754 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
魔導師と迎える朝/7
しおりを挟む
「そうして、ボクは後継者の名前を言い残して、キミのところへ瞬間移動してきたんだ。だって、そうじゃなかったら……」
「自殺する方が大勢出たかもしれませんね」
「そう。宗教の集団心理っていうのは、ある意味難しくてね。ボクが突然いなくなったら、みんな死んだと――神の元へ行ったんだと信じきる。そうしたら、ボクの後に続くために、後追い自殺をする人間が出る可能性は大」
過去にもそんな過ちがあった。繰り返さずに、みんなの幸せを教祖は強く願ったのだった。
「国王を暗殺するつもりだったのですか?」
いかなる理由があろうとも、人は人を裁けない――殺すことは赦されない。薄闇の中で、ダルレシアンの瞳は何の感情も持っていなかった。
「国王が死ぬ可能性は非常に高かった。でも、百パーセントじゃない。だから、ボクは考えていないと言い訳もできる……。そうでしょ?」
とけている紺の髪が楽しげに、毛布の上で揺れた。
「強かな人ですね、あなたは」
この男の大胆さには脱帽する。ダルレシアンの体を抱きしめている崇剛の細い腕は、笑いの衝撃でカタカタと震えていた。
しかし、魔導師は真面目な顔で、首を横に振り、
「違う。ボクは小さい頃は泣いてばっかりだった。喜怒哀楽が激しくてね」
「そちらを制御するために、冷静な判断――理論を取り入れた」
笑いの渦から戻ってきて、崇剛は優雅に微笑んだ。この男とは共通点が多い。
「そう」いつどんな失敗をして学んだかまで記憶している精巧な頭脳。ダルレシアンは思い出して嫌悪感に襲われるのをさけた。
「ところで、崇剛?」
「えぇ」
「クリュダの発掘が好きってことなんだけど……」
「えぇ」
ふたりの脳裏に、聖戦争で戦わずして、勝利をしていた天使をそれぞれの角度から思い出したが、どう考えてもおかしいと踏んでいた。
「あれは嘘だよね?」漆黒の髪を指に巻きつけて、ダルレシアンは弄ぶ。
崇剛はまた笑いそうになったが、何とか堪えた。「なぜ、そのように思うのですか?」
神父の腕の中で、教祖は顔を上げて、甘ったるい口調で、「だって、そうでしょ?」と言って、戦いが始まる前のある言葉を口にした。
「作戦Bってラジュが言ってた。そのあと、プロファイリングって言った。シズキが反対してた。戦いが終わったあとのクリュダは、『いい演技の練習になりました』って言ってたよね? だから、クリュダの発掘好きは嘘の可能性が高いよね?」
「そうかもしれませんね」
崇剛も同じ場面を何ひとつ順番を違えずに思い出して、またくすくす笑い出した。
「何がおかしいの?」
「シズキ天使がそちらの作戦に乗ったことが、おかしいではありませんか?」
あの俺様天使が、笑いに参加したという事実が何よりも、爆笑の渦に陥れることだった。
「確かにそうかも? どうやって、ラジュはシズキにも仲間に加わるように、話をつけたんだろう?」
「謎のままかもしれませんね」
聞いたとして――可能性を導き出す。
俺様天使が怒るのは89.78%――
ラジュがのらりくらりと交わすのは99.98%――
よくできた策だ――、崇剛とダルレシアンは同じ結論にたどり着いた。
青白い明かりがほのかに照らす寝室に、虫の音がツーツーと忍び込む。風もない穏やかな夜で、微睡へと自然と誘われる。ダルレシアンは大きなあくびをして、間延びした声を出した。
「ん~……眠くなっちゃったなあ」
「今日はいろいろありましたからね」
「おやすみ、崇剛」まぶたの重みに耐えられず、聡明な瑠璃紺色の瞳は閉じられた。
「こちらで眠るのですか?」崇剛は体を少し離して、顔をのぞき込んだが、ダルレシアン から返ってくる返事は、「ZZZ……」だけだった。
「眠ってしまったみたいです。困りましたね」
崇剛の片腕をしっかりと下敷きにして眠ってしまった、男色家の疑いが張れないダルレシアン。ひとつのベッドに男ふたりで寝転がる静かな夜。そこを照らし出すのは、青白い得体の知れない明かり。
不意に吹いてきた風で窓がカタカタと震えると、崇剛にぞくっと寒気が襲った。空いている手で毛布を足元へ下ろし、風邪をひかないよう、ふたりで一緒にかぶる。
「ですが、私も……今日はくたびれたのです。たくさんの天使や霊の言葉や行動を見て、メシアを使いすぎたのかもしれません。ダルレシアンを……運ぶことはできな――」
崇剛は言えたのはそこまでで、冷静な水色の瞳もまぶたの裏に静かに隠れた。
「自殺する方が大勢出たかもしれませんね」
「そう。宗教の集団心理っていうのは、ある意味難しくてね。ボクが突然いなくなったら、みんな死んだと――神の元へ行ったんだと信じきる。そうしたら、ボクの後に続くために、後追い自殺をする人間が出る可能性は大」
過去にもそんな過ちがあった。繰り返さずに、みんなの幸せを教祖は強く願ったのだった。
「国王を暗殺するつもりだったのですか?」
いかなる理由があろうとも、人は人を裁けない――殺すことは赦されない。薄闇の中で、ダルレシアンの瞳は何の感情も持っていなかった。
「国王が死ぬ可能性は非常に高かった。でも、百パーセントじゃない。だから、ボクは考えていないと言い訳もできる……。そうでしょ?」
とけている紺の髪が楽しげに、毛布の上で揺れた。
「強かな人ですね、あなたは」
この男の大胆さには脱帽する。ダルレシアンの体を抱きしめている崇剛の細い腕は、笑いの衝撃でカタカタと震えていた。
しかし、魔導師は真面目な顔で、首を横に振り、
「違う。ボクは小さい頃は泣いてばっかりだった。喜怒哀楽が激しくてね」
「そちらを制御するために、冷静な判断――理論を取り入れた」
笑いの渦から戻ってきて、崇剛は優雅に微笑んだ。この男とは共通点が多い。
「そう」いつどんな失敗をして学んだかまで記憶している精巧な頭脳。ダルレシアンは思い出して嫌悪感に襲われるのをさけた。
「ところで、崇剛?」
「えぇ」
「クリュダの発掘が好きってことなんだけど……」
「えぇ」
ふたりの脳裏に、聖戦争で戦わずして、勝利をしていた天使をそれぞれの角度から思い出したが、どう考えてもおかしいと踏んでいた。
「あれは嘘だよね?」漆黒の髪を指に巻きつけて、ダルレシアンは弄ぶ。
崇剛はまた笑いそうになったが、何とか堪えた。「なぜ、そのように思うのですか?」
神父の腕の中で、教祖は顔を上げて、甘ったるい口調で、「だって、そうでしょ?」と言って、戦いが始まる前のある言葉を口にした。
「作戦Bってラジュが言ってた。そのあと、プロファイリングって言った。シズキが反対してた。戦いが終わったあとのクリュダは、『いい演技の練習になりました』って言ってたよね? だから、クリュダの発掘好きは嘘の可能性が高いよね?」
「そうかもしれませんね」
崇剛も同じ場面を何ひとつ順番を違えずに思い出して、またくすくす笑い出した。
「何がおかしいの?」
「シズキ天使がそちらの作戦に乗ったことが、おかしいではありませんか?」
あの俺様天使が、笑いに参加したという事実が何よりも、爆笑の渦に陥れることだった。
「確かにそうかも? どうやって、ラジュはシズキにも仲間に加わるように、話をつけたんだろう?」
「謎のままかもしれませんね」
聞いたとして――可能性を導き出す。
俺様天使が怒るのは89.78%――
ラジュがのらりくらりと交わすのは99.98%――
よくできた策だ――、崇剛とダルレシアンは同じ結論にたどり着いた。
青白い明かりがほのかに照らす寝室に、虫の音がツーツーと忍び込む。風もない穏やかな夜で、微睡へと自然と誘われる。ダルレシアンは大きなあくびをして、間延びした声を出した。
「ん~……眠くなっちゃったなあ」
「今日はいろいろありましたからね」
「おやすみ、崇剛」まぶたの重みに耐えられず、聡明な瑠璃紺色の瞳は閉じられた。
「こちらで眠るのですか?」崇剛は体を少し離して、顔をのぞき込んだが、ダルレシアン から返ってくる返事は、「ZZZ……」だけだった。
「眠ってしまったみたいです。困りましたね」
崇剛の片腕をしっかりと下敷きにして眠ってしまった、男色家の疑いが張れないダルレシアン。ひとつのベッドに男ふたりで寝転がる静かな夜。そこを照らし出すのは、青白い得体の知れない明かり。
不意に吹いてきた風で窓がカタカタと震えると、崇剛にぞくっと寒気が襲った。空いている手で毛布を足元へ下ろし、風邪をひかないよう、ふたりで一緒にかぶる。
「ですが、私も……今日はくたびれたのです。たくさんの天使や霊の言葉や行動を見て、メシアを使いすぎたのかもしれません。ダルレシアンを……運ぶことはできな――」
崇剛は言えたのはそこまでで、冷静な水色の瞳もまぶたの裏に静かに隠れた。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?
さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。
私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。
見た目は、まあ正直、好みなんだけど……
「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」
そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。
「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」
はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。
こんなんじゃ絶対にフラれる!
仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの!
実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる