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ACT1 喫茶店セイラム

【始まりの惨劇の夢】

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 刃物の先端が、お屋敷の窓から照らす月の光を反射していた。

 光の先にあるのは、青色に点滅する紋章。

 刃物の先端をその紋章に向けると、両手が震え始める。



 ……これでいい。



 ワタシはまぶたを閉じ、震える両手を胸に引き寄せ、



 青色の紋章が付いている左胸に、入刀した。









 窓から差し込む光は、月の光から、朝日の光へと変わっていた。

 ワタシはお屋敷ではなく、冷たい廃虚の中に立っていた。



 ワタシは、傍観者のようにひとりの女の子を見つめている。

 その女の子の顔は黒塗りされていて、よく見えなかった。

 ただ、手に持っているものに夢中なのか、ワタシが見えないのか、

 こちらに見向きもしない。



「10年前……あの子は森の中でキャンプに参加していたの」

 ……? どこからか声が聞こえてきた。

「同じようにキャンプをしにきた4人のお友達と仲良くなって――」

 この声は……お母……さま……?

「――みんなでどこかに、消えてしまったの」

 どうしてこんなところに……? どこにいるの……?

 ぐるりと辺りを見渡しても、女の子以外は誰もいなかった。



「あの子は、右手だけになって見つかった。他の友達は左腕、左足、右足、胴体を残して……見知らぬ女の子の首とともに」



 目の前の女の子は、ゆっくりと手に持っているものを掲げた。

 窓から差し込む朝日が、女の子の両手を照らす。



 その両手には、首が乗っていた。

 目玉をえぐり取られた、白髪の少女の首。

 人形のように整えられたその顔は、目玉がなくても美術館に飾られていそうな美しさがある。
 そのこめかみには、青色に光る紋章が埋め込まれていた。



 女の子の周りにいつの間にかあったのは、死体のパーツ。

 枝のように細い右腕。

 筋肉質な左腕。

 少しだけ胸の膨らみのある色黒の胴体。

 子供のものと思われる小さな右足。

 大人びた長い左足。

 どれも腐っている様子はなく、それぞれ青色の紋章が埋め込まれていた。



「見つけてくれたのは、首の子よりも小さい女の子。無邪気に死体に話しかけていたわ。人形に話しかけるみたいにね」



 どこにいるのかわからないまま、お母さまの声が続く……



 そうだ、ここは……10年前、事件が起きた場所。お母さまが教えてくれた場所。

 キャンプに参加した者のうち、5人が失踪した。
 その翌日、キャンプ地の近くでそれぞれの死体のパーツを、小さな女の子が発見したという。
 身元不明の、少女の首とともに。

 ここは、すべてが始まった街。ワタシが始まった場所。



 女の子が、口を開けた。

 親しい友達を見たかのような、笑顔をワタシの後ろに向ける。










「その女の子は、羊の顔をしたおじさんが見せてくれたって、言っていたわ」









 後ろを振り返ると、羊の頭をした大男がワタシに手を伸ばした。










  周りの風景が消え、まっくらとなった目の前。



 みんな、消えてしまった……そう思った瞬間、



 白いシルエットが、こちらにやって来る。










 二足歩行の……ウサギだ。










「紋章によって発展した街にして、バラバラ殺人事件の起きた街……“鳥羽差市とばさし”」

「キミは、自分が存在する理由を知るためにそこに行くんだね」

「そうでしょ?」










「 イ ザ ホ 」









 
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