明智さんちの旦那さんは10人いるそうで……

明智 颯茄

文字の大きさ
上 下
65 / 80

不思議な感覚

しおりを挟む
 久しぶりに書いた。
 実は体調が良くない。薬の内容を変えたりしているのだが、なかなかよくならない。一日の大半は横になっていないと過ごしていけないほどだ。

 十二月の中旬から始まった、『心霊探偵はエレガントに~karma~』のアニメ化との連動企画。先週の金曜日を最後に休止している。楽しみにしている人たちには、大変申し訳ないと思っている。

 私のような何の実力もない新人を起用してくださったのは、夜九時から十五分間の枠でアニメ化だった。 

 しかもそれは、画期的な企画で、原稿を書き上げた、その日の夕方にネットで小説がアップされ、夜九時にはアニメになるという、今までにないリアルタイムを重視した見せ方だった。

 ゴールデンタイムを過ぎたアニメ番組。それでも、それなりに視聴者はいてくださって、どうなるのか楽しみだとか、どうやったらそれを思いつくのかなど、多数の意見は寄せてくださっていた。

 新人の自分にはまたとないチャンスだと思った。これを足がかりにしようと思った。この世界よりも広く、様々な種族が生きている神界では、人間一人が表に出ることは容易ではない。

 才能のある人はたくさんいる。人間に物語を書かせていた神様もいるし、私たちとはまったく違う価値観を持った龍や猫など、他の種族の人たちのアイディは斬新だ。

 ボチボチの人気だった。それでも、自分ではありがたいことだと思った。最初からうまくいくはずはないのだから。

 そうしてある日、新聞の一面に載るほどの大騒動になった。その内容は、

「前代未聞! 主人公が物語途中で死亡」

 だった。(ように見せかけた)
 私は当たり前に書いたものだったが、そこに興味が示されるとは思わなかった。

 死のない世界では斬新だったのだろう。死ぬことの意味はわかっていても、目の当たりにしたこともなければ、恐怖を感じたこともない人がほとんどなのだから……。

 注目度は一気に上がり、その矢先の中止。だが、担当者の方々のお陰で、番組の最後にはいつも、

「この作品は予告なしに、中止になることがあります」

 と、出してくださったのが、よかったらしく、大きな混乱どころか、DVDの発売とキャラクターグッズも生産されることになった。

 体調がよくないと、霊視する脳の働きも劣るもので、みんなのことは若干見えづらい。

 それでも、話せる時には話すようにしている。そうして、新しい発見をした――。

 私は分身をしている。当然、もう一人の自分を見かける、はずなのだが、見たことが今までない。

 子供たちの話には、

「ママ、一緒にいたよね?」
「ママに話したよ」

 過去形になっている。ということは、やはり私は分身してるのだ。

 今日は向こうの家の自室に初めて行ってみた。こっちと似ているところもあった。

 だが、何だか変な感じがした。ついさっきまで、誰かがいたような物の置き方――しまっていないのだ。

 もう一人の自分がいたのでは?

 しかし、気配さえも感じ取れない。それよりもなぜ、自分はもう一人の自分を見かけないのだろうか?

 この答えは、孔明が持っていた。

「ボクも最初、分身した時、不思議な感じがしたよ」

 神にならないと、分身はできない。神界生まれで、神界育ちの人には、当たり前のことだから、違和感がない。しかし、人から神になった彼なら、違和感を説明できるのだ。(ちなみに、私は神ではない)

「心の世界だから、自分が分身のことを考えると、その時点で、自分が分身の位置に立ってしまう。だから、見ることができないんだよ」

  自分BがAを考えたと同時に、AとBは入れ替わる。肉体がないから、記憶する方法も違う。記憶は脳という肉体に残っている。魂だけ肉体に入れ替われば、それは使えるが、そもそも脳がないのだ。

 以前聞いたことがあるが、本体と分身は別々に動いている。いちいち、本体が分身を監視はしていない。それでは分かれた意味がない。ということで、あとで記憶をシンクロさせないと、別々に過ごした時間は共有できない。

 あえていうなら、自分が赤いクレヨンだとして、紙を塗り潰す。もう一人自分も同じ赤だから、上から塗り潰しても同化どころの話ではなく、違和感がないのだ。

 しかも、クレヨンよりも魂の同化は精密にできている。前に塗ったのも、あとに塗ったのも見分けがつかない。輪郭が完全になくなるのだ。

 だから、気配さえも感じ取れない。ただまわりから見れば、そこに自分はずっといることになる。

 こんなことがあった。この世界のことに集中していて、子供の誕生日パーティに三分遅刻した。慌てて意識を傾けて行くと、舞台の上に子供を挟んで、旦那と三人ですでに座っていた。パーティは始まっている。

 通常ならば、廊下を歩いて、ドアから会場に入って子供のそばに行く。この場面がカットされている。

 旦那に表情が暗いが、何かあったのかと聞かれ、相談事をして気づくと、この世界でテレビに夢中になっていて、誕生日会場はどこにもなくなっていたのだ。

 しばらくして、途中で抜けてきてしまったと気づいて戻ると、みんなで輪になって踊っているところからスタートする。

 子供や他の大人と一緒に踊っている。誰も私の心の違和感には気づいていない。腕を組んだりもしていて……。もう一人の自分はずっとそこにいたのだ。

 メインの世界は神世。だから、そこをきちんとこなすためには、おそらく本体がいて、今こうやって文章を書いている自分は分身なのだろう。

 小説の契約をした場面も覚えていない。あとで聞かされて驚く。ヴォーカリストもしていて、そのレコーディングもした覚えがないのに、MVが流れていたりする。子供たちも、ファンの方々の反応も、そこに自分がいたように当たり前に入ってくる。

 地球を取り残して、あの世は動いている。それが世界のあり方なのだ。地上はサブで、おまけでしかないのだから。

 そんな不思議な体験。実際にやってみると、分身はこんな感覚だった。

 2020年2月24日、月曜日
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

シチュボ(女性向け)

身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。 アドリブ、改変、なんでもOKです。 他人を害することだけはお止め下さい。 使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。 Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

処理中です...