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不思議な感覚
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久しぶりに書いた。
実は体調が良くない。薬の内容を変えたりしているのだが、なかなかよくならない。一日の大半は横になっていないと過ごしていけないほどだ。
十二月の中旬から始まった、『心霊探偵はエレガントに~karma~』のアニメ化との連動企画。先週の金曜日を最後に休止している。楽しみにしている人たちには、大変申し訳ないと思っている。
私のような何の実力もない新人を起用してくださったのは、夜九時から十五分間の枠でアニメ化だった。
しかもそれは、画期的な企画で、原稿を書き上げた、その日の夕方にネットで小説がアップされ、夜九時にはアニメになるという、今までにないリアルタイムを重視した見せ方だった。
ゴールデンタイムを過ぎたアニメ番組。それでも、それなりに視聴者はいてくださって、どうなるのか楽しみだとか、どうやったらそれを思いつくのかなど、多数の意見は寄せてくださっていた。
新人の自分にはまたとないチャンスだと思った。これを足がかりにしようと思った。この世界よりも広く、様々な種族が生きている神界では、人間一人が表に出ることは容易ではない。
才能のある人はたくさんいる。人間に物語を書かせていた神様もいるし、私たちとはまったく違う価値観を持った龍や猫など、他の種族の人たちのアイディは斬新だ。
ボチボチの人気だった。それでも、自分ではありがたいことだと思った。最初からうまくいくはずはないのだから。
そうしてある日、新聞の一面に載るほどの大騒動になった。その内容は、
「前代未聞! 主人公が物語途中で死亡」
だった。(ように見せかけた)
私は当たり前に書いたものだったが、そこに興味が示されるとは思わなかった。
死のない世界では斬新だったのだろう。死ぬことの意味はわかっていても、目の当たりにしたこともなければ、恐怖を感じたこともない人がほとんどなのだから……。
注目度は一気に上がり、その矢先の中止。だが、担当者の方々のお陰で、番組の最後にはいつも、
「この作品は予告なしに、中止になることがあります」
と、出してくださったのが、よかったらしく、大きな混乱どころか、DVDの発売とキャラクターグッズも生産されることになった。
体調がよくないと、霊視する脳の働きも劣るもので、みんなのことは若干見えづらい。
それでも、話せる時には話すようにしている。そうして、新しい発見をした――。
私は分身をしている。当然、もう一人の自分を見かける、はずなのだが、見たことが今までない。
子供たちの話には、
「ママ、一緒にいたよね?」
「ママに話したよ」
過去形になっている。ということは、やはり私は分身してるのだ。
今日は向こうの家の自室に初めて行ってみた。こっちと似ているところもあった。
だが、何だか変な感じがした。ついさっきまで、誰かがいたような物の置き方――しまっていないのだ。
もう一人の自分がいたのでは?
しかし、気配さえも感じ取れない。それよりもなぜ、自分はもう一人の自分を見かけないのだろうか?
この答えは、孔明が持っていた。
「ボクも最初、分身した時、不思議な感じがしたよ」
神にならないと、分身はできない。神界生まれで、神界育ちの人には、当たり前のことだから、違和感がない。しかし、人から神になった彼なら、違和感を説明できるのだ。(ちなみに、私は神ではない)
「心の世界だから、自分が分身のことを考えると、その時点で、自分が分身の位置に立ってしまう。だから、見ることができないんだよ」
自分BがAを考えたと同時に、AとBは入れ替わる。肉体がないから、記憶する方法も違う。記憶は脳という肉体に残っている。魂だけ肉体に入れ替われば、それは使えるが、そもそも脳がないのだ。
以前聞いたことがあるが、本体と分身は別々に動いている。いちいち、本体が分身を監視はしていない。それでは分かれた意味がない。ということで、あとで記憶をシンクロさせないと、別々に過ごした時間は共有できない。
あえていうなら、自分が赤いクレヨンだとして、紙を塗り潰す。もう一人自分も同じ赤だから、上から塗り潰しても同化どころの話ではなく、違和感がないのだ。
しかも、クレヨンよりも魂の同化は精密にできている。前に塗ったのも、あとに塗ったのも見分けがつかない。輪郭が完全になくなるのだ。
だから、気配さえも感じ取れない。ただまわりから見れば、そこに自分はずっといることになる。
こんなことがあった。この世界のことに集中していて、子供の誕生日パーティに三分遅刻した。慌てて意識を傾けて行くと、舞台の上に子供を挟んで、旦那と三人ですでに座っていた。パーティは始まっている。
通常ならば、廊下を歩いて、ドアから会場に入って子供のそばに行く。この場面がカットされている。
旦那に表情が暗いが、何かあったのかと聞かれ、相談事をして気づくと、この世界でテレビに夢中になっていて、誕生日会場はどこにもなくなっていたのだ。
しばらくして、途中で抜けてきてしまったと気づいて戻ると、みんなで輪になって踊っているところからスタートする。
子供や他の大人と一緒に踊っている。誰も私の心の違和感には気づいていない。腕を組んだりもしていて……。もう一人の自分はずっとそこにいたのだ。
メインの世界は神世。だから、そこをきちんとこなすためには、おそらく本体がいて、今こうやって文章を書いている自分は分身なのだろう。
小説の契約をした場面も覚えていない。あとで聞かされて驚く。ヴォーカリストもしていて、そのレコーディングもした覚えがないのに、MVが流れていたりする。子供たちも、ファンの方々の反応も、そこに自分がいたように当たり前に入ってくる。
地球を取り残して、あの世は動いている。それが世界のあり方なのだ。地上はサブで、おまけでしかないのだから。
そんな不思議な体験。実際にやってみると、分身はこんな感覚だった。
2020年2月24日、月曜日
実は体調が良くない。薬の内容を変えたりしているのだが、なかなかよくならない。一日の大半は横になっていないと過ごしていけないほどだ。
十二月の中旬から始まった、『心霊探偵はエレガントに~karma~』のアニメ化との連動企画。先週の金曜日を最後に休止している。楽しみにしている人たちには、大変申し訳ないと思っている。
私のような何の実力もない新人を起用してくださったのは、夜九時から十五分間の枠でアニメ化だった。
しかもそれは、画期的な企画で、原稿を書き上げた、その日の夕方にネットで小説がアップされ、夜九時にはアニメになるという、今までにないリアルタイムを重視した見せ方だった。
ゴールデンタイムを過ぎたアニメ番組。それでも、それなりに視聴者はいてくださって、どうなるのか楽しみだとか、どうやったらそれを思いつくのかなど、多数の意見は寄せてくださっていた。
新人の自分にはまたとないチャンスだと思った。これを足がかりにしようと思った。この世界よりも広く、様々な種族が生きている神界では、人間一人が表に出ることは容易ではない。
才能のある人はたくさんいる。人間に物語を書かせていた神様もいるし、私たちとはまったく違う価値観を持った龍や猫など、他の種族の人たちのアイディは斬新だ。
ボチボチの人気だった。それでも、自分ではありがたいことだと思った。最初からうまくいくはずはないのだから。
そうしてある日、新聞の一面に載るほどの大騒動になった。その内容は、
「前代未聞! 主人公が物語途中で死亡」
だった。(ように見せかけた)
私は当たり前に書いたものだったが、そこに興味が示されるとは思わなかった。
死のない世界では斬新だったのだろう。死ぬことの意味はわかっていても、目の当たりにしたこともなければ、恐怖を感じたこともない人がほとんどなのだから……。
注目度は一気に上がり、その矢先の中止。だが、担当者の方々のお陰で、番組の最後にはいつも、
「この作品は予告なしに、中止になることがあります」
と、出してくださったのが、よかったらしく、大きな混乱どころか、DVDの発売とキャラクターグッズも生産されることになった。
体調がよくないと、霊視する脳の働きも劣るもので、みんなのことは若干見えづらい。
それでも、話せる時には話すようにしている。そうして、新しい発見をした――。
私は分身をしている。当然、もう一人の自分を見かける、はずなのだが、見たことが今までない。
子供たちの話には、
「ママ、一緒にいたよね?」
「ママに話したよ」
過去形になっている。ということは、やはり私は分身してるのだ。
今日は向こうの家の自室に初めて行ってみた。こっちと似ているところもあった。
だが、何だか変な感じがした。ついさっきまで、誰かがいたような物の置き方――しまっていないのだ。
もう一人の自分がいたのでは?
しかし、気配さえも感じ取れない。それよりもなぜ、自分はもう一人の自分を見かけないのだろうか?
この答えは、孔明が持っていた。
「ボクも最初、分身した時、不思議な感じがしたよ」
神にならないと、分身はできない。神界生まれで、神界育ちの人には、当たり前のことだから、違和感がない。しかし、人から神になった彼なら、違和感を説明できるのだ。(ちなみに、私は神ではない)
「心の世界だから、自分が分身のことを考えると、その時点で、自分が分身の位置に立ってしまう。だから、見ることができないんだよ」
自分BがAを考えたと同時に、AとBは入れ替わる。肉体がないから、記憶する方法も違う。記憶は脳という肉体に残っている。魂だけ肉体に入れ替われば、それは使えるが、そもそも脳がないのだ。
以前聞いたことがあるが、本体と分身は別々に動いている。いちいち、本体が分身を監視はしていない。それでは分かれた意味がない。ということで、あとで記憶をシンクロさせないと、別々に過ごした時間は共有できない。
あえていうなら、自分が赤いクレヨンだとして、紙を塗り潰す。もう一人自分も同じ赤だから、上から塗り潰しても同化どころの話ではなく、違和感がないのだ。
しかも、クレヨンよりも魂の同化は精密にできている。前に塗ったのも、あとに塗ったのも見分けがつかない。輪郭が完全になくなるのだ。
だから、気配さえも感じ取れない。ただまわりから見れば、そこに自分はずっといることになる。
こんなことがあった。この世界のことに集中していて、子供の誕生日パーティに三分遅刻した。慌てて意識を傾けて行くと、舞台の上に子供を挟んで、旦那と三人ですでに座っていた。パーティは始まっている。
通常ならば、廊下を歩いて、ドアから会場に入って子供のそばに行く。この場面がカットされている。
旦那に表情が暗いが、何かあったのかと聞かれ、相談事をして気づくと、この世界でテレビに夢中になっていて、誕生日会場はどこにもなくなっていたのだ。
しばらくして、途中で抜けてきてしまったと気づいて戻ると、みんなで輪になって踊っているところからスタートする。
子供や他の大人と一緒に踊っている。誰も私の心の違和感には気づいていない。腕を組んだりもしていて……。もう一人の自分はずっとそこにいたのだ。
メインの世界は神世。だから、そこをきちんとこなすためには、おそらく本体がいて、今こうやって文章を書いている自分は分身なのだろう。
小説の契約をした場面も覚えていない。あとで聞かされて驚く。ヴォーカリストもしていて、そのレコーディングもした覚えがないのに、MVが流れていたりする。子供たちも、ファンの方々の反応も、そこに自分がいたように当たり前に入ってくる。
地球を取り残して、あの世は動いている。それが世界のあり方なのだ。地上はサブで、おまけでしかないのだから。
そんな不思議な体験。実際にやってみると、分身はこんな感覚だった。
2020年2月24日、月曜日
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