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12.幸せの続き
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後日、ガイとフォルカは改めて王の間に呼び出された。
なにせ王の話の途中で、二人して飛び出して行ったのだ。ちょっとした騒動になり、王宮の中――特に若いメイドたちは、連日王子と騎士の身分差の恋に色めき立っていたそうだ。このままでは王宮の品格が下がってしまう――とアーモス二世は危惧したようだった。
「ところで、おまえたちはメイドたちが噂している通りの関係ということなのだな?」
玉座に腰かけている王は、質問を終えるとため息をついた。一応質問した体だが、ほぼ確信しているような口ぶりだった。
「先日はご無礼を働き、大変失礼いたしました。隠してもしょうがないのでお答えしますと、その通りです」
どこまで王に伝わるか分からない。認めたあと、フォルカは父である王に事の詳細を誠心誠意話した。一通り話し終えると、王は次にガイへと視線を移して、
「ガイはいかがかな?」
「はい。任務を任された身でありながら、私はいつしか密かにフォルカ様をお慕いするようになりました。ですが、フォルカ様は王族です。お互いの気持ちだけでは、どうにもならないことも存じております」
真摯に答える若い騎士に、王は「ほう、それで?」と再度問う。ガイは瞳を揺らすことなく王に構え、口を開けた。
「任務中にもかかわらず、護衛対象のフォルカ様に接触した罰は受ける所存です。しかしいずれはルミナス騎士団の団長となり、お側でフォルカ様をお守りさせていただきたいと考えております。その際に改めてフォルカ様にプロポーズさせていただければと思います」
プロポーズの言葉に胸が弾む。まさかそこまで考えているとは思わず、思わず隣に立つ男に本当に?と尋ねそうになってしまった。
玉座の隣に立つジョス騎士団長もひやひやしているのだろう。どんなことがあっても表情を崩さない男が、複雑な表情を隠すように目を閉じた。
「そうだな。王族の相手がシュヴァリエとなれば、国民からも認められない。またルミナス騎士団の規律のためにも、いずれにせよガイには罰を受けてもらうことになるだろう」
こればかりはしょうがない、とガイから聞いていたので、フォルカも口答えせず受け入れることにした。
ところで……と王が話題を替えたのは、その直後だ。
「おまえたちは番にはなったのか?」
え、とフォルカとガイがほぼ同時に頭を上げる。
「い、いえ……それは順を追っていこうと思っておりましたので」
フォルカが口ごもると、王は大きく笑った。
「番契約をしていないオメガは、何かと不便も多いと聞く。どうせ決まった相手がいるのだ。いっそ番になってしまったらどうだ?」
「いいのかっ?」
王の発言に対し、ガイは隣にいるフォルカに訊いてきた。いいも何も、いずれはガイと番に……と考えていたのは自分も同じだ。
「僕は君さえよかったら……」
今すぐにでも、と続けてしまいそうになる。ちょっと生々しいので、その場では閉口した。
無事に王の許可を得たあとデニサに報告すると、自分のことのように喜んでくれた。
「甥っ子か姪っ子ができたら、たくさんの可愛いお洋服を着させてあげるの」
と気の早いことを言っていた。ガイがフォルカの護衛をしていたことも、ガイがどういう人間かも当初から小耳に挟んでいたらしく、「彼なら安心だわ」と応援してくれた。
トレントリー共和国で世話になったカタリーナには、文を送って報告した。
『補助員が減るのは残念です。隣国よりルカの健康と幸せを祈りつつ』
彼女らしい簡潔な文だったが、短い文からは彼女なりの優しさが伝わってきた。
ルミナス王国での新しい生活を支援してくれたのはフベルトだ。反勢力に関してはトレントリーにいなければ目下心配はないとのことだった。本格的な冬を迎える前のある晴れた日、フォルカは王がフベルトに用意させた家にガイと引っ越すことになった。
場所は王宮や市街が見渡せる丘の上だ。安全性は厳重に保たれているものの、パッと見は田舎の風景に馴染むようなレンガ造りの家。
フォルカもガイもそれぞれ公務があるので毎日のように寝泊まりはできないが、王いわく互いの休みがとれた日などに、別荘のようにして好きに使ったらいいとのことだった。
フォルカとガイが初めて入った日には、すでにリビングやダイニングはルミナスファミリー御用達の家具や装飾品で揃えられていた。だがフォルカが気に入ったのは、手つかずの屋根裏部屋だった。
椅子に立って天窓を開けると、大きな空がフォルカを迎えてくれる。肌寒いはずなのに、風が気持ちよかった。
「ねえガイ、ここにベッドを置こう」
フォルカの提案に、ガイは苦笑した。
「俺は下の綺麗な部屋とベッドよりそっちの方が肌に合うけど、おまえはいいのか?」
「ああ、トレントリーの屋敷で君が屋根裏部屋に住んでいた理由が今なら分かるよ」
あとで聞いた話だが、ガイは腐っても騎士団長の息子だ。一般市民の振りをして護衛すると決まったとき、王はガイにそこそこいい屋敷を提供したらしい。だが豪華な装飾品や家具に囲まれる生活が、ガイの性分には合わなかった。そこで拾ってきた狭いベッドを屋根裏部屋に置き、生活していたらしいのだ。
「ベッドは今日じゃなくていいだろ?」
ガイはそう言うと、フォルカが立っている椅子を悪戯っぽく揺らし始めた。
「ちょっと、危な――」
体を支えようと踏ん張るが、あっという間に椅子から落ちる。無防備なフォルカの体を受け止めてくれたのは、ガイの厚い胸板と腕だった。本当に落ちるかと思ったので、ホッとするより先に、ガイにムカッとする。
「危ないじゃないか! 怪我でもしたらどうする――ンっ」
口づけに言葉を阻まれる。突如として与えられた久しぶりのキスに、何を言おうとしていたかも忘れた。ガイの舌が唇を割って入ってくる。熱い舌が恋しい。
「ふぁ、……ンぁ、ぅん……」
気づけばガイの首に腕を回し、フォルカは相手の動きに合わせて舌を絡ませ、唇を食んだ。くちゅくちゅと互いの唾液の混ざり合う音が近い。もっとほしいと思った。
しばらく抱き合ったままキスを堪能したのち、ガイが唇を離す。
「怖がらせて悪かった」
まっすぐな瞳に射抜かれる。欲情しているのか、ガイの呼吸は短くて浅い。そんな状態でも謝ろうとしてくれたところが可愛くて、フォルカは「怒ってないよ」と男の首元に鼻をうずめた。
ガイの汗の匂いを嗅いでいると、こちらまで妙な気持ちになってくる。まだヒートじゃないのに、ガイはそんな自分にも欲情してくれる。それが嬉しくてたまらなかった。
それから屋根裏部屋から下の階に移動し、寝室へと向かった。服を脱がせ合いながらベッドになだれ込んだあとは、互いの肌の感触を確かめるように抱き合ってキスをした。
番防止用の首輪は、今日はしていない。ガイとこの家で二人きりになったときに、こっそり外しておいた。自分の合図をガイは分かっているはずだ。
唇が唾液で光るほどキスしたのち、ガイの頭が移動する。触られ慣れていない首の根本をちぅっと吸われ、フォルカは思わず「ぁン」と甲高い声が出てしまう。
「ここ、敏感なんだな」
ちろちろと舌先で首元を舐められる。おまけに胸の両方の蕾をガイの指先で同時に弾かれ、フォルカはたまらず背をのけぞらせた。
「あっ、ンぁっ、い、っしょは……ッダメ」
「一緒? どことどこが一緒だとダメなのか……教えろよ」
ガイは耳元で意地悪なことを囁きながら、首元で舌を動かし続ける。その間も両方の突起を親指の腹で捏ねられては、手のひらで転がされ続けた。
「ちく、び、と……番に、なっちゃうとこ……っ」
自分の言葉に反応し、重たい熱がどっと腹の奥に集中するのが分かった。相手も同じだったようだ。それまで上手だったガイの雰囲気がガラリと変わるのを、フォルカは肌で拾い取った。
まずい、と思ったのはその直後だ。ガイの体から濃いアルファの匂いが漂ってきたのだ。まさかわずかに放たれたフォルカのフェロモンを感じ取ったのだろうか。ガイの濃いアルファの匂いを嗅いだ瞬間、触ってもいない腹の奥がズクンッと鈍く刺激された。
まただ。初めてガイとセックスしたのはヒートになったときだ。あれ以来、発情期にセックスはしていない。
あのときの感覚が、数ヶ月越しに思い出される。腹の奥にある子宮の存在を、強制的に意識させられてしまう。体がアルファを……ガイを受け入れようと変化していく。
どうしようもない疼きが全身を襲い、フォルカは一人で悶えた。欲濡れそぼった窄みに、熱い杭を打ってほしくてもどかしかった。
我慢できない。今すぐガイがほしい。
フォルカはなけなしの力を振り絞り、体を起こした。ハア、ハア、ハア……と理性を暴走させないよう、頭を抱えているガイの下半身に自身の頭を落とした。
「バカ、おまえ……っ! く……っ」
フォルカはガイの反り返った陰茎に舌を這わせた。やり返すみたいに裏筋を舌で弄び、喉の奥にまでガイの昂ぶりを収めた。
口内いっぱいに広がるガイの味が、衝動を煽ってくる。大きすぎて根元までは入らなかったけれど、頬張りながら頭を上下に動かすと、ガイの気持ちよさそうな低い吐息が頭に落とされた。
どれくらいそうしていただろう。ガイは「これ以上は出ちまいそうだ」と慌ててフォルカの口腔から自身を引き抜いた。
「ん……っ」口の中が名残惜しくて、ガイの動きを目で後追いする。
背中からベッドに押し倒される。膝に乗せた手で細い両脚を割り、男の体が入ってくる。ガイは荒い息を口の横から漏らしつつ、今一度フォルカに尋ねた。
「ここから先は、俺も自分の理性に自信がない。だから訊くぞ。本当に……俺と番になってくれるか?」
答えなんて、一つしかない。それでも訊いてくれる男が愛おしかった。フォルカは自身の膝に置いたガイの手の上に、ひとまわり小さな自身の手を重ねた。
「僕を君の番に……君だけのオメガにしてほしいんだ」
ガイの目が揺らぐ。嬉しそうな、それでいて今にも泣きだしてしまいそうな表情が、印象的だった。
「来て……」
肘を伸ばして両手を広げると、ガイは体重をかけないよう上から覆いかぶさってきた。ぐっ……と肉を割り、後腔にガイの熱杭が押し入ってくる。何度か受け入れているはずなのに、挿れるときはいつも甘い痛みでフォルカは顔をしかめてしまう。
熱を根本まで埋めたあと、ガイはしばらくそのまま動かなかった。結合部が馴染んできたのち、ガイが腰を動かし始める。初めはゆっくりと円を描き、中をほぐすための捏ねるような腰つきだった。だが、ガイもいよいよ我慢の限界を迎えたらしい。「動くぞ」声と汗を合図として腹の上に落としたあと、ガイの腰使いが一気に激しくなった。
「あッ、んァッ、や、ンッつ!」
ガイが腰を引いては、強く打ちつけてくる。正面から何度も揺さぶられてから、今度は四つん這いの状態で後ろを向かされた。
「ァんっ、はッん、ンッ」
パンッ、パンッ、パンッと圧のかかった抽挿で尻を弾かれるたび、体が前に飛んでいってしまいそうだ。フォルカはシーツを握り締めて、ガイが与えてくる衝撃と獣欲に乱れた。後腔のヒダが捲れあがってしまうんじゃないかと思うほどだった。
淫蕩に耽っているうちに、腹の奥でくすぶっていた切なさの輪郭を、はっきりと自覚する。絶頂が近づいているのが分かった。
「ガ、イ……っ、僕、もう……イ、ク……っ」
「ああ……っ、俺も、だ……っ」
かすれた声が耳元で吹きかけられる。フォルカが果てたのは、直後だった。
「くッ……あァあああっ……!」
果てたと同時に、首の後ろ――うなじに鈍い痛みが与えられた。ガイに噛まれたのだ。絶頂の強さと狭間に与えられる痛みが怖くて、本能的に逃げたくなる。
フォルカのうなじに噛みついたまま、ガイも果てたようだった。ガイの吐精を腹で受け入れながら、フォルカは甘い痛みの余韻を味わった。
フォルカの首を濡らす血を見て、正気に返ったのだろう。フォルカがそのままベッドに倒れると、ガイは慌てだした。「す、すまんっ!」と薄いタオルを持ってきて拭いてくれた。
「こんなに血が……強く嚙み過ぎた。痛かっただろ」
つい今まで遠慮なく体を貪っていたとは思えないほどの変わりように、フォルカはクスッと笑った。その際に首の後ろに痛みが走る。「痛っ」と顔を歪ませると、ガイは「大丈夫かっ?」とさらに慌てふためいた。
「痛いけど、しばらくしたら痛みも引くはずだよ。だってこれは、幸せな痛みなんだから」
フォルカの言葉に、ガイがふっと笑った。
ガイと一緒なら、痛みも苦しみも幸せに変えていきたいと思う。変えられると信じている。
フォルカはまだ痛みの残るうなじにそっと指先で触れる。
そこには愛おしい形が刻まれていた。
【了】
なにせ王の話の途中で、二人して飛び出して行ったのだ。ちょっとした騒動になり、王宮の中――特に若いメイドたちは、連日王子と騎士の身分差の恋に色めき立っていたそうだ。このままでは王宮の品格が下がってしまう――とアーモス二世は危惧したようだった。
「ところで、おまえたちはメイドたちが噂している通りの関係ということなのだな?」
玉座に腰かけている王は、質問を終えるとため息をついた。一応質問した体だが、ほぼ確信しているような口ぶりだった。
「先日はご無礼を働き、大変失礼いたしました。隠してもしょうがないのでお答えしますと、その通りです」
どこまで王に伝わるか分からない。認めたあと、フォルカは父である王に事の詳細を誠心誠意話した。一通り話し終えると、王は次にガイへと視線を移して、
「ガイはいかがかな?」
「はい。任務を任された身でありながら、私はいつしか密かにフォルカ様をお慕いするようになりました。ですが、フォルカ様は王族です。お互いの気持ちだけでは、どうにもならないことも存じております」
真摯に答える若い騎士に、王は「ほう、それで?」と再度問う。ガイは瞳を揺らすことなく王に構え、口を開けた。
「任務中にもかかわらず、護衛対象のフォルカ様に接触した罰は受ける所存です。しかしいずれはルミナス騎士団の団長となり、お側でフォルカ様をお守りさせていただきたいと考えております。その際に改めてフォルカ様にプロポーズさせていただければと思います」
プロポーズの言葉に胸が弾む。まさかそこまで考えているとは思わず、思わず隣に立つ男に本当に?と尋ねそうになってしまった。
玉座の隣に立つジョス騎士団長もひやひやしているのだろう。どんなことがあっても表情を崩さない男が、複雑な表情を隠すように目を閉じた。
「そうだな。王族の相手がシュヴァリエとなれば、国民からも認められない。またルミナス騎士団の規律のためにも、いずれにせよガイには罰を受けてもらうことになるだろう」
こればかりはしょうがない、とガイから聞いていたので、フォルカも口答えせず受け入れることにした。
ところで……と王が話題を替えたのは、その直後だ。
「おまえたちは番にはなったのか?」
え、とフォルカとガイがほぼ同時に頭を上げる。
「い、いえ……それは順を追っていこうと思っておりましたので」
フォルカが口ごもると、王は大きく笑った。
「番契約をしていないオメガは、何かと不便も多いと聞く。どうせ決まった相手がいるのだ。いっそ番になってしまったらどうだ?」
「いいのかっ?」
王の発言に対し、ガイは隣にいるフォルカに訊いてきた。いいも何も、いずれはガイと番に……と考えていたのは自分も同じだ。
「僕は君さえよかったら……」
今すぐにでも、と続けてしまいそうになる。ちょっと生々しいので、その場では閉口した。
無事に王の許可を得たあとデニサに報告すると、自分のことのように喜んでくれた。
「甥っ子か姪っ子ができたら、たくさんの可愛いお洋服を着させてあげるの」
と気の早いことを言っていた。ガイがフォルカの護衛をしていたことも、ガイがどういう人間かも当初から小耳に挟んでいたらしく、「彼なら安心だわ」と応援してくれた。
トレントリー共和国で世話になったカタリーナには、文を送って報告した。
『補助員が減るのは残念です。隣国よりルカの健康と幸せを祈りつつ』
彼女らしい簡潔な文だったが、短い文からは彼女なりの優しさが伝わってきた。
ルミナス王国での新しい生活を支援してくれたのはフベルトだ。反勢力に関してはトレントリーにいなければ目下心配はないとのことだった。本格的な冬を迎える前のある晴れた日、フォルカは王がフベルトに用意させた家にガイと引っ越すことになった。
場所は王宮や市街が見渡せる丘の上だ。安全性は厳重に保たれているものの、パッと見は田舎の風景に馴染むようなレンガ造りの家。
フォルカもガイもそれぞれ公務があるので毎日のように寝泊まりはできないが、王いわく互いの休みがとれた日などに、別荘のようにして好きに使ったらいいとのことだった。
フォルカとガイが初めて入った日には、すでにリビングやダイニングはルミナスファミリー御用達の家具や装飾品で揃えられていた。だがフォルカが気に入ったのは、手つかずの屋根裏部屋だった。
椅子に立って天窓を開けると、大きな空がフォルカを迎えてくれる。肌寒いはずなのに、風が気持ちよかった。
「ねえガイ、ここにベッドを置こう」
フォルカの提案に、ガイは苦笑した。
「俺は下の綺麗な部屋とベッドよりそっちの方が肌に合うけど、おまえはいいのか?」
「ああ、トレントリーの屋敷で君が屋根裏部屋に住んでいた理由が今なら分かるよ」
あとで聞いた話だが、ガイは腐っても騎士団長の息子だ。一般市民の振りをして護衛すると決まったとき、王はガイにそこそこいい屋敷を提供したらしい。だが豪華な装飾品や家具に囲まれる生活が、ガイの性分には合わなかった。そこで拾ってきた狭いベッドを屋根裏部屋に置き、生活していたらしいのだ。
「ベッドは今日じゃなくていいだろ?」
ガイはそう言うと、フォルカが立っている椅子を悪戯っぽく揺らし始めた。
「ちょっと、危な――」
体を支えようと踏ん張るが、あっという間に椅子から落ちる。無防備なフォルカの体を受け止めてくれたのは、ガイの厚い胸板と腕だった。本当に落ちるかと思ったので、ホッとするより先に、ガイにムカッとする。
「危ないじゃないか! 怪我でもしたらどうする――ンっ」
口づけに言葉を阻まれる。突如として与えられた久しぶりのキスに、何を言おうとしていたかも忘れた。ガイの舌が唇を割って入ってくる。熱い舌が恋しい。
「ふぁ、……ンぁ、ぅん……」
気づけばガイの首に腕を回し、フォルカは相手の動きに合わせて舌を絡ませ、唇を食んだ。くちゅくちゅと互いの唾液の混ざり合う音が近い。もっとほしいと思った。
しばらく抱き合ったままキスを堪能したのち、ガイが唇を離す。
「怖がらせて悪かった」
まっすぐな瞳に射抜かれる。欲情しているのか、ガイの呼吸は短くて浅い。そんな状態でも謝ろうとしてくれたところが可愛くて、フォルカは「怒ってないよ」と男の首元に鼻をうずめた。
ガイの汗の匂いを嗅いでいると、こちらまで妙な気持ちになってくる。まだヒートじゃないのに、ガイはそんな自分にも欲情してくれる。それが嬉しくてたまらなかった。
それから屋根裏部屋から下の階に移動し、寝室へと向かった。服を脱がせ合いながらベッドになだれ込んだあとは、互いの肌の感触を確かめるように抱き合ってキスをした。
番防止用の首輪は、今日はしていない。ガイとこの家で二人きりになったときに、こっそり外しておいた。自分の合図をガイは分かっているはずだ。
唇が唾液で光るほどキスしたのち、ガイの頭が移動する。触られ慣れていない首の根本をちぅっと吸われ、フォルカは思わず「ぁン」と甲高い声が出てしまう。
「ここ、敏感なんだな」
ちろちろと舌先で首元を舐められる。おまけに胸の両方の蕾をガイの指先で同時に弾かれ、フォルカはたまらず背をのけぞらせた。
「あっ、ンぁっ、い、っしょは……ッダメ」
「一緒? どことどこが一緒だとダメなのか……教えろよ」
ガイは耳元で意地悪なことを囁きながら、首元で舌を動かし続ける。その間も両方の突起を親指の腹で捏ねられては、手のひらで転がされ続けた。
「ちく、び、と……番に、なっちゃうとこ……っ」
自分の言葉に反応し、重たい熱がどっと腹の奥に集中するのが分かった。相手も同じだったようだ。それまで上手だったガイの雰囲気がガラリと変わるのを、フォルカは肌で拾い取った。
まずい、と思ったのはその直後だ。ガイの体から濃いアルファの匂いが漂ってきたのだ。まさかわずかに放たれたフォルカのフェロモンを感じ取ったのだろうか。ガイの濃いアルファの匂いを嗅いだ瞬間、触ってもいない腹の奥がズクンッと鈍く刺激された。
まただ。初めてガイとセックスしたのはヒートになったときだ。あれ以来、発情期にセックスはしていない。
あのときの感覚が、数ヶ月越しに思い出される。腹の奥にある子宮の存在を、強制的に意識させられてしまう。体がアルファを……ガイを受け入れようと変化していく。
どうしようもない疼きが全身を襲い、フォルカは一人で悶えた。欲濡れそぼった窄みに、熱い杭を打ってほしくてもどかしかった。
我慢できない。今すぐガイがほしい。
フォルカはなけなしの力を振り絞り、体を起こした。ハア、ハア、ハア……と理性を暴走させないよう、頭を抱えているガイの下半身に自身の頭を落とした。
「バカ、おまえ……っ! く……っ」
フォルカはガイの反り返った陰茎に舌を這わせた。やり返すみたいに裏筋を舌で弄び、喉の奥にまでガイの昂ぶりを収めた。
口内いっぱいに広がるガイの味が、衝動を煽ってくる。大きすぎて根元までは入らなかったけれど、頬張りながら頭を上下に動かすと、ガイの気持ちよさそうな低い吐息が頭に落とされた。
どれくらいそうしていただろう。ガイは「これ以上は出ちまいそうだ」と慌ててフォルカの口腔から自身を引き抜いた。
「ん……っ」口の中が名残惜しくて、ガイの動きを目で後追いする。
背中からベッドに押し倒される。膝に乗せた手で細い両脚を割り、男の体が入ってくる。ガイは荒い息を口の横から漏らしつつ、今一度フォルカに尋ねた。
「ここから先は、俺も自分の理性に自信がない。だから訊くぞ。本当に……俺と番になってくれるか?」
答えなんて、一つしかない。それでも訊いてくれる男が愛おしかった。フォルカは自身の膝に置いたガイの手の上に、ひとまわり小さな自身の手を重ねた。
「僕を君の番に……君だけのオメガにしてほしいんだ」
ガイの目が揺らぐ。嬉しそうな、それでいて今にも泣きだしてしまいそうな表情が、印象的だった。
「来て……」
肘を伸ばして両手を広げると、ガイは体重をかけないよう上から覆いかぶさってきた。ぐっ……と肉を割り、後腔にガイの熱杭が押し入ってくる。何度か受け入れているはずなのに、挿れるときはいつも甘い痛みでフォルカは顔をしかめてしまう。
熱を根本まで埋めたあと、ガイはしばらくそのまま動かなかった。結合部が馴染んできたのち、ガイが腰を動かし始める。初めはゆっくりと円を描き、中をほぐすための捏ねるような腰つきだった。だが、ガイもいよいよ我慢の限界を迎えたらしい。「動くぞ」声と汗を合図として腹の上に落としたあと、ガイの腰使いが一気に激しくなった。
「あッ、んァッ、や、ンッつ!」
ガイが腰を引いては、強く打ちつけてくる。正面から何度も揺さぶられてから、今度は四つん這いの状態で後ろを向かされた。
「ァんっ、はッん、ンッ」
パンッ、パンッ、パンッと圧のかかった抽挿で尻を弾かれるたび、体が前に飛んでいってしまいそうだ。フォルカはシーツを握り締めて、ガイが与えてくる衝撃と獣欲に乱れた。後腔のヒダが捲れあがってしまうんじゃないかと思うほどだった。
淫蕩に耽っているうちに、腹の奥でくすぶっていた切なさの輪郭を、はっきりと自覚する。絶頂が近づいているのが分かった。
「ガ、イ……っ、僕、もう……イ、ク……っ」
「ああ……っ、俺も、だ……っ」
かすれた声が耳元で吹きかけられる。フォルカが果てたのは、直後だった。
「くッ……あァあああっ……!」
果てたと同時に、首の後ろ――うなじに鈍い痛みが与えられた。ガイに噛まれたのだ。絶頂の強さと狭間に与えられる痛みが怖くて、本能的に逃げたくなる。
フォルカのうなじに噛みついたまま、ガイも果てたようだった。ガイの吐精を腹で受け入れながら、フォルカは甘い痛みの余韻を味わった。
フォルカの首を濡らす血を見て、正気に返ったのだろう。フォルカがそのままベッドに倒れると、ガイは慌てだした。「す、すまんっ!」と薄いタオルを持ってきて拭いてくれた。
「こんなに血が……強く嚙み過ぎた。痛かっただろ」
つい今まで遠慮なく体を貪っていたとは思えないほどの変わりように、フォルカはクスッと笑った。その際に首の後ろに痛みが走る。「痛っ」と顔を歪ませると、ガイは「大丈夫かっ?」とさらに慌てふためいた。
「痛いけど、しばらくしたら痛みも引くはずだよ。だってこれは、幸せな痛みなんだから」
フォルカの言葉に、ガイがふっと笑った。
ガイと一緒なら、痛みも苦しみも幸せに変えていきたいと思う。変えられると信じている。
フォルカはまだ痛みの残るうなじにそっと指先で触れる。
そこには愛おしい形が刻まれていた。
【了】
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ラストまで一気に読ませていただきました。
ガイと離れ離れになった時、悪い組織に連れ去られたと思ってたから、再会したときの安堵感といったら!ホント良かったぁ😭
ぴょんたさんもコメントされてるけど、王様軽すぎるよー💦
追放されてΩである事を悩み続けてたのに、あっさり認めた上に、番にならないのか?なんて、そんな軽々しく聞かないでー😅
でもそのお陰で、再会後は大きな壁もなく番になれて良かったです🥰
ハラハラしたけど、ハッピーエンドでニマニマが止まりません。
ありがとうございました💕
麻紀様
ラストまでお読みいただきありがとうございました✨
王様の軽さは私も読み返して思いました😂きっと本人にはいろんな葛藤があったのかもしれませんが…😅
こちらこそ読んでいただけたことと、素敵なご感想までありがとうございます😊✨
ハッピーエンドε=ε=(ノ≧∇≦)ノ
ケンカップルも良かったし、あまあまカップルも良いです!!!
王様ちょっと軽いよ!って突っ込みました(笑
でも何か事故でも起きて望まない番より、お前らさっさと心決めろってことですかね( ´艸`)
立派な者同士もいいですが、一緒になって落ち着いていくカップルも成長というか成熟が見られて素敵ですね。
楽しませていただきました、ありがとうございました(^^)
ぴょんた様
最後までお読みいただきありがとうございます✨
ケンカップルに初めて挑戦した作品だったので気に入ってくださって嬉しいです😊
王様軽いですよね😂フォルカがずっと悩んでいたのはなんだったのか…笑
こちらこそ素敵なご感想をありがとうございます✨励みになります😊
須宮先生💕
読了させて頂きました🙏
ガイくんの本当のお気持ちがわかり、本当に良かったです🥹
そう思うと、最初の出会いの時の「めでたい奴だ」発言から、もうそういうお気持ちだったのでしょうか?🤭
その後も不審者😆のように、フォルカくんの周りで
守って下さっていたのですね💓
そして…あんな大怪我までして…😭
フォルカくんを守って下さってありがとうございました💞
そして…身分差を乗り越えて😘本当に素敵なハピエン💖でした🤤
未だまだ、おふたりのいちゃいちゃ😍を楽しませて頂きたいですが…🤭
とっても素敵な作品を🙏ありがとうございました🤗🩷
iku様
最後まで追ってくださりありがとうございます🥹💕
最初の時から…どうでしょうね〜?😊ご想像にお任せします✨
私もまた書きたい二人なので機会があればイチャイチャな二人をお見せできたらなと思います!
こちらこそありがとうございました✨