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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
Time for thinking/12
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包帯ににじんだ血はもう止まっていた。崇剛は傷口がまた広がってしまわないように、細心の注意を払って、後れ毛を耳にかけた。
三月二十五日、金曜日以前という可能性が89.97%――
なぜなら、前日の三月二十四日、木曜日に情報がひとつあります。
私が見ている瑠璃を愛しているという夢……。
三十二年間、私は彼女と共に過ごしてきました。
今まで、私は彼女に対してそちらのような感情を持ったことがまったくありません。
ですが、三月二十四日、木曜日に見た夢から突然変わってしまった。
先ほどの夜見二丁目の交差点。
瑠璃がいなくなったあと、私が寂しいと感じることはありませんでした。
冷静な水色の瞳はついっと細められ、胸に落としていた銀のロザリオと握りしめ、そっと口づけをした。
おかしい――。
一日の日付のズレ……偶然とは思えません。
従って、非常に大きなことが起きたのは、正神界側からで……。
三月二十四日、木曜日、十一時三十六分二十七秒以前からになる。
という可能性が78.65%で出てきます。
崇剛は残りのサングリアを飲み込み、テーブルへグラスを置くと、体の内側で奏でられ続けていた、ショパン 革命のエチュードは最後の音が力強く飛び跳ねるように鳴り止んだ。
さっきからずっと黙っていた瑠璃は戸惑い気味に口を挟んだ。
「そのことだがの……」
事件の話のあとにすると言っていた約束を、聖女は果たそうとした。
「えぇ」
神父に先を促され、聖女は両手を膝の上に行儀よく乗せ、彼女の視線は巫女服ドレスへ落とされた。
「すまのかったの。我もさっき知ったからの。お主の見ておる夢に、厄落としの意味があったとはの」
聖女の懺悔はとどまるところをしらなかった。
「お主の短剣に勝手に触れてしまって、すまなかったの。お主に怪我をさせた責任は我にある。我もの――」
反省の泉に、ぶくぶくと泡を立てながら沈んでいるのに、まだ言葉を言っている瑠璃はまた失敗をやらかしていた。
「やはり厄落としだったのですね?」
崇剛におどけた感じで聞き返され、聖女はハッとした。神父は唇に手の甲を当ててくすくす笑っている。また悪戯されたと思って、瑠璃は思わずソファーから立ち上がった。
「お、お主、我を策にはめおって! 確認するために、わざと思い浮かべてからに!」
肩を小刻みに揺らしていたが、崇剛は何とか笑いの渦から戻ってきた。
「私は何もしていませんよ。瑠璃さんから話してきたのではありませんか」
瑠璃はぽかんとした顔をして、彼女なりに記憶をたどってみた。そうして、ことの発端は自分が必要以上に話してしまったことが原因だと気づいた。
聖女の巫女服ドレスは、ソファーへストンと再び落ちた。神に意図的に言わされた崇剛の言葉を思い出して、瑠璃は頬を赤らめた。
屋敷へ幽閉されたまま八歳で生涯を終えた少女は、色恋沙汰などに縁はなく、言葉がもつれにもつれた。
「……わ、我もの……お、お主とともに生きてきsたがの。そ、その……あ……愛……愛し……! な、何じゃっ!!」
恥ずかしさのあまり最後まで言えず、瑠璃は崇剛に向かって喚き慄いた。八歳の少女の小さな指先が、三十二歳の男に勢いよく向けられる。
「お主、よくも恥ずかしもなく申すの、そのようなことを! 止めぬか! 何故、最後まで我の言葉を待つのじゃ!」
憤慨している少女を見るのが、崇剛の趣味。彼はくすくす笑いながら、至福の時を迎えた。
「可愛い人ですね、瑠璃さんは。言ったことがないのですね、愛していると……」
神父も初めての言葉だったが、恥ずかしいという感情は冷静な頭脳で簡単に押さえ込まれていたのだった。
大人の余裕で、守護する人間に言われたものだから、瑠璃はまた恥ずかしくなり、思わず大声を上げた。
「おちょくるでない! いきなりそう申したからの、我もちと驚いて動揺しての……。あの晩、きつく当たってしまったかもしれぬ」
ロッキングチェアを優雅に動かし、落ちてきてしまった後れ毛を、神経質な指でまた耳へかけた。
「瑠璃さんにも厄落としだったのかもしれませんね。ラジュ天使から何も聞かされていなかったみたいですからね。私の夢については……」
「おそらくそうであろう。守護霊も天使も神までも、修業の身じゃからの」
赤面で乾いてしまったのどを潤そうと、瑠璃は玉露をズズーッとすすり、調子をなんとか取り戻した。
「そうですか」
崇剛は桃色の湯呑みをじっと見つめた。生活能力ゼロの屋敷の主人が、お詫びのためにわざわざ入れた玉露。
「あなたには不快な想いさせてしまいましたね。厄落としだったとは言え、口にしてしまい、聞かせてしまったのですから……」
三月二十五日、金曜日以前という可能性が89.97%――
なぜなら、前日の三月二十四日、木曜日に情報がひとつあります。
私が見ている瑠璃を愛しているという夢……。
三十二年間、私は彼女と共に過ごしてきました。
今まで、私は彼女に対してそちらのような感情を持ったことがまったくありません。
ですが、三月二十四日、木曜日に見た夢から突然変わってしまった。
先ほどの夜見二丁目の交差点。
瑠璃がいなくなったあと、私が寂しいと感じることはありませんでした。
冷静な水色の瞳はついっと細められ、胸に落としていた銀のロザリオと握りしめ、そっと口づけをした。
おかしい――。
一日の日付のズレ……偶然とは思えません。
従って、非常に大きなことが起きたのは、正神界側からで……。
三月二十四日、木曜日、十一時三十六分二十七秒以前からになる。
という可能性が78.65%で出てきます。
崇剛は残りのサングリアを飲み込み、テーブルへグラスを置くと、体の内側で奏でられ続けていた、ショパン 革命のエチュードは最後の音が力強く飛び跳ねるように鳴り止んだ。
さっきからずっと黙っていた瑠璃は戸惑い気味に口を挟んだ。
「そのことだがの……」
事件の話のあとにすると言っていた約束を、聖女は果たそうとした。
「えぇ」
神父に先を促され、聖女は両手を膝の上に行儀よく乗せ、彼女の視線は巫女服ドレスへ落とされた。
「すまのかったの。我もさっき知ったからの。お主の見ておる夢に、厄落としの意味があったとはの」
聖女の懺悔はとどまるところをしらなかった。
「お主の短剣に勝手に触れてしまって、すまなかったの。お主に怪我をさせた責任は我にある。我もの――」
反省の泉に、ぶくぶくと泡を立てながら沈んでいるのに、まだ言葉を言っている瑠璃はまた失敗をやらかしていた。
「やはり厄落としだったのですね?」
崇剛におどけた感じで聞き返され、聖女はハッとした。神父は唇に手の甲を当ててくすくす笑っている。また悪戯されたと思って、瑠璃は思わずソファーから立ち上がった。
「お、お主、我を策にはめおって! 確認するために、わざと思い浮かべてからに!」
肩を小刻みに揺らしていたが、崇剛は何とか笑いの渦から戻ってきた。
「私は何もしていませんよ。瑠璃さんから話してきたのではありませんか」
瑠璃はぽかんとした顔をして、彼女なりに記憶をたどってみた。そうして、ことの発端は自分が必要以上に話してしまったことが原因だと気づいた。
聖女の巫女服ドレスは、ソファーへストンと再び落ちた。神に意図的に言わされた崇剛の言葉を思い出して、瑠璃は頬を赤らめた。
屋敷へ幽閉されたまま八歳で生涯を終えた少女は、色恋沙汰などに縁はなく、言葉がもつれにもつれた。
「……わ、我もの……お、お主とともに生きてきsたがの。そ、その……あ……愛……愛し……! な、何じゃっ!!」
恥ずかしさのあまり最後まで言えず、瑠璃は崇剛に向かって喚き慄いた。八歳の少女の小さな指先が、三十二歳の男に勢いよく向けられる。
「お主、よくも恥ずかしもなく申すの、そのようなことを! 止めぬか! 何故、最後まで我の言葉を待つのじゃ!」
憤慨している少女を見るのが、崇剛の趣味。彼はくすくす笑いながら、至福の時を迎えた。
「可愛い人ですね、瑠璃さんは。言ったことがないのですね、愛していると……」
神父も初めての言葉だったが、恥ずかしいという感情は冷静な頭脳で簡単に押さえ込まれていたのだった。
大人の余裕で、守護する人間に言われたものだから、瑠璃はまた恥ずかしくなり、思わず大声を上げた。
「おちょくるでない! いきなりそう申したからの、我もちと驚いて動揺しての……。あの晩、きつく当たってしまったかもしれぬ」
ロッキングチェアを優雅に動かし、落ちてきてしまった後れ毛を、神経質な指でまた耳へかけた。
「瑠璃さんにも厄落としだったのかもしれませんね。ラジュ天使から何も聞かされていなかったみたいですからね。私の夢については……」
「おそらくそうであろう。守護霊も天使も神までも、修業の身じゃからの」
赤面で乾いてしまったのどを潤そうと、瑠璃は玉露をズズーッとすすり、調子をなんとか取り戻した。
「そうですか」
崇剛は桃色の湯呑みをじっと見つめた。生活能力ゼロの屋敷の主人が、お詫びのためにわざわざ入れた玉露。
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