上 下
655 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜

Karma-因果応報-/11

しおりを挟む
 策略家の理論と数字を聞いていた、あとひとつで準天使になる高い霊層を持つ、守護霊――瑠璃は眠そうな目を手でこすりながら文句を言った。

「悪しき者にの、こやつが利用されてなければの……。放っておいてもよいのだがの――というか、放っておきたいわ!」

 白いブーツは地団駄踏んだ。

「己で地獄からはい上がるのであろう。己自身で落ちたのじゃから」

 話す価値などない。時間の無駄だと、聖女は思い、怒り爆発だった。

 瑠璃の幼い顔をのぞき込もうとして、ラジュが首を傾げると金の髪が白いローブからサラサラと落ちた。

「おやおや? 瑠璃さん、聖女の言う言葉ではありませんよ。私も今すぐ魂を引き抜いてしまいたいところですが……。神からの赦しが出ていませんからね。いくら邪神界の者でも私には殺せません」

 こっちもこっちで、表面上はニコニコしながら、相当殺気立っていた。今回ばかりは、崇剛も同意見だった。ふたりの顔を交互に見て、心の中で会話する。

(他の方が死ぬという可能性がゼロならば、私も既に帰していますよ。時間と労力の無駄以外の何ものでもありませんからね。自室でひとり紅茶を飲んでいたほうがはるかに有効的です)

 元が改心するという可能性の数字はさっきからまったく上がらなかった。自分勝手な人間には、勝手をさせておけばいいのだ。

 聖女、天使、聖霊師から元のレベルの低さ加減にサジが投げられた。それでも、聖霊師はあきらめという感情もデジタルに切り捨てる。

「なぜ、三沢岳へ行ったのですか?」
「妻が行きたいと言ってきたからです」

 過度のストレスによって急激に白くなってしまった元の髪が、シルバー色の線をかき散らしていた。

「どのようにですか?」
「四月の二週から三週にかけてしか咲かないヌラの花がどうしても見たいというので……」

 ガラスのように美しい白い花が、三沢岳山頂を背景にして、犯人と聖霊師の脳裏をよぎっていた。

「四人全員が、誘ってきましたか?」

 崇剛は予測していた、四番目の妻――千恵は違っていたのではないかと。元の心臓はドクッと大きく波打つ。

「ち、千恵だけは自分で誘いました」
(転落死して、保険金が入ると思ったからな)

 思い浮かべれば、千里眼の持ち主には筒抜けなのに、自分の功績を讃えようと、心弱きものは、余計なことを話してしまうものなのだ。

 正面で椅子に優雅に腰掛けている崇剛は、首からかけているロザリオから、神の加護を惜しげもなく受けていた。

「彼女は行くことを拒んでいませんでしたか?」

 生き霊になってまで、知らせにきた千恵だ。健在意識でも、何らかの心霊現象に遭っていたり、体調を崩しやすく、用心深かったと見るのが、数々の事件関係者に出会ってきた、崇剛の率直な意見だった。

 元の落ち窪んだ目は急に落ち着きがなくなった。

「そ、それは……」
「あなたが彼女を無理やり連れていったのですね?」
「…………」
「千恵さんは転落しなくて済んだのかもしれませんよ」

 あの三沢岳の崖っぷちに追い込まれたような気分になった元は、とうとうこんな言い訳をした。頭に手を当てて、照れたように笑う。

「いや~、ヌラの花は綺麗だから……あいつにも見せたくて……」
「なぜ、あなたは嘘をつくのですか? 人ひとりが死んでいるのです。そちらがどれだけ重要なことか理解できないのですか?」
「嘘は言って――」
「転落すると知っていて、連れて行ったのですね?」

 元は大声を上げ、これ以上ないほど意味のない嘘をついた。

「そ、それは濡れ衣です!」
(さ、さっき思い浮かべたか?)

 自転車操業並みに、感覚で話している犯人は、自分の言った言葉をきちんと覚えていなかった。

 デジタルな頭脳の持ち主――崇剛は追い討ちをかけた。

「今から十個前のあなたが思い浮かべた心の声は、『転落死して、保険金が入ると思ったからな』です。嘘ではありませんか」

 元が怒りという炎を燃やそうとも、崇剛の冷たい雨ですぐに火を消されてしまう。

「…………」

 カッとなった気持ちはにわか仕込みで、元はすぐに所在なさげに椅子に座った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

処理中です...