化け物バックパッカー

オロボ46

文字の大きさ
上 下
50 / 162

化け物バックパッカー、本の世界に引き込まれる。【2】

しおりを挟む
 

「うーむ……知らないうちにややこしくなっているな……」

 液晶パネルのついた機械を前にして、坂春は苦戦をしていた。

「あの……どうなさいました?」
 そこへ通りかかった図書館員の女性に声をかけられる。
「ちょうどよかった。本の検索しようとこの機械を使っていたのですが、どうも使い方が理解できなくて…….」
「ああ、それなら……」



 しばらくして、坂春は一冊の本を手に館内を歩いていた。

「あの女性のおかげで探していた本が見つかってよかった。作者名しか覚えていなかったからな……」

 そこまでつぶやいて歩みを止める。

 目の前に、5さいぐらいの女の子が涙を流してしゃがんでいる。

「ぐすっ……ぐすっ……」

「……迷子か?」
 坂春が女の子の対処を考えていると、後ろから先ほどの図書館員の女性が女の子に近づいていった。

「ねえ、どうしたの?」
 図書館員は女の子に目線を合わせるためにしゃがんだ。
「ぐすっ……ぐすっ……」
「パパやママと迷子になったのかな?」
「……」
 涙を流したまま首を横に振る女の子。
「わかった、読みたい本が見つからない……でしょ?」
「……」
 黙ったまま女の子がうなずくと、図書館員は女の子に安心させるように笑みをうかべた。
「だいじょうぶ、お姉ちゃんが探してあげるよ。その本、どんな本なのか分かる?」
「ピンクの……リボンのついた……くまさんの…….えほん……」

 その光景を見届けた坂春は、安心したようにうなずいた後、再び歩き始めた。



「タビアゲハは……まだ本を探しているのか」

 元の席に戻ってきた坂春は、タビアゲハの姿が見えないことからそう判断した。
「……しかし、いつの間にか誰かがこの席に座っていたみたいだな」
 そのように判断した原因は、テーブルに置かれている一冊の本である。
「表紙が新聞紙で隠されているということは…….恐らく、持ち込んできた本なんだろうな」
 興味があるのか、坂春はひとりでブツブツと考察し続けている。いくら小さい声とはいえ、長時間も話し続けていては周りに迷惑である。
「……人のものをかってに見るのはいけないが……そもそもなぜこんなところに……」
 坂春はその本に手を伸ばそうとしていた……



「……!?」



 そして、思わず引っ込めた。



「……ア、戻ッテキタ」



 いきなり目の前の席に、タビアゲハが現れていたからだ。



「……」

 いきなりの出来事に、絶句する坂春。

「坂春サン、ドウシタノ?」
「……あ……ああ、いきなり現れたもんだから、つい」
 坂春は出そうとしていた手を引っ込めた。
「ところで、その本はタビアゲハが取ってきたのか?」
「ウン、本棚ノ隙間ニ落チテイタカラ、気ニナッチャッテ……」
「どんな本なんだ?」
 坂春がたずねると、タビアゲハは説明が難しいのか、「ウーン……」とうなってしまった。
「……ちょっと、読んでみてもいいか?」
「ウン、ソッチノ方ガワカリヤスイネ。デモチョット待ッテテ、ニ聞イテミルカラ」

 そう言って、タビアゲハは本を開き、数ページめくると姿を消した。

 消える瞬間は、瞬きの瞬間ほどの時間で消えるため、見ることはできなかった。

 しばらくすると、タビアゲハは再び姿を現した。

「ダイジョウブダッテ」
「だいじょうぶって……さっきからどこへ行っているんだ?」
 坂春の質問を無視して、タビアゲハは新聞紙に表紙を包まれた本を坂春に渡した。
「ソノ本ノページヲ、パラパラメクッテミテ」
「何ページぐらいだ?」
「周リノ人タチガ消エルマデ」
「……」



 半信半疑ながらも、坂春は本を開き、ページをめくった。

 真っ白な中身を見開き5ページぐらいめくったときだった。


 周りの景色の動きが、不自然になった。



 まるで、パラパラ漫画のように。




 やがて、周りにいた人たち、





 そして、本棚に置かれた本が、






 点滅し始めた。







 別の景色が書かれた、








 ページが挟み込まれたように。









「……ここは」

 坂春が気がつくと、周りの人々、そして本棚に置かれた数々の本が消滅していた。
 それ以外は、先ほどと同じ図書館だった。

「ココハ、本ノ中ナンダッテ」
 突然現れたタビアゲハの声に背筋が伸びるものの、坂春は落ち着いてタビアゲハを見た。
「本の中って、この本は魔法の本かなにかか?」
「ウウン、私ト同ジ、変異体ダッテ。」
 タビアゲハの説明に、納得するようにうなずく坂春。
「よくそんなことがわかったな」
「アノ子ガ教エテクレタノ」
 坂春が「あの子?」と眉をひそめると、タビアゲハは「コッチ」と言いながら席を立ち、歩き始めた。



 その道中、坂春は本を見かけた。

 本棚の中に、5冊だけ。

 本棚の大きな隙間が、本来は埋まっているであろう本たちを思い浮かべてしまいそうに見えた。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

New Life

basi
SF
なろうに掲載したものをカクヨム・アルファポにて掲載しています。改稿バージョンです。  待ちに待ったVRMMO《new life》  自分の行動でステータスの変化するアビリティシステム。追求されるリアリティ。そんなゲームの中の『新しい人生』に惹かれていくユルと仲間たち。  ゲームを進め、ある条件を満たしたために行われたアップデート。しかし、それは一部の人々にゲームを終わらせ、新たな人生を歩ませた。  第二部? むしろ本編? 始まりそうです。  主人公は美少女風美青年?

アシュターからの伝言

あーす。
SF
プレアデス星人アシュターに依頼を受けたアースルーリンドの面々が、地球に降り立つお話。 なんだけど、まだ出せない情報が含まれてるためと、パーラーにこっそり、メモ投稿してたのにパーラーが使えないので、それまで現実レベルで、聞いたり見たりした事のメモを書いています。 テレパシー、ビジョン等、現実に即した事柄を書き留め、どこまで合ってるかの検証となります。 その他、王様の耳はロバの耳。 そこらで言えない事をこっそりと。 あくまで小説枠なのに、検閲が入るとか理解不能。 なので届くべき人に届けばそれでいいお話。 にして置きます。 分かる人には分かる。 響く人には響く。 何かの気づきになれば幸いです。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

日本国転生

北乃大空
SF
 女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。  或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。  ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。  その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。  ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。  その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。

100000累計pt突破!アルファポリスの収益 確定スコア 見込みスコアについて

ちゃぼ茶
エッセイ・ノンフィクション
皆様が気になる(ちゃぼ茶も)収益や確定スコア、見込みスコアについてわかる範囲、推測や経験談も含めて記してみました。参考になれればと思います。

処理中です...