化け物バックパッカー

オロボ46

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化け物バックパッカー、化け物発明家と出会う。[2]

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 Chapter3 発明品






 扉が開く音とともに、手がスイッチのようなものに触れる。

 パチッ

 天井のライトが、一斉に光を放つ。

 部屋にあったのは、ガラスケースを乗せた複数のテーブル。
 まるで美術館のように、ガラスケースの中身が美しく見えるように設置されている。
「ここは発明に成功した第一号を補完している。どれも僕の最高傑作だ」
 男が解説する中で、タビアゲハはガラスケースのひとつの中身を指さした。
「コレ……スマホ?」

 そのガラスケースに入っていたのは、1台のスマホだ。黒塗りのフォルムをしている。
「タビアゲハがいつの間にか持っていたやつか。確か、鋭い爪でひっかいても傷ひとつ付かないんだったか?」
 タビアゲハの後ろから、坂春が男に確認をする。
「ああ、それは知り合いの商人からの提案で作ったんだ。このスマホ限定のアプリで各地の変異体とつながるようにね。既に量産も行えていて、その商人に変異体へ渡すように頼んでいる」
「ソレデモ、マダ少ナインダヨネ」
「……え?」
 タビアゲハの言葉に、男の表情はあぜんとした。
「……知ラナイノ? 私モ投稿シテイルンダケド……マダ投稿シテイル人、見テクレル人ガ少ナイミタイ」
「あ……ああ、ぜんぜん確認していなかったものでね……」
 男は苦笑いしながら頭をかいた。

 興味が切り替わるように、タビアゲハは隣のケースを見た。
 その中には、小さな青い箱と、小さなレンズのようなものがひとつ置かれていた。
「コレッテ……ナニ?」
「見たところ、ただのコンタクトレンズにしか見えないのだが……」
 坂春もその用途がわからないのか、腕を組んでうなった。
「……コンタクトレンズッテナニ?」
「いわゆるレンズを目に入れて使う、メガネと同じ役割をもつものだ。メガネとは違って見た目を気にしないのが利点だ。手入れは面倒くさいけどな」
「さて、考察は以上かい?」
 男が話に割り込んでくる。
「まだコンタクトレンズについて教えている途中なんだが」
「コンタクトレンズについてはだいたいわかっただろう。お嬢さん、君は警察がゴーグルをかけているのを見たことはあるか?」
 タビアゲハは少しだけ黙った後、うなずいた。
「突然変異症デ変化シタ部分ヲ見ルト……普通ノ人間ハ怖クナッテ……動ケナクナル。ダカラ、警察ガ変異体ヲ捕マエル時ニ使ウンダヨネ」
「正解だ。このコンタクトレンズはゴーグルに付けている特殊なレンズを加工して作ったものだ」
「なるほど……ん?」

 坂春はその隣のケースに目線を移した。
 その中には、小さな白い箱と、一粒の錠剤があった。

「一瞬だけ似ていると思ったが、何かの錠剤か……ステキなお薬じゃないだろうな」
「相変わらず失礼なことを言ってくれるじゃないか。それを飲ませると記憶を消すことが出来る。その日の出来事を、まるで夢のように」
「姿を見られた時に使えということか?」
「そうだ。お嬢さん、護身用に持っていてはどうかな?」
 タビアゲハはしばらくケースの中身を見つめた後、「ナンカ怖イカラ……ヤメテオクネ……」と、次のケースに目線……のようなものを移した。



 さまざまな発明品を見終えた後、男は思い出したように手をたたいた。
「そうだ、最後のメインディッシュである、僕が人間に戻れた方法なんだが……」
 その言葉に、タビアゲハは興味を持つように男に体を向けた。
「実は、1日で行うにはとうてい無理な技術でね、君が人間に戻りたいのなら1週間はかかる。そこで提案なのだが、それまで僕の研究所で滞在するというのは……」
「……ソノ技術ッテ、ドンナノ?」
「それは企業秘密である上に、言葉で話すのは難しい。だから実際に行いながら……」
 タビアゲハは考えるように腕を組み、首を振った。

「私ハ……マダコノママガイイナ」
「……へ?」

 男はまるで、台本とはまったく違うセリフが飛び出してきたかのように目を丸くしていた。
「き……君、人間に戻りたくてきたんじゃないの?」
 タビアゲハは首をかしげた。
「タマタマココヲ通リカカッタダケダケド……」
「で……でも、やっぱり人間に戻りたいよね……ねえ?」
「ドウヤッテ人間ニ戻レタノカガ気ニナッテイタケド……私、マダ世界ヲ見テ回ッテイナイカラ……人間ニ戻ッタラ、見エナクナルモノガアリソウデ……」
「……」
 気まずい空気が、部屋中に広がった。
 その様子を感じた坂春は、男をなだめるように「ま、まあまあ」と声をかけた。
「もしよかったら一晩だけ泊まらせてもらえないか? せっかく久しぶりにあったから、話ぐらいさせてくれないか」

「……そ、そうだな……せっかくの再開だ。今夜は旅の話を聞かせてくれ」






 Chapter4 初対面






 その夜、狭いリビングの中で、男と坂春はこたつサイズの小さなテーブルを使い、食事を取っていた。

「ヤッパリスゴイ食欲……」
 テーブルから離れたところで、タビアゲハはテーブルに置かれた料理と、その半分以上の範囲で箸を動かす坂春を見つめていた。
 そのスピードは速く、老人とは思えないほどの大口を開けて料理を喉へと放り込む。
「せっかくただで食べられるんだ。食べられるぶんだけ食べておかないとな」

 一方、男は少ししか食べなかった。
 坂春よりも遅いスピードで、小さい量でボソボソという擬音が似合う。
「発明家サン、食欲ナイノ?」
「ん……ああ……このところ、疲れがたまっちゃってね……」
 先ほどまでの表情豊かな振る舞いはどこにいったのだろうか、その姿はまるで、居場所のない亭主のようだ。
 坂春は箸を止めて、コップに入った麦茶を数量喉に流し込み、大きなため息をついた。



「……なんだか、初対面みたいだな」



 男の箸が、止まった。

「おまえに人間だったころの写真を見せてもらったことを覚えているか?」
「あ……ああ……」
「あの時のおまえは、今みたいにやつれた表情ではなかった。まるで体力がもたなくなったみたいにな」
「……」

 男は箸を置き、ため息をついた。

「この体に戻ってから……その……発明にまったく手に……つかないんだ。なぜだかわからない……ただ……なんと言えばいいのか……あの姿の時のように……明るく……なれないんだ」

 そう言いながら、男はタビアゲハにほほえみを向けた。

 タビアゲハはもちろん、坂春までもが、まるで始めてみる表情に驚くように目を口を開いた。






 Chapter5 深夜の電話






 時計の針は、12時を指していた。

 男は、扉のすきまから何かをのぞいているようだった。
 まるで親が子の寝顔を確かめるようにほほえむと、男はそっと扉を閉め、歩き始めた。

 しばらくして、閉じられた扉が音もなく開かれた。



 ガチャ

 ガチャ

 ガチャガチャ

 男は固定電話を前にして物音を立てていた。
 耳に押し当てている受話器からは音がまったく出ておらず、男の右手は電話機のさまざまなボタンを押している。

「なんでだよ……明日までにいけないのに……」

 そうつぶやいて、男は顔を上げた。

 誰かに聞かれてしまったように、背中にかかる目線に恐怖を感じるように。



「やっぱり……おまえは初対面だよ」



 男の後ろで立っていた坂春の声が響く。

「……びっくりするじゃないか、今さっき電話がかかってきたから電話に出たら、いきなり電話線が切れたところだったぞ」
 そうは言っているが、男の声は明らかに震えている。
「電話線? ああ、寝る前に俺が切ったやつか」
「……」

「なあ、教えてくれ……おまえは誰なんだ?」

 しばらくの沈黙の後、男は観念したようにため息をついた。

「やっぱり、僕はだめだ……すらできていないんだから」
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