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ここにいない夫の話
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月命の盆栽と庭園の問題は、今日庭を工事して、彼専用の庭園を作ったと言うことで終結を迎えた。
母屋から庭先へと続く縁側を作ることとなったが、途中に立派な木や花が植っていて、それを避けるという方法で、最新の技術が作られた。
家の中からは廊下が縁側までつながっているが、外からはその部分は何もなく、庭の景観を壊すこともなく、縁側だけがぽかりと庭園に浮かぶようにできているというものだ。空間を歪めてあるらしい。
月命は以前、月に住んでいたが、結婚を機に首都にあるこの家へと引っ越して来た。前の家は売りに出していたが、もうすでに他の人の手に渡っていた。
庭園の話を聞いたが、それも一緒に売ってしまったと言っていた。盆栽は友人などにほとんど渡していまい、残りが前に書いた3つの鉢だった。
それでも、家に庭園を作るとは言わない月命。他の配偶者や子供たちの好きな洋風の庭を壊してまで作りたくなかったのだろう。
月命と一緒に昼食をとっていると、明引呼がやって来て、
「てめぇ、またごちゃごちゃ余計なこと考えやがって。オレが注文してやるから、庭園作れや」
そうやって、夕方15時に、業者が来てあっという間に庭園を作り、盆栽の鉢も接ぎ木も庭へ持っていかれた。
夕食を終えて、月命は一人縁側に座って、緑茶を飲みながら、ライトアップされた庭を眺め、今までの日々を脳裏でなぞっているようだった。
妻が部屋へそっと戻ると、明引呼がやって来た。
「縁側に行かないの?」
「一人で考えたいことあんだろ?」
「そうかもね」
300億年生きている人の人生とはどんなものなのだろうか。放浪の旅をしていた時もあったと、前話していた。
ここにいない夫のことを、夫婦で考える。明引呼は黄昏た感じで、
「女の夢叶えてりゃよ、男はいいって思ったけどよ」
「うん」
妻の夢を叶えてくれた、熱い夫である。
「男の夢も叶えねぇといけねぇなって思ったぜ」
「そりゃそうだ。うちはバイセクシャルで性別は関係ないんだから。それに気づけたいい日だった。そういうことだね」
「あれの世界は広いんだよ。オレが思ってるよりもよ」
結婚して同じ家に住んでいても、好きな夫のことを見過ごすことがある。明引呼は思う。自分とは違って、表情にも出さず、言葉にもせず、ただただ耐えてゆく、月命が本当は何を思い、考えているのかと。
「でも、まぁ。それはこれからゆっくりでいいんじゃないかな?」
「だな」
しばらくすると、明引呼は月命のそばへ瞬間移動していった。
「おや~? 来たんですか~?」
「来たんですかじゃねぇよ。寂しい顔してたくせによ」
そうして、縁側にあぐらをかいた明引呼の肩に、月命はもたれかかった。
2019年10月22日、火曜日
母屋から庭先へと続く縁側を作ることとなったが、途中に立派な木や花が植っていて、それを避けるという方法で、最新の技術が作られた。
家の中からは廊下が縁側までつながっているが、外からはその部分は何もなく、庭の景観を壊すこともなく、縁側だけがぽかりと庭園に浮かぶようにできているというものだ。空間を歪めてあるらしい。
月命は以前、月に住んでいたが、結婚を機に首都にあるこの家へと引っ越して来た。前の家は売りに出していたが、もうすでに他の人の手に渡っていた。
庭園の話を聞いたが、それも一緒に売ってしまったと言っていた。盆栽は友人などにほとんど渡していまい、残りが前に書いた3つの鉢だった。
それでも、家に庭園を作るとは言わない月命。他の配偶者や子供たちの好きな洋風の庭を壊してまで作りたくなかったのだろう。
月命と一緒に昼食をとっていると、明引呼がやって来て、
「てめぇ、またごちゃごちゃ余計なこと考えやがって。オレが注文してやるから、庭園作れや」
そうやって、夕方15時に、業者が来てあっという間に庭園を作り、盆栽の鉢も接ぎ木も庭へ持っていかれた。
夕食を終えて、月命は一人縁側に座って、緑茶を飲みながら、ライトアップされた庭を眺め、今までの日々を脳裏でなぞっているようだった。
妻が部屋へそっと戻ると、明引呼がやって来た。
「縁側に行かないの?」
「一人で考えたいことあんだろ?」
「そうかもね」
300億年生きている人の人生とはどんなものなのだろうか。放浪の旅をしていた時もあったと、前話していた。
ここにいない夫のことを、夫婦で考える。明引呼は黄昏た感じで、
「女の夢叶えてりゃよ、男はいいって思ったけどよ」
「うん」
妻の夢を叶えてくれた、熱い夫である。
「男の夢も叶えねぇといけねぇなって思ったぜ」
「そりゃそうだ。うちはバイセクシャルで性別は関係ないんだから。それに気づけたいい日だった。そういうことだね」
「あれの世界は広いんだよ。オレが思ってるよりもよ」
結婚して同じ家に住んでいても、好きな夫のことを見過ごすことがある。明引呼は思う。自分とは違って、表情にも出さず、言葉にもせず、ただただ耐えてゆく、月命が本当は何を思い、考えているのかと。
「でも、まぁ。それはこれからゆっくりでいいんじゃないかな?」
「だな」
しばらくすると、明引呼は月命のそばへ瞬間移動していった。
「おや~? 来たんですか~?」
「来たんですかじゃねぇよ。寂しい顔してたくせによ」
そうして、縁側にあぐらをかいた明引呼の肩に、月命はもたれかかった。
2019年10月22日、火曜日
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