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神の旋律
砕けた神さま/4
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しばらくして、春風みたいな柔らかな声が聞こえてきた。
「颯ちゃん、結構、雰囲気違ったね?」
「お笑いモードを消すと、実はこういう性格なんです」
真正面に座る孔明に、颯茄が返事を返すと、夫たちから意外というように、
「色気あるんだな」
妻は得意げに微笑んで、コーラをグビッとあおり祝福した。
「これは前からあったのか?」
ゼリーを手で押し出していた独健に、颯茄は大いにうなずく。
「あらすじだけはありました。配役も、蓮と私はあってます」
「他はどうだったんですか?」
今度は反対に顔を向けて、貴増参からの質問に、妻はテキパキと答える。
「知礼の役はなかったです。神さまは別の人がモデルでした」
「どなたですか?」
ティーカップをソーサーへ置いた光命の問いかけがテーブルの上に舞うと、颯茄は薄気味悪い含み笑いを始めた。
「むふふふ……」
「また笑いやがって」
明引呼のしゃがれた声とともに、手の甲で妻の腕はパシンと軽く叩かれる。それが合図と言うように、颯茄のどこかずれているクルミ色の瞳にはマゼンダ色の長い髪が映った。
「月さんです。最初のタイトルは、『天使の旋律』だったんです。月に住んでる天使が守護してくれるという話です。ということで、月に実際住んでた月さんを採用というわけです」
「単純すぎだ」
夫全員からのツッコミを受けた妻だったが、気まずそうに、「んんっ!」と咳払いして話を先に進めた。
「でもまさか、当時は蓮と月さんが結婚するとは思ってなかったです。予感だったのかなと……」
ただの保護者と担任教師。妻が知らぬばかりで、いつからか恋仲になっていたのだろう。蓮が月命にプロポーズをして、婿に来ているのだから。
「俺じゃなくて、月でよかったんじゃないの?」
焉貴からもっともな意見がやってきたが、台本制作者としてはきちんとした理由があった。
「そうすると、月さんの出番が多くなって、主人公と脇役が平等に旦那さんたちに回らないので、ここは焉貴さんに変更しました。親友だったふたりが、神と人の関係で共演する……。いいですよね?」
当時まだ出会っていなかった焉貴に、妻は同意を求めたが、山吹色のボブ髪は瞬間移動でしゅっと消え去った。
どこへ行ったのかと思うと、孔明と光命を飛ばして、一番左に座っていた、蓮のすぐ隣に焉貴は立っていた。
砕けた神さまは、人間の男のあごに指を添えて、ナルシスト的に微笑む。
「じゃあ、人間のレンと恋しちゃ~う!」
蓮と焉貴の唇がキスをしようと近づこうとしたが、妻はがっちり阻止。
「はい! お楽しみはまた後にして――」
その言葉にかぶせるように、燿が割り込んできた。
「あんまりのんびりしてると、まずいんじゃない?」
「夕飯の準備待ち合わなくなるぞ」
新しいゼリーの袋を開けている独健は、視線を上げずに言った。張飛はゴミを手で纏めながら、
「子供たちもお腹空かせるっすからね」
子供たちが困るのが一番あってはならない。颯茄は慌てて、携帯電話を取り上げて、
「それでは、次の作品で真ん中の五番目。ということで折り返し地点です。主役で出てきた人が今度は脇役で出てくるようになります。それでは、タイトルは――」
食堂の明かりがすうっと、薄闇に落ちて、空中スクリーンに文字が浮かび上がった。
「――復活の泉!」
「颯ちゃん、結構、雰囲気違ったね?」
「お笑いモードを消すと、実はこういう性格なんです」
真正面に座る孔明に、颯茄が返事を返すと、夫たちから意外というように、
「色気あるんだな」
妻は得意げに微笑んで、コーラをグビッとあおり祝福した。
「これは前からあったのか?」
ゼリーを手で押し出していた独健に、颯茄は大いにうなずく。
「あらすじだけはありました。配役も、蓮と私はあってます」
「他はどうだったんですか?」
今度は反対に顔を向けて、貴増参からの質問に、妻はテキパキと答える。
「知礼の役はなかったです。神さまは別の人がモデルでした」
「どなたですか?」
ティーカップをソーサーへ置いた光命の問いかけがテーブルの上に舞うと、颯茄は薄気味悪い含み笑いを始めた。
「むふふふ……」
「また笑いやがって」
明引呼のしゃがれた声とともに、手の甲で妻の腕はパシンと軽く叩かれる。それが合図と言うように、颯茄のどこかずれているクルミ色の瞳にはマゼンダ色の長い髪が映った。
「月さんです。最初のタイトルは、『天使の旋律』だったんです。月に住んでる天使が守護してくれるという話です。ということで、月に実際住んでた月さんを採用というわけです」
「単純すぎだ」
夫全員からのツッコミを受けた妻だったが、気まずそうに、「んんっ!」と咳払いして話を先に進めた。
「でもまさか、当時は蓮と月さんが結婚するとは思ってなかったです。予感だったのかなと……」
ただの保護者と担任教師。妻が知らぬばかりで、いつからか恋仲になっていたのだろう。蓮が月命にプロポーズをして、婿に来ているのだから。
「俺じゃなくて、月でよかったんじゃないの?」
焉貴からもっともな意見がやってきたが、台本制作者としてはきちんとした理由があった。
「そうすると、月さんの出番が多くなって、主人公と脇役が平等に旦那さんたちに回らないので、ここは焉貴さんに変更しました。親友だったふたりが、神と人の関係で共演する……。いいですよね?」
当時まだ出会っていなかった焉貴に、妻は同意を求めたが、山吹色のボブ髪は瞬間移動でしゅっと消え去った。
どこへ行ったのかと思うと、孔明と光命を飛ばして、一番左に座っていた、蓮のすぐ隣に焉貴は立っていた。
砕けた神さまは、人間の男のあごに指を添えて、ナルシスト的に微笑む。
「じゃあ、人間のレンと恋しちゃ~う!」
蓮と焉貴の唇がキスをしようと近づこうとしたが、妻はがっちり阻止。
「はい! お楽しみはまた後にして――」
その言葉にかぶせるように、燿が割り込んできた。
「あんまりのんびりしてると、まずいんじゃない?」
「夕飯の準備待ち合わなくなるぞ」
新しいゼリーの袋を開けている独健は、視線を上げずに言った。張飛はゴミを手で纏めながら、
「子供たちもお腹空かせるっすからね」
子供たちが困るのが一番あってはならない。颯茄は慌てて、携帯電話を取り上げて、
「それでは、次の作品で真ん中の五番目。ということで折り返し地点です。主役で出てきた人が今度は脇役で出てくるようになります。それでは、タイトルは――」
食堂の明かりがすうっと、薄闇に落ちて、空中スクリーンに文字が浮かび上がった。
「――復活の泉!」
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