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酒と葉巻
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他の作品でよく出てくる、酒と葉巻の話。あれは、自身の体験をもとに書いている。
私は昔、タバコなんて吸うやつは死んでしまえ、と思うような人間だった。しかしある時、とある人に、ミニシガリロを勧められて、一口吸って考えは変わった。
それはとてもよかったのだ。この世界で、蓮が魂の影響を与える男は、誰もがタバコを吸うやつだった。以前の私だったら、運命の人がそばにいても、毛嫌いして共に人生を歩まなかったのかもしれない。
誰一人として、今は共に人生を歩んでいないが、その経験はとても大切なもので、何ひとつかけてはいけないものだ。それがなかったら、今の結婚はしなかっただろう。
たったひとつの思い込みで、まわりを見ないことを、嫌いと言う。それは人生にとって、重大な損失だ。
若いうちは特に、一方方向から物事も人も見てしまいがちだが、年齢を重ねて、様々なものに触れてくると、知らないうちに、他の方向から物事見て、許容範囲が増えるのだ。
まぁ、とにかく。私の酒の飲み方は、ひとりで家飲みではない。焉貴が飲むから一緒に買ってと言われ、挑戦してみるのだが、350ml缶も飲み干せないほどだ。
酒が好きなわけではない。しかし、ジンのショットの話が物語にはよく出てくる。年齢を重ねるごとに、飲む酒のアルコール度数は上がり続けた。
最初はビール。次は日本酒、ワイン。そうして、ジン。
海外の女性アーティストの話に出ていた、ボンベイ サファイアを最初は飲んだ。あれは、アルコール度数が比較的強いジンになる。鼻にツンとくるような強烈なパンチのある酒だ。
その後、あちこちのバーで、ジンのショットを飲み歩くようになった。外で飲むと不思議なことに、ショットでも数杯かんたんに飲めるようになるのだ。
タンカレーは、まあまあだ。それの、ラングプールという柑橘系のジンがある。あれに一時期はまり、そればかり飲んでいたこともあった。
ヘンドリクスとか、ビフィータとか、王道のものは飲んだ。
しかし、バーではないと、ジンのショットは出てこない。その頃は、レストランに行っても、飲み屋に行っても、ビールを飲む気にはなれなかった。何だか、体がだるくなってしまうからだ。
だからこうするのだ。ジンのカクテルのある店では交渉した。同じ値段を払うから、ジンをショットでくれと。
出してくれるところもあったが、出してくれないところもあった。そういうところは、注文する前に店を出て、別のところへ行く。そんな徹底ぶりだった。
そうして、私はとうとう運命の出会いをするのである。とあるバーテンダーの人に勧められた、エギュベルのジンを飲んで、思わず唸った。
濃厚であり、強すぎず、豊潤な香り。ミニシガリロのクセの強い葉巻にも負けないどころか、双方を引き立てるジンだった。
聖堂院で秘蔵のレシピで作られているらしい。中に入っているハーブなどが絶妙だったのだ。
一方、ミニシガリロは、テレビなどで見かけるギャングなどがくわえている茶色の太い葉巻を作る時に、葉っぱの端が余る。それを集めて、工場で作ったものが、ミニシガリロらしい。
値段が比較的安いが、私が愛用するものは、タバコサイズで一本、190円だ。
煙は肺に入れない、口の中だけで楽しむ。メイカー名はダビドフ。この会社はもともと香水会社だから、香りが他のミニシガリロよりも豊潤だ。
タバコみたいに自動的には燃えていかない。吸うのを止めると、火がすぐ消えてしまう。火をつける時も、口にくわえて、ライターであぶって息を吸えばつくが、偏ったまま燃えていってしまう。
だから、ジェットライターで炙って、ミニシガリロをくるくると回しながら、均等に炎色に染めてゆく。煙は青白い。
その煙がバーの高い天井へゆらゆらと登ってゆくのを眺めながら、冷えたジンのショットを傾け、喉がアルコールでヒリヒリするのを、ミニシガリロの香りと混ぜて楽しむのが、何より至福の時だった。
生きていればいろいろなことがある。それでも、次の日は必ずくる。立ち止まって休みたくても、休めないこともある。バーにいる時間が何よりの、休息だった。
入院したりと、ゴタゴタがあり、しばらく葉巻はやめていた。決して安いものではない。タバコで代用もしたが、あのプラスチックみたいな味はひどいものだ。
そうして、社会復帰の勉強のためにも、欲望に負けず、ミニシガリロを計画的に吸えるようにと、先月から購入を再開した。
そしたら、配偶者たちに異変が起きてしまった。購入前に、葉巻を吸う人間といえば、光命、焉貴、明引呼だったのだ。
しかし、孔明と覚師も参戦。それぞれ、好きな銘柄を購入して、ミニシガリロ同好会というものを作ってもいいね、なんて話が出ている。
そうして、先日、覚師の手の中にあるものを見つけて、びっくりした。
「キセル?」
「そうさ。こっちのほうが、あたしにあってると思ってね」
こうやって、お互いに影響を与えながら、いい方向に少しずつ進んでいくのだろう。
しかし、光命が中性的な雰囲気で、ミニシガリロを吸うと、絵になるなぁ。
どこかの、童話から出てきた王子様みたいだ。
2020年3月1日、日曜日
私は昔、タバコなんて吸うやつは死んでしまえ、と思うような人間だった。しかしある時、とある人に、ミニシガリロを勧められて、一口吸って考えは変わった。
それはとてもよかったのだ。この世界で、蓮が魂の影響を与える男は、誰もがタバコを吸うやつだった。以前の私だったら、運命の人がそばにいても、毛嫌いして共に人生を歩まなかったのかもしれない。
誰一人として、今は共に人生を歩んでいないが、その経験はとても大切なもので、何ひとつかけてはいけないものだ。それがなかったら、今の結婚はしなかっただろう。
たったひとつの思い込みで、まわりを見ないことを、嫌いと言う。それは人生にとって、重大な損失だ。
若いうちは特に、一方方向から物事も人も見てしまいがちだが、年齢を重ねて、様々なものに触れてくると、知らないうちに、他の方向から物事見て、許容範囲が増えるのだ。
まぁ、とにかく。私の酒の飲み方は、ひとりで家飲みではない。焉貴が飲むから一緒に買ってと言われ、挑戦してみるのだが、350ml缶も飲み干せないほどだ。
酒が好きなわけではない。しかし、ジンのショットの話が物語にはよく出てくる。年齢を重ねるごとに、飲む酒のアルコール度数は上がり続けた。
最初はビール。次は日本酒、ワイン。そうして、ジン。
海外の女性アーティストの話に出ていた、ボンベイ サファイアを最初は飲んだ。あれは、アルコール度数が比較的強いジンになる。鼻にツンとくるような強烈なパンチのある酒だ。
その後、あちこちのバーで、ジンのショットを飲み歩くようになった。外で飲むと不思議なことに、ショットでも数杯かんたんに飲めるようになるのだ。
タンカレーは、まあまあだ。それの、ラングプールという柑橘系のジンがある。あれに一時期はまり、そればかり飲んでいたこともあった。
ヘンドリクスとか、ビフィータとか、王道のものは飲んだ。
しかし、バーではないと、ジンのショットは出てこない。その頃は、レストランに行っても、飲み屋に行っても、ビールを飲む気にはなれなかった。何だか、体がだるくなってしまうからだ。
だからこうするのだ。ジンのカクテルのある店では交渉した。同じ値段を払うから、ジンをショットでくれと。
出してくれるところもあったが、出してくれないところもあった。そういうところは、注文する前に店を出て、別のところへ行く。そんな徹底ぶりだった。
そうして、私はとうとう運命の出会いをするのである。とあるバーテンダーの人に勧められた、エギュベルのジンを飲んで、思わず唸った。
濃厚であり、強すぎず、豊潤な香り。ミニシガリロのクセの強い葉巻にも負けないどころか、双方を引き立てるジンだった。
聖堂院で秘蔵のレシピで作られているらしい。中に入っているハーブなどが絶妙だったのだ。
一方、ミニシガリロは、テレビなどで見かけるギャングなどがくわえている茶色の太い葉巻を作る時に、葉っぱの端が余る。それを集めて、工場で作ったものが、ミニシガリロらしい。
値段が比較的安いが、私が愛用するものは、タバコサイズで一本、190円だ。
煙は肺に入れない、口の中だけで楽しむ。メイカー名はダビドフ。この会社はもともと香水会社だから、香りが他のミニシガリロよりも豊潤だ。
タバコみたいに自動的には燃えていかない。吸うのを止めると、火がすぐ消えてしまう。火をつける時も、口にくわえて、ライターであぶって息を吸えばつくが、偏ったまま燃えていってしまう。
だから、ジェットライターで炙って、ミニシガリロをくるくると回しながら、均等に炎色に染めてゆく。煙は青白い。
その煙がバーの高い天井へゆらゆらと登ってゆくのを眺めながら、冷えたジンのショットを傾け、喉がアルコールでヒリヒリするのを、ミニシガリロの香りと混ぜて楽しむのが、何より至福の時だった。
生きていればいろいろなことがある。それでも、次の日は必ずくる。立ち止まって休みたくても、休めないこともある。バーにいる時間が何よりの、休息だった。
入院したりと、ゴタゴタがあり、しばらく葉巻はやめていた。決して安いものではない。タバコで代用もしたが、あのプラスチックみたいな味はひどいものだ。
そうして、社会復帰の勉強のためにも、欲望に負けず、ミニシガリロを計画的に吸えるようにと、先月から購入を再開した。
そしたら、配偶者たちに異変が起きてしまった。購入前に、葉巻を吸う人間といえば、光命、焉貴、明引呼だったのだ。
しかし、孔明と覚師も参戦。それぞれ、好きな銘柄を購入して、ミニシガリロ同好会というものを作ってもいいね、なんて話が出ている。
そうして、先日、覚師の手の中にあるものを見つけて、びっくりした。
「キセル?」
「そうさ。こっちのほうが、あたしにあってると思ってね」
こうやって、お互いに影響を与えながら、いい方向に少しずつ進んでいくのだろう。
しかし、光命が中性的な雰囲気で、ミニシガリロを吸うと、絵になるなぁ。
どこかの、童話から出てきた王子様みたいだ。
2020年3月1日、日曜日
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