703 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
Before the battle/10
しおりを挟む
さっきからずっとポーズを決めていたシズキは、今にも刺し殺しそうな鋭利なスミレ色の瞳を敵の真正面へ向けたまま、
「敵の数は?」
自身も消滅して死ぬかもしれないというのに、ラジュの辞書にはシリアスという言葉は存在していなかった。ニコニコしながら、
「約五十万飛んで三千四百五十七人です~」ゆるゆる~っと語尾を伸ばすと、「カミエ、出番が来ましたよ~」
「しかと受け取った!」
修業バカ天使は彼なりの笑み――目を細めて、地鳴りのような低い声で突っ込んだ。
「意・味・不・明、だ。一桁まではっきり言っている」
次々に笑いという罠を仕掛けてくるラジュの前で、崇剛はとうとう手の甲を唇に当てて、くすくす笑い出した。
「なぜ、約なのでしょう? そちらの言葉を使うのであれば、約五十万三千人でよいのではありませんか」
本当の意味での聖戦争へと、千里眼の持ち主と魔導士は巻き込まれていたが、ラジュの慈悲でまったく深刻にはならなかった。
囮役のメシア保有者のふたりと同じ次元へと、天使たちは降臨してきた。
ラジュはニコニコしていたが、声色はいつもよりトーンが低く真剣味を増していた。
「崇剛、ダルレシアン?」
呼ばれたふたりからも微笑みは消え、真摯な眼差しでラジュを見つめ返した。
「えぇ」
「何?」
祭壇を背にして身廊に並んで立っている、一番狙われるであろうふたりを前にして、ラジュの凛とした澄んだ声が、静まり返っている空間に響き渡った。
「肉体を持ったままでは不利ですので、私とカミエでふたりを幽体離脱させます。参列席へ座ってください」
いよいよシリアスに話が進みそうだったが、
「立ったまま幽体離脱させると、肉体が倒れてしまいますからね。そちらでも、私個人としては構わないのですが~、うふふふっ」
ラジュの含み笑いは、地獄へ突き落とすような不気味さを含んでいた。
「えぇ、構いませんよ」
瑠璃色の貴族服は左側へそれ、ダルレシアンの白いローブは右へと分かれた。
「どんな感じになるの?」
「してみればわかりますよ~」
参列席にそれぞれ座ると、崇剛の背後へラジュが立ち、ダルレシアンの背後にはカミエが構えた。
「それではいきますよ。シャアッ!!」
猫がケンカしているみたいなラジュの声が響くと、待機していた天使はみんな首を傾げた。
「その叫び声は何だ?」
「押せばいいだけだ。声は余計だ」
カミエはあきれた顔をしながら、ダルレシアンの霊体の右肩をずらすように前へ押した。
茶色いロングブーツは戸惑うことなく、身廊の白く濁っている大理石の上へ、優雅に歩み出てきた。
「ふ~ん、こんな感じなんだ」
ダルレシアンも慣れないながらも、同じように中央へ出てきて、
「うわ~、体が軽いね」
初めての体験をしっかりと脳に記憶した。慣れている崇剛の補足がつく。
「重力は十五分の一で、自身の想像した通りにある程度は動けます」
「そう」
自分が自分を見ている状態――幽体離脱。
「あ、ボクだ」
正体不明になった崇剛とダルレシアンの肉体が、机の上にそれぞれ突っ伏していた。
「ダルレシアン? みなさんを見えるようになりましたか?」
視界が効かないというのは、戦うにはかなりの不利だ。しかし、同じ魂となれば、見えるという可能性が上がると、崇剛は読んでいた。
聡明な瑠璃紺色の瞳に、霊界の荒野を映そうとする。
「ん~?」
ダルレシアンが可愛く小首をかしげると、高く結い上げた漆黒の髪がローブの肩からサラサラと落ちた。
「ダルレシア~ン、見えますか~? ラジュです~」
ラジュは魔導師の顔をのぞき込もうと、少し屈んでみた。金髪がダルレシアンの瞳に映るが、どこか焦点が合わないようだった。
振っていた手のひらの前に、アドスのガタイのいい体が割って入ってくる。
「ダルレさん、どうすか?」
「ん~ん?」
ダルレシアンは眉間にシワを寄せて、反対側に首を傾げると、髪がサラサラと背中で大きく揺れた。
「見えますか? クリュダです」
三人の天使が目の前に立っていたが、ダルレシアンの聡明な瞳はまったく反応しなかった。
「う~ん、声は聞こえるけど、見えないね」
「敵の数は?」
自身も消滅して死ぬかもしれないというのに、ラジュの辞書にはシリアスという言葉は存在していなかった。ニコニコしながら、
「約五十万飛んで三千四百五十七人です~」ゆるゆる~っと語尾を伸ばすと、「カミエ、出番が来ましたよ~」
「しかと受け取った!」
修業バカ天使は彼なりの笑み――目を細めて、地鳴りのような低い声で突っ込んだ。
「意・味・不・明、だ。一桁まではっきり言っている」
次々に笑いという罠を仕掛けてくるラジュの前で、崇剛はとうとう手の甲を唇に当てて、くすくす笑い出した。
「なぜ、約なのでしょう? そちらの言葉を使うのであれば、約五十万三千人でよいのではありませんか」
本当の意味での聖戦争へと、千里眼の持ち主と魔導士は巻き込まれていたが、ラジュの慈悲でまったく深刻にはならなかった。
囮役のメシア保有者のふたりと同じ次元へと、天使たちは降臨してきた。
ラジュはニコニコしていたが、声色はいつもよりトーンが低く真剣味を増していた。
「崇剛、ダルレシアン?」
呼ばれたふたりからも微笑みは消え、真摯な眼差しでラジュを見つめ返した。
「えぇ」
「何?」
祭壇を背にして身廊に並んで立っている、一番狙われるであろうふたりを前にして、ラジュの凛とした澄んだ声が、静まり返っている空間に響き渡った。
「肉体を持ったままでは不利ですので、私とカミエでふたりを幽体離脱させます。参列席へ座ってください」
いよいよシリアスに話が進みそうだったが、
「立ったまま幽体離脱させると、肉体が倒れてしまいますからね。そちらでも、私個人としては構わないのですが~、うふふふっ」
ラジュの含み笑いは、地獄へ突き落とすような不気味さを含んでいた。
「えぇ、構いませんよ」
瑠璃色の貴族服は左側へそれ、ダルレシアンの白いローブは右へと分かれた。
「どんな感じになるの?」
「してみればわかりますよ~」
参列席にそれぞれ座ると、崇剛の背後へラジュが立ち、ダルレシアンの背後にはカミエが構えた。
「それではいきますよ。シャアッ!!」
猫がケンカしているみたいなラジュの声が響くと、待機していた天使はみんな首を傾げた。
「その叫び声は何だ?」
「押せばいいだけだ。声は余計だ」
カミエはあきれた顔をしながら、ダルレシアンの霊体の右肩をずらすように前へ押した。
茶色いロングブーツは戸惑うことなく、身廊の白く濁っている大理石の上へ、優雅に歩み出てきた。
「ふ~ん、こんな感じなんだ」
ダルレシアンも慣れないながらも、同じように中央へ出てきて、
「うわ~、体が軽いね」
初めての体験をしっかりと脳に記憶した。慣れている崇剛の補足がつく。
「重力は十五分の一で、自身の想像した通りにある程度は動けます」
「そう」
自分が自分を見ている状態――幽体離脱。
「あ、ボクだ」
正体不明になった崇剛とダルレシアンの肉体が、机の上にそれぞれ突っ伏していた。
「ダルレシアン? みなさんを見えるようになりましたか?」
視界が効かないというのは、戦うにはかなりの不利だ。しかし、同じ魂となれば、見えるという可能性が上がると、崇剛は読んでいた。
聡明な瑠璃紺色の瞳に、霊界の荒野を映そうとする。
「ん~?」
ダルレシアンが可愛く小首をかしげると、高く結い上げた漆黒の髪がローブの肩からサラサラと落ちた。
「ダルレシア~ン、見えますか~? ラジュです~」
ラジュは魔導師の顔をのぞき込もうと、少し屈んでみた。金髪がダルレシアンの瞳に映るが、どこか焦点が合わないようだった。
振っていた手のひらの前に、アドスのガタイのいい体が割って入ってくる。
「ダルレさん、どうすか?」
「ん~ん?」
ダルレシアンは眉間にシワを寄せて、反対側に首を傾げると、髪がサラサラと背中で大きく揺れた。
「見えますか? クリュダです」
三人の天使が目の前に立っていたが、ダルレシアンの聡明な瞳はまったく反応しなかった。
「う~ん、声は聞こえるけど、見えないね」
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?
さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。
私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。
見た目は、まあ正直、好みなんだけど……
「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」
そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。
「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」
はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。
こんなんじゃ絶対にフラれる!
仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの!
実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。
【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。
猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。
『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』
一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる