鳥籠の天翼と不屈の王子 ~初体験の相手をしたら本気になった教え子から結婚を迫られています~

須宮りんこ

文字の大きさ
上 下
16 / 49
長い気の迷い

しおりを挟む


 ローシュの言っていることはあまりに無謀だ。だけど妙に説得力があるから不思議だった。確かに……と頷かせてしまう力が、この王子の目と声にはある。

 いやいや、とエアルは肯首しそうになる自分を振り払う。ローシュの考えを認めたところで、自分にとってローシュは恋愛対象外もいいところ。

 そもそも好みのタイプといっても、あまりにもしつこく訊かれたからひねり出した答えなのだ。自分には好きな人間のタイプなど存在しない。いくらローシュが自分好みの人間に近づこうと努力したところで、無駄だというのに……。

 今回の王子が患っている気の迷いは、こちらが想像するより長いものになるかもしれない。現実をわからせるためには、時間と根気がかかりそうだと思った。気が遠くなるが、仕方がない。

 とりあえず今の段階で、この王子に必要なこと、それは――

「場所を変えましょう」

 提案した直後、エアルは相手の同意を得る前に両手を組んだ。素早く物体移動魔法の呪文を唱え、手に集まった魔力をローシュに向かって放った。

「はっ? 場所を変えるってどこに――」

「いつまでも水に濡れたままでは風邪を引いてしまいますからね」

 エアルたちのやり取りを見守っていた使用人たちに向かって、「ローシュ様のことは私にお任せを」と断りを入れる。

 しゃぼん玉のように浮き上がった男と翼を広げたエアルが向かった先は、城の地下にある湯殿だ。

 湯殿の脱衣場にローシュを放り込むと、エアルは廊下と湯殿を繋ぐ扉の鍵を閉めた。

 床に掘られた大理石の浴槽には、気まぐれな王族のために常に湯が張られている。浴槽から流れてくる湯気に視界を霞ませながら、エアルはヒタヒタと床を踏みローシュに詰め寄った。後ずさりで追いやられた男の動きが、壁に阻まれて止まる。

「な、なんだよ……急にこんな所に連れてきて」

 そっぽを向いたローシュの顔が赤く染まる。エアルが何をしようとしているのか、察しているのかもしれない。

 エアルはその場で膝をつき、ローシュの腰に巻き付けられたベルトに手を掛けた。紐状のそれは、水を吸っているものの容易く解くことができた。

「濡れた衣服のままだと体も冷えます。どうせなら、さっさと脱いであの晩の続きをいたしましょう」

 長ズボンのブレーと下着を、腰の下まで同時に下げる。二人きりになった時点でやはり期待していたのか、ローシュの張りつめた自身が露わになる。重量感のある陰茎が天を仰ぐ姿を前に、エアルはほら見たことかと冷静になった。

「こんな所で続きをするのかっ?」

「あなたの寝室に移動してもいいですが、まずは冷えた体を温めた方がいいのでは?」

 エアルは男の充血した欲望を手に収め、自身の口へと運ぶ。先端から陰茎の真ん中まで一気に口内に招くと、ローシュは「んっ」と声を漏らし、おとなしくなった。

 頬いっぱいに詰めた欲望に、唾液に濡れた口内の粘膜を擦り合わせる。じゅぼじゅぼといやらしい音が湯殿に響く。

 ローシュの昂ぶりは、初めて夜伽の手ほどきをした晩に感じた通りの太さと大きさだ。根元まで口に収めたいのに、エアルの小さな顎には収まりきらなかった。

 酸欠で苦しくなる。うまく息を吸ったり吐いたりすることが難しい。手こずりながらも、エアルは頬の内側や舌、手を巧みに動かし、男の欲望が射精に向かうよう扱いた。

 しばらくそうしていると、先に音を上げたのはローシュだった。

「くっ、待って、イキそ、だ、っから……っ」

 困惑した声が頭の上に降ってくる。最果てが着々と近づいている男の欲望を、一定のリズムで刺激し続けた。

「いいですよ。お好きなタイミングでイってください」

 男を咥えたまま射精の許可を出す。

「バッ……そんなことしたら、口の、中、に……っ」

「どうぞ。遠慮なく出してください」

「ダ、メッ……だって……っ」

 ローシュの両手がエアルの頭を掴んだ。本気で下半身から剝がしたいのか、抵抗する力はかなり強いものだった。

 変わっている男だと改めて思う。無駄な抵抗をしたところで、エアルの口の中に含まれた熱杭は、ローシュの言葉とは反対に、より膨張している。

 これまでに何人もの男の性器を口にしてきた。こうやって咥えてやると、ほぼ全員の男がエアルの口を玩具のように扱い射精したものだ。青臭い精液を口に放たれることには慣れている。

 それに気の迷いだとしても、ローシュの恋心は現在こちらに向いているらしい。そんな相手に欲望をぶつけられる機会が与えられているというのに、一体何を遠慮しているんだろうと不思議だった。

 しつこく粘っていたローシュだったが、長年に渡って錬成された口淫には耐えきれなかったようだ。エアルが喉奥まで駆使して扱いてやると、最後にはあっけなくエアルの口内に精を放った。

 ゴクンと青臭いそれを飲み干す。ローシュはばつが悪そうな表情をして、こちらから目を逸らした。壁に背を預けたまま肩で呼吸する男の目には、生理的な涙が浮かんでいる。

「ローシュ様は今、人間の男が最も性欲が高まるご年齢でいらっしゃいます。私への気持ちも、そこから由来するものかと」

「……俺の気持ちはそんなんじゃない」

 ローシュは水に濡れた前髪を雑に握った。

「ではなぜ手ほどきの続行をご希望されたのですか? 有り余る欲望を抑えることができないからではありませんか?」

「そ、そんなこと……」

「あなたのお父上――レイモンド王もローシュ様と同じ年代の頃には旺盛でした」

 レイモンドの名前を出した瞬間、ローシュの表情が変わった。

「まあ……王の場合は現在も健在ではありますが」

「やめろよ」

 低い声に制されたのは、エアルが言った直後だった。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

処理中です...