明智さんちの旦那さんは10人いるそうで……

明智 颯茄

文字の大きさ
上 下
16 / 80

理想郷ではない

しおりを挟む
 何度も出てくるが、旦那さんたちの住んでいる世界は、こことは違う。

 死ぬことはなく、病気になることもない。
 恋愛は片想いで終わることはなく、離婚などの別れは一切起きない。
 悪意のある人は誰もいない。
 好きな仕事に就ける。
 お金がなくても、普通に生活していける。

 私は理想郷なのだと思っていた。
 みんな(蓮以外)の15年前の話は聞いたことがある。
 どんな職業についているとか、結婚したとか、子供が生まれたとかだ。

 たとえば、光命ひかりのみことのことなど、

 音楽をやっている。

 とだけ聞いていた。というわけで、勝手に想像していた。

 数字に強い彼だ。
 PCとかで、プログラミングして、曲(クラシックではなく)を作ってるのかな?
 CDとか出して、ツアーとかもして、成功して有名なんだろう、と。

 だが、そんな自分の思い通りになる世界はどこにもないのだ。たとえ死んだとしても。

 実際は、クラシックのような曲を演奏するピアニスト。CDは2枚出した。それだけ。体が弱く、ツアーが行えなかった。

 どんな想いを、15年間彼はして来たのだろう、と思った。

 他の旦那もそうで、先日、昔の覚書を見つけた。
 今や大企業とも言えるほどになりつつある大農園の主、明引呼あきひこ。最初からやりたいことを熱くやっていたのだろうと、信じきっていた。

 だが、彼の最初の職業は全然違っていて、転職するにあたって、悩みや苦労などがあったのだろう、思った。

 新しく婿に来た、張飛。彼は小学校の体育教師だ。
 だが、妻と子供がいながら、いろいろな職を転々として、他の子供と接する機会があり、今の職業に就いたのだと言っていた。

「孔明に今の職業があってるって言われてるっすよ」

 愛する夫に言われたら、それは幸せだろう。
 私は彼のことはまだよく知らないが、体育教師は似合っていると思う。

 誰が無理して倒れたとか。頻繁に起きる。

 旦那たちだけでなく、子供もそうだ。
 1人回復したと思ったら、別の子。

 デコボコ道の毎日。

 687年で1つ年を取る。みんなが住んでいる世界はゆったりと時間が流れている。それでも、様々なことは起きる。

 そんな中で、

 ずっと活動休止していた光命が、CMに出ている友人のヴァイオリニストのコンサートで1曲だけピアノを、明日弾くそうだ。

 彼は今日まで私に言わなかった。
 
 私に嘘をつくことになるかもしれない。
 ということだろう。

 いつ、自分が倒れるかわからない。キャンセルになるかもしれない。
 だが、明日に迫った今日。
 倒れる可能性はかなり低くなった――伝えても、嘘になるという可能性は低い。
 ということだろう。

 コンサートをするは、いいと思う。
 最近、倒れることがずいぶん少なくなった。
 アーティストである以上、いつかはツアーをするだろう。今まで、倒れてしまって、できなかったのだ。それをたった1回でもできたら、次は2回、その次は3回といって、回数を増やしていけば、いつかはツアーができるようになる可能性は上がる。

 彼はようやく進み出したのだろう。普通という線路の上を。

 他の方のコンサート。しかも、クラシック。
 家族全員ではいけない。子供によっては退屈するだろう。かと言って、ファミリー席を用意してもらうは気がひけるのである。

 ということで、光命が演奏する曲だけ聞きたいという子供たちを、月命るなすのみことが連れてゆくになった。

 パンフレットを百叡びゃくえい策羅さくらに見せてもらった。しっかりと、パパが演奏する曲には丸がつけてあった。

 孔明も仕事を抜け出して聴きにいくと言っていたが、基本子供の引率は月命のみ。迷子になられたら最後である。

 しかし、その辺は教師である。会場の地図を大画面に映して、どこをどうやって通って中に入るのかと、それぞれの席順を先に決めていた。
 途中からの入場であり、私語は厳禁だ。

 さすがである。女装教師。

 それでも、誰か迷いそうだなぁ~。

 明日、そのハプニングを聞くことになるんだろうな。
 こうやって、失敗しながらも、家族は少しずつ進んでゆくのだ。

 2019年7月25日、木曜日
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

シチュボ(女性向け)

身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。 アドリブ、改変、なんでもOKです。 他人を害することだけはお止め下さい。 使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。 Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

処理中です...