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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

Time of judgement/1

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「五、四、三、二、一。始まりましたよ~」

 ラジュのカウントダウンが終わると、シャボン玉が割れたように結界が消え去る感覚がした。

「ウォォォッッ!!!!」

 両軍から鬨の声が凄まじい雷鳴のように一斉に上がった。

 最後の砦――崇剛たちを残して、他の天使や霊たちが彼らを次々に追い越し、敵陣へ向けて突進してゆく。

 旧聖堂はホログラムのように透き通り、霊界に広がる荒野にぽつんと建っている。土煙が茶色い霧のように舞い上がり、戦場はたちまち不鮮明になった。

 白いロングコートをなびかせながら、シズキの鋭利はスミレ色の瞳は、ニコニコしているラジュに突き刺すように向けらた。

「貴様、今回は何人はべらせた?」
「はべらせてなどいませんよ」

 ラジュマジックを放つ女性的な男は、金の髪を横へゆっくりとしらした。

「何人連れてきた?」

 カミエは思った。この男は好きこのんで女を引き連れているわけではない。シズキのように言っては、否定するのが当然だと。

 ラジュはこめかみに人差し指を突き立て、小首をかしげる。

「そうですね~? ざっと千人といったところでしょうか~? 気絶した方もいらっしゃいましたが」

 アドスはラジュのすぐ隣に猛スピードで近づいて、目をギラギラと輝かせた。

「全員、女の人っすか?」
「そうです~」
「可愛い子ばっかりすか?」

 手のひらを胸の前ですりすりしながら、アドスは敵陣を興味津々で眺めた。シズキのスミレ色をした鋭利な瞳は、軽蔑の眼差しを送る。

「貴様の煩悩ぼんのうは星の数ほどあるんだな」

 羽布団みたいな声で、クリュダは少し悔しそうにうなった。

「残念! ちょっと間違えちゃいました。種類は増えません」
「そうね。シズキ、勉強不足」

 風が吹くたび、はだけた白いシャツの襟から鎖骨が見え隠れする、ナールはルビーのように赤い目に、俺様天使の横顔を映した。

「どういうことだ?」

 まさか、ナールにまで注意されると思っていなかった、シズキが首を傾げると、銀の長い前髪がサラサラと動いた。

 クリュダは握った拳を口元へ当てて、咳払いをする。

「こほん! 説明しちゃいましょう」

 両手を腰の後ろで組み、足をきちんとそろえ、長々と教授し始めた。

「人には目、耳、鼻、舌、身、そうして、意――心の感覚の、六つを持っていると言われています」

 白いチャイナドレスは右へ左へ行ったり来たりする。

「その感覚の受け取り方は、良、悪、平の三つ。それに加えて、浄――綺麗と染――けがれの二つに分類されます」

 彼らの両脇を走り抜けてゆく軍勢の間で、クリュダの話は続いてゆく。

「これを掛け算をします。ですから、6×3×2=36個になるわけです」

 荒野の乾いた風が、穏やかな春のものに変わったように、優しい説明は終わりを迎えた。

「そのような人生を人は送るため、前世、現世、来世の三つをさらにかけます。ですから、煩悩は百八つということです」

 ナールのデッキシューズは荒野の上で軽くクロスさせれ、論破してきた。

「アドスは天使だから転生してないじゃん?」

 カミエが真面目な顔をして、シズキに話のトドメを刺そうとした。

「前世がない。だから、百八より少な――」

 天使たちの揉め事をさっきから黙って聞いていた、ダルレシアンは手のひらを軽く握って、自分の爪を聡明な瑠璃紺色の瞳で眺めながら、崇剛に問いかけた。

「女性を気絶させるってどういうこと?」

 にわかに信じがたい話。金髪でニコニコの天使を見ることはできないが、凛とした澄んだ女性的な声を持つ男性天使。

 彼が危険人物みたいな話になっている。ダルレシアンにはそう思えた。

 崇剛の冷静な水色の瞳は、ダルレシアンに向けられ、優雅に微笑む。

「ラジュ天使は特異体質をしていらっしゃいます」
「どういうの?」
「ラジュ天使が通ると、近くにいらしゃった女性が気絶するのです」

 ある意味、無差別テロ。
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