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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

お礼参り/9

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 ワインの度数など高くてもせいぜい十六度。それしか飲んだことのない人間がどうなるか目に見えている。だが、彰彦は素知らぬふりをする。

 店内の音楽に混じって、彰彦のガサツな声が恐ろしい酒の名を口にした。

「よう、グリーン アラスカふたつ」

「兄貴、マジっすか?」バーテンダーはあきれたため息をついた。それで、兄貴は毎回やらかして、家に帰すのが大変なのだ。

 売られたケンカだ――。どうやっても心霊刑事は心霊探偵と同じリングで闘いたかった。

「いいからよこせよ」

 バーテンダーは聖なる教会のステンドグラスをイメージした黒いラベルの瓶と、グリーン色の細身の瓶をふたつ用意した。崇剛は千里眼を使って、バーテンダーの手の中にある酒を頭の中へ記憶する。

 きちんと量を測り、シェイカーへ入れてフタをする。そうして、シャカシャカと心地よい音を刻みながら、ふたつの液体が混じり始めた。

 しばらくすると、落ち着いた黄緑色をした三角形の小さなグラスが、カウンターの上をすうっと滑ってきた。絶妙な力加減で崇剛と彰彦の前でピタリと止まった。

(こちらが彰彦が酔いたい時に飲むお酒――クリーン アラスカですか)

 冷静な水色の瞳にカクテルグラスを映す、崇剛の脳裏には、

 寝室の下から二段目。右から五番目の本――世界のお酒。
 そちらの百七十八ページに載っていました。
 ですから、中身が何かは知っています。
 普段の私なら、絶対に口にしません。

 口にすれば、策士の崇剛には自身がどうなるか大いに予測はついていた。彰彦はショートカクテルというジャブを崇剛へ打ち込む。

「飲んでみやがれ」

 神経質な手がグラスの足に絡みつき、口へと運び一気飲み・・・・をした。

「…………」

 不思議なことにアルコールの匂いと味がしない酒――酔うかもしれないという警戒心を失わせるカクテル。

 彰彦はグラスを上からわしづかみし、少しだけ飲んだ。今日はノックアウトされるわけにはいかない。隣に座る男の反応を最後まで見届けたいのだから。

「どんな味だ?」
「香草とハーブ、それから甘味がとても強いです」

 あなたが飲んでいるものと同じものが飲めて嬉しいです――。崇剛は珍しく正直な気持ち・・・・・・を胸の内で述べた。

 個性の強い酒で、ミニシガリロの芳醇な香りと辛味にも負けないどころか、味覚という舞台でワルツを踊っているようだった。

 しかし、至福の時は突然終わった。飲んだが最後、強いアルコールが体の中で暴れ始める。紺の髪をもたつかせて縛っているターコイズブルーのリボンを、彰彦は鋭いブルーグレーの瞳で面白そうに眺め、

「……一口で飲みやがって、知らねえぜ」

 彼の心の中で、カウントダウンが始まる。

 五、四……。

「どのような意味ですか? そちらの言葉は」崇剛は珍しく不思議そうな顔・・・・・・・をした。

「何で、そんなにスモールなグラスに入ってるって思わねえのか?」

 ……三、二、一!

 抜群のタイミンングで、崇剛の冷静な水色の瞳はまぶたの裏に隠れた。細い指先からカウンターテーブルへコロコロと転がったミニシガリロ。

 線の細い瑠璃色の貴族は後ろへ傾いたかと思うと、左回りで前へ戻り、紺の長い髪を靡かせて、彰彦へ向かって倒れ込んだ。

「っ!」

 素早い反応を見せた彰彦は体を左へねじると、崇剛の神経質な顔はふたつの長さの違うペンダントヘッドが揺れる、厚い胸板にどさっと無防備に埋もれた。

「おっと、危ねえぜ、崇剛」

 オレの罠にはまりやがって――。

 ふたりを見ていたバーテンダーは文句を言った。体格のせいで、酔った女性を受け止めたみたいになっている男に。

「兄貴、サングリアしか飲まない人に、グリーン アラスカ飲ますって、どういうことっすか?」

 軽々と崇剛を抱き寄せている彰彦は、青白い煙を吐きながら、

「昼間、粋なノックアウトしてきやがったからよ」

 可能性の数値なんていう味気のないもので、人の気持ちを図りやがって――。噛みつくように思ってみても、寂しさが胸を掻きむしる。
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