明智さんちの旦那さんは10人いるそうで……

明智 颯茄

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明智家の怪談

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 階段の怪談――と、思わずくだらない駄洒落を考えてしまう。

 子供が続々と生まれてきていて、百四十七人になってしまった。
 家族全員で出かける時は、バスをチャーターする。パパとママの車だけでは乗り切れない。
 昨日の夜、臨海地区にあるレストランへ行った。その帰り、バスに乗り込んでいると、アヒルの男の人がやって来て、
「旅行ですか?」
 と、聞かれた。
「いえいえ、家族で夕食に来たんです」
「あぁ、そうですか。私は旅行で来ましてね。同じかと――」
「お父さん! バスあっちだよ。間違ってるよ」
 子供のアヒルが後ろから必死に話しかけていた。たまたまそこに、光命ひかりのみことがいて、アヒルのお父さんが、
崇剛すがた ラハイアットが現実にもいるとは知らなかった」
 私が書いた小説がアニメ化されていて、その主人公のことだ。
 ちょっと感覚がファンタジー寄りのようで、息子がしっかり説明した。
「違うよ。崇剛 ラハイアットのモデルになった、ピアニストのHikariさんだよ」
「あぁ、そうでしたか」
 なんて、和んだ帰り際だった。子供たちも迷子になることもなくバスに無事に乗り、自宅へと平和に戻ってきた。

 妻は新しく生まれた子供の名前を考えるのが、日課になりそうな勢いだ。一応、生まれてから一ヶ月以内に届け出ればいいそうで、猶予はあるのだが、小説の登場人物のようにはいかない。
 その子がつけて欲しい名前というものがあるのだ。生まれてくる子供が全員そうとは限らないが、上の世界から降りてきているため、以前の名前を望むケースが多い。あとは、お笑い好きの神様だと、笑いを取れる名前にしていたりもする。

 ということで、今日は四つ子の名前を考える。光命が生みの親だが、私にひとまず任せると言って、隣で黙って見守っていた。
 色々と考えた挙句、

 陽輝ひゅー
 はるか
 なぎ
 えんじゅ

 となった。このままにしておいても、子供たちの名前は家族全員に伝わるのだろう――と思っていたが、夕飯を終えた子供たちに話しかけると、知らないと言う。
 光命が、
「あなたから家族全員に伝えてください」とのこと。
 私はそれに、
「ありがとうございます」と頭を下げた。
 そばで見ていた子供たちは不思議そうな顔をした。
「何で、ママ、お礼を言うの?」

 こう言うことなのだ。
 私は最近、みんなが住んでいる世界から遠ざかりそうになっている。
 この世界でのことは、ある程度、距離を取ろうとするが、なかなかうまくいかなかったが、最近、きっぱり未練というものはなくなったのだ。
 だからこそ、光命はみんなに連絡することで、あの世に重きを置けるようにと、私のために作業を残しておいてくれたのだ。
 だから、感謝の意を示した。

 メールを送って、しばらくすると、知礼しるれがやって来て、産着うぶぎに名前の刺繍をしていた。なかなか上手にできていて、妻は感心した。
 焉貴これたかに名前の由来を聞かれたりして、書斎机へ戻って、独り言をぶつぶつ言っていた。
「覚えられないよな、百四十七人は。人の脳って忘れるようにできてるから。忘れたくないよなあ、自分の子供の名前と存在に」
 すると、覚師かくしが、
「あたしたちだって、大変だよ」
「え? どうして、神様のみんなは忘れるは起きないじゃない」
「百四十七人で外出して、ひとり迷子になってたら、誰だかわからないだろう?」
「本当だ! 誰が迷子になったか、対象の子供を探すのが大変だ」
 妻は頭を抱えた。
「いや~~~、怖い~~! 迷子はやめて~~!」
 これが、明智家の怪談である。

 2020年5月26日、火曜日
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