上 下
958 / 967
神の旋律

砕けた神さま/4

しおりを挟む
 しばらくして、春風みたいな柔らかな声が聞こえてきた。

「颯ちゃん、結構、雰囲気違ったね?」
「お笑いモードを消すと、実はこういう性格なんです」

 真正面に座る孔明に、颯茄が返事を返すと、夫たちから意外というように、

「色気あるんだな」

 妻は得意げに微笑んで、コーラをグビッとあおり祝福した。

「これは前からあったのか?」

 ゼリーを手で押し出していた独健に、颯茄は大いにうなずく。

「あらすじだけはありました。配役も、蓮と私はあってます」
「他はどうだったんですか?」

 今度は反対に顔を向けて、貴増参からの質問に、妻はテキパキと答える。

「知礼の役はなかったです。神さまは別の人がモデルでした」
「どなたですか?」

 ティーカップをソーサーへ置いた光命の問いかけがテーブルの上に舞うと、颯茄は薄気味悪い含み笑いを始めた。

「むふふふ……」
「また笑いやがって」

 明引呼のしゃがれた声とともに、手の甲で妻の腕はパシンと軽く叩かれる。それが合図と言うように、颯茄のどこかずれているクルミ色の瞳にはマゼンダ色の長い髪が映った。

るなすさんです。最初のタイトルは、『天使の旋律』だったんです。つきに住んでる天使が守護してくれるという話です。ということで、月に実際住んでたるなすさんを採用というわけです」
「単純すぎだ」

 夫全員からのツッコミを受けた妻だったが、気まずそうに、「んんっ!」と咳払いして話を先に進めた。

「でもまさか、当時は蓮と月さんが結婚するとは思ってなかったです。予感だったのかなと……」

 ただの保護者と担任教師。妻が知らぬばかりで、いつからか恋仲になっていたのだろう。蓮が月命にプロポーズをして、婿に来ているのだから。

「俺じゃなくて、月でよかったんじゃないの?」

 焉貴からもっともな意見がやってきたが、台本制作者としてはきちんとした理由があった。

「そうすると、月さんの出番が多くなって、主人公と脇役が平等に旦那さんたちに回らないので、ここは焉貴さんに変更しました。親友だったふたりが、神と人の関係で共演する……。いいですよね?」

 当時まだ出会っていなかった焉貴に、妻は同意を求めたが、山吹色のボブ髪は瞬間移動でしゅっと消え去った。

 どこへ行ったのかと思うと、孔明と光命を飛ばして、一番左に座っていた、蓮のすぐ隣に焉貴は立っていた。

 砕けた神さまは、人間の男のあごに指を添えて、ナルシスト的に微笑む。

「じゃあ、人間のレンと恋しちゃ~う!」

 蓮と焉貴の唇がキスをしようと近づこうとしたが、妻はがっちり阻止。

「はい! お楽しみはまた後にして――」

 その言葉にかぶせるように、燿が割り込んできた。

「あんまりのんびりしてると、まずいんじゃない?」
「夕飯の準備待ち合わなくなるぞ」

 新しいゼリーの袋を開けている独健は、視線を上げずに言った。張飛はゴミを手で纏めながら、

「子供たちもお腹空かせるっすからね」

 子供たちが困るのが一番あってはならない。颯茄は慌てて、携帯電話を取り上げて、

「それでは、次の作品で真ん中の五番目。ということで折り返し地点です。主役で出てきた人が今度は脇役で出てくるようになります。それでは、タイトルは――」

 食堂の明かりがすうっと、薄闇に落ちて、空中スクリーンに文字が浮かび上がった。

「――復活の泉!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。

猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。 『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』 一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

処理中です...