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神の旋律
光る春風/4
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「どうした?」
最初に返事を返してきた男の声が聞こえてきた。リョウカは廊下の角を曲がった男から視線を慌てて戻して、仕事をこなし始める。
「あぁ、申し訳ないです」
花束に挿してあったメッセージカード――送り主はルファー。
「え~っと、レン ディストピュアさんに――え?」
そして、受け取り人の名前を全て読んで、リョウカは固まった。あの廃駅から、崩壊した夜の街を歩いていた間に聞いた名前と同じ。
鮮やかに蘇る――
自分の前をゴーイングマイウェイで歩いてゆく銀の髪と黒いロングコートの男が。
「何だ?」
超不機嫌で。俺さまで。ひねくれで。人を惹きつける力のある声。昨日のことのように、話してきた言葉ははっきりと覚えている。
「夢じゃなかったのかしら? 偶然……?」
リョウカは自分の顔を覆っていた花束を退けて、部屋の中をのぞくと、黒のタキシードを着た男が立っていた。鋭利なスミレ色の瞳で、右目だけ銀の長い前髪で隠していて、すらっとした体躯。
レンの前に立つ女は、ブラウンの長い髪をひとつにまとめて、どこかずれているクルミ色の瞳で、百六十センチの小さな背丈。着ている服は違うが、破滅への序曲から自分を救い出した、あの女だった。
スミレ色の瞳は珍しく見張られて、
「……お前、名前は?」
奇妙な空気に包まれると、控え室のドアはブラウンの髪の後ろでパタンとしまり、ふたりきりの部屋になった。
「リョウカ コスタリカよ」
このおかしな体験のカラクリに、レンは気づいて、ある名前を口にした。
「ルファーが……」
「それって、神さまの名前よね?」
初めて会ったのに、そうじゃない男を前にして、リョウカは砕けた感じで指をさした。
「…………」
ノーリアクション、返事なし、すなわち肯定。だが、レンの中では、理論が成り立たなかった。リョウカは誰がここに連れてきたのか。
会うことはないのだと信じて疑わなかったが、奇跡は起こる。現実という舞台で、神聖な加護は、人が予測できないだけで、密かに続いていたのだ。
キラキラと光るリボンでひとつに結ばれたような輝く空間の中で、リョウカはレンが探しているパズルピースを見つけた。
「もしかして――」
だが、今のレンにとっては、そんなことはどうでもいい。空席の唇が恋しさを色濃く綴っているのだから、一年前のあの日から。
ぼうっと突っ立っている花屋の手から花束を取り上げて、ソファーの上にそっと投げ置いた。あの幻想的な紫の月明かりの下で跪いたように、レンは静かに告げる。
「愛している」
「神さまのお導き、ね」
ふたりの唇が現実で再びめぐり合うと、花束から落ちたメッセージカードの送り主ルファーは連名で、もうひとつはシルレだった――。
*
光沢のあるワインレッドのスーツは廊下の角を曲がり、人気がなくなると、上からふわっと降りてきたみたいに、赤茶の髪を持つ可愛らしげな女が突如目の前に現れた。
「ルファーさま?」
そう呼ばれた男の名は、コレタカ ファスル。
「はい、知礼天使ちゃん。お帰りなさい」
「バッチリ、再会させました」
天使の報告を聞いて、ルファーはスーパーハイテンションで言う。
「そう。よくできました。花マルあげちゃいます!」
教師みたいな言葉を聞いても、そこはスルーして、天使は心配げに首をかしげる。
「でも、神さまも大変ですね?」
ルファーは人差し指を斜めに持ち上げた。
「そう。神さま大変なの。同じ容姿の女探してね、神さまの力で勝手に引き合わせちゃったわけ」
「究極のパワハラです」
「俺がね、倒してもよかったの、悪魔を。でもさ、神さまは人を導かないとでしょ。だから、これを機に、レンには成長してもらうってことで、悪魔と対峙させたの。で、乗り越えられたら、そこに新しい恋があってもいいじゃん」
「どうして、一年後だったんですか?」
「俺も、あの時まとまっちゃって欲しかったの。だけどさ、あのふたり恋愛にうといでしょ。だから、あの日だけじゃ時間足りなかったわけ。で、一年ぐらい置いたら、うまくまとまるって未来が見えたから、あの日はあのまま終わりで、今日にしたの」
光沢のあるワインレッドのスーツに青いサングラス。どこからどう見ても、ホストに見える神さま。それでも、天使は敬意を示した。
「本当の慈愛ですね。キューピッド役の神さまに恋愛はないですからね」
コレタカの指先が知礼の小さなあごに添えられ、
「じゃあ、天使のお前と恋しちゃ~う!」
花屋に扮した女の顔を持ち上げ、ナルシスト的に微笑むと、画面はすうっと暗くなり、
=CAST=
レン ディストピュア/蓮
コレタカ ファスル・ルファー/焉貴
リョウカ コスタリカ・フローリア/颯茄
シルレ スタッド・知礼/知礼
白字も全て消え去った。fin――――
最初に返事を返してきた男の声が聞こえてきた。リョウカは廊下の角を曲がった男から視線を慌てて戻して、仕事をこなし始める。
「あぁ、申し訳ないです」
花束に挿してあったメッセージカード――送り主はルファー。
「え~っと、レン ディストピュアさんに――え?」
そして、受け取り人の名前を全て読んで、リョウカは固まった。あの廃駅から、崩壊した夜の街を歩いていた間に聞いた名前と同じ。
鮮やかに蘇る――
自分の前をゴーイングマイウェイで歩いてゆく銀の髪と黒いロングコートの男が。
「何だ?」
超不機嫌で。俺さまで。ひねくれで。人を惹きつける力のある声。昨日のことのように、話してきた言葉ははっきりと覚えている。
「夢じゃなかったのかしら? 偶然……?」
リョウカは自分の顔を覆っていた花束を退けて、部屋の中をのぞくと、黒のタキシードを着た男が立っていた。鋭利なスミレ色の瞳で、右目だけ銀の長い前髪で隠していて、すらっとした体躯。
レンの前に立つ女は、ブラウンの長い髪をひとつにまとめて、どこかずれているクルミ色の瞳で、百六十センチの小さな背丈。着ている服は違うが、破滅への序曲から自分を救い出した、あの女だった。
スミレ色の瞳は珍しく見張られて、
「……お前、名前は?」
奇妙な空気に包まれると、控え室のドアはブラウンの髪の後ろでパタンとしまり、ふたりきりの部屋になった。
「リョウカ コスタリカよ」
このおかしな体験のカラクリに、レンは気づいて、ある名前を口にした。
「ルファーが……」
「それって、神さまの名前よね?」
初めて会ったのに、そうじゃない男を前にして、リョウカは砕けた感じで指をさした。
「…………」
ノーリアクション、返事なし、すなわち肯定。だが、レンの中では、理論が成り立たなかった。リョウカは誰がここに連れてきたのか。
会うことはないのだと信じて疑わなかったが、奇跡は起こる。現実という舞台で、神聖な加護は、人が予測できないだけで、密かに続いていたのだ。
キラキラと光るリボンでひとつに結ばれたような輝く空間の中で、リョウカはレンが探しているパズルピースを見つけた。
「もしかして――」
だが、今のレンにとっては、そんなことはどうでもいい。空席の唇が恋しさを色濃く綴っているのだから、一年前のあの日から。
ぼうっと突っ立っている花屋の手から花束を取り上げて、ソファーの上にそっと投げ置いた。あの幻想的な紫の月明かりの下で跪いたように、レンは静かに告げる。
「愛している」
「神さまのお導き、ね」
ふたりの唇が現実で再びめぐり合うと、花束から落ちたメッセージカードの送り主ルファーは連名で、もうひとつはシルレだった――。
*
光沢のあるワインレッドのスーツは廊下の角を曲がり、人気がなくなると、上からふわっと降りてきたみたいに、赤茶の髪を持つ可愛らしげな女が突如目の前に現れた。
「ルファーさま?」
そう呼ばれた男の名は、コレタカ ファスル。
「はい、知礼天使ちゃん。お帰りなさい」
「バッチリ、再会させました」
天使の報告を聞いて、ルファーはスーパーハイテンションで言う。
「そう。よくできました。花マルあげちゃいます!」
教師みたいな言葉を聞いても、そこはスルーして、天使は心配げに首をかしげる。
「でも、神さまも大変ですね?」
ルファーは人差し指を斜めに持ち上げた。
「そう。神さま大変なの。同じ容姿の女探してね、神さまの力で勝手に引き合わせちゃったわけ」
「究極のパワハラです」
「俺がね、倒してもよかったの、悪魔を。でもさ、神さまは人を導かないとでしょ。だから、これを機に、レンには成長してもらうってことで、悪魔と対峙させたの。で、乗り越えられたら、そこに新しい恋があってもいいじゃん」
「どうして、一年後だったんですか?」
「俺も、あの時まとまっちゃって欲しかったの。だけどさ、あのふたり恋愛にうといでしょ。だから、あの日だけじゃ時間足りなかったわけ。で、一年ぐらい置いたら、うまくまとまるって未来が見えたから、あの日はあのまま終わりで、今日にしたの」
光沢のあるワインレッドのスーツに青いサングラス。どこからどう見ても、ホストに見える神さま。それでも、天使は敬意を示した。
「本当の慈愛ですね。キューピッド役の神さまに恋愛はないですからね」
コレタカの指先が知礼の小さなあごに添えられ、
「じゃあ、天使のお前と恋しちゃ~う!」
花屋に扮した女の顔を持ち上げ、ナルシスト的に微笑むと、画面はすうっと暗くなり、
=CAST=
レン ディストピュア/蓮
コレタカ ファスル・ルファー/焉貴
リョウカ コスタリカ・フローリア/颯茄
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白字も全て消え去った。fin――――
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