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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
Time of judgement/27
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ダルレシアンの魔法攻撃で相打ちをしている敵も深くは攻めてこなかった。
嵐の前の静けさ――
崇剛はひとり蚊帳の外で、みんなの会話を聴きながらも、きっちり思案中だった。
今までの膨大なデータという海から必要なものを取り出す。
ナール天使は大鎌を投げていた――
――崇剛はいつの間にか、邪神界からの襲撃に遭った夜の庭に立っていた。月明かりは雲に隠れ、屋根の上に赤い目をしたナールが大鎌をかかげ、崇剛が戦闘している様子を眺めている姿があった。
三日月型をした大きな刃が鈍い銀色の光を放つ。
崇剛は紺の長い髪を激しく揺らしながら、ダガーで敵を迎えつつ考える。
あの大鎌は自身を倒すためだったのか。それとも、守るためだったのか。つまりは闇に葬り去ることのできる武器なのか、だ。
それが知りたい――。崇剛はその思いに強く駆られた。
ナールに直接聞いたとしても答えないだろう。ラジュが言っていた通り、相手は策士だ。その可能性が高いと崇剛が踏んでいるには、きちんとした理由がある。なぜなら、
ナールは天使ではないという可能性が89.78%――
だからだ。つまりは、自身の正体を偽って、戦いに混じっている。そんな人物に何を聞いても、突っぱねられる可能性は高い。それならば、別の方法で情報を手に入れるまでだ。
敵に押さえられた大鎌を取り戻す時の、行動にも疑問が残る。パチンと指を鳴らすと、物理的に戻ってくるのではなく、他の何かと交換しているような取り戻し方をしていた。
ナールは魔法を使えるのか――
そんな天使がいるという話は聞いたことがない。山吹色のボブ髪で、あらゆる矛盾を含んだマダラ模様の声の持ち主の素性を、崇剛はますます知りたがった。
意識が現実へ戻ってくると――、崇剛たちの両脇を、劣勢だと言って戻ってくる味方の足音と風圧がうごめいていた。
不安そうな顔をしている味方。勝利は確実だと微笑む敵。何かがズレたまま進む戦場の中で、崇剛は情報漏洩しないように、ひとり様子をうかがう。
(そうですね……?)
珍しく困った顔をしているラジュの金の長い髪が揺れている。
(それではこうしましょう)
崇剛のデジタルな頭脳で、情報を得るために適切な罠が瞬時に組み立てられた。
(他の方に協力していただきましょう)
策略的な聖霊師は味方から必要な人物を探り出す。この罠には、天使が要求される。ナールの武器について知りたいのだから。まず、ダルレシアンと瑠璃は真っ先に候補からはずされた。
「うおぉぉぉぉっっっ!!」
邪神界で鬨の声が上がる。正神界が逃げ腰の今がチャンスと言わんばかりに、全軍で一斉にこっちへ向かって走り出してきた。
敵との距離を千里眼で測りながら、崇剛の頭脳は光の速さの如く動く。冷静な水色の瞳は、真剣な顔をしているラジュのダガーがしまわれているだろう、太腿の内側を見て、
0.18%――違う――
絶対不動で、さっき守護天使になったばかりの、カミエの腰元に差してある日本刀を横目うかがうが、
23.27%――違う――
ナールの向こう側に立っている、パピルスに夢中なクリュダのシャベル。崇剛は心の中で首を横に振る。
36.35%――違う――
錫杖を両手でつかんで、万歳するように伸びをしているアドス。この計画に乗ってくれそうな天使としては可能性は高いが、
76.89%――違う――
否定の一途をたどり、白いゴスパンクに身を包み、銀の長い前髪を不機嫌に揺らしているシズキ。今は影になって見えないが、太腿の外側にあるホルスターにしまわれた、拳銃――フロンティア シックス シューター。冷静な水色の瞳でターゲッティングした。
(彼であるという可能性が85.92%―― 一番高いでしょうね)
天使に心の声など筒抜けたが、崇剛は罠という舞台でシズキを踊らせようとした。
(どのようにしたら、動いていただけるでしょう? そうですね……?)
劣勢の割には、不思議と悔やんだり、悲鳴を上げもしない味方の兵たちを背にして、崇剛の罠は組み立てられてゆく。
みるみる迫ってくる敵の軍勢を前にして、シズキはラジュとダルレシアンのふたりを挟んだ向こう側に佇む、崇剛の神経質な横顔を見ようと、少しだけ後ろへ背をそらした。
シズキの鋭利なスミレ色の瞳が、崇剛の冷静な水色の瞳を見ることはなく、ちょうどすれ違いに、優雅な神父は戦場を真正面に見つめてしまった。
嵐の前の静けさ――
崇剛はひとり蚊帳の外で、みんなの会話を聴きながらも、きっちり思案中だった。
今までの膨大なデータという海から必要なものを取り出す。
ナール天使は大鎌を投げていた――
――崇剛はいつの間にか、邪神界からの襲撃に遭った夜の庭に立っていた。月明かりは雲に隠れ、屋根の上に赤い目をしたナールが大鎌をかかげ、崇剛が戦闘している様子を眺めている姿があった。
三日月型をした大きな刃が鈍い銀色の光を放つ。
崇剛は紺の長い髪を激しく揺らしながら、ダガーで敵を迎えつつ考える。
あの大鎌は自身を倒すためだったのか。それとも、守るためだったのか。つまりは闇に葬り去ることのできる武器なのか、だ。
それが知りたい――。崇剛はその思いに強く駆られた。
ナールに直接聞いたとしても答えないだろう。ラジュが言っていた通り、相手は策士だ。その可能性が高いと崇剛が踏んでいるには、きちんとした理由がある。なぜなら、
ナールは天使ではないという可能性が89.78%――
だからだ。つまりは、自身の正体を偽って、戦いに混じっている。そんな人物に何を聞いても、突っぱねられる可能性は高い。それならば、別の方法で情報を手に入れるまでだ。
敵に押さえられた大鎌を取り戻す時の、行動にも疑問が残る。パチンと指を鳴らすと、物理的に戻ってくるのではなく、他の何かと交換しているような取り戻し方をしていた。
ナールは魔法を使えるのか――
そんな天使がいるという話は聞いたことがない。山吹色のボブ髪で、あらゆる矛盾を含んだマダラ模様の声の持ち主の素性を、崇剛はますます知りたがった。
意識が現実へ戻ってくると――、崇剛たちの両脇を、劣勢だと言って戻ってくる味方の足音と風圧がうごめいていた。
不安そうな顔をしている味方。勝利は確実だと微笑む敵。何かがズレたまま進む戦場の中で、崇剛は情報漏洩しないように、ひとり様子をうかがう。
(そうですね……?)
珍しく困った顔をしているラジュの金の長い髪が揺れている。
(それではこうしましょう)
崇剛のデジタルな頭脳で、情報を得るために適切な罠が瞬時に組み立てられた。
(他の方に協力していただきましょう)
策略的な聖霊師は味方から必要な人物を探り出す。この罠には、天使が要求される。ナールの武器について知りたいのだから。まず、ダルレシアンと瑠璃は真っ先に候補からはずされた。
「うおぉぉぉぉっっっ!!」
邪神界で鬨の声が上がる。正神界が逃げ腰の今がチャンスと言わんばかりに、全軍で一斉にこっちへ向かって走り出してきた。
敵との距離を千里眼で測りながら、崇剛の頭脳は光の速さの如く動く。冷静な水色の瞳は、真剣な顔をしているラジュのダガーがしまわれているだろう、太腿の内側を見て、
0.18%――違う――
絶対不動で、さっき守護天使になったばかりの、カミエの腰元に差してある日本刀を横目うかがうが、
23.27%――違う――
ナールの向こう側に立っている、パピルスに夢中なクリュダのシャベル。崇剛は心の中で首を横に振る。
36.35%――違う――
錫杖を両手でつかんで、万歳するように伸びをしているアドス。この計画に乗ってくれそうな天使としては可能性は高いが、
76.89%――違う――
否定の一途をたどり、白いゴスパンクに身を包み、銀の長い前髪を不機嫌に揺らしているシズキ。今は影になって見えないが、太腿の外側にあるホルスターにしまわれた、拳銃――フロンティア シックス シューター。冷静な水色の瞳でターゲッティングした。
(彼であるという可能性が85.92%―― 一番高いでしょうね)
天使に心の声など筒抜けたが、崇剛は罠という舞台でシズキを踊らせようとした。
(どのようにしたら、動いていただけるでしょう? そうですね……?)
劣勢の割には、不思議と悔やんだり、悲鳴を上げもしない味方の兵たちを背にして、崇剛の罠は組み立てられてゆく。
みるみる迫ってくる敵の軍勢を前にして、シズキはラジュとダルレシアンのふたりを挟んだ向こう側に佇む、崇剛の神経質な横顔を見ようと、少しだけ後ろへ背をそらした。
シズキの鋭利なスミレ色の瞳が、崇剛の冷静な水色の瞳を見ることはなく、ちょうどすれ違いに、優雅な神父は戦場を真正面に見つめてしまった。
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