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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
始まりの晩餐/4
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「もうすぐ終わる」涼介は手を拭いて、今初めて、彰彦の絞った生クリームを見た――いや、白い群れを見た。
「あ……。お前、ある意味器用だな」
「だろ?」口の端でニヤリとする彰彦の前には、パーティをする時にかぶる、とんがった帽子のようにうず高くデコレーションされた生クリームがあった。
「おやまだ!」瞬の眼前に広がる、童話に出てくるような雪をかぶった三角の山々。ソリをしたら楽しい――と、目を輝かせた。
「でも、これじゃ、ブランデーかけられないだろう」
さっき、アルコールを青い炎を出して飛ばして入れた、小さなポットを料理台の上に、強調するようにドンと、涼介は置いた。
「細けえこと言うなよ。それよか、人質解放しろや」
彰彦がそう言うと、男ふたりは子供を間に挟んで微笑みあった。こいつとは気が合う――
*
全員が席についたのを見計らって、屋敷の主人――崇剛が口を開いた。
「それでは、始まりの晩餐と祝して、乾杯しましょう」
壁際に立っていた給仕係が、テーブルへスマートに近寄って、クリアなワイングラスにサングリアを注ぎ始める。
「オレンジジュースだ!」
父に注がれた飲み物を見つけて、瞬は大いに喜んだ。誰も座っていない――瑠璃のグラスにも、涼介は同じものを入れた。彰彦は手酌で、無事解放されたエキュベルのジンをショットグラスに注ぐ。
ビールの缶をダルレシアンはひとつ涼介から受け取り、今日はいつもと違ってグラスに入れた。浮かび上がるのは雲のような白い滑らかな泡。
全員のグラスが満たされると、崇剛は優雅に微笑んで、テーブルを見渡した。
「このような素敵な出会いを与えてくださった神に感謝を捧げましょう。乾杯」
「乾杯!」グラスがカツンカツンと心地よい音を立てて、それぞれ一口飲むと夕食が始まった。
きのこのマリネサラダはガス灯の明かりを浴びて、キラキラと輝く。白いローブはクローゼットへしまってしまったダルレシアンは、白い着物に身を包んでいた。
袖を揺らしながらフォークで食べ物を口に運び、
「うん、レンコン歯応えがあっておいしい」
「それならよかった」
褒められた涼介がほっとしている隣で、彰彦は居心地がよくなかった。狭いアパートの気取らない暮らしとはほど遠い、城にでも住んでいるような優雅な空間。どうにもリラックスできない。
彰彦は家でよくやっていたように、靴を履いたまま、隣の椅子に両足を乗せた。
「っ!」
本当はテーブルに乗せたいところだが、執事が綺麗に盛り付けた料理が拒んでいるような気がした。
ナッツを何粒か口へ放り込んで、ジンが入ったショットグラスを傾ける。さっきよりかは、落ち着いた――そう思っていると、涼介は顔を近づけて耳元でささやいた。
「彰彦、足は下ろせ。子供の教育によくないだろう?」
鋭いブルーグレーの眼光が容赦なく差し込まれ、けだるくしゃがれた声が喧嘩を売るように響いた。
「あぁ? こっち注意すんなよ。てめえ、子供の教育間違ってんだろ」
「いいからおろせ」少し鼻にかかる声はいつもよりもトーンが落ちていた。本気だ、引く気はないと言うように。
「仕方がねえなあ」彰彦はあきれた顔をしたが、足は椅子から下ろすどころか、片膝を立てて、向こう側の席についている小さな人へ視線を移した。
「おい、そこのガキ」
崇剛とダルレシアンの話し声はやんで、初めて食堂で顔を合わせるふたりの成り行きを見守った。
小さな人は純真無垢なベビーブルーの瞳を、不思議そうにパチパチとさせながら、食べていたフォークを皿の上に突き立てた。
「ぼくのなまえは瞬。ガキってなまえじゃないよ」
小さな人は、ガキと言う固有名詞があるのだと思った。ただただ、それは自分の名前と違うと訂正しただけだったのだ。
「あ……。お前、ある意味器用だな」
「だろ?」口の端でニヤリとする彰彦の前には、パーティをする時にかぶる、とんがった帽子のようにうず高くデコレーションされた生クリームがあった。
「おやまだ!」瞬の眼前に広がる、童話に出てくるような雪をかぶった三角の山々。ソリをしたら楽しい――と、目を輝かせた。
「でも、これじゃ、ブランデーかけられないだろう」
さっき、アルコールを青い炎を出して飛ばして入れた、小さなポットを料理台の上に、強調するようにドンと、涼介は置いた。
「細けえこと言うなよ。それよか、人質解放しろや」
彰彦がそう言うと、男ふたりは子供を間に挟んで微笑みあった。こいつとは気が合う――
*
全員が席についたのを見計らって、屋敷の主人――崇剛が口を開いた。
「それでは、始まりの晩餐と祝して、乾杯しましょう」
壁際に立っていた給仕係が、テーブルへスマートに近寄って、クリアなワイングラスにサングリアを注ぎ始める。
「オレンジジュースだ!」
父に注がれた飲み物を見つけて、瞬は大いに喜んだ。誰も座っていない――瑠璃のグラスにも、涼介は同じものを入れた。彰彦は手酌で、無事解放されたエキュベルのジンをショットグラスに注ぐ。
ビールの缶をダルレシアンはひとつ涼介から受け取り、今日はいつもと違ってグラスに入れた。浮かび上がるのは雲のような白い滑らかな泡。
全員のグラスが満たされると、崇剛は優雅に微笑んで、テーブルを見渡した。
「このような素敵な出会いを与えてくださった神に感謝を捧げましょう。乾杯」
「乾杯!」グラスがカツンカツンと心地よい音を立てて、それぞれ一口飲むと夕食が始まった。
きのこのマリネサラダはガス灯の明かりを浴びて、キラキラと輝く。白いローブはクローゼットへしまってしまったダルレシアンは、白い着物に身を包んでいた。
袖を揺らしながらフォークで食べ物を口に運び、
「うん、レンコン歯応えがあっておいしい」
「それならよかった」
褒められた涼介がほっとしている隣で、彰彦は居心地がよくなかった。狭いアパートの気取らない暮らしとはほど遠い、城にでも住んでいるような優雅な空間。どうにもリラックスできない。
彰彦は家でよくやっていたように、靴を履いたまま、隣の椅子に両足を乗せた。
「っ!」
本当はテーブルに乗せたいところだが、執事が綺麗に盛り付けた料理が拒んでいるような気がした。
ナッツを何粒か口へ放り込んで、ジンが入ったショットグラスを傾ける。さっきよりかは、落ち着いた――そう思っていると、涼介は顔を近づけて耳元でささやいた。
「彰彦、足は下ろせ。子供の教育によくないだろう?」
鋭いブルーグレーの眼光が容赦なく差し込まれ、けだるくしゃがれた声が喧嘩を売るように響いた。
「あぁ? こっち注意すんなよ。てめえ、子供の教育間違ってんだろ」
「いいからおろせ」少し鼻にかかる声はいつもよりもトーンが落ちていた。本気だ、引く気はないと言うように。
「仕方がねえなあ」彰彦はあきれた顔をしたが、足は椅子から下ろすどころか、片膝を立てて、向こう側の席についている小さな人へ視線を移した。
「おい、そこのガキ」
崇剛とダルレシアンの話し声はやんで、初めて食堂で顔を合わせるふたりの成り行きを見守った。
小さな人は純真無垢なベビーブルーの瞳を、不思議そうにパチパチとさせながら、食べていたフォークを皿の上に突き立てた。
「ぼくのなまえは瞬。ガキってなまえじゃないよ」
小さな人は、ガキと言う固有名詞があるのだと思った。ただただ、それは自分の名前と違うと訂正しただけだったのだ。
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