上 下
730 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜

Time of judgement/26

しおりを挟む
 この戦いが始まる前から、いつ誰がどんな言葉を言って、何が本当の目的で戦っているのか。そうして今、少し様子のおかしい天使たちの意味は何なのか。

 心を聞かれてしまう状況下では質問することも思い浮かべることもできない。それでも、崇剛とダルレシアンはそれぞれ必要な情報を得るのに、素早くまわりを見渡した。

 珍しく神妙な顔つきをしているラジュの隣に立っている、カミエは誰とも視線を合わせないように、遠くの空をじっと見つめている。

 ナールは相変わらずで、大鎌を手裏剣のように投げては、戻ってこなくなると、色情魔のポケットに入っているアイテムと交換して、武器を取り戻している。

 シズキは拳銃を抜く気配もなく、ナルシスト的にポーズを決めて立っていて、アドスは戦場で戦い続けている味方をただただ眺めているだけだった。

 そうして、崇剛とダルレシアンの瞳は最後に、クリュダを見たが、彼はパピルスに夢中で論外だった。

(そちらが本当の目的だったみたいです。目標に達したのかもしれません)
(それが本当だったかも? 必要なくなったのかも?)

 何重にも張られた神の戦略を、人間ふたりの策士は読み切った。

「そういうことみたいです」
「そういうことかも?」

 崇剛とダルレシアンは同時に口にした。

 策略家神父と教祖の注目すべき点は、メインのメンバーで唯一女性――瑠璃のことだった。

 心は相手に筒抜け――。正直で素直な人には嘘がつけない。つまり、ラジュが最初に説明していた話は何かが嘘なのだ。

 冷静な水色の瞳と聡明な瑠璃紺色の瞳が出会うと、お互い微笑み合った。そんなことをしていると、噂の瑠璃が崇剛たちの元へ走り込んできた。

「すまぬ! 札が失くなっての」
「瑠璃さん、構いませんよ」

 崇剛は茶色いロングブーツを細身をさらに強調させるように左右へクロスする寸前のポーズを取ったまま、聖女を背中でかばった。

「瑠璃姫を守るナイトだね、俺たちは」

 魔除のローズマリーの香りに乗せられた、ダルレシアンの柔らかな声に、瑠璃はびっくりして、素っ頓狂な声を上げた。

「ひ、姫!? な、何じゃ!?」

 ベルダージュ荘で暮らしてきた百年近くの歳月で、そんな呼び方をする人物は誰もいなかった。瑠璃は変な汗をじわりと手のひらにかく。

 白いローブの背中を見せたまま、ダルレシアンは首だけで振り返り、小さな聖女の若草色の瞳があるだろうところをじっと見つめた。

「だって、そうでしょ? 瑠璃姫は女の子なんだから」

 聖女の扇子のような袖をともなった小さな指は、魔導師へ突きつけられ、

「は、恥ずかしいからやめぬか! その呼び方は。戦っておる最中であろう!」

 ダルレシアンは直接見ることは叶わないが、憤慨している少女が容易に想像できて、少しだけ笑う。

「ふふっ。ボクもかっこいい・・・・・って言われたら、とっても恥ずかしいかも?」
「ならば何故なにゆえ、我に申すのじゃ?」
「悪戯かも?」

 味方は劣勢だと言って戻ってきているのに、遊んでいる魔導師に、ラジュから注意が入ったが、

かも・・ではありません~。確信犯です~」

 ツッコミポイントがズレていた。恋のライバルという炎がバックにメラメラと燃え盛っているような、戯言天使だった。

「ラジュは瑠璃姫に気があるのかな?」
「おや~? そのように聞くとは、あなたこそ好意を持っているんではないんですか?」

 ちょっかいを出して――。片目だけ開かれたヴァイオレットの瞳は、世界を恐怖で震え上がらせるような凄みを持っていた。

 見えていないダルレシアンは怯えることなく、困った顔をして小首を可愛くかしげた。

「あれ~? そうだったかな?」

 そうして、ラジュとダルレシアンで一悶着始まる。

「とぼけるつもりですか~?」
「あれ? そうだったかな?」
「とぼけるつもりですか~?」
「あれ? そうだったかな?」
「とぼけるつもりですか~?」

 壊れたおもちゃみたいに、さっきから同じ繰り返しで、痺れを切らしたシズキは形のいい眉をピクつかせながら、火山が噴火した如く叫んだ。

「貴様らは、リピートするやまびこか!」

 まわりで聞いていた味方全員が驚きの声を上げた。

「どれだけ繰り返す気だ!」
「お前たち、遊ばないよ? 真面目にやって」

 そう言うナールの攻撃の手も止まっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。

猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。 『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』 一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。

処理中です...