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Dual nature
番外編:絡まる髪
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*この章はBLです。ご注意ください。
かくして僕の心はたったひとつきりになり、安寧に身を委ね、暮れてゆく空を凪いだ海を眺めるような落ち着いた気持ちで仰ぎ見る。
蓮香に何もかも支配され、平和な日常はやってこなかったかもしれなかった。しかし、救ってくれた男子がいたのだ。
僕は感慨深く言葉をこぼす。
「今日でお別れ……ですか」
蓮香を成仏させるためだけに、転校してきたのだから、用事が済めば元の生活に戻るのが当然だ。
オレンジ色の空と頬をなでる風だけだった風景に、好青年の響きの声が入り込んできた。
「る~なす?」
長めの瞬きをしながら顔を下ろすと、孔明が夕陽をバックに立っていた。
「おや、君ですか?」
僕は柵にかけた手はそのままに、風に揺れる髪を首の動きだけでサラサラと整える。
「僕を救ってくださって、ありがとうございました」
白馬に乗った王子のように現れて、手を取りそのまま平和な城へと連れ去ってくれたのだ、この男子は。
孔明が近くまでやってくると、彼の匂いが僕のうちへ入り込んで、高揚感がうねりを上げる。
「ボク、キミにまだ内緒にしてることがあんるんだ」
「どのようなことですか?」
「ボクね、キミのことが好きなんだよね」
意味はわかっているけれども、僕は素知らぬふりをして聞き返す。
「好きとは、どのような意味でしょうか?」
「人間としてもあるけど、性的な対象としてだよ」
ニコニコのまぶたの隙間から、孔明をうかがうと、彼は少し落ち着きを失っていて、頬はもみじを散らしたようだった。
「それで、君は僕に何を望んでいるんですか?」
「離れ離れになっちゃうけど、付き合ってくれないかな?」
好青年すぎて、物足りない――
僕はニコニコの笑みを崩さないまま、条件を付け足して面白くしてゆくのだ。
「僕は淋しがり屋ですから、毎日メールをくれないと嫌です」
「するよ、できる限り」
凛々しい眉と切れ長な瞳が、僕のそばで懇願するのを、まぶたの隙間から堪能する。
「限りではダメです。毎日です~」
「もうわがままだなあ~」
固かった孔明の表情が春風が吹いたみたいに柔らかに崩れる。
それでもまだダメ――
僕の恋心は変わらず待つことができる。だから、焦らすのだ。
「それから、電話も毎日です~」
孔明は可愛く小首を傾げて、色のある瞳で見てくる。
「ねえ、そろそろキスしない? もう気持ちはお互い伝わってるんだからさ」
君が先に根をあげましたか――
負けたがり屋の僕でも、勝つ時は勝つんです。
そして、僕は「うふふふっ」と含み笑いをして、「僕の要望を叶えてくださったら、しても構いませんよ?」交換条件の罠へを持っていったのだった。
孔明の凛々し眉は困ったようにハの字になる。
「罠だった……かも?」
「おや? 今頃気づいたんですか?」
僕は上履きで少しだけコンクリートの床をすった。
しかし、孔明は怒るでもなく驚くわけでもなく、好青年満載で楽しげに微笑む。
「ふふっ。最初から知ってたかも?」
細かいことを説明しなくても、伝わる。心地のよい関係だ。主導権は僕にあるのだから、この男子を好きに操っていいのだ。
「後ろから僕を捕まえてください」
「バックハグが好み?」
「この体勢は、君としかできませんからね~」
孔明の上履きが少しだけ動いて、彼の両腕が僕の背中から優しく巻きついた。少しだけ振り返る。すると孔明が真上から、僕の顔をのぞくような格好になった。僕の背丈は百九十六、決して低いわけではないが、孔明の二百三十センチが尋常ではないだけなのだ。
「大好きだよ、月~」
「僕も好きです」
声の振動を頬で感じながら、僕は孔明の腕の中で溶けてしまう予感に目を閉じると、パラシュートが落ちてくるようにキスが降ってきた。暖かで真新しい感触。お互いの長い髪がそれぞれを求めるように絡まりながら、風になびいていた。
かくして僕の心はたったひとつきりになり、安寧に身を委ね、暮れてゆく空を凪いだ海を眺めるような落ち着いた気持ちで仰ぎ見る。
蓮香に何もかも支配され、平和な日常はやってこなかったかもしれなかった。しかし、救ってくれた男子がいたのだ。
僕は感慨深く言葉をこぼす。
「今日でお別れ……ですか」
蓮香を成仏させるためだけに、転校してきたのだから、用事が済めば元の生活に戻るのが当然だ。
オレンジ色の空と頬をなでる風だけだった風景に、好青年の響きの声が入り込んできた。
「る~なす?」
長めの瞬きをしながら顔を下ろすと、孔明が夕陽をバックに立っていた。
「おや、君ですか?」
僕は柵にかけた手はそのままに、風に揺れる髪を首の動きだけでサラサラと整える。
「僕を救ってくださって、ありがとうございました」
白馬に乗った王子のように現れて、手を取りそのまま平和な城へと連れ去ってくれたのだ、この男子は。
孔明が近くまでやってくると、彼の匂いが僕のうちへ入り込んで、高揚感がうねりを上げる。
「ボク、キミにまだ内緒にしてることがあんるんだ」
「どのようなことですか?」
「ボクね、キミのことが好きなんだよね」
意味はわかっているけれども、僕は素知らぬふりをして聞き返す。
「好きとは、どのような意味でしょうか?」
「人間としてもあるけど、性的な対象としてだよ」
ニコニコのまぶたの隙間から、孔明をうかがうと、彼は少し落ち着きを失っていて、頬はもみじを散らしたようだった。
「それで、君は僕に何を望んでいるんですか?」
「離れ離れになっちゃうけど、付き合ってくれないかな?」
好青年すぎて、物足りない――
僕はニコニコの笑みを崩さないまま、条件を付け足して面白くしてゆくのだ。
「僕は淋しがり屋ですから、毎日メールをくれないと嫌です」
「するよ、できる限り」
凛々しい眉と切れ長な瞳が、僕のそばで懇願するのを、まぶたの隙間から堪能する。
「限りではダメです。毎日です~」
「もうわがままだなあ~」
固かった孔明の表情が春風が吹いたみたいに柔らかに崩れる。
それでもまだダメ――
僕の恋心は変わらず待つことができる。だから、焦らすのだ。
「それから、電話も毎日です~」
孔明は可愛く小首を傾げて、色のある瞳で見てくる。
「ねえ、そろそろキスしない? もう気持ちはお互い伝わってるんだからさ」
君が先に根をあげましたか――
負けたがり屋の僕でも、勝つ時は勝つんです。
そして、僕は「うふふふっ」と含み笑いをして、「僕の要望を叶えてくださったら、しても構いませんよ?」交換条件の罠へを持っていったのだった。
孔明の凛々し眉は困ったようにハの字になる。
「罠だった……かも?」
「おや? 今頃気づいたんですか?」
僕は上履きで少しだけコンクリートの床をすった。
しかし、孔明は怒るでもなく驚くわけでもなく、好青年満載で楽しげに微笑む。
「ふふっ。最初から知ってたかも?」
細かいことを説明しなくても、伝わる。心地のよい関係だ。主導権は僕にあるのだから、この男子を好きに操っていいのだ。
「後ろから僕を捕まえてください」
「バックハグが好み?」
「この体勢は、君としかできませんからね~」
孔明の上履きが少しだけ動いて、彼の両腕が僕の背中から優しく巻きついた。少しだけ振り返る。すると孔明が真上から、僕の顔をのぞくような格好になった。僕の背丈は百九十六、決して低いわけではないが、孔明の二百三十センチが尋常ではないだけなのだ。
「大好きだよ、月~」
「僕も好きです」
声の振動を頬で感じながら、僕は孔明の腕の中で溶けてしまう予感に目を閉じると、パラシュートが落ちてくるようにキスが降ってきた。暖かで真新しい感触。お互いの長い髪がそれぞれを求めるように絡まりながら、風になびいていた。
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