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6.オメガの代わり ※R18

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 自宅にたどり着くやいなや、煌は玄関でガクッと膝を折り、その場で倒れた。血まみれの腕をかばうことなく、先ほどと同じように「ハア、ハア……ッ」と腹の底から興奮を抑えようとする声を洩らしながら。

 背中に手を添え、「大丈夫か」と弟に訊く。だが、まだオメガのフェロモンにあてられた状態なのか、煌は「ウゥッ、アアァア……ッ!」と獣声をあげながら三和土に額を打ちつけた。優鶴の声なんて聞こえていないようだ。

 どうすれば――どうすればいいんだろう。優鶴は焦った。たまに薬局などでアルファの抑制剤が売られているものの、オメガのものほど浸透しているわけじゃない。こんなことになるなら通販で買い置きしておけばよかったと後悔するが、もう遅い。

 こうしている間にも、煌の腕からは血がドクドクと溢れている。優鶴は救急車を呼ぼうと焦る手でスマホをバッグから取りだした。
 すると、身悶える煌の手が飛んできて乱暴に背を向かせられた。首すじをベロリと熱い舌で舐められ、「ヒッ」と声が出る。ゾクッとしたのも一瞬だった。
「こ、れ……じゃねえ」
 ドスの利いた声が耳の後ろで言う。振り返ろうとしたら、血まみれの手が前に伸びてきた。襟を掴んだ手にブチッとシャツの前を破かれ、ボタンが飛び散る。

「な……っ!」
 煌は優鶴からシャツを剥ぎとると、シャツの背中部分に鼻をうずめ大きく息を吸った。そこには手形を描く泥がついていた。オメガの男が「犯して」と泣いてすがった部分だったと気づいた瞬間、優鶴は訳のわからないやるせなさに胸が騒いだ。

 兄の目の前であることもお構いなしに、煌はズボンを下ろし、起立した自分の下半身をむき出しにした。そして優鶴のシャツを鼻で深く吸いこみながら、何度も何度も性器を上下に擦った。
 理性を失った弟が繰り広げるオナニーショー。そのショッキングな光景に、優鶴はただ呆然とするしかなかった。いくらオメガのフェロモンにやられたからといって、ここまで理性を失うものだろうか。オメガが放つフェロモンの威力もさることながら、煌のあまりの変化に優鶴は戸惑った。
 煌は鼻に押しつけたシャツを血で滲ませながら、優鶴の前で何度も射精し三和土たたきに白い精を吐き散らした。それでも欲情した興奮は治まらないようだ。吐き出したものを潤滑油がわりにして、摩擦で赤黒くなった性器をねちゃねちゃと白い糸を引きながら擦っている。

 苦しそうな煌を前に、優鶴は思った。本当にこれでよかったんだろうか、と。はじめは抵抗している様子だったオメガの男も、最終的には優鶴に対して『どけ』と言っていた。『犯して』と切なそうに煌に手を伸ばしていた。
 痛々しくて、優鶴は大きな身体を抱きしめる。「煌……っ」震える声で呼ぶと、煌がフンフンと優鶴の身体じゅうの匂いを嗅いできた。オメガのフェロモンを探しているようだった。
 優鶴はグッと奥歯を嚙みしめる。このとき、本気で思った。自分がオメガだったらよかったのに。そうすれば、今この瞬間、煌を助けることができるのに。

 やがて嗅ぎまわっていた鼻が止まったのは、優鶴の左肘だった。その場所で、先ほどオメガのみぞおちを突いたことを思い出す。
 煌は優鶴の左肘を舐め、カリッと噛んだ。甘噛みだったので痛みはない。噛んでは舐め、舐めては噛んでを繰り返されるうちに、優鶴も妙な気分になってくる。
「ちょ、煌……っ」
 精液に濡れた性器をズボン越しに下半身にこすりつけられ、優鶴はカッと頬が熱くなった。いつの間にか自分の性器もズボンの内側で勃起していたことに気づいた。
 優鶴の身体にわずかに残るオメガの残り香を頼りに興奮しているのか、煌の手つきがいやらしくなっていく。そうこうしているうちにタンクトップと肌のあいだに侵入した手が、指の腹や爪を使って乳首をこねはじめた。
「ちょ……っ。まずいってば……!」
 乳首に与えられた刺激はすぐに下半身に降り、優鶴から抵抗を徐々に奪っていく。カチャカチャとベルトのバックルを外されたのは、胸への愛撫もそこそこに『もっとほしい』と思いかけたときだ。
 平均的な性欲だと自覚している優鶴も、今夜はどこかがおかしいと感じていた。オメガの濃いフェロモンを嗅いでしまったことが原因だろうか。同性で、しかも血が繋がっていないとはいえ弟相手にこんな気持ちになるなんて。

 雨と泥でぐしょぐしょになったズボンと下着を強引に脱がされ、優鶴は四つん這いにさせられた。膝が痛くて、思わず上半身が三和土に落ちる。尻を突き出すような体勢から肘を伸ばして上半身を起こそうとしたが、叶わなかった。
 双丘の合間から入ってきた煌の熱い先端が、窄みに押し当てられたからだ。
「ダメだ煌……っ、それだけは……っ」
 本気で嫌だと相手を拒むと、煌の手が止まり、目もわずかに揺らいだ。細い糸でつながった理性を取り戻したように見えた。

 だが、それも一瞬のこと。煌は再び手を動かした。窄みに挿入することはやめたようだ。双丘の窪みにこすりつけるように割って侵入してきた。グッと押しこめられ、煌の重たい二つの玉が後ろからバチンと尻に当たる。
 何をされているのか理解できなくて、声も出なかった。痛くはないのに、生理的な涙が目の端に浮かんだ。

 それから煌はバックの体勢でガンガンと優鶴の尻を突いた。弟に疑似的に犯されている。その事実に優鶴の前はすっかり委縮し、先ほどわずかに感じていた欲望もどこかへと消えていく。
 自分の腕を噛んで耐えながら、優鶴は時が過ぎるのをひたすら待った。揺さぶられるたびに薄い尻が煌の股関節に当たり、自分の骨がギシギシと嫌な音を立てて壊れていくような気がした。 
 途中から仰向けにされた。優鶴の腰を浮かせるように抱えた煌に何度も突かれ、左肘を舐められながら腹の上に精を吐き出された。

 どれだけの時間が経っただろうか。ようやく解放されたのは、外に聞こえていた雨の音が止んだ、静かな明け方のこと。玄関ドアを囲む曇りガラスからは、青白い朝の光が射しこんでいた。
 煌は優鶴のシャツを抱きしめながら、優鶴に背を向けて眠っている。アルファの異常な回復力のおかげなのか、煌の傷ついた腕の傷は既にかさぶたが覆っていた。煌が怪我をしていたという証拠は、いまや煌や優鶴の身体や玄関のあちこちに付着して固まった血だけ。
 優鶴は痛む上半身をゆっくりと起こした。煌から血と泥で見るも無残になったシャツを抜き取ろうとする。だが、アルファの本能なのか、オメガの匂いのついたシャツを煌は眠りながらも離してくれない。
 それでも引っ張っているうちに、優鶴はだんだんと泣けてきた。悔しさとも、苛立ちとも違う。知らない男の手形をつけたシャツを大事そうに抱きしめる煌のことを、心底憎いと思った。
 前に『煌がどんなに嫌なやつでも、呆れることをしても、憎いなんて思わない』と豪語したことがある。けれど優鶴は、このときハッキリと思った。この男が憎い。
 同時に思い知る。憎いだけなら、きっとこんなにも涙は出ないということも。
 シャツに埋もれる煌を見ていると、刺すような痛みで涙が出てきてしょうがない。苦しかった。信じていた弟に乱暴されたこともショックだし、名前も知らない他人のオメガの代わりにされたこともショックだった。

 目覚めた煌が自身の行いの跡を見たらどんな反応をするのか。容易に想像できてしまうことが怖い。どうして拒めなかったんだろう。拒んでいたら、自分も煌も『事故』で流すことができたはずなのに……。
 寝ている煌からシャツを無理やり引っ張って奪う。自分には匂いなんてわからない。雨を吸って重たくなった、泥と血で汚れたワイシャツにしか見えない。
 手にしたそれを、優鶴は玄関に乱暴に投げつける。三和土に触れた太ももが冷たかった。






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