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【ゲームの世界と攻略キャラたち】
03.攻略キャラ二人目・王太子オリフィエル
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『どちらかに好きな人ができたら、互いの合意のもと婚約を解消する』
この約束はメリッサにとって、とても大事だ。
たとえばフェリクスがヒロインを好きになったとき、この約束があるお陰で彼が後ろめたい思いを抱えることなく、メリッサに話を持ってくることができる。
メリッサ自身に対しても、この約束があるため「反対したり、揉め事は起こさないだろう」と安心してもらえる。
これに加えてヒロインとの接触を避け、自己中心的で我儘な態度を取らないよう気をつければ、何かが起こっても最悪の事態は避けられるはずだ。
(わたしはヒロインに何もしないもの。断罪なんてあり得ないわ)
これでフェリクスルートの対策は、一応できたということにしていいだろう。
問題は他の攻略キャラだ。
フェリクスと婚約してから、メリッサは他の攻略キャラの一人と度々顔を合わせるようになってしまった。
(というか、フェリクスさまがわたしに会いに、頻繁にいらっしゃるのよね……)
“悪役令嬢メリッサ”の背景などゲーム内では描かれないので、実際どうだったのかは分からないが、婚約者なら頻繁に会いに来るのもそうおかしいことではないのだろう。
それはともかく、フェリクスがメリッサの家を訪問する際、まれに一緒に訪ねてくる人物がいる。
「オリフィエル殿下、ご機嫌うるわしく――」
「やぁ、メリッサ嬢、お邪魔するよ」
玄関前に止まった馬車から降りてくる彼――第一王子オリフィエルを見て、内心「またか」と思いつつメリッサは頭を下げた。
続いて降りてくる婚約者フェリクスにも挨拶をし、視線で訴えれば首を左右に振って返される。
(また家庭教師から逃げて来たのね)
あるいは剣術の稽古から、だろうか。メリッサの家を逃げ場とするのはやめて欲しいのだが、相手は幼くても王族なので言うに言えない。
この時メリッサは十一歳になっていたが、オリフィエルはふたつ年下なのでまだ九歳だ。
その年齢で逃げ癖がついていては将来が不安だが、腐っても乙女ゲームのヒーローである。
(ゲーム内だと、“王太子”って身分を差し引いても高スペックだったっけ)
当たり前のように美青年だが、フェリクスのような優男系ではなく、華やかな印象のある目を引く美形だった。
目鼻立ちもくっきりと、骨格も男らしくあるが、それでいてすらっとした体型が優雅に見える。
肌は色白というほどではなく、後ろに束ねた長い髪ははっきりとしたブロンドで、瞳はブルーアイという、まさに“王子”を体言したかのような容姿をしている。
身長は確かフェリクスより高かったはずだ。今はまだ低いが、これから成長して越えていくのだろう。
王族ゆえにやや無茶をしたり言ったりすることはあるが、傍にいる者が窘めればきちんと自分を抑えられる、常識的な判断ができる人物だったはず。
(少し享楽的なところがあったような気がするけど、そこが真面目なヒロインとうまく噛み合ってたのよね)
二人の身分や立場を考えても、ヒロインとオリフィエルがベストな組み合わせだとメリッサは思う。
それはともかく、フェリクスに対しては予防線を張ることができたが、早々にオリフィエルに対しても対策を考えなければいけない。
オリフィエルのルートでも、フェリクス経由でメリッサは接点があるため、ヒロインがハッピーエンドを迎えればもれなく断罪が待っている。
もちろん悪役令嬢メリッサが彼女をいじめるからだが。
(何がどう転んでゲームと同じ道をたどるか分からないもの。なるべくなら接触自体を避けたいのだけど……フェリクス様と婚約している以上それは難しいみたい)
フェリクスの実家は長い歴史を持つ公爵家で、王族とも当然ながら深い縁がある。
年齢も近いことから、以前よりフェリクスはオリフィエルの友人として共に行動し、将来は側近になるのだとほぼ決まっている。
側近ならフェリクスも、勉学や稽古から逃げるオリフィエルを窘めなければならないが、彼も今はまだ幼い。これから、そういったことを学ぶのだろう。
かといってメリッサが代わりに窘めるのは不敬に当たる。
「今日は何をして遊ぶんだ?」
いつもならお茶会の真似事をして会話をしたり、庭園でかくれんぼをしたり、ボードゲームで遊ぶことが多いが――
(仕方ないわね)
メリッサは腹をくくると、最近学んだ“淑女の笑み”を浮かべてみせた。
「最近はわたしもフェリクスさまも、読書にはまっておりますの」
「読書……」
「殿下もぜひ一緒にいかがですか?」
いかが? と伺いながら、強引に促してルーベンス邸の図書室へ向かうと、ある書棚の前で立ち止まる。
「この辺りが子供にも読める本です。恥ずかしながら、わたしもまだすべて読めてはいないんですの」
そして示し合わせたようにフェリクスがそこから本を一冊取り出し、オリフィエルへと恭しく差し出す。
「殿下、これなどどうでしょう。勇者の冒険ものなので、男でも楽しめると思いますよ」
「あ、ああ……」
やや引きつった顔を見せる様子から、オリフィエルはあまり読書は好きではないんだろう。だが、メリッサは“お姉さん風”を吹かせて畳み込んだ。
「読書は楽しいですよ、殿下。家に居ながらいろんな体験ができるのですから。これから起こる問題の解決策だって、載ってるかも知れませんよ。よく言いますものね、『歴史に学べ』と」
さらに分かりやすく顔を引きつらせつつ、それでもオリフィエルは渋々本を手に取って席についた。
メリッサも本を手に座りながら、彼の様子を窺いつつ胸の内で安堵する。
やはり彼には常識的なところがある。「読書などイヤだ!」と癇癪を起こして、逃亡先であるルーベンス家の子女をこれ以上困らせるようなことはしないのだ。
(良かったわ、暴君でなくて。これなら、わたしがヒロインと接触せず大人しくしていれば、断罪なんてことにはならないでしょ)
大人しく読書を始めたオリフィエルを見て、メリッサは嬉しそうに微笑を浮かべてから、本に視線を落とした。
そのため、本から視線を上げてこちらを盗み見る、二人の男の子の熱視線に気づくことはできなかったのだった。
この約束はメリッサにとって、とても大事だ。
たとえばフェリクスがヒロインを好きになったとき、この約束があるお陰で彼が後ろめたい思いを抱えることなく、メリッサに話を持ってくることができる。
メリッサ自身に対しても、この約束があるため「反対したり、揉め事は起こさないだろう」と安心してもらえる。
これに加えてヒロインとの接触を避け、自己中心的で我儘な態度を取らないよう気をつければ、何かが起こっても最悪の事態は避けられるはずだ。
(わたしはヒロインに何もしないもの。断罪なんてあり得ないわ)
これでフェリクスルートの対策は、一応できたということにしていいだろう。
問題は他の攻略キャラだ。
フェリクスと婚約してから、メリッサは他の攻略キャラの一人と度々顔を合わせるようになってしまった。
(というか、フェリクスさまがわたしに会いに、頻繁にいらっしゃるのよね……)
“悪役令嬢メリッサ”の背景などゲーム内では描かれないので、実際どうだったのかは分からないが、婚約者なら頻繁に会いに来るのもそうおかしいことではないのだろう。
それはともかく、フェリクスがメリッサの家を訪問する際、まれに一緒に訪ねてくる人物がいる。
「オリフィエル殿下、ご機嫌うるわしく――」
「やぁ、メリッサ嬢、お邪魔するよ」
玄関前に止まった馬車から降りてくる彼――第一王子オリフィエルを見て、内心「またか」と思いつつメリッサは頭を下げた。
続いて降りてくる婚約者フェリクスにも挨拶をし、視線で訴えれば首を左右に振って返される。
(また家庭教師から逃げて来たのね)
あるいは剣術の稽古から、だろうか。メリッサの家を逃げ場とするのはやめて欲しいのだが、相手は幼くても王族なので言うに言えない。
この時メリッサは十一歳になっていたが、オリフィエルはふたつ年下なのでまだ九歳だ。
その年齢で逃げ癖がついていては将来が不安だが、腐っても乙女ゲームのヒーローである。
(ゲーム内だと、“王太子”って身分を差し引いても高スペックだったっけ)
当たり前のように美青年だが、フェリクスのような優男系ではなく、華やかな印象のある目を引く美形だった。
目鼻立ちもくっきりと、骨格も男らしくあるが、それでいてすらっとした体型が優雅に見える。
肌は色白というほどではなく、後ろに束ねた長い髪ははっきりとしたブロンドで、瞳はブルーアイという、まさに“王子”を体言したかのような容姿をしている。
身長は確かフェリクスより高かったはずだ。今はまだ低いが、これから成長して越えていくのだろう。
王族ゆえにやや無茶をしたり言ったりすることはあるが、傍にいる者が窘めればきちんと自分を抑えられる、常識的な判断ができる人物だったはず。
(少し享楽的なところがあったような気がするけど、そこが真面目なヒロインとうまく噛み合ってたのよね)
二人の身分や立場を考えても、ヒロインとオリフィエルがベストな組み合わせだとメリッサは思う。
それはともかく、フェリクスに対しては予防線を張ることができたが、早々にオリフィエルに対しても対策を考えなければいけない。
オリフィエルのルートでも、フェリクス経由でメリッサは接点があるため、ヒロインがハッピーエンドを迎えればもれなく断罪が待っている。
もちろん悪役令嬢メリッサが彼女をいじめるからだが。
(何がどう転んでゲームと同じ道をたどるか分からないもの。なるべくなら接触自体を避けたいのだけど……フェリクス様と婚約している以上それは難しいみたい)
フェリクスの実家は長い歴史を持つ公爵家で、王族とも当然ながら深い縁がある。
年齢も近いことから、以前よりフェリクスはオリフィエルの友人として共に行動し、将来は側近になるのだとほぼ決まっている。
側近ならフェリクスも、勉学や稽古から逃げるオリフィエルを窘めなければならないが、彼も今はまだ幼い。これから、そういったことを学ぶのだろう。
かといってメリッサが代わりに窘めるのは不敬に当たる。
「今日は何をして遊ぶんだ?」
いつもならお茶会の真似事をして会話をしたり、庭園でかくれんぼをしたり、ボードゲームで遊ぶことが多いが――
(仕方ないわね)
メリッサは腹をくくると、最近学んだ“淑女の笑み”を浮かべてみせた。
「最近はわたしもフェリクスさまも、読書にはまっておりますの」
「読書……」
「殿下もぜひ一緒にいかがですか?」
いかが? と伺いながら、強引に促してルーベンス邸の図書室へ向かうと、ある書棚の前で立ち止まる。
「この辺りが子供にも読める本です。恥ずかしながら、わたしもまだすべて読めてはいないんですの」
そして示し合わせたようにフェリクスがそこから本を一冊取り出し、オリフィエルへと恭しく差し出す。
「殿下、これなどどうでしょう。勇者の冒険ものなので、男でも楽しめると思いますよ」
「あ、ああ……」
やや引きつった顔を見せる様子から、オリフィエルはあまり読書は好きではないんだろう。だが、メリッサは“お姉さん風”を吹かせて畳み込んだ。
「読書は楽しいですよ、殿下。家に居ながらいろんな体験ができるのですから。これから起こる問題の解決策だって、載ってるかも知れませんよ。よく言いますものね、『歴史に学べ』と」
さらに分かりやすく顔を引きつらせつつ、それでもオリフィエルは渋々本を手に取って席についた。
メリッサも本を手に座りながら、彼の様子を窺いつつ胸の内で安堵する。
やはり彼には常識的なところがある。「読書などイヤだ!」と癇癪を起こして、逃亡先であるルーベンス家の子女をこれ以上困らせるようなことはしないのだ。
(良かったわ、暴君でなくて。これなら、わたしがヒロインと接触せず大人しくしていれば、断罪なんてことにはならないでしょ)
大人しく読書を始めたオリフィエルを見て、メリッサは嬉しそうに微笑を浮かべてから、本に視線を落とした。
そのため、本から視線を上げてこちらを盗み見る、二人の男の子の熱視線に気づくことはできなかったのだった。
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