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ラブストーリーをしよう
前途多難なファンタジー/4
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「いいから、先いっちゃってください」
焉貴に促されて、違和感を持ちながらも、颯茄は話を進める。
「全て役名にすると、混乱が生じると思うので、ファーストネームだけは本名をそのまま使ってます。ただ、世界観によっては漢字ではなく、カタカナということもあります」
こういうことだ。
颯茄の場合――〇〇 颯茄。もしくは、リョウカ 〇〇。となるというルール。
デジタル頭脳の人たちは、見た先からセリフを全て記録させてゆく。孔明は登場人物を、聡明な瑠璃紺色の瞳で捉える。
「エキストラどうするの~?」
待っていましたとばかり、颯茄は得意げに微笑んだが、内容は他力本願だった。
「それはですね。月さんに門の外に立ってもらうんです。そうすると、『エキストラなら、ぜひやります!』っていう人が集まってくるので……」
「あははははっ……!」
絶対にある話である。
「お前、ルナスマジック利用するね」
焉貴の隣で、のんびり緑茶を飲んでいた、マゼンダ色の長い髪の持ち主を、颯茄はうかがった。
「月さんがいいと言えばですが……」
「えぇ、構いませんよ~。小一時間ほどで集まるんではないんですか~?」
恐るべし、ルナスマジック。どうやったら、人々を自分の思う通りに動かせるのだろうか、ここまで。今日は女装していない夫に、颯茄は丁寧に頭を下げた。
「ありがとうございます」
そして最後の言葉。
「撮影期間は二週間です。なので、四週間後に鑑賞会ということです。それでは、よろしくお願いしま~す!」
こうして、食堂で夫婦たちは一緒に顔を合わせるが、鑑賞会のために、それぞれの進行状況やストーリーは内緒にされたまま、日が昇っては暮れてを繰り返していった。
*
そして、四週間後――
食堂に、夫婦十二人集合。プロジェクターもスクリーンもない。だが、最新の技術で、意識下でつながる携帯電話から、空中に映像が直接映し出される。それは、三百六十度どこから見ても、同じように見えるものだ。
ということで、席はいつも通り。細長い四角のテーブルを囲む。颯茄の左隣から、夕霧命、貴増参、張飛、月命、蓮、光命、孔明、焉貴、独健、明引呼、燿、雅威で、再び妻に戻ってきている。
テーブルの中央には、銀や色とりどりの包み紙に包まれたものが、山積みにされていた。全ての物語のデータが入っている携帯電話を、颯茄は嬉しそうに握りしめながら、
「はい、やってきました!」
「きたね」
焉貴が言う左隣で、孔明が間延びした声で聞く。
「駄菓子~?」
「はい、買ってきました! これを食べながら、みんなで見ようということです」
「俺、お菓子食べないよ。っていうか、フルーツしか口にしないから」
妻は夫のことはわかっているのである。
「大丈夫です。ちゃんと入ってます」
埋もれていたマスカットを、斜め前にいる焉貴にすっと差し出し、ついでに、颯茄は何かのメニュー表もテーブルの中央へ乗せる。
「で、飲み物はカクテルです!」
チョコレートならまだしも、ミスマッチもいいところである。孔明と焉貴からほぼ同時に質問がやってくる。
「どうして~? お酒なの?」
「お前が飲みたいだけでしょ?」
颯茄は待っていましたと言わんばかりに、即答。
「はい、グリーン アラスカをぜひ飲みた――」
「却下!」
夫たち全員が阻止した。颯茄はびっくりして、椅子から思わず立ち上がった。
「何でですか!」
燿はのんびりとお菓子に手を伸ばす。
「今の息がぴったりだったねえ。なんかやらかしたの?」
「いや、別に……あちこちの店ってわけじゃないよ」
颯茄は滝のような汗をかき始める。嘘が下手な妻の隣で、夫は気怠く頬杖をつく。
「それ、あちこちの店ってことだよねえ」
ジンのショット数杯ぐらいでは酔わない颯茄が、手を出してしまったカクテル。そんな彼女の姿を、密かにいつも見てきた光命は、
「店からオーダー拒否されていたではありませんか?」
出しませんと言われてしまう始末なのである。
焉貴に促されて、違和感を持ちながらも、颯茄は話を進める。
「全て役名にすると、混乱が生じると思うので、ファーストネームだけは本名をそのまま使ってます。ただ、世界観によっては漢字ではなく、カタカナということもあります」
こういうことだ。
颯茄の場合――〇〇 颯茄。もしくは、リョウカ 〇〇。となるというルール。
デジタル頭脳の人たちは、見た先からセリフを全て記録させてゆく。孔明は登場人物を、聡明な瑠璃紺色の瞳で捉える。
「エキストラどうするの~?」
待っていましたとばかり、颯茄は得意げに微笑んだが、内容は他力本願だった。
「それはですね。月さんに門の外に立ってもらうんです。そうすると、『エキストラなら、ぜひやります!』っていう人が集まってくるので……」
「あははははっ……!」
絶対にある話である。
「お前、ルナスマジック利用するね」
焉貴の隣で、のんびり緑茶を飲んでいた、マゼンダ色の長い髪の持ち主を、颯茄はうかがった。
「月さんがいいと言えばですが……」
「えぇ、構いませんよ~。小一時間ほどで集まるんではないんですか~?」
恐るべし、ルナスマジック。どうやったら、人々を自分の思う通りに動かせるのだろうか、ここまで。今日は女装していない夫に、颯茄は丁寧に頭を下げた。
「ありがとうございます」
そして最後の言葉。
「撮影期間は二週間です。なので、四週間後に鑑賞会ということです。それでは、よろしくお願いしま~す!」
こうして、食堂で夫婦たちは一緒に顔を合わせるが、鑑賞会のために、それぞれの進行状況やストーリーは内緒にされたまま、日が昇っては暮れてを繰り返していった。
*
そして、四週間後――
食堂に、夫婦十二人集合。プロジェクターもスクリーンもない。だが、最新の技術で、意識下でつながる携帯電話から、空中に映像が直接映し出される。それは、三百六十度どこから見ても、同じように見えるものだ。
ということで、席はいつも通り。細長い四角のテーブルを囲む。颯茄の左隣から、夕霧命、貴増参、張飛、月命、蓮、光命、孔明、焉貴、独健、明引呼、燿、雅威で、再び妻に戻ってきている。
テーブルの中央には、銀や色とりどりの包み紙に包まれたものが、山積みにされていた。全ての物語のデータが入っている携帯電話を、颯茄は嬉しそうに握りしめながら、
「はい、やってきました!」
「きたね」
焉貴が言う左隣で、孔明が間延びした声で聞く。
「駄菓子~?」
「はい、買ってきました! これを食べながら、みんなで見ようということです」
「俺、お菓子食べないよ。っていうか、フルーツしか口にしないから」
妻は夫のことはわかっているのである。
「大丈夫です。ちゃんと入ってます」
埋もれていたマスカットを、斜め前にいる焉貴にすっと差し出し、ついでに、颯茄は何かのメニュー表もテーブルの中央へ乗せる。
「で、飲み物はカクテルです!」
チョコレートならまだしも、ミスマッチもいいところである。孔明と焉貴からほぼ同時に質問がやってくる。
「どうして~? お酒なの?」
「お前が飲みたいだけでしょ?」
颯茄は待っていましたと言わんばかりに、即答。
「はい、グリーン アラスカをぜひ飲みた――」
「却下!」
夫たち全員が阻止した。颯茄はびっくりして、椅子から思わず立ち上がった。
「何でですか!」
燿はのんびりとお菓子に手を伸ばす。
「今の息がぴったりだったねえ。なんかやらかしたの?」
「いや、別に……あちこちの店ってわけじゃないよ」
颯茄は滝のような汗をかき始める。嘘が下手な妻の隣で、夫は気怠く頬杖をつく。
「それ、あちこちの店ってことだよねえ」
ジンのショット数杯ぐらいでは酔わない颯茄が、手を出してしまったカクテル。そんな彼女の姿を、密かにいつも見てきた光命は、
「店からオーダー拒否されていたではありませんか?」
出しませんと言われてしまう始末なのである。
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