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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

Time of judgement/11

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 瑠璃色の貴族服がまた前へ倒れる前に、ダルレシアンが真正面に立ち、小刻みに揺れている崇剛の両方の肩に手を置いた。

「崇剛、冷静になって。まだ戦い中~」

 笑っている暇はない。盲目のダルレシアンにとっては、崇剛は命綱だ。

 渦の中に片足が引き込まれ始めていたが、崇剛は何とか笑いから戻ってきた。唇に当てていた手の甲を離して、魔導師に優雅な笑みを見せる。

「お気遣い、ありがとうございます」
「ふふっ」

 とても嬉しそうに、ダルレシアンは笑い声をもらす。教祖だって笑いたいのだ。このおかしな攻撃を音だけで聞いているにしても。

    *

 無住心剣流で振るわれていた日本刀は鞘に収まっていた。

 カミエの無感情、無動のカーキ色をした瞳は、どこまでも落ち着き払っていた。

 動くもののいない戦場を風が吹き抜けてゆく。砂埃が舞い、白い袴がはためく。武道家――カミエは百人近くの敵とひとり対峙する。

 待ち続ける武術――合気あいき。自身からは仕掛けず、カミエの絶対不動という特徴が冴え渡る技。

 修業の果てに手に入れた、霊体の気の流れが、カミエの脳裏で視覚化されている。

 一色触発――。

 風がにわかに強く吹くと、敵との間に張り詰めていた空気が一気に崩れた。

 カミエの武道というアンテナが素早く反応する。

 くる!
 右、殺気。

 袴の袖が微かに揺れるが、どこか別のところを見ているような瞳で、刀を振りかざしながら走り込んでくる敵を、ただただじっと待つ。

 相手の呼吸に合わせる。
 操れる支点……それを奪う。

 無意識で体が勝手に反応する。

 触れた瞬間に、肩甲骨まわりで円を描く。
 合気――。

 カミエの節々がはっきりとした手は、艶やかに敵の刀をさけ、相手の手の甲に軽く触れた。上弦を描くように後ろへ反転させる。

「うわっ!」

 敵はうめき声を上げ、魔法でも使ったように体全体が空中でくるっと前転し、背中から地面に強く叩きつけられた。

 どさっと砂袋でも落ちるかのように、敵は意識を失い、その場で武器は力なく荒野の土の上に転がった。

 留まることなく次の敵がやってくる。

 くる!
 左、殺気。

 さっきと同じ動作を、反対側の手――左に切り替える。大きな剣をかかげて、敵は走る衝動で体を揺らしながら、襲いかかってくる。

 殺気むき出しで、カミエを殺そうとする敵に、武術の達人は素手で待ち構えた。

 相手の呼吸。
 操れる支点。
 円を描く。
 合気。

 左手が内側へ円を描くような仕草をすると、敵の剣を持つ手を外側から攻める――交わすような位置になった。

 間合いがゼロになると同時に、カミエは手の甲で敵を払うように外側へほんの少しだけ押す――のではなく、触れるという表現がぴったりだった。

「くっ!」

 敵が息を詰まらせる。体は軽々と空中を前転し、立ち上がれないように背中から地面に強く叩きつけられた。

 相手の数は百人近く。このままでは、何人も同時に走り込んできて、修羅場とかす。合気の達人――カミエは次の一手を投じた。

 正中線、強化。

 あたりの空気が一瞬にして変わった。

 ビリビリと全身を麻痺させるような痺れ。それが何かと問われれば、教会にいるような高いところから大きなものに見下ろされている畏敬としか言いようがない。

 敵はジリジリと後退あとずさりする。

 カミエの体からは、一本の線が上下にピンと張り詰めたように貫通しているようだった。その場から一歩も動かないまま、切れ長なカーキ色の瞳で敵を見据える。

(正中線を強化させると、相手に恐怖心が持たせることができる。すなわち、相手を牽制けんせいすることができる)

 敵たちは手がぶるぶると勝手に震え出し、武器の金属がすれるかちゃかちゃとした音が、荒野に小さくひしめき合った。

 風がヒュルヒュルと吹き抜け、カミエの深緑をした短髪をなでるように揺らす。

 天使がひとりに敵が大勢――。

(合気は護身術だ。だから、自分から向かっていって、かけるようなことはしない)

 ふと無風になった。それが合図というように、敵が再び動き出した。

 細いポールの上で絶妙にバランスを取るように、体は居着くことなく、ゆらゆらとしながら、カミエは荒野に立ち続ける。

 殺気!
 右。左。右前方。前方。

 小さな石を積み上げるように、ひとつひとつの動作を、カミエは丁寧にこなしてゆく。敵に触れるたびに、白い袖口が髪が艶やかに揺れ動く。

 ミスをすることなく、合気の達人は敵に触れては、地面へと落としていたが、やはり多勢に無勢。真正面を向いたまま、カミエは自身に降りかかる危機を察知した。

 後方、左右同時!
 振り返るのは間に合わん。
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