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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
お礼参り/5
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ふたりの間に張り詰めていた緊張が少しだけとけ、崇剛は聴き慣れない言葉に疑問を抱いた。
「キャリア時間とはどのような意味ですか?」
吸いかけのミニシガリロが、灰皿の上で消えてしまっているのを見つけ、彰彦はジェットライターを崇剛へと滑らした。
「お偉いさんはよ。遅れて出勤してくんだよ。十時とか十一時とかによ」
時間にルーズな国家機関。一秒のズレでも許せないデジタルな頭脳の持ち主は、葉巻を口へ入れようとした手を止め、くすくす笑い出した。
「おかしなところですね、役所という場所は」
「組織っていうのはお偉いさんが、いばり散らすところだろ」
縦社会の中でずっと仕事をして、最後は左遷された彰彦はあきれたため息をついた。
自身の国家機関の怠慢を前にして、崇剛は先進国のシュトライツを思い出した。その中でも、宗教のトップで教祖の思想を。
「ダルレシアンの考え方とは正反対ですね」
あの漆黒の長い髪を持つ男は、地位や名誉よりも、国民の自主性と解放を第一に願って、この国へとやってきたのだ。
「あの野郎、何だってよ?」
「密かにみなさんの軍師となって、腐敗していた王族制を廃止させたのです。本人ははっきりとは言いませんが」
「ノーマルはそうなんだろ。おかしなやつが混じってっから、世の中おかしくなってんだろ」
「そうかもしれませんね」
崇剛は曖昧な返事を返した。おかしくなっているように見えるのは人間の狭い視野からの見解であって、神からすれば、それは意味のあることなのだろう。何千年も何億年もの未来には、今起きていることが必要なことだったと、人はあとになって気づくものだ。
ジンの高いアルコールが喉をジリジリと炙る――サディスティックな遊び。
家で飲むのとは違うが、赤ワインの華やかな香りとミニシガリロが混じることで生まれる、また別の味わい。
青白い煙に包まれながら、崇剛と彰彦の距離感は少しずつ埋まってゆく。
「それから、あなたのことはファーストネームで呼び、丁寧語は使わないようにと、涼介には注意しておきました」
ジーパンの長い足は椅子の上で組み直され、ウェスタンブーツのスパーがカチャっと鳴った。
「サンキュウな。今日からホームだからよ、ベルダージュ荘が。らよ、苗字で呼ばれたり、お前さんみてえな話しかけられ方すっと、リラックスできねぇからな」
「そうでしょうね」
あくまでも丁寧語で決めてくる崇剛。彰彦は口の端でニヤリとし、言葉で軽いジャブを放った。
「お前さん、いつから、丁寧語で話すようになったんだ?」
小さい頃から、ですます口調だったのか。自身のことを私と呼ぶ――どうにも想像がつかない。
「十八歳の時からです」そう答える崇剛の脳裏では、
十四年前の十二月十九日、火曜日、十六時十七分五十秒――からです。
きちんとインデックスがついていた。
「そん時、何かあったのか?」
「丁寧語で話したほうが罠が成功する可能性が82.00%――を超えたからです」
しれっと答えてくる優雅な男は、どこまでもデジタルだった。
彰彦は鼻でふっと笑って、「お前さんらしい理由だな」ショットグラスを一気に煽った。
「ありがとうございます」
執事の前で言うように、崇剛は優雅に微笑んだが、彰彦はカウンターパンチを喰らわした。シルバリングをつけたゴツい手が、崇剛の腕を軽く叩きながら、
「おかしなこと言いやがって」
お礼を言うところではないのに、言ってくる。そんなことが時々あった。あれは何かの罠かと思ったが、素直に述べているだけなのだ――彰彦は今頃気づいた。
「キャリア時間とはどのような意味ですか?」
吸いかけのミニシガリロが、灰皿の上で消えてしまっているのを見つけ、彰彦はジェットライターを崇剛へと滑らした。
「お偉いさんはよ。遅れて出勤してくんだよ。十時とか十一時とかによ」
時間にルーズな国家機関。一秒のズレでも許せないデジタルな頭脳の持ち主は、葉巻を口へ入れようとした手を止め、くすくす笑い出した。
「おかしなところですね、役所という場所は」
「組織っていうのはお偉いさんが、いばり散らすところだろ」
縦社会の中でずっと仕事をして、最後は左遷された彰彦はあきれたため息をついた。
自身の国家機関の怠慢を前にして、崇剛は先進国のシュトライツを思い出した。その中でも、宗教のトップで教祖の思想を。
「ダルレシアンの考え方とは正反対ですね」
あの漆黒の長い髪を持つ男は、地位や名誉よりも、国民の自主性と解放を第一に願って、この国へとやってきたのだ。
「あの野郎、何だってよ?」
「密かにみなさんの軍師となって、腐敗していた王族制を廃止させたのです。本人ははっきりとは言いませんが」
「ノーマルはそうなんだろ。おかしなやつが混じってっから、世の中おかしくなってんだろ」
「そうかもしれませんね」
崇剛は曖昧な返事を返した。おかしくなっているように見えるのは人間の狭い視野からの見解であって、神からすれば、それは意味のあることなのだろう。何千年も何億年もの未来には、今起きていることが必要なことだったと、人はあとになって気づくものだ。
ジンの高いアルコールが喉をジリジリと炙る――サディスティックな遊び。
家で飲むのとは違うが、赤ワインの華やかな香りとミニシガリロが混じることで生まれる、また別の味わい。
青白い煙に包まれながら、崇剛と彰彦の距離感は少しずつ埋まってゆく。
「それから、あなたのことはファーストネームで呼び、丁寧語は使わないようにと、涼介には注意しておきました」
ジーパンの長い足は椅子の上で組み直され、ウェスタンブーツのスパーがカチャっと鳴った。
「サンキュウな。今日からホームだからよ、ベルダージュ荘が。らよ、苗字で呼ばれたり、お前さんみてえな話しかけられ方すっと、リラックスできねぇからな」
「そうでしょうね」
あくまでも丁寧語で決めてくる崇剛。彰彦は口の端でニヤリとし、言葉で軽いジャブを放った。
「お前さん、いつから、丁寧語で話すようになったんだ?」
小さい頃から、ですます口調だったのか。自身のことを私と呼ぶ――どうにも想像がつかない。
「十八歳の時からです」そう答える崇剛の脳裏では、
十四年前の十二月十九日、火曜日、十六時十七分五十秒――からです。
きちんとインデックスがついていた。
「そん時、何かあったのか?」
「丁寧語で話したほうが罠が成功する可能性が82.00%――を超えたからです」
しれっと答えてくる優雅な男は、どこまでもデジタルだった。
彰彦は鼻でふっと笑って、「お前さんらしい理由だな」ショットグラスを一気に煽った。
「ありがとうございます」
執事の前で言うように、崇剛は優雅に微笑んだが、彰彦はカウンターパンチを喰らわした。シルバリングをつけたゴツい手が、崇剛の腕を軽く叩きながら、
「おかしなこと言いやがって」
お礼を言うところではないのに、言ってくる。そんなことが時々あった。あれは何かの罠かと思ったが、素直に述べているだけなのだ――彰彦は今頃気づいた。
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