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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
Karma-因果応報-/11
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策略家の理論と数字を聞いていた、あとひとつで準天使になる高い霊層を持つ、守護霊――瑠璃は眠そうな目を手でこすりながら文句を言った。
「悪しき者にの、こやつが利用されてなければの……。放っておいてもよいのだがの――というか、放っておきたいわ!」
白いブーツは地団駄踏んだ。
「己で地獄からはい上がるのであろう。己自身で落ちたのじゃから」
話す価値などない。時間の無駄だと、聖女は思い、怒り爆発だった。
瑠璃の幼い顔をのぞき込もうとして、ラジュが首を傾げると金の髪が白いローブからサラサラと落ちた。
「おやおや? 瑠璃さん、聖女の言う言葉ではありませんよ。私も今すぐ魂を引き抜いてしまいたいところですが……。神からの赦しが出ていませんからね。いくら邪神界の者でも私には殺せません」
こっちもこっちで、表面上はニコニコしながら、相当殺気立っていた。今回ばかりは、崇剛も同意見だった。ふたりの顔を交互に見て、心の中で会話する。
(他の方が死ぬという可能性がゼロならば、私も既に帰していますよ。時間と労力の無駄以外の何ものでもありませんからね。自室でひとり紅茶を飲んでいたほうがはるかに有効的です)
元が改心するという可能性の数字はさっきからまったく上がらなかった。自分勝手な人間には、勝手をさせておけばいいのだ。
聖女、天使、聖霊師から元のレベルの低さ加減にサジが投げられた。それでも、聖霊師はあきらめという感情もデジタルに切り捨てる。
「なぜ、三沢岳へ行ったのですか?」
「妻が行きたいと言ってきたからです」
過度のストレスによって急激に白くなってしまった元の髪が、シルバー色の線をかき散らしていた。
「どのようにですか?」
「四月の二週から三週にかけてしか咲かないヌラの花がどうしても見たいというので……」
ガラスのように美しい白い花が、三沢岳山頂を背景にして、犯人と聖霊師の脳裏を過っていた。
「四人全員が、誘ってきましたか?」
崇剛は予測していた、四番目の妻――千恵は違っていたのではないかと。元の心臓はドクッと大きく波打つ。
「ち、千恵だけは自分で誘いました」
(転落死して、保険金が入ると思ったからな)
思い浮かべれば、千里眼の持ち主には筒抜けなのに、自分の功績を讃えようと、心弱きものは、余計なことを話してしまうものなのだ。
正面で椅子に優雅に腰掛けている崇剛は、首からかけているロザリオから、神の加護を惜しげもなく受けていた。
「彼女は行くことを拒んでいませんでしたか?」
生き霊になってまで、知らせにきた千恵だ。健在意識でも、何らかの心霊現象に遭っていたり、体調を崩しやすく、用心深かったと見るのが、数々の事件関係者に出会ってきた、崇剛の率直な意見だった。
元の落ち窪んだ目は急に落ち着きがなくなった。
「そ、それは……」
「あなたが彼女を無理やり連れていったのですね?」
「…………」
「千恵さんは転落しなくて済んだのかもしれませんよ」
あの三沢岳の崖っぷちに追い込まれたような気分になった元は、とうとうこんな言い訳をした。頭に手を当てて、照れたように笑う。
「いや~、ヌラの花は綺麗だから……あいつにも見せたくて……」
「なぜ、あなたは嘘をつくのですか? 人ひとりが死んでいるのです。そちらがどれだけ重要なことか理解できないのですか?」
「嘘は言って――」
「転落すると知っていて、連れて行ったのですね?」
元は大声を上げ、これ以上ないほど意味のない嘘をついた。
「そ、それは濡れ衣です!」
(さ、さっき思い浮かべたか?)
自転車操業並みに、感覚で話している犯人は、自分の言った言葉をきちんと覚えていなかった。
デジタルな頭脳の持ち主――崇剛は追い討ちをかけた。
「今から十個前のあなたが思い浮かべた心の声は、『転落死して、保険金が入ると思ったからな』です。嘘ではありませんか」
元が怒りという炎を燃やそうとも、崇剛の冷たい雨ですぐに火を消されてしまう。
「…………」
カッとなった気持ちはにわか仕込みで、元はすぐに所在なさげに椅子に座った。
「悪しき者にの、こやつが利用されてなければの……。放っておいてもよいのだがの――というか、放っておきたいわ!」
白いブーツは地団駄踏んだ。
「己で地獄からはい上がるのであろう。己自身で落ちたのじゃから」
話す価値などない。時間の無駄だと、聖女は思い、怒り爆発だった。
瑠璃の幼い顔をのぞき込もうとして、ラジュが首を傾げると金の髪が白いローブからサラサラと落ちた。
「おやおや? 瑠璃さん、聖女の言う言葉ではありませんよ。私も今すぐ魂を引き抜いてしまいたいところですが……。神からの赦しが出ていませんからね。いくら邪神界の者でも私には殺せません」
こっちもこっちで、表面上はニコニコしながら、相当殺気立っていた。今回ばかりは、崇剛も同意見だった。ふたりの顔を交互に見て、心の中で会話する。
(他の方が死ぬという可能性がゼロならば、私も既に帰していますよ。時間と労力の無駄以外の何ものでもありませんからね。自室でひとり紅茶を飲んでいたほうがはるかに有効的です)
元が改心するという可能性の数字はさっきからまったく上がらなかった。自分勝手な人間には、勝手をさせておけばいいのだ。
聖女、天使、聖霊師から元のレベルの低さ加減にサジが投げられた。それでも、聖霊師はあきらめという感情もデジタルに切り捨てる。
「なぜ、三沢岳へ行ったのですか?」
「妻が行きたいと言ってきたからです」
過度のストレスによって急激に白くなってしまった元の髪が、シルバー色の線をかき散らしていた。
「どのようにですか?」
「四月の二週から三週にかけてしか咲かないヌラの花がどうしても見たいというので……」
ガラスのように美しい白い花が、三沢岳山頂を背景にして、犯人と聖霊師の脳裏を過っていた。
「四人全員が、誘ってきましたか?」
崇剛は予測していた、四番目の妻――千恵は違っていたのではないかと。元の心臓はドクッと大きく波打つ。
「ち、千恵だけは自分で誘いました」
(転落死して、保険金が入ると思ったからな)
思い浮かべれば、千里眼の持ち主には筒抜けなのに、自分の功績を讃えようと、心弱きものは、余計なことを話してしまうものなのだ。
正面で椅子に優雅に腰掛けている崇剛は、首からかけているロザリオから、神の加護を惜しげもなく受けていた。
「彼女は行くことを拒んでいませんでしたか?」
生き霊になってまで、知らせにきた千恵だ。健在意識でも、何らかの心霊現象に遭っていたり、体調を崩しやすく、用心深かったと見るのが、数々の事件関係者に出会ってきた、崇剛の率直な意見だった。
元の落ち窪んだ目は急に落ち着きがなくなった。
「そ、それは……」
「あなたが彼女を無理やり連れていったのですね?」
「…………」
「千恵さんは転落しなくて済んだのかもしれませんよ」
あの三沢岳の崖っぷちに追い込まれたような気分になった元は、とうとうこんな言い訳をした。頭に手を当てて、照れたように笑う。
「いや~、ヌラの花は綺麗だから……あいつにも見せたくて……」
「なぜ、あなたは嘘をつくのですか? 人ひとりが死んでいるのです。そちらがどれだけ重要なことか理解できないのですか?」
「嘘は言って――」
「転落すると知っていて、連れて行ったのですね?」
元は大声を上げ、これ以上ないほど意味のない嘘をついた。
「そ、それは濡れ衣です!」
(さ、さっき思い浮かべたか?)
自転車操業並みに、感覚で話している犯人は、自分の言った言葉をきちんと覚えていなかった。
デジタルな頭脳の持ち主――崇剛は追い討ちをかけた。
「今から十個前のあなたが思い浮かべた心の声は、『転落死して、保険金が入ると思ったからな』です。嘘ではありませんか」
元が怒りという炎を燃やそうとも、崇剛の冷たい雨ですぐに火を消されてしまう。
「…………」
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