまざまなSF作品。

オフィーリアへの献歌

夢 浮橋(ゆめの/うきはし)
恋愛
「成仏したいの。そのために弔いの歌を作ってほしい」 俺はしがないインディーズバンド所属の冴えない貧乏ギタリスト。 ある日部屋に俺のファンだという女の子……の幽霊が現れて、俺に彼女のためのオリジナルソングを作れと言ってきた。 祟られたら怖いな、という消極的な理由で彼女の願いを叶えることにしたけど、即興の歌じゃ満足してもらえない。そのうえ幽霊のさらなる要望でデートをするはめに。 けれど振り回されたのも最初のうち。彼女と一緒にあちこち出掛けるうちに、俺はこの関係が楽しくなってしまった。 ――これは俺の、そんな短くて忘れられない悪夢の話。 *売れないバンドマンと幽霊女子の、ほのぼのラブストーリー。後半ちょっと切ない。 *書いてる人間には音楽・芸能知識は微塵もありませんすいません。 *小説家になろうから出張中

空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派
SF
『科学の魔女は、空色の髪をなびかせて宙を舞う』 高校を卒業後、亡くなった両親の後を継いで工場長となったニ十歳の女性――空鳥 隼《そらとり じゅん》 彼女は両親との思い出が詰まった工場を守るため、単身で経営を続けてはいたものの、その運営状況は火の車。残された借金さえも返せない。 それでも持ち前の知識で独自の商品開発を進め、なんとかこの状況からの脱出を図っていた。 そんなある日、隼は自身の開発物の影響で、スーパーパワーに目覚めてしまう。 その力は、隼にさらなる可能性を見出させ、その運命さえも大きく変えていく。 持ち前の科学知識を応用することで、世に魔法を再現することをも可能とした力。 その力をもってして、隼は日々空を駆け巡り、世のため人のためのヒーロー活動を始めることにした。 そしていつしか、彼女はこう呼ばれるようになる。 魔法の杖に腰かけて、大空を鳥のように舞う【空色の魔女】と。 ※この作品の科学知識云々はフィクションです。参考にしないでください。 ※ノベルアッププラス様での連載分を後追いで公開いたします。 ※2022/10/25 完結まで投稿しました。

処理中です...