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うさぎのぬいぐるみ その2
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月命が知らない人からもらったという、ピンクのうさぎのぬいぐるみ。大きさは1メートルで手足が人のように長い。目は半分閉じていて、ヒゲはジグザグに曲がっている。前歯二本は下唇を噛んでいて、とぼけた憎めない顔をしている。
うさぎのぬいぐるみ、実は我が家の大人たちに人気で、やはり数が欲しいという話になったのだ。しかし、未だにどこに売っているのかわからない。
ということで、写真に撮って、ブログで聞いてみようということになった。知礼が撮ってきてくれるというので、携帯電話を貸した。
その間に、子供たちが3人やって来て、ついで孔明もやって来た。しかし、知礼が戻ってこず、部屋をのぞきに行くと、なんと、うさぎのぬいぐるみと一緒に月命を撮っていた。
「いやいや! 月さんは写らなくていいんです! ウサギだけ、ウォンテッドしたいんです!」
旦那は探さなくてもいいのである。
そうして、データが戻ってきた。どうやって、PCに取り込むの変わらないでいると、子供たちが、
「目だよ」
という。こういうことだ。携帯電話に視線を落とし、欲しい画像を思い浮かべると、データが出てきて、そのまま視線をPCへ移すと、おやまぁびっくり、データがきちんとPCに入っているではありませんか。ネットを経由しないということだ。
記事を書いて、ブログをアップ。すると、十分もたたないうちに、返事が返ってきた。日本語というか地上の言葉ではないようで、
「○○○○リレじゃないですか?」
と返ってきた。孔明が調べると、うさぎのぬいぐるみだけで大きさを変えて、取り扱っているメイカーのようだった。しかも近々、生産停止にすると書いてある。
これを機に、持ち直してくれたらいいなぁ~と思った。このうさぎの顔をデザインした人は、人の心を癒す力があるのだから、ぜひ他の種族の人のぬいぐるみも作って欲しいなと願う。
そうして、月命にこの話をすると、彼は、
「なぜ、そのような大切なものを僕にくれたのでしょうか~?」
知らない人からいきなりプレゼントされたもの、当然の疑問だった。妻はのんきなもので、
「あれじゃないですか? 自分も好きなものを、ぜひ月さんにもと思って、もう一つ頼んだのかもしれないですよ?」
ルナスマジックなら、あり得ない話ではない。しかし、お笑い好きの妻はさらに思いついてしまった。
「こっちかもしれないです! そのぬいぐるみを作ってた人が、月さんのところに来たんじゃないんですか?」
子供たちがいる前で、妻はその人になりすまして、こんなバカなことをと言う。
「どうぞ! 渾身の出来――のウサギです! あなたに差し上げます!」
子供たちはゲラゲラ笑い出した。覚師にはあきれた顔をされた。
「あんたはほんとおかしいね。よくそんなこと思いつくね?」
「そうかな? 世の中狭いってよく言うから、そうだったら面白いなと思っただけで」
夢のある話だと思うのだが。うさぎのぬいぐるみ工場はなくなってしまうのだろうか。
2019年10月23日、水曜日
そうして、翌日――。
ぬいぐるみの工場どうなったんだろうかと思っていると、光命が携帯電話を差し出した。
「見ますか?」
「あぁ、ありがとうございます」
昨日のニュースが流れ始めた。
涙の記者会見――
ぐしゃぐしゃの顔で泣いている男の人に、たくさんのマイクが向けられ、フラッシュが焚かれていた。
「このたびは、廃業寸前でしたが、明智さんのブログのお陰で、無事注文数が増え、会社として存続できることが決まりました」
記者から質問が飛ぶ。
「他の種族の方でも作って欲しいとの要望もありますが、その点はいかがでしょうか?」
「はい。新しくデザインをさせていただき、製品を幅広く作っていこうと積極的に取り組んでまいります」
「うさぎの発送は間に合うんですか?」
「在庫がありますので、そちらで対応させていただきます。その間に生産ラインを軌道に乗せ、できるだけお客様をお待たせしない方向で進めてまいります」
妻は携帯電話から視線を外した。
シンデレラみたいな話だ。たった一晩で、生産中止になりそうだったうさぎのぬいぐるみが飛ぶように売れるのだから。しかし、よかったなと思った。別の種類のぬいぐるみもぜひ見てみたい。
どんなふうに心を癒してくれるのだろうか。
うさぎのぬいぐるみ、実は我が家の大人たちに人気で、やはり数が欲しいという話になったのだ。しかし、未だにどこに売っているのかわからない。
ということで、写真に撮って、ブログで聞いてみようということになった。知礼が撮ってきてくれるというので、携帯電話を貸した。
その間に、子供たちが3人やって来て、ついで孔明もやって来た。しかし、知礼が戻ってこず、部屋をのぞきに行くと、なんと、うさぎのぬいぐるみと一緒に月命を撮っていた。
「いやいや! 月さんは写らなくていいんです! ウサギだけ、ウォンテッドしたいんです!」
旦那は探さなくてもいいのである。
そうして、データが戻ってきた。どうやって、PCに取り込むの変わらないでいると、子供たちが、
「目だよ」
という。こういうことだ。携帯電話に視線を落とし、欲しい画像を思い浮かべると、データが出てきて、そのまま視線をPCへ移すと、おやまぁびっくり、データがきちんとPCに入っているではありませんか。ネットを経由しないということだ。
記事を書いて、ブログをアップ。すると、十分もたたないうちに、返事が返ってきた。日本語というか地上の言葉ではないようで、
「○○○○リレじゃないですか?」
と返ってきた。孔明が調べると、うさぎのぬいぐるみだけで大きさを変えて、取り扱っているメイカーのようだった。しかも近々、生産停止にすると書いてある。
これを機に、持ち直してくれたらいいなぁ~と思った。このうさぎの顔をデザインした人は、人の心を癒す力があるのだから、ぜひ他の種族の人のぬいぐるみも作って欲しいなと願う。
そうして、月命にこの話をすると、彼は、
「なぜ、そのような大切なものを僕にくれたのでしょうか~?」
知らない人からいきなりプレゼントされたもの、当然の疑問だった。妻はのんきなもので、
「あれじゃないですか? 自分も好きなものを、ぜひ月さんにもと思って、もう一つ頼んだのかもしれないですよ?」
ルナスマジックなら、あり得ない話ではない。しかし、お笑い好きの妻はさらに思いついてしまった。
「こっちかもしれないです! そのぬいぐるみを作ってた人が、月さんのところに来たんじゃないんですか?」
子供たちがいる前で、妻はその人になりすまして、こんなバカなことをと言う。
「どうぞ! 渾身の出来――のウサギです! あなたに差し上げます!」
子供たちはゲラゲラ笑い出した。覚師にはあきれた顔をされた。
「あんたはほんとおかしいね。よくそんなこと思いつくね?」
「そうかな? 世の中狭いってよく言うから、そうだったら面白いなと思っただけで」
夢のある話だと思うのだが。うさぎのぬいぐるみ工場はなくなってしまうのだろうか。
2019年10月23日、水曜日
そうして、翌日――。
ぬいぐるみの工場どうなったんだろうかと思っていると、光命が携帯電話を差し出した。
「見ますか?」
「あぁ、ありがとうございます」
昨日のニュースが流れ始めた。
涙の記者会見――
ぐしゃぐしゃの顔で泣いている男の人に、たくさんのマイクが向けられ、フラッシュが焚かれていた。
「このたびは、廃業寸前でしたが、明智さんのブログのお陰で、無事注文数が増え、会社として存続できることが決まりました」
記者から質問が飛ぶ。
「他の種族の方でも作って欲しいとの要望もありますが、その点はいかがでしょうか?」
「はい。新しくデザインをさせていただき、製品を幅広く作っていこうと積極的に取り組んでまいります」
「うさぎの発送は間に合うんですか?」
「在庫がありますので、そちらで対応させていただきます。その間に生産ラインを軌道に乗せ、できるだけお客様をお待たせしない方向で進めてまいります」
妻は携帯電話から視線を外した。
シンデレラみたいな話だ。たった一晩で、生産中止になりそうだったうさぎのぬいぐるみが飛ぶように売れるのだから。しかし、よかったなと思った。別の種類のぬいぐるみもぜひ見てみたい。
どんなふうに心を癒してくれるのだろうか。
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