上 下
659 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜

Karma-因果応報-/15

しおりを挟む
 ラジュが教えてこない限り、いつ崩壊するのかは崇剛にはわからないが、保険金が入ってこないのは事実となるは、もう明らかだった。

 自分がどんな罪を起こして、何が原因で今の状態を引き起こしているのか知ろうともせず、逃げることばかり考えている犯人は、媚を売るように聞き返した。

「じゃあ、魂を浄化すればいいんですよね?」
「そちらも今はできません――」

 楽をしていい想いをできる、魔法があると信じているような元だった。国立が聖霊寮で親切にも伝えた話を、まったく理解していなかった。

「ど、どうしてですか? 聖霊師って浄化するんじゃないのか? そうしたら、邪神界じゃなくなるんだろう?」

 今の元では、聖霊寮も聖霊師もお手上げなのだ。逃げ道ばかり探そうとする犯人へ、神父は長々とまた説教した。

「邪神界の証である邪気を払っても、あなたは邪神界へまたすぐに戻ってしまいます。今のあなたでは地獄の辛さに耐えられず、弱い心に忍び込むようにやってきた邪神界の者の手助けで悪へ簡単に下り直してしまいます。正神界のままでいても邪神界から狙われることには変わりません。あなたが心の底から償おうとしない限り、私も聖霊寮も神でさえも、あなたに救いの手を伸ばすことは出来ないのです。ですが、こちらだけは伝えます。神はたとえあなたが悪に下ったという過去を持っていても、正神界へ戻った時には何も言わず、喜んで両手を広げ暖かく迎えてくださるでしょう」

「は、はぁ……。神様なんかいないだろう」

 元は奇異な目で崇剛を見て、誰にも聞こえないようにボソボソと、人の思想を踏みにじった。

 崇剛の中にある、元が改心するという数値はさっきから、まったく上がらなかった。

 この男が改心しなければ、人はまた死ぬのだ――。

 デジタルで冷静な頭脳を駆使して、崇剛は別の方向からアプローチしようとした、メシア保有者という選ばれし者の責任をまっとうしようとして。

「論語の『君子くんししてどうぜず、小人しょうじんは同じて和せず』という言葉は知っていますか?」

 元は不思議そうに目をパチパチさせただけだった。

「いえ……」
「君子――優れた人物は協調性を持つが、嘘をつくなどをして同調はしない。対して、小人は嘘などをついて同調するが協調性がないという意味です。こちらを基にして考えを広げると、以下のようになります。小人――邪神界の者は損だと思えば、平気で去ってゆくのです。ですから、あなたに利用価値がないと判断した途端、お金などは入ってこなくなりますよ」
「か、金がなくなったら大変だ!」

 高級品を買って、優越感に浸りたがっている元にとっては大問題。彼は頭を抱えて椅子の上でうずくまった。

「お金を手にすることが、あなたの幸せになるのでしたら、あなたを苦しめようとしている人たちは、次はそちらを阻止してくるかもしれませんよ」
「じゃ、じゃあ、どうしたら、金がなくならないようになりますか?」

 レベルの違う話が、神父から殺人犯へ言い渡された。

「お金では買えない命をあなたは百五十六人分奪ったのです。彼らの家族も悲しんだでしょう。そちらの人たちの心を傷つけたことも償わなくてはいけません。膨大な数の人たちへの償いです。己の身を削ってでも、相手を想いやる気持ちを持つことが大切です。他人に無償で自身の大切なもの――そうですね……? あなたに関してはお金を相手に何の見返りも求めずに渡すことが出来ますか?」

「そ、そんな……」

 元にとっては、めちゃくちゃな話だった。しかし、神父にとっては当たり前のものだった。神からの後光を受けたように、崇剛は優雅に微笑んで、

「そちらが出来れば罪を償う一歩となるでしょう」
「どこかに逃げ道が……」

 往生際の悪い元を、崇剛はチェスのコマでキングのまわりを、四方八方塞ぐように、コマを一気に動かしてチェックメイトするように、非常に冷たい声で神の元へ導き始めた。

「逃げ道はどちらにもありませんよ。長い輪廻転生の中で死んでも生まれ変わっても、何千年、何万年、何億年と償わない限り、あなたへ対する憎しみや怨みは続いていきます。神――しゅはとても厳しく優しい方です。罪を償えるように、人の一生をかけても同じやり直しを何度もしてくださいますよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

処理中です...