769 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
探偵は刑事を誘う/10
しおりを挟む
そこには、聖霊寮の窓へ冷静な水色の瞳をやり、神経質な横顔とターコイズブルーの細いリボンでわざともたつかせて縛った紺の長い髪で、相変わらず中性的で貴族的な男が座っていた。
優雅な笑みはいつも通りだったが、瞬間凍結させるような冷たさが、やけに印象的で、平時ではないことが国立にはよくわかった。
崇剛の背中を見るようになったダルレシアンは、何を神父が言い出すのか予測できた。それは長い年月に、たくさんの人から懺悔を聞いて手にしたデータからだ。教祖は何気ない振りで、懐中時計も持っていない自分の爪を見る癖を始めた。
猛吹雪を感じさせるような感情のない声色で、崇剛は話し出した。
「先日、こちらのようなことを、ある方から聞きましたよ。火のメシアを持つ者が、次々と転生する隣国――紅璃庵。そちらの国で昔から受け継がれている陰陽易の術式のひとつで、人型に切った紙に自身の息を吹きかけ、一種の呪詛のようなものを込め、遠く離れたところにある物事を知る、式神――という方法があると。そちらをできる方が、花冠国にもいらっしゃると」
策略家らしく遠回しな言い方をしてきた――。国立の鋭い眼光は崇剛を射るように見据え、吐き捨てるようにうなった。
「てめえ……」
死んだような目をしていても、同僚にはここでの会話は筒抜けだ。国立は言葉の続きを心の中で語る。
罠を張りやがったな。
昨日、どっから聞いてた――?
式神の話は帰り間際にした。その前は――
頬で視線を受け止めている崇剛は、デジタルに感情を切り捨てた。
前回会った時、あなたは自身の気持ちで悩んでいるように見えました。
面と向かって聞いても、答えていただけない可能性が高いです。
ですから、気を失ったふりをして、情報をいただきましたよ――
慈愛がありすぎる神父は、今は氷河期のようにどこまでもクールだった。
「それから、私の元へ同性を愛してしまったと、懺悔をしにこられた方がいました。ですから、私はこちらのように言いました」
少しの間のあと、中性的な唇が動いた。
「性別に関係なく、人を愛することは非常に尊いものであり、素敵なことです――と」
神の元で生きている神父は差別などしなかった。
私はあなたの気持ちを尊重します。
素直に自身の気持ちを想えない……。
そちらはとても辛いことであったと思います。ですが――
「さらに、そちらの方は相手の心を知りたいともおっしゃっていました。ですから、千里眼を使って聞き出し、こちらのように伝えました」
国立の心臓がドクンと大きく波打った。
「残念ながら、今のところは、私はあなたの気持ちに応えられません――と」
私が瑠璃を愛している――そちらの気持ちは厄落としでした。
すなわち、私が瑠璃を愛しているという気持ちは嘘だったのです。
ですが、あなたの気持ちを理解するためであったのかもしれません。
しかしながら、私は性的にどなたかを今まで愛したことはありません。
ですから、情報がありません。
従って、可能性が導き出せないのです。
私があなたを愛するという可能性はゼロではありません。
しかしながら、私は今あなたを愛していません。
ですから、私はあなたにきちんと断りましたよ――
下手に期待を持たせることは、結局のところ相手を傷つけるだけなのだ。それは決してしてはいけないこと。神父はよく心得ていた。
優雅な笑みはいつも通りだったが、瞬間凍結させるような冷たさが、やけに印象的で、平時ではないことが国立にはよくわかった。
崇剛の背中を見るようになったダルレシアンは、何を神父が言い出すのか予測できた。それは長い年月に、たくさんの人から懺悔を聞いて手にしたデータからだ。教祖は何気ない振りで、懐中時計も持っていない自分の爪を見る癖を始めた。
猛吹雪を感じさせるような感情のない声色で、崇剛は話し出した。
「先日、こちらのようなことを、ある方から聞きましたよ。火のメシアを持つ者が、次々と転生する隣国――紅璃庵。そちらの国で昔から受け継がれている陰陽易の術式のひとつで、人型に切った紙に自身の息を吹きかけ、一種の呪詛のようなものを込め、遠く離れたところにある物事を知る、式神――という方法があると。そちらをできる方が、花冠国にもいらっしゃると」
策略家らしく遠回しな言い方をしてきた――。国立の鋭い眼光は崇剛を射るように見据え、吐き捨てるようにうなった。
「てめえ……」
死んだような目をしていても、同僚にはここでの会話は筒抜けだ。国立は言葉の続きを心の中で語る。
罠を張りやがったな。
昨日、どっから聞いてた――?
式神の話は帰り間際にした。その前は――
頬で視線を受け止めている崇剛は、デジタルに感情を切り捨てた。
前回会った時、あなたは自身の気持ちで悩んでいるように見えました。
面と向かって聞いても、答えていただけない可能性が高いです。
ですから、気を失ったふりをして、情報をいただきましたよ――
慈愛がありすぎる神父は、今は氷河期のようにどこまでもクールだった。
「それから、私の元へ同性を愛してしまったと、懺悔をしにこられた方がいました。ですから、私はこちらのように言いました」
少しの間のあと、中性的な唇が動いた。
「性別に関係なく、人を愛することは非常に尊いものであり、素敵なことです――と」
神の元で生きている神父は差別などしなかった。
私はあなたの気持ちを尊重します。
素直に自身の気持ちを想えない……。
そちらはとても辛いことであったと思います。ですが――
「さらに、そちらの方は相手の心を知りたいともおっしゃっていました。ですから、千里眼を使って聞き出し、こちらのように伝えました」
国立の心臓がドクンと大きく波打った。
「残念ながら、今のところは、私はあなたの気持ちに応えられません――と」
私が瑠璃を愛している――そちらの気持ちは厄落としでした。
すなわち、私が瑠璃を愛しているという気持ちは嘘だったのです。
ですが、あなたの気持ちを理解するためであったのかもしれません。
しかしながら、私は性的にどなたかを今まで愛したことはありません。
ですから、情報がありません。
従って、可能性が導き出せないのです。
私があなたを愛するという可能性はゼロではありません。
しかしながら、私は今あなたを愛していません。
ですから、私はあなたにきちんと断りましたよ――
下手に期待を持たせることは、結局のところ相手を傷つけるだけなのだ。それは決してしてはいけないこと。神父はよく心得ていた。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?
さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。
私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。
見た目は、まあ正直、好みなんだけど……
「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」
そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。
「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」
はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。
こんなんじゃ絶対にフラれる!
仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの!
実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる