時限爆弾ケーキ

明智 颯茄

文字の大きさ
上 下
14 / 15

夜へカウントダウン/1

しおりを挟む
 そして、ハイテンション、純真無垢なR17夫から、エロ招待状がやってきた。

「はい! 颯茄、お前、俺のことなめちゃって、前戯にしちゃってください! これで、3P」

 大人のお楽しみの前座にしたかったのだ。そのために、みんなわざと生クリームをかぶりたかったのだ。未だわかっていない妻は、思いっきり聞き返した。

「はぁ? 何で、その話になったんですか?」

 先約されていた独健は、自分が巻き込まれていることを今ごろ知ったのである。

「やっぱり。おかしいと思ったんだ。俺と颯と焉貴……の3P」

 握ったままの手で、人差し指だけで、唇についてしまった生クリームを、孔明はぬぐう。

「あれ~? 颯ちゃん、気づいてなかったの~?」
「何をですか?」

 ――焉貴と独健と自分。

 これはもうわかった。だが、続きがあるような話運び。そうして、ターン中のある話が、光命の中性的な唇から出てきた。

「私たちが罠を仕掛けていたと……」

 策だったのだ。全ては、焉貴と孔明と光命、そしてもう一人……。邪悪なヴァイオレットの瞳を見ようとしたが、ニコニコのまぶたに隠れていてできなかった。

「おや? 困りましたね~。僕たちの妻はまだ、僕たちのことをよくわかっていないみたいです~。それでは、僕も混じって、颯にお仕置きです~」

 テーブルに散った生クリームを取り上げ、SMを容易に連想させる月命の、まぶたから解放されたヴァイオレットの瞳に、妻はつかまってしまった。

 彼女は隣に座っている、一番最後に結婚した張飛にすがるような視線を送る。

「知ってたんですか?」
「孔明がいる時点で、策がないのはおかしいっすから。何かあるとは思ってたっすよ」
「本当ですか~」

 妻はへなへなとテーブルの上に突っ伏した。そんなことはお構いなしで、焉貴がハイテンションで仕切る。

「はい! じゃあ、月も入って、4P」

 ――焉貴と独健と月命と自分。

 増えてゆく、今宵の相手が。何がどうなって、こうなっているのかわからない。誰がどうやって仕掛けているのだ。颯茄は半ば放心状態だった。

「え、え?」

 後ろに椅子を傾けていた明引呼が、口の端でふっと笑った。

「普通気づくだろ」
「どこでですか?」

 いつ気づくべきだったのかと、妻はどこかずれている記憶力を巻き戻してみた。

 だがしかし、策士の焉貴先生から、冷ややかだが、確実に狙った女を落とすように、螺旋階段を突き落としたグルグル感のある声で言ってきた。

「お前、俺たちの愛、忘れちゃってるんだけど……」
「愛?」

 惑星を消滅する爆弾ケーキと夫たちの愛。妻の中では足し算がうまくできないでいた。そして、夫たちが全員声をそろえた。

「愛している妻が間違ったことをしようとしたら、絶対に止める!」

 それが真実の愛である。

 絶対不動の夫――夕霧命から、一言加えられた。

「惑星爆発はさせん。俺も入る」
「はい! じゃあ、夕霧が入って、5P」

 ――焉貴と独健と月命と夕霧命と自分。

 蓮は颯茄を上から目線で見つめて、バカにしたように鼻で笑った。そして、ひねくれ俺さまを浴びせる。

「罠を張るやつが四人もいるのに、気づかないとはな。お前の頭はしょせんガラクタだ。俺もだ」
「はい! じゃあ、蓮が入って、6P」

 ――焉貴と独健と月命と夕霧命と蓮と自分。

 この夫だけは、颯茄は物申すなのだ。にらみ返してやった。

「カチンとくるな。蓮は!」

 まだ、6Pだ。とにかく、止めないと。11Pになる前に。気をつけつつ、妻はいつからみんなが気づいていたのかを知りたかった。

「でも、どうして、惑星爆発しないって、わかったんですか?」

 孔明が可愛く小首を傾げ、間延びした言葉を投げかけてきた。

「あれ~? 颯ちゃん、忘れちゃったの~?」
「何をですか?」
「教えてほしいの~?」
「はい、お願いします」
「じゃあ、教えるから、ボクも混ぜて~」

 罠だった。妻はびっくりして大声を上げたが、

「えぇっ!?」

 素早く、焉貴が拾って、

「はい! じゃあ、孔明が入って、7P」

 ――焉貴と独健と月命と夕霧命と蓮と孔明と自分。

 とにかく教えて欲しいのだ。どこだ。どこで間違ったのだ。

「どういうことですか?」

 優雅な王子さま夫は、感覚妻に理論で説明した。

「惑星爆発と言ったのは月だけです。嘘だという可能性があるではありませんか」

 人の話はよく聞いておかないといけないと、妻は今ごろ気づいたのだった。頭を抱える。

「あぁ、そうだったぁ」
「うふふふっ」

 約束をすでに取りつけている、月命が含み笑いをもらした。妻が時限爆弾でひらめいている間、何が夫たちの間で行われていたかが告げられた。

「そちらのあと、私、焉貴、孔明は全員確認しました。殺傷能力はなし。規模は最大半径五十センチ以内。爆発までは十五分間だと書いてありましたよ」

 光命たちは説明書を読んでいた。それを他の夫たちは見ていたのだ。明引呼の手は念を押すように、顔の前で大きく縦に振られた。

「四人が確認して止めねぇんだから、嘘だってわかんだろ」
「いや~!」

 再び頭を抱えた妻だったが、すぐに沈んだリングから起き上がり、おかしいことに気づいた。

「時間計ってた?」
「当然っすよ」

 張飛は親指を突き立てて、にっこり微笑んだ。光命は神経質で細い手の甲を中性的な唇につけて、くすくす笑い出した。

「おや? 今ごろ気づいたのですか?」

 妻は食堂を見渡す。夫婦の時間を思う存分過ごせるようにと配慮された、食堂。十二個の数字が円を作るものなどない。

「え……? 時計ないですよね? この部屋。どこで計って?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

どうやら旦那には愛人がいたようです

松茸
恋愛
離婚してくれ。 十年連れ添った旦那は冷たい声で言った。 どうやら旦那には愛人がいたようです。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...