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入学式の買い物
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もうね。子供が増え過ぎて大変なんですわ。
年老いたりしない。避妊用具がない。経済的に子供を産めない世界でもない。だから、永遠に増え続けるのではと思ったのだが……。
孔明がね。
「颯ちゃん、それじゃ、子供で世の中あふれちゃうよ! ずっと生まれ続けてるって話、ボク誰からも聞かないよ」
「じゃあ、いつかは神様のお陰で調整がついて生まれなくなるんだね」
安心していた。そうして、本当にピタリと生まれなくなったのだ。しかし、半年ほど間を開けて、また続々と子供が生まれている。今現在、百二十四人。
五歳になった日に、入学式がある神の世界。週に一度や二度、入学式がある状態に、我が家はなっている。
しかし慣れたもんだ。学校がある日は、水曜日、木曜日、土曜日、日曜日。ということで、入学する子たちの服などを買うには、火曜日と金曜日と決めている。
臨海地区に、子供服からカバン、雨具、携帯電話までそろう、キッズ専門の大きなショッピングモールがある。そこへ行くのだが、すでに入学している子供たちも一緒についてくるのだ。おもちゃや服を新たに買ってもらうために。
今日も、明日の入学式の用意で行ってきた。買い物だと知っている子供たちは、友だちとは遊ばずに全員ついて来た。
とにかく、迷子になるな、と釘を刺して、時間までに同じ場所へ戻ってこい。商品が見つかった時には、近くにいる親の持っているカゴに入れるように、が、我が家のしきたり。
というわけで、私は新入生の男の子ふたりと買い物することに。一人がウェスタンスタイルがいいと言う。とりあえず、そこへ向かう。
鏡の前で洋服を当てると、その中では本当に着ているように見える鏡がある。さらには、小さな端末で、洋服を選んで全身のコーディネートを画面の中で確認できる。しかも、気に入れば、店員がその商品を持って、そばへ瞬間移動してくるのである。
まだまだ寒い季節なので、上に羽織るものも思って、ジャンパーみたいなものがいいかと思ったが、本人はガンマンが羽織っているマントみたいな、ポンチョみたいなのがいいと言う。
着せていると、もう一人が何か持って戻ってきた。それはとてもきれいな布の服だった。広げてみて、
「ドレス?」
我が子は男の子。
しかし、月命は女装しているし、時代はそういう流れだ。しかも、それは女の子用ではなくて、男の子用の服なのだ。
「あれ? 数ヶ月前は、男の子が着たくてもドレスなかったのに、作ってくれたんだね」
消費者に優しい世界だった。そうして、ドレスを着せて、もう一人の子へ顔を戻すと、拳銃を構えて、鏡に打つ真似をしていた。
「おもちゃは学校に持って行けないよ」
「でも、これほしい」
「じゃあ、持っていかないって約束するなら、買ってもいいよ」
「うん、もっていかない」
テレビの見み過ぎなんだろう? それとも、明引呼の影響なのかな?
そうして、お姫様の我が子を見ると、棒をくるくると振り回していた。
「魔法のスティック……」
「うん、ぼく、これがほしい」
「でも、学校には持っていかないよ?」
「わかった」
魔法のスティック。ママも降ってみた。光のリボンが空中に浮かび上がる本格仕様だった。よくできている――
だがしかし、不思議なのだ。子供は短髪でどこからどう見ても男の子なのに、ドレスがよく似合うのだ。月命の特徴を受け継いでいるのかもしれない。産みの親は、夕霧命だけど……。
その後、靴もバックも買って、携帯電話も買った。そうして、みんなのお待ちかね、新店のハンバーガー屋でランチ。
ハンバーガーと言うから、ファーストフード店みたいな気さくなイメージを思い浮かべていたが、部屋の三方がガラス張り。どこかの高層ホテルの最上階みたいなところで、フルコースでもいただくような立派なテーブル席だった。
料理はワゴンに乗せられて、頼んだ人の前へひとつひとつ給仕されてゆく。こんな豪華なハンバーガーとは……。
妻はさっそうと食べ、おかわりまでして、食後に窓の外を眺める。死ぬ可能性のない世界。この世の比ではない高さから見下ろす景色は絶景だった。
臨海地区で海が広がりながらも、最近開発が著しい足元付近はミニチュアみたいな店が並べてあるみたいだ。
ドンドン!
ガラスを叩いている音が聞こえた。三歳の子供が叩いている。
「どうしたの?」
「とりさん!」
そっちを見ると、部屋と同じ高さを一羽の鳥が飛んでいた。普通ならば、こんな高いところ飛べるんだと、感心して終わりなのだが、そうはいかない。
鳥が羽ばたくのをやめて、宙を浮いたままガラス窓に近づいてきた。子供たちは大喜びだ。鳥さんと話ができると思って。
「いやいや、ガラスの向こうだから、鳥さんの声もこっちの声も聞こえないよ。何かに書いたりしないと……」
頭の回転の速い五歳児がすでに、携帯電話のメールに文字を入力して、ガラスの向こうの鳥に見せていた。
何回かやり取りしていたようだが、仲良くなったらしい。家族で今日は来ていて、ランチを食べたら、空を飛んでみたくなり、お父さんだけ一人で飛んでいたところを呼び止められたらしい。
男の子と女の子の双子がいて、どうやら、学校が我が子たちと同じらしい。子供たちはもう友だちになったようで、明日、学校のどこで会うかの約束をしたそうだ。
後日、我が家に家族を招待しているらしい。
みんなが相手のことを考えていると、こんなにも素敵な出会いがすんなりやってくるのだなと、心が暖かくなった。
2020年2月25日、火曜日
年老いたりしない。避妊用具がない。経済的に子供を産めない世界でもない。だから、永遠に増え続けるのではと思ったのだが……。
孔明がね。
「颯ちゃん、それじゃ、子供で世の中あふれちゃうよ! ずっと生まれ続けてるって話、ボク誰からも聞かないよ」
「じゃあ、いつかは神様のお陰で調整がついて生まれなくなるんだね」
安心していた。そうして、本当にピタリと生まれなくなったのだ。しかし、半年ほど間を開けて、また続々と子供が生まれている。今現在、百二十四人。
五歳になった日に、入学式がある神の世界。週に一度や二度、入学式がある状態に、我が家はなっている。
しかし慣れたもんだ。学校がある日は、水曜日、木曜日、土曜日、日曜日。ということで、入学する子たちの服などを買うには、火曜日と金曜日と決めている。
臨海地区に、子供服からカバン、雨具、携帯電話までそろう、キッズ専門の大きなショッピングモールがある。そこへ行くのだが、すでに入学している子供たちも一緒についてくるのだ。おもちゃや服を新たに買ってもらうために。
今日も、明日の入学式の用意で行ってきた。買い物だと知っている子供たちは、友だちとは遊ばずに全員ついて来た。
とにかく、迷子になるな、と釘を刺して、時間までに同じ場所へ戻ってこい。商品が見つかった時には、近くにいる親の持っているカゴに入れるように、が、我が家のしきたり。
というわけで、私は新入生の男の子ふたりと買い物することに。一人がウェスタンスタイルがいいと言う。とりあえず、そこへ向かう。
鏡の前で洋服を当てると、その中では本当に着ているように見える鏡がある。さらには、小さな端末で、洋服を選んで全身のコーディネートを画面の中で確認できる。しかも、気に入れば、店員がその商品を持って、そばへ瞬間移動してくるのである。
まだまだ寒い季節なので、上に羽織るものも思って、ジャンパーみたいなものがいいかと思ったが、本人はガンマンが羽織っているマントみたいな、ポンチョみたいなのがいいと言う。
着せていると、もう一人が何か持って戻ってきた。それはとてもきれいな布の服だった。広げてみて、
「ドレス?」
我が子は男の子。
しかし、月命は女装しているし、時代はそういう流れだ。しかも、それは女の子用ではなくて、男の子用の服なのだ。
「あれ? 数ヶ月前は、男の子が着たくてもドレスなかったのに、作ってくれたんだね」
消費者に優しい世界だった。そうして、ドレスを着せて、もう一人の子へ顔を戻すと、拳銃を構えて、鏡に打つ真似をしていた。
「おもちゃは学校に持って行けないよ」
「でも、これほしい」
「じゃあ、持っていかないって約束するなら、買ってもいいよ」
「うん、もっていかない」
テレビの見み過ぎなんだろう? それとも、明引呼の影響なのかな?
そうして、お姫様の我が子を見ると、棒をくるくると振り回していた。
「魔法のスティック……」
「うん、ぼく、これがほしい」
「でも、学校には持っていかないよ?」
「わかった」
魔法のスティック。ママも降ってみた。光のリボンが空中に浮かび上がる本格仕様だった。よくできている――
だがしかし、不思議なのだ。子供は短髪でどこからどう見ても男の子なのに、ドレスがよく似合うのだ。月命の特徴を受け継いでいるのかもしれない。産みの親は、夕霧命だけど……。
その後、靴もバックも買って、携帯電話も買った。そうして、みんなのお待ちかね、新店のハンバーガー屋でランチ。
ハンバーガーと言うから、ファーストフード店みたいな気さくなイメージを思い浮かべていたが、部屋の三方がガラス張り。どこかの高層ホテルの最上階みたいなところで、フルコースでもいただくような立派なテーブル席だった。
料理はワゴンに乗せられて、頼んだ人の前へひとつひとつ給仕されてゆく。こんな豪華なハンバーガーとは……。
妻はさっそうと食べ、おかわりまでして、食後に窓の外を眺める。死ぬ可能性のない世界。この世の比ではない高さから見下ろす景色は絶景だった。
臨海地区で海が広がりながらも、最近開発が著しい足元付近はミニチュアみたいな店が並べてあるみたいだ。
ドンドン!
ガラスを叩いている音が聞こえた。三歳の子供が叩いている。
「どうしたの?」
「とりさん!」
そっちを見ると、部屋と同じ高さを一羽の鳥が飛んでいた。普通ならば、こんな高いところ飛べるんだと、感心して終わりなのだが、そうはいかない。
鳥が羽ばたくのをやめて、宙を浮いたままガラス窓に近づいてきた。子供たちは大喜びだ。鳥さんと話ができると思って。
「いやいや、ガラスの向こうだから、鳥さんの声もこっちの声も聞こえないよ。何かに書いたりしないと……」
頭の回転の速い五歳児がすでに、携帯電話のメールに文字を入力して、ガラスの向こうの鳥に見せていた。
何回かやり取りしていたようだが、仲良くなったらしい。家族で今日は来ていて、ランチを食べたら、空を飛んでみたくなり、お父さんだけ一人で飛んでいたところを呼び止められたらしい。
男の子と女の子の双子がいて、どうやら、学校が我が子たちと同じらしい。子供たちはもう友だちになったようで、明日、学校のどこで会うかの約束をしたそうだ。
後日、我が家に家族を招待しているらしい。
みんなが相手のことを考えていると、こんなにも素敵な出会いがすんなりやってくるのだなと、心が暖かくなった。
2020年2月25日、火曜日
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