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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

Before the battle/4

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 人がふたりに、天使が三人、そうして守護霊がひとり。

 だったが、不意にもうひとり、立派な両翼を広げた天使が現れた。崇剛の水色の瞳はついっと細められる。

(どなたでしょう?)

 カミエに勝る背丈。ガッチリとした体躯なのに、優しさと穏やかさに満ちあふれている。肩につかないほどの、オレンジ色の細かいウェーブ髪が湿った秋風にゆったりと揺れる。

 崇剛の中で誰かの面影と重なった――。その守護天使であるという可能性が高いと踏んだ。

 透き通るほどの蒼色そうしょくの瞳。優しさがこぼれ落ちるほど、にっこり微笑んで、崇剛の前まで歩み出てきた。

「初めまして。乙葉 瞬の守護天使をしています。クリュダと申します」

 白いカンフースタイルのチャイナワンピースにスボン。足元は歩きやすそうなフラットなシューズ姿の天使だった。

 天使に頭を深々と下げられた、人間の崇剛も同様に深くこうべを垂れる。

「こちらこそ、初めまして。崇剛 ラハイアットと申します。よろしくお願いいたします」

 瞬本人とは毎日顔を合わせていたが、天使から姿を見せない以上、崇剛にとっては今日が初顔合わせだった。

 笑いの渦から一転して、和やかな雰囲気にあたりは包まれた。

 物腰が丁寧なクリュダの瞳は、今度は不機嫌極まりないシズキへ向けられる。

「お久しぶりです。瞬がいつもお世話になっています」

 パパ同士が授業参観で挨拶をしているような温和な空気だったが、俺様天使に一気に破壊された。

「貴様の頭はなぜ、そんなに壊れている?」

 シズキは鼻でバカにしたように笑い、

「国立 彰彦と乙葉 瞬は、会っても話を交わしたことがない。俺は世話になってもいないし、してもいない」

 そうして、吐き捨てるように聞き返した。

「貴様になぜ、世話になっていると言われる義理がある?」

 引いてしまいそうな物言いだったが、クリュダはマイペースでにっこり微笑んだ。

「君はいつでも例えが上手です。元気でいらっしゃいましたか?」
「俺を誰だと思って、貴様は口を効いている? 俺はいつでもどこまでも完璧だ。それを改めて聞くとは笑止千万だな。相変わらず、貴様の頭の中はお花畑だ」

 ひねくれな言葉が響くと、もうひとり現れた。背丈がバカに高く、白い修験者の格好をしたアドス天使だった。

「いや~、久しぶりっすね。シズキさん!」

 アドスはシズキに親しげに近ついていこうとしたが、俺さま天使は迷惑顔で、せっかくの可愛らしい顔も台無しになった。

「貴様に通告してやる、ありがたく思え」

 シズキは手のひらをアドスの前へ突き出し、それ以上近づくなというジェスチャーをした。

 神経質な手と銀の前髪で隠されている瞳を、アドスは交互に見ながら、

「何すか? その手は」
「ひとつ、俺に勝手に近寄るな。ひとつ、俺にその汚れた手で触るな。ひとつ、宗教アイテムを俺にくれるな。以上だ。同じことを何度も言わせるな。貴様のその耳はただの飾りか?」

 俺さまなルールを押しつけられたが、アドスはまったく気にしなかった。

「今日は違うっすよ」
「どう違う?」

 シズキは思いっきり疑いの眼差しで、アドスの手が近づいてくるのを警戒した。

「これは貴重なお守りっす!」

 さっきのひねくれ言葉は、アドスの中では無効化されていた。シズキの形のいい眉は怒りでひくつく。

「お守りも宗教アイテムだ。貴様は何を聞いて――」

 ゴスパンクの天使が話しているにも関わらず、彼のブレスレットをしている手を、アドスはガバッとつかんで、手のひらに小さなものを乗せた。

 やけに冷たい感触が広がり、嫌な予感を覚えたシズキは聞きたくないと思いながらも、

「……な、んだ? これは……」

 体の奥深くでぐつぐつと煮立っているマグマのような怒りを抑えながら、問いかけた。

 乾いた泥がついた手をパンパンと叩きながら、アドスの天色の瞳は純粋に屈託なく輝く。

「トカゲのしっぽっす。これに俺っちの念を込めたっすから、勝利は確実っすよ!」
「わざわざ取ってきたとはの。殺生せっしょうじゃな」

 聖女はこんなことが、神の使いである天使に許されるのかと訝しんだ。

 アドスは顔の前で手のひらを左右に振って、「瑠璃さん、違うっすよ」持ってくるのにどれだけ苦労したかを語ろうとした。
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