明智さんちの旦那さんは10人いるそうで……

明智 颯茄

文字の大きさ
上 下
39 / 80

パパと子供のために

しおりを挟む
 九月いっぱいまで、夏休みはまだまだ続いている。
 今年初めて知ったのだが、こんなものがあるらしい。

 パパと子供のための〇〇講座。

 参加者は、子供とパパのみ。妻は関係ない。種類も会場もざまざま。

 私が知らないだけで、旦那さんたちは子供とペアになって、様々な講座に参加しているのだろう。

 そのうち、ふたつの講座を申し込むところに出くわした。

 ひとつ目。
 夕霧がやって来た。私の隣で食事をしていた光命ひかりのみことに、携帯電話の画面を見せて、説明している。

「この講座に行きたいから、パパと一緒に申し込んで」

 夕霧といえば、生みの親は夕霧命ゆうぎりのみことである。しかし、同行するパパは光命なのである。光命が電話をしている間に、ママは夕霧に聞いてみた。なぜ、夕霧命ではなく光命なのかと。

 すると、どうやら夕霧は釣りをするらしい。魚の意識を自分に引き込めれば、釣れるようになるという考え方のようだ。

 それはもちろん、武術をやっている夕霧命が一番優れているし、技術もきちんと持っているだろう。それも、夕霧はすでに学んだのだろう。

 というわけで、探究心のある夕霧は、光命のコンサートをふと思い出したそうだ。客席の人の心を引きつけて、拍手をもらう光命なら、また違った技術が身につくのでは? ということらしい。

 探究心があるところあたりは、夕霧命の子供だなと納得する。しかし、光命と一緒に行動するほど仲がいいとは知らなかった。ちょっと前までは、光命のことを、

「お兄ちゃん」

 と誤って呼んでいたのだ。夕霧命と光命は従兄弟同士だから、家に遊びに行くことが多々あり、夕霧にとっては15年近くも、光命は『お兄ちゃん』だったのである。だが、言い間違えるほど、光命を呼んで懐いてたのかもしれない。仲のいい親子に今はなったのだろう。

 こんな風に、結婚してから約1年。子供たちの一番好きなパパは変わりつつある。生みの親が好きな子もいるが、たまに捕まえて聞いてみると、違うパパが好きという子は結構多い。

 そうして、ふたつ目。

 光命、孔明、妻の三人で、私の部屋で話をしていた。

「ボクも誰かと講座行ってみたいなぁ~」

 講座は小学生以上でないと開催されていない。孔明の子供は一番上でも4歳なのである。妻は思った。

 孔明さんを好きな子供だっているだろう。

「誰か一緒に行こうって、言ってくるかもしれないよ」
「そうかなぁ~?」
「隠れファンはいると思うけど……」

 そんなことを話していると、部屋に子供が1人パタパタと小さな足音を立てて走り込んできた。大人はもちろん来たことは知っているが、今話していた内容は内緒。私は素知らぬふりして、

「誰をご所望ですか?」
「ご所望ーー?」

 やけにのんびりとした童子だった。しかし、兄弟だからぱっと見よく似ているのだ。しかも、めったに来ない子供となると、名前を覚えるのに手一杯の妻には特定できないのである。

「誰に話があるの?」
「パパーー!」

 その小さな指先は、しっかり孔明に向いていた。

「ほら、お迎え来たよ」

 光命をバックハグしていた孔明は、子供に向き直って、

「どうしたの?」
「パパー、これ申し込んでーー」

 メモ紙を差し出した。
 
 あれ? ネットで調べたんじゃなくて、書いてきた? チラシとかでもなく。どういうこと?
 というか、ひとつ前に戻って、誰?

「名前を言ってください!」
「◯△*%」

 もごもご~のびのび~。聞き取れない。

「最初の字は?」
「まー!」

 子供一覧表で、『ま』から始まる童子を探せ!

 孔明は自分の携帯電話を取り出して、検索をかけていた。

「ん~~?」

 しばらくして、孔明が講座のホームページを探し出した。

「これ?」
「そー、それーー」

 妻は名前を無事にゲット。

真理阿まりあは孔明さんが好きなの?」
「そー」

 夏休みが始まったのは、6月13日。9月いっぱいまで夏休み。4ヶ月近くあった休みも、残すところ1ヶ月を切った今日、孔明に幸せはとうとうやって来たのである。
 やはり孔明が好きな子供も予想した通りいたのだ。なぜなら、運命で家族になったのだから。

「申し込んだよ」
「ありがとーー」

 無事に講座の参加が決まり、ソファーに腰掛けた孔明の膝の上に、真理阿が嬉しそうに座った。

 孔明は仕事熱心だから、子供と過ごす機会が少ない。子供と遊んでいるところなど、妻はあまり見かけない。優先順位はどうやっても、4歳のじんが高くなるわけで、そうなると、5歳の子と接する時間は極端に短いだろう。

 時計を見ると、21時過ぎ。もう就寝時刻を過ぎている。それなのに、ここへやって来て、しかもメモ書き。そこで、妻はピンとひらめいた。

「あ、わかった! 真理阿、彼女がその講座を受けるんでしょ? それをさっき電話で話してたから、メモ書きだったんだね?」
「そー。近くに来るのーー」
「そうか、よかったね。真理阿の彼女は遠くに住んでるから、これで会えるね」
「うん」

 遠くの宇宙に住んでいて、学校も違うそうだ。普段は会えない。だからこそ、こんな長期の休みがチャンスなのである。

 親子で参加の講座。妻はちょっと心配になった。

「あれ? でも待って、真理阿、彼女はパパとママがいっぱいいるって知ってるの?」
「うん、知ってるー」

 真理阿だったら、ふんわりと彼女にも伝えたんだな。反対する人はいないけど、心配事はそこではなく。

「そうか。でも、相手のパパが講座に来るわけでしょ? 今まで独健どっけんさんがついてったんだよね?」

 真理阿の生みの親は独健。去年の夏休みは独健は複数婚をしていなかったのだから、パパは一人しかいなかったはずだ。

「その人、いきなり会ったら、びっくりするんじゃないかな? 独健さんが来ると思ってたのに、孔明さんが来たら。先に言ったほうがいいんじゃないかな? 独健じゃなくて、孔明が行きますって」

 漆黒の髪を指先でつうっと引き伸ばしながら、孔明の間延びした声が聞こえてくる。

「言わないほうがいいと思うなぁ~」
「え……?」

 大先生が意見してくるなんて、何か意味があるのではと思っていると、光命の遊線が螺旋を描く優雅な声が響いた。

「私も言わないほうがいいと思いますよ」

 エレガントに微笑んでいるのを前にして、何をふたりがしようとしているのかわかって、妻は大声で叫んだ。

「あぁ! ふたりして、他の人に悪戯するのやめてください!」

 その時、光命のすぐ脇に人影がすうっと立った。鼻にかかるはつらつとした声が割って入って来た。

「楽しそうだな。何の話だ?」
「あぁ~、独健さん、いいところに」
「どうした?」

 独健は真理阿をちらっと見ながら、聞き返した。
 
「真理阿の講座の話です。孔明さんが一緒に行くんですけど」
「そうか。それはいい話だな」

 どの子供が誰を好きかは親ならばわかるというものだ。好きなもの同士一緒に出かけるのは、嬉しいものである。

「相手の親に、孔明さんが行くって言わないで、光さんも一緒になって悪戯しようとしてるんです」

 独健は両腕を組み、うんうんと何度もわざとらしくうなずいて、

「あいつな……。俺も言わないほうがいいと思うな」
「何かあるんですか?」

 旦那さんたち3人が同じこと言うなんて……。

 そうして独健の言葉の続きが聞こえて来た。

「孔明、あいつが驚いたところ、写真に撮ってきてくれ」
「独健さんまで!」

 どうも、かなり仲がいいようだ。相手のパパと独健は。

「あいつは大丈夫だ。ぽわんとした性格だから、少し驚かせたほうがいい」

 うちの旦那さんたちにはいないタイプの人だ。

 旦那さんたちも仲がいい。すでに、真理阿の彼女の父親がどんな人か知っていたということだ。妻が知らないうちに、話をしたのだろう。

 しばらくすると、真理阿は孔明の膝の上で眠ってしまった。そこへ、月命るなすのみことがやって来た。

「おや~? おかしいですね~。子供が一人足りないんです~」

 二一時半。子供たちの就寝時刻が三十分も過ぎてる。大人の誰にも言わないで、真理阿はこっちに来たんだ。

「月さん、孔明さんの膝の上で寝てます」
「やはりこちらでしたか~」

 そうして、気づいてしまった。地球一個分の広さがある家で、子供たちは五歳児だけでも四十人いて、みんながみんなとは限らないが、眠くなるまで遊んだりしていて、時間になっても寝室にやって来ず、あちこちの床などに転がっている子供を回収しに行くんだ、パパとママたちは。

 2019年9月6日、金曜日

 おまけ――

 昼間、百叡びゃくえいがピアノの弾きすぎで倒れた。自分の責任だと責めた光命が次に倒れて、バタバタした1日だった。

 光命はいつも、妻が眠ったあとに寝るが、21時半近くになると、眠そうな顔をしていた。

「光さん、眠いなら寝たほうがいいですよ」
「えぇ」
「ひとりで眠れますか?」

 心配になった。大人数でいつも眠っている我が家。今私の部屋にいるのは百叡だけ。心に負担がかかっているのでは?

 そこで、光命は首を横へ振って、

「いいえ、あなたがいないと眠れません――」

 きゃああああああっっっっ!?!?!?!?

 ノックアウトという雷に打たれ、ムンクの叫びのような顔をして、真っ白に燃え尽きると、バタンと前に倒れたのである。妻はこの手の言葉に弱いのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

シチュボ(女性向け)

身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。 アドリブ、改変、なんでもOKです。 他人を害することだけはお止め下さい。 使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。 Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...