【  章紋のトバサ  】

オロボ46

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ACT2 ようこそ、鳥羽差市へ

【物の誕生の夢】

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 ……



 知能の紋章が埋め込められた。



 埋め込んだ対象物は、人間の死体。

 この知能の紋章が効果を発動したことによって、この死体の脳の役割を担う情報が活動を始めた。
 必要であれば、いつでも使える。

 視覚の情報は一切ない。

 その代わり、誰かの声が聞こえてきた。
 別の箇所に埋め込まれた、聴覚を補う紋章が機能し始めたのだ。



「――たでしょ!? この子には、死んだあの子の記憶なんていらない!!」

「し、しかし……聞いた話では、この死体を引き取った理由として、右腕があなたの娘であることから……」

「いいから!! 記憶の紋章は埋めないで!!」



 しばらくして埋め込まれたのは、人格の紋章。

 埋め込んだ物に、人格を与える効果を持っている。

 この死体に、これから人格が宿るのだ。



 ……人格? それを簡単に表すなら、心って意味なのだろうか?

 どうして今、わざわざ人格について言い換えたんだろうか?

 ただ人格を、この死体……いや、ワタシに与えるだけだ。

 特に恐怖を感じるはずもない。

 特に怖くも思わないはずなのに。

 ……いや、怖い。複雑な気持ちが、人格の紋章の中で暴れ回っている。

 どうして人格を与えたの? 理由もわからない。この人格で何をされるんだろう。

 意図のわからない人格のせいで、ただ、不安と恐怖でもがいている。

 ああ、誰かを見たい……

 ワタシに人格を与えた、誰かを見たい……!

 ワタシに人格を与えた意図を知っている、誰かを見たい……!!



 ……!

 今、動作の紋章が埋め込まれた。

 だんだんと、体の感覚を感じ始めた。

 ……もしかして、まぶたを開けることができる?

 ゆっくりとまぶたを開けてみると、まぶしい光が入ってきて思わず閉じてしまった。
 前から紋章入りの義眼を入れていたけど、まぶたのせいで視覚がないと勘違いしたみたい。

 周りはどうなっているんだろう。
 不安が胸で暴れているけど、まぶたを開けないとこの不安は収まらない。



 もう一度、まぶたを開けてみた。

 医務室と思われる明かりの下で、ひとりの女性がワタシを見つめていた。

「あ……ああ……!!」

 ワタシがまばたきをするごとに、女性は声を漏らした。

「さ……さあ……起き上がって……!」

 女性に言われるがままに、上半身を起こしてみよう。

「あ……ああ……よかった……よかった……!」

 目から水……涙を出しながら、女性はワタシに抱きついてきた。

 周りを見てみると、手術服を聞いた何人かの人間が立っていた。
 みんな、戸惑っているみたい。

「“お母さま”は……あなたを大事にするわ……! あの子の、生まれ変わりだもの……!」

 おかあ……さま……?

 声に出そうとしても、出なかった。まるで、発声器官がないように。

 だけど、これで十分かもしれない。

 この人……お母さまは、ワタシに人格を与えた人間なのだから……
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