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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
Karma-因果応報-/18
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嵐の前の静けさ――。
束の間の守護列のいつも通り、三十二年間続いてきたやり取り。それがなくなってしまうかもしれないという、大きな出来事へと彼らは既に奥深くへ巻き込まれていたのだった。
「わ、我は眠るぞ」
恥ずかしさを隠すために、瑠璃は部屋から出ていった。彼女の後ろ姿がすうっと消えたドアを、冷静な水色の瞳に映しながら、崇剛は優雅に足を組み替える。
そうなのです。
瑠璃が愛しているのは瞬であり、瞬が愛しているのは瑠璃なのです。
微笑ましいカップルの話はここまでにして、崇剛はラジュの月のように美しい顔を見上げた。優雅な笑みは今はどこにもなく、真摯な眼差しだった。
「ラジュ天使、質問があります。よろしいでしょうか?」
未来を予測できる天使にとっては、驚くことでもなく、ラジュはニコニコの笑顔のまま、うなずくのだが、
「しても構いませんが、質問はひとつだけです。私もあなたに聞きたいことがあります」
「どのようなことですか?」
「あなたの感想です」
質問に答えれば、情報漏洩する。その防ぎ方の基本は、質問し返す。
「どちらの――」
だが、ラジュにさえぎられてしまった。
「おや~? 私は答えなくても構いませんが……。うふふふっ」
この天使が武器を持っていたら、今頃のど元に突き立てられていただろう、不気味な含み笑いが耳元で響いた。
崇剛は両方の手のひらを天井へ向けて、顔の高さまで上げ、優雅に降参のポーズを取った。
「仕方がありませんね」
「あなたを導く立場ですからね、私は。ですから、必要以上のことは教えませんよ~?」
ラジュに先手を取られた。不必要なことは教えないということだ。崇剛は大きな鍵を握るだろう、ただひとつの質問を投げかけた。
「ラジュ天使を神殿へ呼び出される時に、山吹色の髪で赤目をした天使がいらっしゃると聞きました。どのような言葉をおっしゃったのですか?」
ラジュはかなり困った顔をして、こめかみに人差し指を突き立てた。
「おや~? そのようなことがありましたか~?」
とぼけても無駄だ――。さっきの漆黒の髪を持つ少女が、情報源だ。
「瑠璃から昨夜聞いています」
「うふふふふっ。バレてしまいましたか~?」
ラジュはいつも通りだった。わざとわかるようなことを言う。天使の心に余裕がある証拠だった。
旧聖堂で気絶している崇剛を放置しようとした時のことを、ラジュは鮮明に思い返した。
「彼はこちらのように言っていました。『神さまからお前に伝えたいことがあんの』です~」
「そうですか」
崇剛はただ記録し、他の情報を頭の中で流しながら、導き出そうとしたが、ラジュの凛とした澄んだ女性的な声が続きを言ってきた。
「彼は何度きても、言葉は同じです。ですから……」
「えぇ」
崇剛は先を促した。ラジュの右目だけがまぶたから解放されたが、それは見なかったほうがいいと後悔したくなるような、邪悪なサファイアブルーの瞳だった。
「私や崇剛と同じ思考回路である可能性が非常に高いですよ~?」
神経質な指をあごに当てて、崇剛は優雅に微笑む。
「情報漏洩をさけるために、同じ言葉しか使わない――」
「そうかもしれませんね~」
ラジュは思う。あの男は、砕けた口調で言っていても、油断のならない存在だ。話をどんなに重ねても、無駄のない物言いをする。
もしかすると、自身や崇剛とは違った、別の思考回路を足算しているのかもしれない。その可能性が高いのではないだろうか。
束の間の守護列のいつも通り、三十二年間続いてきたやり取り。それがなくなってしまうかもしれないという、大きな出来事へと彼らは既に奥深くへ巻き込まれていたのだった。
「わ、我は眠るぞ」
恥ずかしさを隠すために、瑠璃は部屋から出ていった。彼女の後ろ姿がすうっと消えたドアを、冷静な水色の瞳に映しながら、崇剛は優雅に足を組み替える。
そうなのです。
瑠璃が愛しているのは瞬であり、瞬が愛しているのは瑠璃なのです。
微笑ましいカップルの話はここまでにして、崇剛はラジュの月のように美しい顔を見上げた。優雅な笑みは今はどこにもなく、真摯な眼差しだった。
「ラジュ天使、質問があります。よろしいでしょうか?」
未来を予測できる天使にとっては、驚くことでもなく、ラジュはニコニコの笑顔のまま、うなずくのだが、
「しても構いませんが、質問はひとつだけです。私もあなたに聞きたいことがあります」
「どのようなことですか?」
「あなたの感想です」
質問に答えれば、情報漏洩する。その防ぎ方の基本は、質問し返す。
「どちらの――」
だが、ラジュにさえぎられてしまった。
「おや~? 私は答えなくても構いませんが……。うふふふっ」
この天使が武器を持っていたら、今頃のど元に突き立てられていただろう、不気味な含み笑いが耳元で響いた。
崇剛は両方の手のひらを天井へ向けて、顔の高さまで上げ、優雅に降参のポーズを取った。
「仕方がありませんね」
「あなたを導く立場ですからね、私は。ですから、必要以上のことは教えませんよ~?」
ラジュに先手を取られた。不必要なことは教えないということだ。崇剛は大きな鍵を握るだろう、ただひとつの質問を投げかけた。
「ラジュ天使を神殿へ呼び出される時に、山吹色の髪で赤目をした天使がいらっしゃると聞きました。どのような言葉をおっしゃったのですか?」
ラジュはかなり困った顔をして、こめかみに人差し指を突き立てた。
「おや~? そのようなことがありましたか~?」
とぼけても無駄だ――。さっきの漆黒の髪を持つ少女が、情報源だ。
「瑠璃から昨夜聞いています」
「うふふふふっ。バレてしまいましたか~?」
ラジュはいつも通りだった。わざとわかるようなことを言う。天使の心に余裕がある証拠だった。
旧聖堂で気絶している崇剛を放置しようとした時のことを、ラジュは鮮明に思い返した。
「彼はこちらのように言っていました。『神さまからお前に伝えたいことがあんの』です~」
「そうですか」
崇剛はただ記録し、他の情報を頭の中で流しながら、導き出そうとしたが、ラジュの凛とした澄んだ女性的な声が続きを言ってきた。
「彼は何度きても、言葉は同じです。ですから……」
「えぇ」
崇剛は先を促した。ラジュの右目だけがまぶたから解放されたが、それは見なかったほうがいいと後悔したくなるような、邪悪なサファイアブルーの瞳だった。
「私や崇剛と同じ思考回路である可能性が非常に高いですよ~?」
神経質な指をあごに当てて、崇剛は優雅に微笑む。
「情報漏洩をさけるために、同じ言葉しか使わない――」
「そうかもしれませんね~」
ラジュは思う。あの男は、砕けた口調で言っていても、油断のならない存在だ。話をどんなに重ねても、無駄のない物言いをする。
もしかすると、自身や崇剛とは違った、別の思考回路を足算しているのかもしれない。その可能性が高いのではないだろうか。
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