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3.怪しい男

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 広場から離れたあと、フォルカはディナーをテイクアウトするため馴染みの店へと足を運んだ。店名を『オメガ・リーベ』といい、パブやバーがいくつも並ぶ通りの一角にあるオメガ専用のカフェ兼パブだ。

 一般的な飲み屋だと、急にヒートになってしまったオメガをアルファがトイレに連れ込んで乱暴する事件がたまに起こる。オメガが安心して飲食を楽しめるようにと始まったこの店は、フォルカのお気に入りでもあった。
 とはいえ、もうすぐヒートの時期を迎える。さすがにそんな状態で、酒を外で飲む気にはなれなかった。
 フォルカは弾力の強いスイングドアを押し開けて店内に入ると、立ち飲み用のカウンターに肘をついた。顔馴染みの若い女性店員に、「エビと玉ねぎのエッグサンドウィッチを一つ頼むよ」と注文する。
「今日は飲んでいかないの?」
「ああ。もうすぐヒートなんだ。今日は家でおとなしくした方がいいと思ってね」
 店員もオメガのため、理解があるところも気が楽だ。「それがいいわ」と言うと、女性店員はポニーテールをなびかせ「ちょっと待っててね」と、厨房の中へと消えていった。

 オメガ専用の店は、この地域に多くない。流行りの店内を見渡せば、オメガの客たちが安心した表情で飲食を楽しんでいた。みな望まない相手と番にならないよう、自衛用の首輪をつけている。
 フォルカも常に首輪をつけて生活している。それをタートルネックのブラウスの下に隠しているのは、まだ抵抗があるからだ。王族としてのプライドがまだどこかに残っているからだろう。自分でもくだらない見栄だと思う。
 が、王族としての小さなプライドがあるからこそ、ひねくれずにいられている気もする。
 手持ち無沙汰だったので、フォルカは一杯だけ飲むことにした。店の名物であるシナモンを効かせたホットワインだ。
 店のドアが勢いよく開いたのは、ホットワインを飲みながら注文ができるのを待っていたそのときだ。店内にドアを蹴破るような音が割れ、客の視線が店の出入口に集中する。

「ほォ~、ここが噂のオメガ専用のパブか」
 店内に入ってきたのは、図体のでかいごろつきの中年男だった。ニキビ跡の残る頬と鼻の頭を赤くさせ、呂律も回っていない。落ちないよう手に何重にも巻き付けている木製の水筒には、酒が入っているらしい。男はヒックとしゃっくりを何度か繰り返したあと、手の水筒からゴクゴクと飲んだ。
 典型的な酔っ払いだ。出入口から離れた場所にいるフォルカにまで、蒸留酒のスモーキー臭さと体臭の混じった臭いが漂ってくる。
 男はアルファかベータか。酔った勢いのまま冷やかしで入店してきたようだ。
「よう姉ちゃん。やっぱりヒートのときにゃアソコが疼くのかぁ~?」
 たまたま近くにいた女性客に近づき、男が酒臭い息をまき散らす。友人と一緒に店の奥へと逃げる女性客を、男は面白おかしく下品な笑い声とともに追いかけ回した。
 もともとオメガはアルファやベータと体の作りが違うのだ。オメガの非力な力では、他の性別に敵うはずがない――店内にいるオメガ客たちは、全員がそのことをわかっているらしい。男を止めようとする者はいなかった。

 誰も止めないと知ってか、男は誰彼構わず怯えるオメガの客たちに卑猥な言葉を浴びせ続けた。聞いているだけで、腹の底に鉛が溜まっていくみたいになる。不快だった。
とうとう我慢できず、フォルカはカウンターにワインのグラスを強めに置いた。ひとり男の前に立つ。
「いい加減にしないか」
 毅然とした態度と声で言う。男が「ぁア?」としゃっくりをしながら振り返った。
「店には店のルールがある。君がオメガではないのなら、ただちにこの店から出て行ってもらいたい」
 そう簡単に出て行ってくれるとは思っていない。だが、オメガである自分たちにとって、この店は気を張らずに飲食を楽しめる店だ。
 ただでさえ肩身の狭い自分たちの場所を奪うような行為は、見逃すことができなかった。
「君だって、自分の家や庭を土足で踏み荒らされたらいい気はしないだろう。君はこの店に相応しくない。頼むから帰ってくれ」
 聞いていないのか、男はニタニタ笑う。舌で歯を舐めながら、物色するような目でフォルカを辿った。やがてフォルカの足先にまで落とした目を首上に戻し、下品な声で言った。
「おまえが一緒に店から出るって言うなら帰ってやるぜ」
 咄嗟に「はっ!?」と声が上擦る。
「男なんざ興味ねぇが、その女顔なら話は別だ。だいたいオメガってのは男でも濡れるモンなんだろォ?」
「なっ……!」
「一回試してみたかったんだ。オメガの体を」
 ニマニマと下心丸出しで舌なめずりする男に鳥肌が立つ。嫌悪感でゾッと背筋が冷めた。
「だ、誰が君の好奇心に付き合うものかっ!」

 そのときフォルカは気づいた。男の斜め後ろの席に座っていた女性が、肩を抱きながら小刻みに震えていたのだ。頬を赤く上気させ、苦しそうに表情を歪ませていた。
 額には汗が浮き、間違っても声を出さないよう口を手できつく抑えていた。同じオメガだから、女性に何が起きているのか分かる。ヒートだ。
 ホルモンバランスが崩れることで、予期せぬタイミングでヒートになってしまうことはまれにある。恐怖のせいで、女性がヒートになってしまったのも不思議ではなかった。
 まずい。このままでは、女性に気づいた男の注意がヒート中の女性に向いてしまう。女性のフェロモンに反応していないのは酒のせいか、男がベータだからなのか……いや、今はそんなことどうでもよかった。
 幸い、男は女性のヒートに気づいていない。自分が注意を引きつけ、男と一緒に店の外に出ればいい。大丈夫。男はただの酔っ払いだ。店から出たあと、脛でも蹴って逃げればオメガの自分でも対処できるはず……。
 フォルカは拳をぎゅっと握り締め、覚悟を決める。

「……わかった。君と一緒に店を出るよ」
 男はヒュウッと機嫌よく口笛を吹き、「そうこなきゃな」とフォルカのブラウンの髪先に触れてきた。顎を引いて逃げようとすれば、肩に手を回してきた。酒臭さが顔の近くにきて気持ち悪い。
 さっさと店の外に出て、少しでも早く男から離れたい。フォルカは相手の手を肩に乗せたまま、出入口へと向かって歩き始めた。
 後ろから声が飛んできたのは、スイングドアを外側に押そうと手を添えたとき。

「他人の性癖にとやかく言いたかねえが、オメガ同士よろしくやるのって難しいらしいぜ」

 急に背後から聞こえた重低音の声。フォルカより先に、酔っ払いが「今口を開いたやつはどいつだァ?」と振り返る。
 フォルカも後ろに首をひねる。ついさっきまでフォルカがホットワインを飲んでいた場所に、その男は立っていた。
 男は隠す様子もなく、「俺だ」と躊躇なくフォルカたちに近づいてきた。

 ほどよく灼けた肌とがっしりとした骨格を包むのは、ヨレヨレになった淡黄色のリネンシャツと黒のタックパンツだ。伸びたサスペンダーは片方が肩からずれ落ち、下ろした長髪の黒髪も無造作だ。全体的に身なりは崩れているものの、堂々とした印象の男だった。
「なんでも互いのフェロモンに反応して気持ち悪くなっちまうんだと。まあ、それでもキャットファイトがしたいって言うんなら、止めねえけど」
 男はそう言うと、額にかかった長い前髪のあいだから、黒豹みたいに鋭いブラックグレーの瞳を向けてきた。
 男の威圧感にひるんだようだ。酔っ払いが「オ、オレはオメガじゃないっ」と焦ったように唾を飛ばした。
「おっと、そうなのか? そりゃそうか。オメガ以外の人間はこの店に入れないもんな」
 酔っ払い男の赤ら顔が、ますます赤く染まっていく。
「オメガじゃねえなら、さっさと店から出ろよ。アンタみたいな奴がいると酒が不味くなる」
 不敵に笑った男に、酔っ払い男の羞恥が爆発したらしい。フォルカの肩から手を離した酔っ払いが、「わああああっ!」と叫びながら男めがけて酒の入った水筒を振った。
 男は一瞬のうちに長い片脚を振り上げる。気づいたときには、べこっと表面のへこんだ水筒が床に落ちていた。
 男は「チッ」と舌打ちすると、さっきよりもドスの利いた声で言った。
「穏便に済ませてやろうとしてんのに、俺に喧嘩売るとはいい度胸してるじゃねえか」
 あれで一応穏便に済ませようとしていたらしい。男の発言に引っかかったものの、加勢してくれていることには違いないだろう。フォルカはヒートになりかけている女性の元へ走り、「大丈夫ですか?」と声をかけた。
「喧嘩なら買ってやる。でもどうせやり合うなら、目一杯動ける外に行こうぜ」
 男はボキボキと手の骨を鳴らしたあと、瞬時に酔っ払いの頭を腕でロックし、店の外へと連れ出して行った。

 突然のことで、店内にいる誰もがポカンとする中、フォルカは女性が自身の抑制薬を飲むのを見届けてから、店の外に出た。店先に酔っ払いの姿はなく、いたのは男一人だった。
「あの男は?」
 フォルカが訊ねると、男はつまらなそうに「帰った」と答えた。
「せっかく喧嘩できると思ってたのによ。店出た途端に謝ってきた」
「喧嘩をしなくて済んだならよかったよ」
「ありゃあ同族嫌悪タイプのオメガだな。他のバース性の振りをしてオメガを見下せば、高い位置に立てたと勘違いしてやがる」
 ただの喧嘩っ早いごろつきだと思っていただけに、冷静な見方をするのが意外だった。
「追いかけなくてよかったのか?」
「戦意失くした奴相手に喧嘩ふっかけても、つまんねえからな」
 男は組んでいた腕を解き、タックパンツのポケットに手を入れる。
「ま、めでたい奴だ」
 その言葉を耳にした瞬間、昼間の出来事が一気に蘇った。学園の図書館で、フォルカがまさしく言われた言葉。しかも同じ声、同じ話し方――フォルカは「ちょっと見せてくれ」と男の顔をまじまじと覗き込んだ。
 バランスよく配置された切れ長の目と高い鼻のおかげか、身なりはともかく男は思いのほか精悍な顔立ちをしていた。その額に目を凝らした。正面から見る。額の左横に傷跡がある。フォルカの口から「やっぱり!」と声が出た。
「君はあの失礼な司書か!」
 男はギクッとしたように顔を逸らした。相手はこちらに先に気づいていたらしい。口を割ろうとしないが、態度でバレバレだった。
「司書じゃねえよ」
「えっ、もう辞めたのか?」
 男は頭を掻きながら、「まあ、そんなところだ」とそれ以上訊くなと言わんばかりに、
「それより、よく気づいたな」
 と続けた。
「印象に残ったからね。あんな風に人から言われるのは初めてだったから」
 悪意だと思ってムッとした。けれどなんだかんだ助けてもらった後だからだろうか。当初の怒りは沸いてこなかった。
「昼間のことを気にしていないと言ったら嘘になるけど、今は水に流そう。ありがとう、ガイ。助かったよ」
 握手を求めて右手を出す。昼間の言動を責められるとでも思っていたのか、ガイは意外な顔をした。ポケットから一瞬手を出そうとして、ためらいがちに引っ込める。
 拒まれて少し残念な気持ちになる。代わりに隆起したタックパンツのポケットの上から、フォルカはポンポンと相手の手を軽く叩いた。
「これも何かの縁だ。お礼も兼ねて『オメガ・リーベ』で一杯ご馳走させてくれないか?」
 見上げるとブラックグレーの瞳と視線がかち合う。照れているのだろう。ガイはフイと目を逸らし「おう」とぶっきらぼうに答えた。
 店に戻ろうと踵を返しながら、
「それにしても、オメガなのに逞しい体をしているね。鍛えてるのかい?」

 自分よりひと回り大きな腕を見る。するとガイから「俺はオメガじゃない」と声が返ってきた。耳を疑い、フォルカは足を止めた。いま、この男はなんて言った?
 慌てて振り返る。「で、でも店にいたじゃないか」
 ニヤッと意地悪な笑みを浮かべるガイに、悪びれる様子は微塵もない。
「この店のサンドウィッチは絶品だからな」
「まさか君はベータ……いや、アルファなのかっ?」
 後ずさりながら訊く。フォルカの困惑をあざ笑うかのように、ガイは「さてね」と口の端を上げた。
 気に入ったメニューのために、男がわざわざ入店したとは思えない。何が目的なんだ? 警戒心を含んだ目を送ると、ガイはこちらが握手を求めたときには出さなかった手をするりとポケットから抜いた。
「確認してみてもいいぜ。俺がベータなのか、アルファなのか」
 フォルカの顎を三本の指で柔らかく掴む。くいっと上を向かされ、男の整った顔が近くに来る。そこでフォルカは、男が不当に店へと侵入した目的を理解した。
「バカにしないでくれ!」
 顎に添えられた手を弾き、身を引いて睨みつけた。
「バース性を偽って店に侵入するなんて、君もさっきの彼と同じじゃないか!」
 こちらの威勢に、ガイは「おっと」と両手を顔の横で上げた。
「本気にするなよ。冗談だ」
「初対面の相手に言う冗談だとは思えないが」
「初対め――ってまあ、そうか」
 そうだよな、とガイは一人納得するみたいに苦笑いする。
「悪かったよ。でもそこまで警戒心をむき出しにされると、さすがの俺でも傷つくぜ」
「もともとそうさせたのは君の方だろ」
「はは。違いねえな」
 ガイが形のいい鼻をくしゃっとさせて目を細める。突然見せた屈託のない笑顔に、一瞬ドキリとする。

   嫌味を言ったかと思えば助けてくれたり、入ってはいけないはずの店に侵入し、際どい冗談を飛ばす破天荒な一面を見せたかと思えば素直に謝ってきたり……。ガイのような人間と話すのは初めてだった。
 なんとなく感情の弾みに気づかれるのは癪に感じた。胸に灯ったざわめきとためらいを払拭するかのように、フォルカはコホンと咳払いする。
「と、とにかく! 君がオメガでないのなら、この店でご馳走はできないな」
「ほう。他の店だったらいいのか?」
「ま、まあそれだったら――」
 そのときだった。
 ドクンッとフォルカの心臓が、大きく脈打った。自分の体が楽器のドラムになったみたいだ。状況を把握しようと頭を巡らせようとするが、無意味だった。体の内側から揺さぶる強い拍動が、思考を遮ってきた。
 まずい。もうすぐだと危惧していたが、それにしてもいつもより早くないか?
   手が震え出す。上半身から送られた血が、下半身へと集まっていく感覚。フォルカはこの感覚と、もう何年も付き合ってきた。だから分かった。

 間違いない。これはヒートだ。

 肩を抱いた。腹の奥が疼いてしょうがない。肌の表面がビリビリと粟立つ。
 何も挿入していないはずの腹がぜん動し始めている。アルファの陰茎を受け入れやすいようにと、それと同じ形状に変わっているのだ。その工程が強い淫欲を生み、フォルカは耐えきれずにその場で膝を折った。
「おい、どうしたっ!」
 ガイが駆け寄ってくる。肩に触れられると、敏感になった肌が感覚を拾う。「あっ」と口から喘ぎを吐けば、自分でも分かるほどの濃いフェロモンが全身から放たれた。
 その瞬間、ガイがうっと顔をしかめた。
「おまえ、まさかヒートに……っ」
 ハァ、ハァ、ハァ……と息継ぎで返事する。
 これ以上、外でヒートの状態でいるのは危険だ。こちらのフェロモンに反応したアルファが寄ってきてしまうかもしれない。それに自分のフェロモンを感じとれたということは、ガイもおそらく――。
「み、店に……鞄……っ抑せ、い……やくを……っ」
 抑制薬の瓶を入れた鞄は、店に置いてきてしまった。フォルカは息も絶え絶えになりながら、ガイに薬の場所を伝えた。ガイがこちらのフェロモンにあてられる前に、早く抑制薬を飲まなければ。

 ガイはゴクッと唾を飲んでから、鼻を押さえて店の中へと駆け込んでいった。すぐに戻ってきたガイの手には、見慣れたレザー鞄。かすむ視界の端に、先月レターオープナーが落ちたことで剥げてしまった跡が見える。
 なんだかんだ話のわかる男でよかった。ホッとしたのも束の間、ガイが近づいてきた瞬間フォルカは小さく叫んだ。
 ヒートになるまで何にも感じなかった男の匂いが、鋭く鼻をついたからだ。不快になる匂いじゃない。嗅いでいると、むしろ腹に漂う疼きが強烈に強くなった。
「ちょ、っと……っ待――……っ」
 頭を横に振り、フォルカは腰を地につけたまま後ろに逃げようとする。けれど心と本能は、行動とは反対の衝動を叫んでいた。

 抱かれたい。この男の欲望を今すぐ受け入れたい。何ていい匂いなんだろう。どうしよう。どうすればこの男に抱いてもらえるんだろう。子種がほしい――。
 何を考えているんだ自分は。卑しいことを考えてしまう自分が恥ずかしかった。
「クソっ! おいコラ、逃げんなッ……!」
「やだっ、やだっ」
 地面の上で背を向け、ジタバタする。
「こっちだっていっぱいいっぱいなんだよ! いいから早くこっちに――」
 大きな手に肩を掴まれた瞬間、後ろに引っ張られた。フォルカは咄嗟に振り返った。生理的な涙でぐしゃぐしゃになった顔なんて、人前で晒したくなんてないのに。
 男に掴まれた場所が熱い。そこから伝わった熱が、ぐずぐずになった下半身にダイレクトに襲い掛かる。自分ではどうしようもないほどの欲情に、フォルカの心は決壊した。
 こちらの顔を見たガイが、「っざけんな……ッ!」と吠える。フォルカの全身をきつく抱きしめる。全身の血がうっ血してしまいそうなくらい強い力だった。ブチッと肉を噛む音が耳元で聞こえる。耳の後ろからタートルネックの隙間を縫い、首元に生ぬるい液体が流れていくのを感じる。
 自分はうなじを噛まれてしまったのだろうか。今日初めて会った見ず知らずのアルファに? でも大丈夫……首輪――自分は首輪をしている。いや、重要なのはそこじゃなくて……ともかく見ず知らずは言い過ぎだろうか。男の名前くらいは、知っている。
「ガ、イ……っ」
 それでいいと思った。この男に噛まれたい。
 フォルカは互いの心臓の音を聞きながら、全身で痛いほどの抱擁を受け止めたのだった。


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