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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
天使が訪れる時/9
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天使の可愛らしく綺麗な顔は、怒りという引きつりを起こし始めた。
「…………」
そんなことにはお構いなしで、崇剛は理論をスラスラと口述する。
「先ほどのあなたの言葉、『こんな簡単なことも当てられないとは、策士の名が聞いてあきれる』は、こちらの意味にもなります。『私が情報を既に持っているのに、可能性を導き出せないとはな』です。従って、私が既に会ったことがある人物の守護天使であるという可能性が99.99%――です」
「…………」
天使は悔しそうに唇を噛みしめながら、形のいい眉が怒りでピクついていた。今にも崇剛の襟首をつかみそうなポーズを取る。
そこへ、容赦なく、策略的な聖霊師から言葉の続きが浴びせられた。
「否定しない、何も言わないということは、肯定しているということです。従って先ほどの可能性の数値は変わり、私の知っている人物の守護天使であるという不確定であるという可能性から、事実であるという可能性に変わり、そちらが99.99%――です」
何とか怒りを収めた天使は一旦視線をはずし、まわりの景色を乱暴に眺めると、フードがはずれた。
銀の髪が全貌を現す。襟首までの長さで、前髪は真ん中で分けられている。ワックスを使って左側だけ、耳の上へ綺麗な曲線を描く。
思わず吐息をもらすほど見た目は綺麗なのに、天使の口からこんな減らず口が出てきた。
「貴様が生まれてから会ってきた人間など、星の数ほどいる。どうやって、見つけるつもりだ? 判明する頃には貴様の肉体は滅び腐り切って、見るも無残な姿だろうな」
ひねくれで俺様な天使――。
聖霊師は優雅に足を組み替え、すでにそこも計算済みだったと正鵠を射る。
「特定するのは簡単です。なぜなら、今、恩田 元の魂を浄化しようとしています。まったく関係のない天使が関わることは、神によって赦されていないという可能性が99.99%――です」
崇剛は後れ毛を耳にかけ、まだまだ先を続ける。
「通常ならば、浄化のために降臨されるという可能性が一番高いのはラジュ天使です。ですが、ラジュ天使は戻ってきていません。従って、次に可能性が高いのはカミエ天使です。なぜなら、旧聖堂の悪霊の浄化はカミエ天使がしてくださいました。ですが、今も降臨されていません。そうなると、残るはふたり――です」
まるで探偵が犯人を探すように、崇剛は神経質な指をあごに当てて、エレガントに茶色のロングブーツを組み替えた。
「恩田 元と私の双方に関わっている人間――涼介。ですが、彼の守護天使、アドス天使には昨日会っています。従って――」
崇剛は天使に顔をやって、事実と可能性から導き出した天使の正体を口にした。
「国立氏――の守護天使――でありませんか?」
「…………」
天使の唇も鋭利なスミレ色の瞳も微動だにしなかったが、それが答えだった。
「瑠璃が先ほど会ったことがないと言っていました。私が国立氏に会うのは、彼女が眠っている昼間だけです。彼女が会ったことのない守護天使は、国立氏しか残らないのです」
天使は崇剛と反対方向へさっと顔を向け、思いっきり悔しそうにうなった。
「……くそっ! いや、怒ったら負けだ」
聖霊師の圧勝という形で会話がひと段落すると、中性的で少し柔らかい唇から聖なる名前が出てきた。
「ラジュ天使に以前、お名前はうかがったことがあります。ですから、あなたのお名前は、シズキ天使――ではありませんか?」
あっちへ行けみたいに手の甲を崇剛のほうへ押し出すようにして何度か払うと、天使の手首についていたバングルのチェーンがかちゃかちゃと鳴った。
「話はもういい。いいから早くダガーを使え。俺が浄化してやる、ありがたく思え」
「えぇ、よろしくお願いします」
一悶着あったが、物事が正常に動き出した。
崇剛はこの世で、浄化にあたる注意事項を患者に伝えようとする。
「恩田さん、今、天使が降臨されました」
「は、はい……」
元は前代未聞の出来事に身を引き締めた。
「…………」
そんなことにはお構いなしで、崇剛は理論をスラスラと口述する。
「先ほどのあなたの言葉、『こんな簡単なことも当てられないとは、策士の名が聞いてあきれる』は、こちらの意味にもなります。『私が情報を既に持っているのに、可能性を導き出せないとはな』です。従って、私が既に会ったことがある人物の守護天使であるという可能性が99.99%――です」
「…………」
天使は悔しそうに唇を噛みしめながら、形のいい眉が怒りでピクついていた。今にも崇剛の襟首をつかみそうなポーズを取る。
そこへ、容赦なく、策略的な聖霊師から言葉の続きが浴びせられた。
「否定しない、何も言わないということは、肯定しているということです。従って先ほどの可能性の数値は変わり、私の知っている人物の守護天使であるという不確定であるという可能性から、事実であるという可能性に変わり、そちらが99.99%――です」
何とか怒りを収めた天使は一旦視線をはずし、まわりの景色を乱暴に眺めると、フードがはずれた。
銀の髪が全貌を現す。襟首までの長さで、前髪は真ん中で分けられている。ワックスを使って左側だけ、耳の上へ綺麗な曲線を描く。
思わず吐息をもらすほど見た目は綺麗なのに、天使の口からこんな減らず口が出てきた。
「貴様が生まれてから会ってきた人間など、星の数ほどいる。どうやって、見つけるつもりだ? 判明する頃には貴様の肉体は滅び腐り切って、見るも無残な姿だろうな」
ひねくれで俺様な天使――。
聖霊師は優雅に足を組み替え、すでにそこも計算済みだったと正鵠を射る。
「特定するのは簡単です。なぜなら、今、恩田 元の魂を浄化しようとしています。まったく関係のない天使が関わることは、神によって赦されていないという可能性が99.99%――です」
崇剛は後れ毛を耳にかけ、まだまだ先を続ける。
「通常ならば、浄化のために降臨されるという可能性が一番高いのはラジュ天使です。ですが、ラジュ天使は戻ってきていません。従って、次に可能性が高いのはカミエ天使です。なぜなら、旧聖堂の悪霊の浄化はカミエ天使がしてくださいました。ですが、今も降臨されていません。そうなると、残るはふたり――です」
まるで探偵が犯人を探すように、崇剛は神経質な指をあごに当てて、エレガントに茶色のロングブーツを組み替えた。
「恩田 元と私の双方に関わっている人間――涼介。ですが、彼の守護天使、アドス天使には昨日会っています。従って――」
崇剛は天使に顔をやって、事実と可能性から導き出した天使の正体を口にした。
「国立氏――の守護天使――でありませんか?」
「…………」
天使の唇も鋭利なスミレ色の瞳も微動だにしなかったが、それが答えだった。
「瑠璃が先ほど会ったことがないと言っていました。私が国立氏に会うのは、彼女が眠っている昼間だけです。彼女が会ったことのない守護天使は、国立氏しか残らないのです」
天使は崇剛と反対方向へさっと顔を向け、思いっきり悔しそうにうなった。
「……くそっ! いや、怒ったら負けだ」
聖霊師の圧勝という形で会話がひと段落すると、中性的で少し柔らかい唇から聖なる名前が出てきた。
「ラジュ天使に以前、お名前はうかがったことがあります。ですから、あなたのお名前は、シズキ天使――ではありませんか?」
あっちへ行けみたいに手の甲を崇剛のほうへ押し出すようにして何度か払うと、天使の手首についていたバングルのチェーンがかちゃかちゃと鳴った。
「話はもういい。いいから早くダガーを使え。俺が浄化してやる、ありがたく思え」
「えぇ、よろしくお願いします」
一悶着あったが、物事が正常に動き出した。
崇剛はこの世で、浄化にあたる注意事項を患者に伝えようとする。
「恩田さん、今、天使が降臨されました」
「は、はい……」
元は前代未聞の出来事に身を引き締めた。
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