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第九話「つい私に宿る記者精神による好奇心が暴走して......」

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 廃墟を後にして、駐車場に向かおうと森に囲まれたアスファルトを歩く。秋風が横の木を優しく撫でる。

ガサッ

 それとは別に、木の根元で揺れる草がある。まるで獣か何かが通ったように。と言っても、シロナちゃんが人目につかないように移動しているんだけどね。
 シロナちゃんを連れてきた理由は三つある。ひとつは、化け物を連れて来ることで相手の警戒を緩めること。一人で行って刺激させて殺された、なんて(書く本人が死んでいる意味で)記事のネタにもならないからね。二つ目は、迷路のような下水道で、目的の腕の化け物への最短ルートを進むため。シロナちゃんの触覚なら、壁の向こうも見れるからね。
 そして三つ目は......これは現地につけばわかる。



「シロナちゃん、もう出てきていいよ」
私の車しか止まっていない駐車場で、シロナちゃんに呼び掛ける。草むらから出てきた彼女の手には、古びたマンホールオープナーが握られている。
「コンナ所デ役ニ立ツナンテ......」
「目的とは別の方で役に立つこともあるもんだよ」
三つ目の理由は、このマンホールオープナーだ。これに関してはシロナちゃんから譲ってもらえばよかったんだけど、さすがにこだわりがあるのか、断られてしまった。さすがにわざわざマンホールオープナーを買いに行くことは出来ないからなあ。
 シロナちゃんにマンホールを開けてもらい、三ヶ月前に買った懐中電灯の光を、暗闇に包まれた下水道に照らす。
「よし、それじゃあ降りていこう。足元に気をつけてね」
「ワカッテル......ア、私カラ行カセテ」
「え?」
私が呼び止める間もなく、シロナちゃんは梯子を降りていった。んー、よく考えれば、もし私が先に降りてしまうと、上を向いてしまうだけで毛布一枚のシロナちゃんが......
 こういうところにはしっかりしているんだなあ......



 梯子を降りた足に汚水はかからなかった。横に懐中電灯を向けると、濁った汚水が川のように流れていた。
「足元ニ気ヲツケテネ......」
「別に大丈夫だよ。そう簡単に落ちると思うのかい?」
「デモ......万ガ一落チタリシタラ......危ナイ......」
「万が一でも、そうそう落ちる人間なんているわけっ......!!」
「ア」

バシャアアアンッ!!

「......イタネ」



「はっくしょいんっ!!!」
汚水で濡れた服を見にまとっているせいで、くしゃみが止まらない。
「一旦帰ッテ服着替エタラ?」
「いや、大丈夫......いちいち戻るのもめんどくさいし。そういえば、前から思ってたんだけど......シロナちゃんのその姿......寒くない?」
「全然。コレモコンナ姿ニナッタセイダト思ウ」
「やっぱりそうなんだ......ん?」

 懐中電灯を照らす先に、細長い腕がある。それも何本もの腕が、レーザートラップのように張り巡らされている。

「......怯エテイルミタイ」
シロナちゃんが奥を見つめたまま呟く言葉を聞いて、私は昨日のマンション内のキッチンのことを思い出す。好奇心でつい握ってしまって、針で刺されそうになった時だ。
「さすがにあれはまずかったなあ......」
「......マズカッタッテ......ナニ?」
シロナちゃんにはまだ何も言っていなかったので、小声で事情を説明する。

「......ソンナノ......怯エルニ決マッテイルジャナイ!!」
「本当にごめん!! つい私に宿る記者精神による好奇心が暴走して......」
「中二病デ誤魔化シテモダメ!! チャント本人ニ謝リナサイッ!!」
シロナちゃんの正論には、頭を下げるしかない。

「......ナア、ソコニイルノハ......同類カイ?」

 突然、奥から声が響いて二人で飛び上がる。声の感じだと、シロナちゃんや亀の化け物と同じ化け物であることには間違いない。
「エエ......私ハシロナ......ソレデモウ一人ハ人間ダケド......」
ここは絶好の謝罪タイミングであろう。
「私の名前は上宮俊! 昨日は記者精神で手を掴んでしまい、すみませんでした!」

 その後、しばらく沈黙が続く。シロナちゃんによると、何かを考えているような表情らしい。

「......サッキ記者ッテ言ッテタケド、何カノ取材?」
奥から声が聞こえた後、シロナちゃんは大丈夫かと訴えるようにこちらを見つめてきたので、私は問題ないと頷く。
「大丈夫......コノ人、個人的ナ取材デ来ダケナノ。私モ最初ハ引イタケド、ソンナニ悪イ人ジャナイ。タダダケダカラ」
......さっきのでずいぶん呆れられたようだ。
「......ワカッタ。信ジルヨ」
その一言で、目の前の腕たちは引っ込んで行った。



 その先で出会ったのは、無数の腕に絡まれた腕の化け物......その中に、人間の男性の顔面が球場に丸まっていた。
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